リアクション
第三試合 『さあ、開幕から激しい戦いが繰り広げられております。行きましょう第三試合。まずは、御近所の番長皿屋敷の女将さん、お菊さんの登場です』 シャレード・ムーンに呼ばれて、割烹着を着て頭に紙風船をつけたドラゴニュートのお菊さんがドスドスと床を踏みならして現れた。 「うーん、あまり戦いたいというわけじゃないんだけど、ここしばらく微妙にここの工事で営業妨害されたからねえ。ちょーっと憂さ晴らしさせてもらうよ」 『さて、対するは、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)選手……、レティシア・ブルーウォーター選手!? やだ、またどこかに隠れているのでしょうか』 キラッ。 空の一点がふいに光ったかと思うと、巨大なメスが落ちてきて武舞台に突き刺さった。レティ・ランセットだ。 「待たせたですぅ」 空中で華麗にレティ・ランセットから飛び降りたチャイナ服姿のレティシア・ブルーウォーターが、ストンと武舞台に着地して身を低くした。 「あっ、御苦労だったんだよね。もう帰っていいよー。さよならー」 お供のニャンルーがつかまったままのレティ・ランセットを武舞台から引き抜くと、ブンと大きく身体で振り回してからまた空へと放り投げた。 「にゃーーーーー!!」 ニャンルーを乗せたまま、レティ・ランセットがキランと光って空に姿を消す。 「では、天震乱磨流創始者としてお相手しましょう」 『レティシア・ブルーウォーター選手、シンボルとしてのティアラを被ると、得物を構えました。どうやら、ヴァジュラの二刀流のようですね。さあ、試合開始です!』 「天震乱磨流、レティ参る!」 バッと、レティシア・ブルーウォーターが飛び出してきた。 「じゃあ、行かせてもらうよ」 どすこーいっと、お菊さんがドラゴンアーツで拳圧を飛ばして迎え撃つ。 間一髪避けたレティシア・ブルーウォーターの髪が数本千切れ飛ぶ。そのまま最小限の動きで、お菊さんの死角に入り込もうとする。「朧月」と名づけたレティシア・ブルーウォーターの技だ。 だが、間合いに入ろうとしたところで、振り回されたお菊さんの尻尾に胴を薙ぎ払われそうになり、あわてて間合いをとりなおす。 レティシア・ブルーウォーターは、トントンと素早くステップを踏むと即座に戻ってきて、まだ身体を回転させた体勢のままのお菊さんに迫った。 お菊さんが、振り返るのではなく、回転を速めてレティシア・ブルーウォーターに向かい合おうとする。 お互いにわざとベクトルをずらしてすれ違うようにして拳とヴァジュラを交差させた。互いの攻撃を弾きあった直後に、お菊さんがわずかに指を動かして氣を放ち、レティシア・ブルーウォーターが振り抜いたヴァジュラのもう一本の方を逆手に突き戻す。 パンとお菊さんの紙風船が割れ、レティシア・ブルーウォーターのティアラが弾き飛ばされて宙に舞った。 「おっとっと……」 お菊さんが、床に飛び込んでスライディングしながら、落ちてくるティアラを受けとめる。 『両者相討ちです!』 シャレード・ムーンが叫んだ。この戦いでは、同時に放った攻撃でシンボルを破壊しあえば、若干の時間差があったとしても両者敗退となる。 「ふう、壊さないようにするのは難しかったよ。こんな綺麗な物、壊しちゃもったいないからね。はいよ」 そう言うと、お菊さんがレティシア・ブルーウォーターにティアラを手渡した。 第四試合 『こちらは、シード枠となっており、ニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)選手の不戦勝となっております』 第五試合 『さて、第五試合ですが、イルミンスール魔法学校から、天城 紗理華(あまぎ・さりか)選手と、大神 御嶽(おおがみ・うたき)選手です』 「ふふふ、よりによって、あんたとあたるとはね。手加減はしないわよ」 「いや、どちらかと言ったら、手加減してほしいんですが……」 ポキポキと指を鳴らして不敵に笑う天城紗理華に、大神御嶽がちょっと困ったようにもともと細い目をもっと細めた。二人共、頭の上に、ぽっこりとした紙風船をつけている。 「さあ、始めましょう!」 『ゴングが鳴りました。試合開始です!』 「<(ケーナズ)!」 天城紗理華が、素早く空中にルーンのサインを描いて炎を放つ。 「我、求むるは冷たき帳。氷盾!」 呪符を取り出した大神御嶽が、簡易呪式で氷の壁を作りだしてそれを防いだ。 「早いですね。ほんとに手加減なしじゃないですか!」 「あたりまえでしょ」 焦る大神御嶽とは対照的に、天城紗理華は容赦がない。 「御主人様ー、頑張るですらー。そんな、猛獣女、こてんこてんにするですらー!」 武舞台の外から、キネコ・マネー(きねこ・まねー)が大神御嶽を応援した。というよりは、天城紗理華を罵倒した? 「ちょっと外野、うるさいわよ! だいたいあんたの主人はねえ!」 「我、求むるは静かなる打撃。寂にあっては、翔。静寂をもって、疾風となす」 キネコ・マネーを睨みつけて怒鳴る天城紗理華の一瞬の隙に、大神御嶽が素早く呪符を飛ばした。投げられた紙が空中でパタパタと折れ曲がって鶴となり、天城紗理華の背後から頭の上の風船をつついて割った。 「あああ!!」 しまったと、天城紗理華が頭の上に手をやって叫ぶ。 「覚えておきなさい。次に会ったら焼き猫に……」 あまり騒ぐので、天城紗理華が武舞台から奈落の底に落とされる。 『勝負ありました。大神御嶽選手の勝利です』 第六試合 『さて、第六試合です。ええと、わけあって名前を出したくないので、猫娘さんと呼んでほしいそうです。銀髪の美人さんですね。シンボルは猫耳のカチューシャだそうです。さて、対するは、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)選手……ちょ、ちょっと、あなた、何をしてるの!』 選手紹介をしていたシャレード・ムーンが叫んだ。あろうことか、武舞台にむかうマッシュ・ザ・ペトリファイアーが、周囲の観客をペトリファイで石化していったのだ。 「すぐに石化解除を」 「承知いたしました」 シャレード・ムーンに言われて、常闇夜月が救護班を連れて石化解除にむかう。 「ふふふ。あんたも、石にしてあげるよ」 胸にシンボルである青紫の薔薇の花をつけ、六匹もの使い魔の猫を従えたマッシュ・ザ・ペトリファイアーが、真白いポンチョに身をつつんだ猫娘ことデクステラ・サリクスに言った。次の瞬間、超感覚で黒猫の尻尾と耳を生やしたマッシュ・ザ・ペトリファイアーが、黒影を使って猫たちの影に吸い込まれるようにして姿を消した。 「ゴング鳴らして、ゴング!」 シャレード・ムーンが急かす。戦いはすでに始まっていた。 「まあ、可愛い猫。猫は可愛いわよねえ」 おいでおいでと身をかがめて手をのばすデクステラ・サリクスの背後に回った別の猫の影から、素早くマッシュ・ザ・ペトリファイアーが躍り出た。ペトリファイで、一気にデクステラ・サリクスを石像に変えようとする。だが、一呼吸早く、デクステラ・サリクスの身体は宙高く舞いあがっていた。ポンチョから覗くすらりとした脚からヒップラインにかけて筋肉が躍動し、お尻からは白い尻尾がのびている。 空中で一回転したデクステラ・サリクスが、遠当てを放った。猫の一匹が気絶して倒れる。だが、マッシュ・ザ・ペトリファイアーはすでに別の猫の影に身を潜めた後であった。 ストンと武舞台に降り立ったデクステラ・サリクスに、再びマッシュ・ザ・ペトリファイアーがペトリファイを放つ。素早くデクステラ・サリクスが横っ飛びで避けたが、彼女のポンチョが石化して、遠当てを放ったときにバラバラと崩れ落ちた。 「チッ。やっぱり、完全に獣化しないと調子が……」 また猫を吹っ飛ばしただけのデクステラ・サリクスが、軽く舌打ちする。尻尾の他は、白い水着のお姉さんといった姿で、デクステラ・サリクスが大きく猫たちを回り込んだ。 また遠当てで猫を武舞台から弾き落とすも、マッシュ・ザ・ペトリファイアーは別の猫の影に乗り移った後だ。逆に、攻撃されそうになって素早く武舞台の上を駆け回る。 「そんなに逃げ回ってもダメだよね。綺麗な白猫の置物にしてあげるよ。大理石がいいかな」 意外に素早くて石化できないことに内心焦りを感じながらも、姿を見せずにマッシュ・ザ・ペトリファイアーが言った。どうにも、彼の攻撃は敵に見透かされている。 「今度こそ」 必殺を狙ったペトリファイだったが、それを躱したデクステラ・サリクスの姿が消えた。 次の瞬間、黒猫の背後に姿を現したデクステラ・サリクスが、等活地獄を放った。 「うわっ!」 直撃をくらったマッシュ・ザ・ペトリファイアーの姿が完全に現れ、武舞台の外へまで吹っ飛ばされていく。 「甘いね。そんなに殺気を振りまいてちゃ、看破するのは容易いってことだよ」 ぺろりと拳をなめて、デクステラ・サリクスがつぶやいた。 『白黒対決、勝者は白猫娘さんです』 |
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