天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【冬季ろくりんピック】激突!! フラッグ争奪雪合戦バトル!

リアクション公開中!

【冬季ろくりんピック】激突!! フラッグ争奪雪合戦バトル!

リアクション


〜序盤戦(4)〜


○C3地点

「何故僕がろくりんピックなんかに駆り出されたんでしょうか……こういうのって学生生活をエンジョイしたい人向けだと思うのですが……」
 東チームの選手、高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)は心の中でため息をついていた。
 彼は本来この競技どころかろくりんピックそのものに興味が無かったのだが、いつの間にかエントリーされていた事により、こうしてフィールドを駆け回る羽目になっていた。
 ――一方、こちらにはやる気満々の選手が。
「ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!!」
 メタモルブローチによって永倉 八重(ながくら・やえ)の服が一瞬にして変わる。そうする事で八重はもう一つの姿となるのだ。そう――

 ――魔法少女ヤエ 第27話 「激闘! フラッグ争奪雪合戦!」 遊びは本気だからこそ面白い!――

「さぁ、行きましょう皆さん! 三つある3点フラッグ、そのうち未取得は1つだけ……これが勝利の鍵です!」
「……随分と気合が入ってますね」
「こういうのは気持ちで負けたら負けなんだよ! テンション上げて行かないとね!」
「はぁ……」
 そのテンションに物凄い差がある二人。そこに涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が加わった。
「確かに八重さんのおっしゃる通り、C3にある3点フラッグが鍵を握るでしょうね」
「高得点のフラッグ、ここは逃す訳にも向こうに取らせる訳にも行かないのだよ」
 二人だけでは無い、更にエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)もだ。
「何より、楽しむなら中央でしょうからね。私達含め、偶然にもイルミンスールの方々が揃っているみたいですし、皆さんで制圧してしまいましょう。さぁ玄秀さん、参りましょうか」
「いえ、これだけ揃ってるなら僕が行かなくても――」
「フフフ……いけませんねぇ、こういった催しは楽しんでこそですよ。さて……ネームレスさん」
「はい……主公……」
「え?」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が玄秀を持ち上げる。小柄だが、この手の力技はお手の物だ。
「さぁ……参り…………ましょう……か……?」
「いえ、ですから僕はここの残――といいますか、下ろしてくれませんか?」
「ククク……」
 薄ら笑いを浮かべて歩き出すネームレス。結局玄秀はそのまま戦場へと拉致されるのだった。


「一、二、三……こりゃまた多いな、相手さんも」
 旗を挟んで反対側、西チームの匿名 某(とくな・なにがし)が遠くの東チームを見ながらつぶやいた。隣に立つダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が鷹の目を持つ彼に尋ねる。
「どうだ?」
「取り敢えず見える範囲だと九人って所かな。あとバイク一台」
「バイク……? あぁ、永倉 八重の機晶姫か。ふむ……現時点で発見出来ていない相手を考慮しても、戦力差としてはこちらが有利か」
 この地点にやって来た西チームの選手は二十名を超える。よほど相手の潜伏者が多くいない限りは優位は覆らないだろう。
「とは言え無傷での勝利とは行かないでしょうね。どうしますか、ダリルさん?」
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が意見を聞く。こと戦術に関してはダリルに任せた方が良いと考えての事だ。
「まぁ俺としては団長にも話したように、スポーツとして楽しめれば良いんですけどね」
「そうだな。俺も今回は敢えて独自の行動を取るつもりだ。それにここは両陣営から見て等距離かつ最短距離の激戦区。たとえ被弾しても素早い復帰は可能なのだから、こちらは素直に人数上の有利を活かすべきだろう」
「つまり、『好きに動け。倒されてもすぐ戻って来られる』という事ですか」
「そうだ」
「ふふ……ダリルさんらしく無い戦術ですね」
 真一郎が微笑を浮かべる。もちろん今のは褒め言葉として、だ。
「では楽しみましょうか。精一杯、ね」


「まずは突貫あるのみです! 行きます!」
 一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)の掛け声と共に西チームが動き出した。同時にエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)桜葉 忍(さくらば・しのぶ)も瑞樹の後を追う。
「先にフラッグを占有してしまいたいですね」
「そうだな……けど、そう簡単には行かないか」
 三人の前にエッツェルとネームレス、そして玄秀が立ちはだかった。彼らは旗の獲得よりも相手の妨害を中心に動くようだ。
「フフフ……さぁ、楽しみましょう」
 エッツェルの言葉と同時に雪玉が襲い掛かる。まずは小手調べといった所か、三人の攻撃に特段の工夫は見られない。
「おっと。二人共、大丈夫か?」
「問題ありません。このくらいの攻撃なら打ち落とします!」
「えぇ、『打ち落とします』」
 氷の盾を張りながら仲間の身を案じる忍に、瑞樹とエシクが答えた。瑞樹はビッグ・クランチという名の両手剣で雪玉を防ぎ、あるいは叩き落としながら進んでいる。
 対してエシク。エシクはなんと、大きな廃自動車を盾代わりにして迎撃を行っていた。
「……打ち落とすというか、叩き落とすというか……何だかなぁ」
「機能としては問題ありませんよ、忍。それよりも瑞樹、攻撃を」
「はいっ、行きます!」
 忍が瑞樹をかばう位置へと素早く動き、それに併せて瑞樹が反撃を行う。
「クク……当たり……ません…………よ……」
 だが、東チームもその攻撃を迎撃しきった。ネームレスが持つ巨大な弩砲、それをエシクと同じように振り回して被弾を避けたのだった。
「双方攻撃に決定打がありませんね……となれば……」
 エシクが視線を僅かに後方へと移す。そちらからはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が走り込んでいた。
「やはり前線は膠着しているか。フィー」
「はい」
 サッと手を上げるグロリアーナ。同時に彼女を追い抜く形でフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)の放った雪玉が勢い良く東チームへと向けて飛んで行った。
「遠距離からの攻撃ですか。威力を見る限り、何かで飛ばしているみたいですね」
 玄秀が回避しながら攻撃の来た方を注視する。距離がある為分かり辛いが、相手は小さな飛び道具を持っている事は確実だった。

「回避したか。だが、それは予想の範囲内。さて……ローザの方はどうかな?」
 スリングショットを手にしたフィーグムンドが視線を上に移す。玄秀達の上空、そこには気配を消して跳躍したローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の姿があった。
「! 上!?」
「見つかったみたいね。けど……こっちの方が早いわ!」
 玄秀がローザマリアに気付いた。この時点で既に相手は腕を振っているのが見える。
「くっ、炎よ!」
 咄嗟にファイアストームを放って雪玉を溶かす玄秀。それに対し、重量のある得物を扱っていたネームレスは回避行動を取り損ね、被弾してしまった。
「これ……は、油断……しまし…………たか……」
「あんたは防御に優れてるみたいだけど、これは雪合戦。いつもみたいに攻撃されても平気とは行かないわよね。飛び道具でも何でも、当てた者勝ち」
 ネームレスの正面へと着地したローザマリアが微笑を浮かべる。対するネームレスもローザマリアに向かって、ニヤリと笑みを見せた。
「その……通り……です…………『互いに』……クク……」
 言葉と同時、二人の横を雪玉が通り過ぎた。東チーム側から飛んで来たその雪玉は、西チームの前線にいるエシクの廃自動車へと激突する。
「ジョー、大丈夫!?」
「安心して下さい、ローザ。幸い身体には当たっていません。ですが、距離の割に強力な攻撃ですね」
 エシクへと飛んで来た雪玉はむしろ、大玉と呼ぶべき物だった。それを放った張本人、アーマード レッド(あーまーど・れっど)がそばに置いてある雪玉を持ち上げて狙いを定める。
「初弾命中、撃墜判定ハ無シ。次弾装填完了、発射シマス」
 続いて第二波が襲い掛かる。遠距離攻撃を得意とするレッドだからこその正確な砲撃。しかしそれ故に対処は容易く、エシクは廃自動車を盾に前進を続けた。
「フラッグの射程距離まであと僅か。これなら――」
「そうはさせないよ!」
 そのエシクに襲い掛かる影があった。緋王 輝夜(ひおう・かぐや)がスピードを活かし、相手へと接近して行く。
「レッドの攻撃に合わせて……ここっ!」
 エシクやローザマリア達がパートナーとしての連携に優れているように、輝夜達も前後の連携は十分に取れていた。砲撃でエシクの動きが止まった隙を狙って輝夜が雪玉を投げ、それが命中した。
「やるわね……けど!」
「わっ! ……なんちゃって」
 ローザマリアがすぐに反撃へと移り、輝夜へと雪玉を命中させる――が、雪玉は相手の身体をすり抜けて落ちて行った。
「幻影……ジョーの陰に隠れた僅かな隙に仕掛けるなんて、やるわね」
「そう簡単にはやられないからね! このままあたし達が一気に――」
「――これ以上はやらせない」
 再度攻撃を仕掛けようとした輝夜の近くから声が聞こえた。声の主、樹月 刀真(きづき・とうま)はちょっとした段差で死角になっている所から素早く飛び出ると、輝夜の進路上に向けて煉獄の炎を纏った剣を叩きつけた。
「わわっ!? 直接攻撃は反則でしょ!?」
「承知の上だ。だから当てていない」
「じゃあ何する気だったのさ、今!」
「こうするつもりだった。溶けて……凍て付け!」
 抗議する輝夜をよそに刀真が再び剣を振るう。先ほどの煉獄から一転、今度は冷気を纏った一撃だ。最初の炎で溶け出して水へと変化した雪が突如冷気に晒され、剣から一帯が氷へと変わって行った。
 ――輝夜の足元も含めて。
「あっ……!」
 それに気付いた輝夜が手持ちの雪玉を刀真へと投げる。だが、足を固定されているが故に腕の振りだけになってしまう為、それらは刀真の剣で防がれてしまった。代わりに刀真自身も至近距離から攻撃を受ける為に反撃には移れないのだが、彼はその点を心配してはいなかった。
(……月夜)
(うん、刀真。任せて!)
 刀真の合図に併せて飛び出したのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だった。戦っている二人の側面へと回り、輝夜へと狙いを定める。
「私達は負けない……当たれっ!」
「――っ!?」

 月夜の投げた一撃、それは狙い通りに輝夜へと飛んで行った。だが――
「……ふぅ、間一髪でしたね」
「エッツェル・アザトース……身を挺して助けたか。月夜の攻撃に割り込むとは、さすがと言うべきだな」
「いえいえ、刀真さん達こそ良いチームワークでしたよ。それに身を挺してと仰いましたが、単に普段から避けないクセが付いてしまっているので。フフフ……」
 本当か冗談か、どちらともつかない言葉と共に笑みを浮かべるエッツェル。ともあれ間に飛び込んで来たのは、家族である輝夜を守る為である事は間違い無かった。
「さて、アウトになってしまった以上は一度スタート地点に戻らなければなりませんね。私はこれで失礼しますよ……行きましょう、輝夜」
「え? う、うん」
 エッツェルと輝夜、二人がスタート地点へと戻る為に離れて行く。それを見送った後、月夜はある事に気付いた。
「あれ、そういえば」
「どうした、月夜?」
「刀真、あっちの娘……当てたっけ?」
「……あ」
「……逃げられた?」
「逃げられたな……」

『エッツェル選手、アウト! 早くも、C3地点は激戦区と化しています。さて……』
 と実況こと、篁 雪乃が一呼吸おいて、
『ここから、もう面倒くさいのでアウトになった選手のゼッケンとかお知らせいたしません。というか今、資料を《火術》で燃やしました! あと、色々とキャラクターが崩壊していても気になさらずに、雪玉ぶつけあってくださいね! 以上、お知らせでした』
 ひどいアナウンスが有ったものだ。

――C3地点、西側陣地
「……!!」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の目の前で雪玉が弾ける。
「おいおい、ダリルいきなりアウトか?」
 跪く戦友に、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が尋ねる。
「大丈夫だ……問題ない。【キノコマン】がなければ即死だった……」
 そういう、ダリルの足元に雪まみれの人形が転がっていた。胸元からそいつが溢れなければ、今頃――
「キノコマン……ダリルの身代わりに……」
 カルキノスは尊き犠牲者に涙する。
「団長の前で何バカやってんの! 有機コンピューターに全身【クビキリカミソリ】!防御が薄いよ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が二人を叱る。特になかなか失敗するところを見せないダリルに対してここぞとばかりに嫌みたらしく。
「ルカルカ!」
 彼女に襲い来る雪玉に、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が立ち塞がる。【高周波ブレード】を居抜き、雪玉を二つに分かつ。
「よそ見をしないでください。あなたは俺が必ず守りますが、相手はまだ数が居ます」
 真一郎がルカルカの盾となり、《ディフェンスシフト》を展開する。
「きゃー! 流石真一郎さん! もっと守ってぇ〜♪」
 ルカルカは嬌声を上げ、雪玉を乱投する。《羅刹の武術》の自動発動により、雪玉が凶器と化している。
 二人の世界が構築され始めるが、その空気をぶち破って桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が抗議する。
「雪玉を切るなぁ! あぶないだろう!」
 真一郎の切った雪玉の一半片は忍を襲っていた。忍は雪玉を《スウェー》で間一髪躱せたからよかったものの、味方越しの変化球に何度も反応できる気がしない。
「す、すまない。ルカルカを護る事しか考えてなかった」
 誠実に謝る真一郎だが、非リア充の逆鱗を撫でる言葉を自然と自覚なく出している。流石はリア充。
「しっかりしてください。剣で切るとこうなりますから、盾で防ぎましょう」
 後方から攻撃していた火村 加夜(ひむら・かや)がアドバイスする。彼女にも割れた雪玉が襲っていたが、助かっている。
「ノア! 何で俺を盾にしたっ!?」
 ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は近くで雪玉を捏ねる山葉 涼司(やまは・りょうじ)を咄嗟に盾にして、加夜への被弾を防いだ。雪玉は運良く涼司のグローブにあたったから良かったものの。貴重な雪玉補充要員を失うところだった。
 そして、涼司に対するノアの言い訳は、
「えっ……と、丁度いい腹筋盾? があったからぁ?」
 雪積もる今日も、蒼空学園校長は割れた腹筋を顕に上着一枚である。
「誰の腹筋が盾――」
「ノアありがとう、涼司くんも」
 腹筋の言葉を加夜が遮る。自分のことを想ってくれている女性の熱い視線には、口を噤まざるをえない。
「ググゥ……」
「で、腹筋校長と教導団のエライ人。雪玉は十分に作ってくれた?」
 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)がからかうように、両学校の重鎮に無礼に尋ねる。
「リーラ……少しは口の聞き方を……」
 【ナインブレード】で雪玉を撃ち落としながら、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がリーラに注意をする。
 しかし、無礼をされた金 鋭峰(じん・るいふぉん)様は、頬を引き攣らせる涼司と違い、
「ふ……よい。さあ、私の雪玉を存分に使うがよい。この私の玉で東の者共のタマを一人残らず打ち取るのだ!」
 と何故か嬉々として、雪玉を捏ねていた。
 そんな部下思いなのか、雪玉づくりが趣味なのかわからない彼に対して「サー、イエッス団長! サー♪」と部下の誰かが遠くで反応する。
「ダメだわ、こいつら……早く何とかしなくちゃ……。てか、この人達応援席にいたんじゃなかったけ……」
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が見方の応援に眼を覆った。だれが、この二人を会場に引きずり込んだのだろう。
「それだけあれば、十分かな? そんじゃ――」
 リーラは誰かに通信を繋いだ。


――東陣営。

不意に一陣の風が吹いた。
「風が、騒がしいな……」
 風の通り抜けた方向に眼を向けて、月崎 羽純(つきざき・はすみ)がつぶやく。
「でもこの風……少し、黒いです……嫌な予感がします!」
 永倉 八重(ながくら・やえ)もまた、空気というか、この場の支配者が変わったような、得体のしれない感覚に襲われる。
「やばい感じがするのは確かだ、向こうが何かしかけるつもりか?」
 飛来する雪玉をグローブの着いたハンドル華麗に撃ち落とすバイク――ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)。八重への被弾を妨げる。
「黄昏て攻撃の手を緩めないでよ、羽純くん。人数だとこっちがフリなんだから!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)が【ラスターエスクード】で忙しく、雪玉弾幕をガードする。
 ここの西チームには防御はたった二人しかいないため、彼女とブラックは大忙しだ。
 しかし、ここは耐えるしかない。なにせ、
「そうでござる。ここの三ポイントフラッグを選手することは、大きな差と成るでござる」
 雪だるま王国国技の雪合戦で負けるわけにはいかないと、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)
 確かにここの点数を我物に出来たチームには大きなアドバンテージを得る。ここのフラッグは両者の陣営のものでないフリーフラッグで最も点数が高い。
 だからこそ、向こうも数を揃えて攻防を仕掛けてくる。
「先に旗を奪取できれば、拙者が鉄壁守備となれるでござるが……」
「ようは、あの旗を直接奪えばいいのだな」
 スノーマンの言葉にリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が答える。
 だが、フラッグは雪玉の飛び交う中央にあり、互いが牽制しあっていて遠距離から雪玉を当てるのも難しい。雪玉さえ当ててしまえばそのチームの点数となる。
「運動は得意ではないが、ここはリリに任せてくれ給えよ」
 何か秘策があるらしい。
「ちょっと! 向こうから何かくるよ!」
 と、敵陣地から異変を感じる。リコリス・リリィ・スカーレット(りこりす・りりぃすかーれっと)が警戒を促す。
 雪玉の弾幕をもろともせず、そいつは迫ってきた。
 ――そいつは、雪玉を持った、イコプラだった。

「ははは! 行け! 羅刹王、薙ぎ払うのじゃ!」
 C1地点から戦闘用イコプラ――羅刹王を操り、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が某殿下の如く、式神の術による遠隔操作で指示を下す。
 しかも羅刹王はモノであるため、雪玉を当てられようともリタイアすることはなく、敵陣へと容赦無く突っ込んでいく。
「なにそれ!? 卑怯だよ!!」
 ガルム アルハ(がるむ・あるは)の文句は尤もだ。至近距離からの連投に被弾する。
 それに対して解説は、
『さっきも言ったケド、イコプラで攻撃するのはルール上問題無いネ。でも、グローブをはめるのは禁止させてもらっタヨ。だから、雪玉は作れないヨ』
 つまり、イコプラ自身は雪玉を自足自給することは出来ないため、雪玉のある場所に戻らなければ、再攻撃することはできない。
 だが、
「ふふふ、玉が無うなっても、まだまだ備蓄はあるのじゃ」
 それもジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)という補給役が居るため、問題解決。《氷術》で氷粒を作りそれに雪を覆って強化雪玉を大量生成する。
「ほんと卑怯だな……アレーティア」
「スタート地点に居座って、だからさらにね〜」
 アレーティアのパートナーである柊 真司(ひいらぎ・しんじ)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)は敵に少し申し訳なく思う。でも攻撃は止めない。
「なら、補充要員を断つまでだよ! イルカさん!」
 ガルムがご都合主義空間からパラミタイルカを召喚する。同時に雪玉を空中へと放り投げる。
 イルカは寒空へと飛び上がり宙返りすると、その尾ひれで雪玉をジュディに狙いをつけてスマッシュした。連弾がジュディへと襲う。
「そうくるのはわかってたで!」
 連弾の射線に七枷 陣(ななかせ・じん)の《ファイヤーストーム》の壁が聳える。雪玉は火の壁に溶けて消える。シュディを護る。
「そんな! はうぅ……ッ!」
「アルハ! ブベら……ッ!」
 逆に西陣営からの反撃を受けるガルム。イルカ召喚のために壁から身を出したのがいけなかった。召喚されたイルカにのって追撃へ行こうとしたリコリスも。
 イコプラによる攻撃は球切れするまで、近距離猛攻は続く。さらに遠距離からの弾道も防がなければならない。
「頑張るのですは兄様!」
「皆さん、全力で避けるのです!」
 ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)も仲間のピンチに応援に熱が入る。熱が入るあまり、戦場に入っている。
「無理言うな! というか、近い! 応援が近い! ミリアさん、エイボン!!」
 しかし、見方の応援も虚しく、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は被弾する。ついでに、アッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)も。
「俺様はついでなのか!」
『涼介、アッシュ選手アウトー!』
「その手が有効なら、こっちだって反則ギリギリの手が有るのだよ!」
 遮蔽物の影で魔導書を開きリリは使い魔である紙ドラゴンを召喚する。小さなドラゴンはリリの投げた雪玉を抱えて、フラッグへと飛翔した。
「『ロンドオブドラゴン』――直接フラッグを頂くのじゃ!」
 雪玉を持った紙ドラゴンをフラッグに体当たりさせる作戦だ。雪玉があたってしまえば、それは東のフラッグになる。
 自立回避する紙ドラゴンが迎撃を避けてフラッグへと迫る。
「おっと、そうはいかねぇな」
 フラッグの周りに紙吹雪が舞う。裂神吹雪の防御が紙ドラゴンを阻む。西チーム、カルキノスの仕業だ。足止めを食らった紙ドラゴンに式神化したディシースシールドがぶつかる。紙ドラゴンは魔導書へと戻る。
「やってくれる、だが、攻撃は一度だけとは限らんのだよ!」
 リリが紙ドラゴンを再召喚する。
「何度やっても、俺の式神が阻んでやるよ!」
 式神攻防が繰り広げられる。
 だが、それを繰り広げる二人の防御は、遠隔操作に集中するために、薄くなる。
『リリ、カルキノス選手アウトです!』
 肌をかすめた雪玉に舌打ちする二人。かすめたとはいえ、それも被弾だ。
「なにやっとんじゃい! うおっ!」
 カルキノスの事を注意しようとした清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)も被弾する。
「清風ちゃんも何してるの! 防御に集中して!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が更に注意する。敵の数が減ったとは言え、まだ猛攻してくる者はいる。
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)、そして童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)だ。
「こっちの攻撃はまだ終わってねえんだよ!」
 羽純が必死に反撃する。しかし、東側の戦力は残り少ない。防御の要であるブラックゴーストそして、スノーマンもここに来て被弾した。
「しまったでござる!」
 スノーマンが歯噛みする。
「クロさん! グフゥッ……!」
 よそ見をしている隙に、永倉 八重(ながくら・やえ)もその頭に雪玉を食らった。
「ハーハハハ! 油断大敵だよ! どこから敵が現れるかわからないのだから!」
 八重に雪玉をぶつけた、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が助言する。彼が取った行動は神出鬼没に、《パスファインダー》で雪玉から現れての攻撃だった。
「だからって、なんで私の真下から現れるのよ……!」
 ただし、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の足元から。今、雅羅はコアの頭の上。
「ともかく残りは、二人! まずは攻撃要員から畳んじゃおう!」
 『妖精の投石機』に雪玉を込める騎沙良 詩穂(きさら・しほ)。標的の《行動予測》。
「じゃあ俺も加勢するぜ」
 詩穂と同時に、匿名 某(とくな・なにがし)も雪玉を投げる。目標は、羽純。東側最後の攻撃要員だ。
「くそっ!」
 羽純は《神威の矢》と《弾幕援護》による二方向からの同時攻撃に動けない。どちらかを避けようとすれば、片方にあたってしまう。背は雪の壁。
 しかし、羽純に雪玉は当たらなかった。
 攻撃の一方は【ラスターエスクード】の盾が防ぎ、もう一方は遠野 歌菜(とおの・かな)が自らを盾にして防いでいた。                                                             
「歌菜!?」
「脇が甘いですね……羽純くんは」
『遠野選手アウトー』
「ああ〜、リスタートか……羽純くんはもうちょっとここで粘っていてね。私もすぐ戻るから」
「ああ、わかった。だが、こっちには見方はもう居ないぞ?」
 そう、もう東側には羽純のみしか残っていない。
「大丈夫大丈夫、もう次が来ているから……」
 歌菜がリスタート地点の方へと視線をやる。
「もう2ターン目開始ってことよ!」