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人魚姫と魔女の短刀

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人魚姫と魔女の短刀

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【駐屯地にて・再】


「終わったら皆で飯食おう」
 というカガチの提案は、あれから数日後プラヴダの食堂で実現された。
「あー……私もっとゴーカなトコが良かった。
 食堂とか超かわり映えしないじゃん!」
 ワイワイと食事や会話を楽しむ契約者と兵士を見回して頬を膨らませたキアラにトゥリンは眉を上げる。
「実際これだけの人数が入れる場所が無いし」
「それはそうっスけどー……」
 モゴモゴ言っているキアラの後ろから両肩にトーヴァが手を置く。
「皆楽しそうだからいいんじゃない?」
「楽しそうじゃない人も居るけど」
 ハインリヒが指差す先のテーブルはやけに空気が重い。
 そんな雰囲気をちっとも察していない様子で、セシリアは無邪気にアルテッツァに太壱を紹介している。
「パパーイ、この人はわたしと同じ未来から来た、未来人・タイチ=オガタよ」
「タイチ……『オガタ』?」
 聞き返すアルテッツァに、セシリアは簡単な説明をしたようだ。しかしそれを聞いている間、アルテッツァの顔は氷の中にあるように無表情だ。
「シシィと同じ未来から来た、男性……ほほう……そして彼がキミと共にいると言うことは、
 ……イツキ、ボクの予想はおそらく当たっていますよね、多分」
 くるりと横を向かれて、樹は(何故私に振る)と心底嫌そうな顔をする。
 娘を奪われる! と、そんな気分になっているのだろうか。アルテッツァの周囲にホワイトアウトな嵐が吹き荒れていたからだ。

「受難ね」
 アルテッツァに氷のような視線を当てられて、椅子の上でピッタリとくっつけた両足に両手を置いて小さくなっている太壱を遠目にそう呟くトーヴァに、アレクは首を横に振る。
「あいつは多分慣れてる」
「あー、さっきの?」
 トーヴァが言う『さっき』の出来事とはこんな事だった。

 食堂に現れたアレクが一通り挨拶を交わして浮いた直後、その前にスライディングする勢いで現れた太壱がバッと立ち上がってガバッと頭を下げたのだ。
 その行動に皆が面食らっている間に太壱の口から飛び出したのは、驚くべき言葉だった。
「アレックス! 俺を弟子にしてくれ!」
 と、目を輝かせ頬を紅潮させて興奮した様子の太壱だったが、アレクの反応はいつも通り無表情だ。太壱もそれに慣れたのか、そのままの勢いで続けている。
「この間の言葉で俺、目が覚めたんだ!
 護りたい人が複数居るなら、その数ぶん強くなれば良いんだよな!
 だから俺にもそのワザ――」
 言葉は此処で途切れてしまった。
 唐突にアレク達の視界から消えた太壱、樹に蹴り飛ばされたのだ。
「其処まで短絡的に育ったのは何処の誰の影響だ?
 抑もお前の未来では私達は居なかっただろうからこの2人であろう事は間違いないのだがな」
 じとっとした視線でジーナと衛を捉えて、樹はもう一度太壱に向き直る。
「時に太壱、お前は私を護ろうとか考えているようだが、その考え自体が烏滸がましい。
 私は自分の身は自分で護る、お前の父もそうであろうよ。
 だから太壱、お前は本当に護るべき人間だけ護れ、自分の身の丈を知るんだ!」

「それで君は? 師匠になってくれなんて言われてなんて答えたの?」
 ハインリヒの質問にアレクは「否」と口を開く。
「あの後テーブルん所の女がきたから、樹が『地面に這いつくばってないで小娘のところに行ってこい!』ってケツ蹴って追い出したんで何も答えてない。
 まああのやり取りが常なんだろ。そのうちマゾヒストに開眼するんじゃねぇの?」
 そう言ってアレクは人差し指で食堂の兵士をぐるっと囲む様にしながら「手一杯」と答えた。
「確かに、此処に居る全員と米軍と足したら今の数だけで手一杯だろうね。君ショートタイマーまでしっかり覚えるから」
「そうじゃない」
 否定して二三歩歩いてから、後ろへ振り返ってアレクは皮肉気な笑顔でハインリヒとトーヴァへ向き直る。
「俺まだ遊ぶ時間が欲しいんだよ」



「うん! 美味しいよジゼルさん!」
 嘘偽り無い笑顔で言ってくる真の反応に、ジゼルは「京子が手伝ってくれたお陰よ」とこちらも謙遜では無い言葉を口に出す。
 食堂のテーブルの一角で、ジゼルは真に約束していた揚げ出し豆腐を入れた和食を振る舞っていた。
「こんなに美味しい料理が毎日食べられるなんて羨ましいね」
 真はこちらにやってきたアレクに素直な感想をぶつけるが、アレクの方は真の後ろに立ったまま暫く沈黙していた。
「真、ジゼルが何故料理が上手なのか、お前分かるか?」
「え? うーん……練習してるのかな」
 当たり障りの無い答えを出す真に「そうだ」と言い、アレクは解説する。
「ありとあらゆるレシピを漁りそれらを吟味して作った後、自分が納得する味になるまでひたすら練習する。繰り返し、繰り返し。
 味付けだけじゃない。揚げ方や油を変えたもの、それこそ秒単位で試すんだ。
 それだけの量を作れば、うちの食卓がどうなっていたか、察する事が出来るだろう」
 アレクの表情は変わらないが、その苦悩は察する事が出来た。幾ら好物で、これ程美味しく作って貰ったとしても毎食おかずの全てが揚げ出し豆腐と生麩になっていたら辟易するだろうと真も苦笑するしか無い。
「俺はジゼルを愛してるし、ジゼルの食事も愛してる。
 だがもうトーフだけは暫く見たく無い。ヘルシーなんて死ね。国に帰ってジャンクフード食いたい」
「あら、だからお兄ちゃん最近痩せたのね」
 真の斜め向かいでミリツァが友人達と仲良く矢張りジゼルに作って貰ったらしいハニートーストを突つきながら言うのに、アレクは眉を顰めた。
「お前は太ったな」
「んなッ!! こ、これはッ! そのッ!!」
 たっぷりと慌ててから、ミリツァは優雅に足を組んで黒檀の髪を払った。
「……そうね、バレちゃったら仕方ないのだわ。
 これは秘密だったのだけれど、あなたが不在の時に私今ジゼルに料理を教えてるのよ。
 この子が『アレクの故郷の料理を作れる様になりたいの』、なんて健気な事を言うから仕方なくね。
 だったらその練習に付き合っている私が、万が一! 万が一! 本当に太っていたとしてもあなたの所為なんじゃなくて?」
 ふふんと白々しいくらいの余裕を見せるミリツァに、アレクは端末の画面を突きつけた。トゥリンからのメールの文面は『ミリツァ様、ハンバーガーにおハマりあそばす。』とローマ字で書かれている。
「お前が料理を出来ない事くらい俺は知ってる。それからターニャも料理が出来ないそうだな。お前等毎日飯はジャンクフード食ってんだろ。
 それからミリツァ、『今日は誰々とカフェに行くの』とかデザートの写真付きのメールで『誰々と一緒よ』ってあれは兄として微笑ましく思っているが、どうだろう。
 ジゼルの飯食って、友達とデザート食って、ターニャとジャンクフード食って、……そりゃあ太るよなあ?」
「キ、イ、イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 叫びながらテーブルの下を進んでアレクに飛びついたミリツァは、そのまま兄の指をとって逆さにへし折ろうとする。
 そんなやり取りの間でも全く箸を止めないターニャの隣に、ジゼルはエプロンを解きながら腰を下ろした。
「ターニャは本当にご飯食べるのが好きね」
「小さい頃は余り食べない子だったんです」
「意外だわ」とジゼルが言うのに、ターニャは自嘲気味な笑顔を浮かべて箸を置いた。
「ある日ご飯を残した時、父が言ったんです。
 『マーマの作った料理だったら、残さず食べてくれたんだろうな』って。
 父は、料理が下手な訳じゃなかったんです。ただその時私は、父が私の為にとても頑張ってくれていた事を知って、それと少し寂しそうな父の顔が忘れられなくて――、それから食卓に並んだ料理は残さなくなりました」
「そっか。いいお父さんなんだね」
「はい。でも私の、父は……何時も母の事を話してくれませんでした。
 ただ食事の時だけ『マーマは料理が上手だった』って言うんです。
 父の誇らしげな笑顔が、腹が立って、ズルいなって。私もマーマのご飯が食べてみたくて、色んなもの食べました。特に『おふくろの味』っていうのは沢山」
 続けるターニャの――スヴェトラーナが思い出しているのは、子供の頃の事と、今迄の事。
 そしてベルクに言われた言葉だった。
 それは『身内にどう伝えるのか考えておけ』と、スヴェトラーナが『未来を見続けるため』に年上からのおせっかい焼きなアドヴァイスだった。
 それを思い出して唇を弾き結んだあと、スヴェトラーナはもう一度口を開いた。
「ジゼルさんは知らないと思いますが――、
 私この世界にきたときに、ジゼルさんのバイト先の定食屋にも行ったんです。『日替わりおふくろの味定食』」
「ああ、あれね。
 女将さんが付けたんだけど、『ジゼルちゃんが作ると女子高生の味定食だから食品偽装よねー』笑ってたわ」
「偽装じゃないです。
 とても暖かくて、美味しくて……」
 今スヴェトラーナの首にはネックマフが巻かれていない。潤み始めた瞳に慌てて距離を近づけたジゼルは、スヴェトラーナの首に光る石を見つけて動きを止める。
「これ……、アクアマリンの…………」
 口をついた独り言は質問なのだが、スヴェトラーナはそれに答えなかった。話は続いている。
「あれは私にとって紛れも無く、母の味だったんです」
「ターニャ、ねえ、どう言う事なの? それ……」
 スヴェトラーナは涙を堪えているから、何も言う事が出来ない。彼女の代わりにジゼルの耳元で答えを囁いたのはアレクだった。
「嘘……だって私――」
 しかしジゼルはそれを素直に受け入れる事が出来ない。完全に兵器として作られた彼女にこの事実は実感の無い夢物語のようだった。だが戸惑う彼女に薄く微笑むアレクと、スヴェトラーナの背中を撫でながらミリツァがこちらを向くのに、これが夢じゃないのだと分かってジゼルはスヴェトラーナの顔を下から覗き込んだ。
「本当に? ターニャ、本当なの?」
「――タチヤーナじゃないんです」
 首を横に振ったスヴェトラーナは、顔を上げてジゼルの目を見た。
 海より青い双眸が、お互いを見つめている。スヴェトラーナは息を吸って笑顔で、ベルクに望まれた通りに未来を見ているのだ。
「私の名は、スヴェトラーナ。
 日本語に無理矢理言い換えるなら『アカリちゃん』ってところでしょうか。
 父からは『響きが綺麗だから』付けたと聞かされていましたが、でも義姉が――トゥリンさんが本当の由来を教えてくれました。
 『自分が消えた後も、大切な人を優しく照らして欲しい』と――。
 ジゼル、これは貴女に頂いた名です」


担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 本シナリオにご参加頂き有り難うございます。
 まずリアクションの発表が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。
 このような状態ですので、個別コメントはリアクションへの反映についてどうしても個別に説明が必要になったアクションを下さった方のみで控えさせて頂きます。



 今回のシナリオでは、(特にバトルパートにおいて)アクションで丁寧な戦略を立てられていた方が大変多くいらっしゃいました。
 「××のような状況では(○○のスキルを使用し)□□して戦う」というものです。
 このようなアクションは大変把握し易く、リアクションにも大きく反映させて頂いております。

 逆に「○○のスキルを使う」というアクションは肝心の中身が分かり難く、反映されていない、または描写が短いものになってしまっているかと思います。

 何をするかだけでなくそれを『どのような状況で・どのようにするか』が書かれているだけでアクションはぐっと分かり易いものになり、マスター側としてもリアクションに反映し易くなります。(*アクションに書いた状況が起こらなかった場合、反映されない事もあります)

 今後の参考にして頂ければと思います。

 東