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ンカポカ計画 第1話

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ンカポカ計画 第1話

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第12章 ンカポカ


 静かな川のせせらぎが聞こえる。
 ジャリ。ジャリ……。
 一歩二歩と歩いてみれば、砂利道のような音が聞こえる。
 船上のような揺れは全く感じない。

 一体、ここはどこなんだろう?

 皆川陽は、辺りをきょろきょろしながら不思議な感覚にとらわれていた。
 なんか、妙に落ち着くなあ。
 でも、メガネがないと何も見えない。
「メガネメガネ……」
 と、誰かにぶつかった。
「メガネなら、額でござる」
「ああ、ほんとだ。へへ」
 陽がメガネをかけると、目の前には坂下鹿次郎の姿があった。
 見上げれば山があり、森がある。
 地球の原風景といった雰囲気だ。
 一体、ここはどこですか。
「わからないでござる」
 2人は、謎の川原に立っていた。
 ふと視線をズラすと、リカイン・フェルマータが石を積み重ねていた。
「あ。こんにちは。なんでかな。無性に石を積み重ねたくなっちゃって」
「石もいいけど、川で遊びたいでござるな」
 リカインは迷う。
「でも、水着ないしなー」
 陽はポケットからするするーっと何かを出す。
「これどうぞ! でも、むりかな。子供用だから」
 出したのは、女児用のスクール水着だ。
「もう! なんでそんなの持ってんのー!」
 リカインは呆れて大笑い。
 鹿次郎は水着を見て、にたーーっと笑っている。
「さ、坂下さん。ど、どうしたの? もしかして……」
 陽が探りを入れるように、鹿次郎の目をのぞき込む。
「おぬし。なかなか面白い趣味をお持ちのようだのお〜」
「そ、それはどうも。うれしいな! へへっ」
 2人は固く握手した。
 変態2人の間を裂いて、リカインが川の対岸を指差した。
「なんとなく、あっちに行かなきゃいけないような気がする」
 鹿次郎も、対岸を見ると、
「たしかに。なんとなく、そんな気がするでござるな」
「うん! なんとなく、行きたくなってきたよ!」
 陽も力強く頷いた。
 そして、3人は川を渡りはじめる。
 と、背後から声をかけられた。
「おーーーい! そこで何をやってるんじゃー。わしも混ぜてくれー」
 セシリアだ。
 メイベルもすぐ後ろから来る。
「ここは気持ちのいいところですねぇ」
 そして、5人は仲良く渡りはじめた。
 
 三途の川を。



 一方、現実世界。
 たまに発症する者はあるが、“突発性奇行症”はかなり落ち着いてきた。
 とはいっても傷だらけの者も多く、みんな疲弊している。
 そのとき!

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。

 吹き抜けの2階エリアから、拍手が聞こえてくる。
 螺旋階段の上に誰かいるようだが、ランプが壊れまくってて暗い。よく見えない。
「クックックック。見事だ、地球から来た汚物どもよ」
 階段から下りてきたのは……いんすますぽに夫だった。
「ぽに夫ちゃーん!」
「何言ってんだよ、ぽに夫! 俺だよ、俺!」
「おいおい、ぽに夫君。今はふざけるときじゃないぜ。いい加減にしとけよ」
 みんなが声をかけるが、ぽに夫は笑うばかり。
「クックック。クーーーーックックッ。そこのメガネ君。すね毛がどうしたのかな? クーックックク。今夜は、楽しいショーを見せてもらったよ……だが、私は改めて確信した。君たち地球人は汚物でしかない」
 ランツェレットが、ハッとする。
「汚物……わたくしは、なんて馬鹿なんでしょう。何かおかしいと思いながら、今頃気づくなんて」
 隣で理沙が訊く。
「どうしたの? 何が?」
「最近こちらに来てから日本語ばかり喋っていますので、ドイツ語の汚い言葉を忘れてたんです。まさか、あんな単語が名前になってるなんて思いもよらなくて……」
「単語ってなに?」
「ドイツ語で、汚物とか汚臭とかという意味の言葉なんです……ああ!」
 ランツェレットは責任を感じて、苦しんでいる。
 ぽに夫は、鼻をつまんでみせる。
「おおお、この汚臭。たまらないねえ、まったく……おっと!」
 ぽに夫が振り向くと、背後には武器を持った武尊が迫っていた。
「ちっ。バレたか」
「あまり近づかないでくれよ。汚物が近づくと、引かれ合うのかな。屁が出るんだよ」
 ぷっぷううう。
「いや、私を殺すなら殺していいんだよ。まったく構わないさ……これは私の体ではないからねえ……クックックック」

 操舵室では、ンカポカ一味がモニターを見て笑っていた。
「こうして、遠隔操作で確実に奴らを殺すということですね!」
「さすがはンカポカ様。油断なさらないところがクレバーすぎます!」
「いやあ。ンカポカ様の天才的頭脳に比べ、こいつら、ほんとバカですなー」
 部下がへいこらしていた。
 本物のンカポカは、葉巻をぷかぷか……。
 が、
 そのとき、パーティー会場ではラルクが服を着ながら何かに気がついた。
 周囲をきょろきょろしている。
 ウィルネストが近くにやってきて、
「ラルク。この感じ……」
「ああ、俺も思ってたんだ。ウィルネストも、そう思うか」
 2人のそばに、大地が立っている。
「俺はよく覚えていますよ、この感覚」
「やはりな……」
 そして、

 会場の壁と天井がぐにゃーんと歪んでいく。

 操舵室のンカポカは、葉巻を投げ捨てる。
「こいつ……もしかして、過去にカスワヤアを!?」
 ぽに夫は、以前カスワヤアという薬を体験した。
 服薬したのはラルクだったが、ぽに夫の脳を媒介にして現実世界と非現実世界がひとつにつながるという超常現象を起こしていた。
「ちっ。こんな奴がまぎれているとはな……!」
 ンカポカは、ぽに夫を利用するためにプチ洗脳していたが、洗脳は脳に過度の衝撃を与えるため、カスワヤア現象が再発しやすくなるのだった。
「まずいな……」
 そして、パーティー会場では……
 ぽに夫の周囲の人々の感情が、ぽに夫の脳内で渦巻いていく。
 壁や天井がぐわんぐわんに歪み、現実と非現実の境が曖昧になり……
 ドサッドサッドサッ。
 何かが現われ、落ちてきた。
 三途の川を渡りかけていたリカイン、鹿次郎、陽、セシリア、メイベルだ。
 最後に、陽の持っていたスクール水着が、ひらひら。
 ソアが発症して、
 はふはふはふはふはふはふはふはふはふはふうううう。
 生き返った5人の耳たぶを甘噛みしまくっていると、目が覚めた。
「わ! 生き返った!」
「たすかったでござるーーーー!」
 レイディスがセシリアに駆け寄る。
「セシー! セシー!!!」
 レイディスがセシーを抱きかかえた。
 未沙はちょっとだけ複雑な心境で、それを見ていた。
 そして、みんなが最も目指していたものが、ぽに夫の脳みそを渦巻いた。
 操舵室では、アルフレードが震え出す。
「ンカポカ様ぁぁぁ……!」
 越乃が思わず酒瓶を放り投げる。
「おげっぷ。そんなバカな! ンカポカ様!!!」
 ユウが悲しげに呟く。
「ンカポカ様が……ンカポカ様が……」
 マレーネがローションのボトルを握りしめて、
「ンカポカ様が……消えた!」

 パーティー会場に落ちてきたのは、……ウンラートだった。

 『ウンラート/unrat』とはドイツ語で、「汚物・汚臭」という意味だった。
 ふわっと着地したウンラート、つまりンカポカは、天を見た。
「おい。葉巻を寄こせ」
 しかし、たった今、ぽに夫は目が覚めた。
「やあ。みなさん、お揃いで」
 プチ洗脳が解けたため、世界は再び閉じられた。元に戻ったのだ。
 ンカポカは仕方なくポケットを探ると、チューインガムをくちゃくちゃ噛みはじめた。
 大勢の敵を前に、余裕ぶっこいている。
「ふう。ぬかったぜ……」
 くちゃくちゃくちゃくちゃ……。そして膨らます。ぷう〜。
「で、汚物ども。私と戦うのは誰だ?」
 ンカポカの能力が読めず、みんな、二の足を踏んでいる。
 しかし、こんな時は、こいつらしかいない。
 ついに正体を現わした敵ボスに対峙するのは、やはり……こいつらしかいない!
 ザッ。ザッ。ザッ。
 我らが正義のヒーローたちが、立ち上がった。
 仮面ツァンダーソークー1、パラミタ刑事シャンバラン、そして、ケンリュウガーだあああ!!!


 一方、操舵室。
 ショウが目の前まで来ていた。
 屈強な警備員を1人、トメさん直伝のモップ戦術で叩きのめす。
 あとは、中に潜入するのみ。
 まさか中に最強戦士が4人も揃っているとは知らず、果敢にも1人で挑もうとしている。
 そのとき!
「けろっ。けろっ。けろけろっ」
 奇行症のプレナがやってきた。
「げげげ!」
 パーティー会場にいなかったショウは、驚きを隠せない。
「プレナ! 奇行症に感染しちゃったのかよ!」
「けろっ。……はっ。ショウ君。プレナも来ちゃったよぉ」
「大丈夫か?」
「え? うん。みんなは感染して大変だったんだけどねぇ、なんかプレナだけ免れたみたいだし、トメさんのためにがんばろうって思ったんだぁ」
「そ、そうか……じゃあ、行こうぜ」
 ショウは戦闘態勢に入り、ホウキとハタキも腰に差している。
 モップを握りしめ、ドアを開けると――
 中では、越乃が1人。
「がーっはっはっは。まだトメトメ一族の末裔がこの世にいたとはねえ……」
「それを知っているということは……おまえ、何者だ!」
「待ってたよ……」
 と立ちあがる。
「それにしても、トメトメ一族にしちゃずいぶん弱そうだね。がはーはっは」
 越乃は戦闘時用の超高濃度アルコールの酒瓶を手に、笑っている。
 ショウとプレナがモップを構える。
 トメさんはショウとラーフィンの2人にはモップ戦術を教えているが、プレナにはモップ掃除術を中心に教えている。そのため、ショウが一歩前に出る。
「お前の汚れた精神……掃除してやるッ!!!」
 瞬間!
 越乃が酒瓶の蓋を飛ばす。
 それを、ショウはハタキスウェーで受け流し……
 そのまま、ソニックホーキブレード!
 が、越乃はゆら〜っとかわす。“泥酔拳”だ!
 ショウはトメさん直伝の瞬速モップ旋回を繰り出す!
 モップは越乃の急所、肝臓にヒット!!!
 が、泥酔拳ならではの異常にくねくねした動きで、衝撃を吸収。
 カウンターで、越乃の必殺“酒瓶殴り”がショウに迫る――
 刹那!
 ガシャーン!
 もう1つのモップが、越乃の酒瓶殴りを砕き止めた。
 光学迷彩で隠れていた、ラーフィンだ。
「ラーフィン!」
「ラーフィン君!」
「ごめん。ずっと隠れてたんだ。……でも、逃げちゃいけないと思って――」
 これで、プレナも入れて3対1。
 まだ修行中とはいえ、3人のモップ戦士が揃って、俄然有利な展開になる。
 しかし、また越乃は笑い出した。
「だから弱いって言ってんだよ。バカが。それとも、酔っ払ってんのか?」
 ハッ!
 今の“酒瓶殴り”を防いだとき、超高濃度アルコールは周辺の床にばらまかれていた。
「し、しまったーーーっ!」
 しかもアルコールはショウとラーフィンにもかかっているため、このままでは2人にも火が回ってしまう!
 越乃は容赦ない。
 間髪入れずに火を点けたマッチをポイッ。……落とした。
 が!
 何故か、火がつかない。
「ああ? なんでやねん!」
 越乃が慌てている。
「はあっ。はあっ。はあっ。はあっ」
 見ていただけのはずのプレナの息が、荒い。
 そう。プレナが瞬速モップ掃除術で床のアルコールを全て掃除していたのだぁぁぁぁ!!!
「ちっ。これだから、お前らとは相性が悪いんだよ」
 ショウとラーフィンは防火水をかぶり、改めて、モップを構える。
 と、そのとき、
 ガッシャーン!!!
 火炎瓶が投げ込まれ、操舵室が燃えはじめた。
 この炎と煙で、越乃とモップ戦士は分断された。
 そして、火炎瓶を投げ入れた張本人が、煙の中から登場した。
「ぬぉわははははははは!」
 青野武だ。
「ンカポカはどいつだ! おぬしか! 面白そうなことをやってるじゃねえかあああ! 顔を見に来てやったぞおおおお!」
 ラーフィンがモニターを指して教えてあげる。
「ンカポカは、あいつみたいだよ」
「ならば……な、仲間はどこ行ったんだあああ!」
「あっち。炎のあっち」
 野武は何の躊躇もなく、炎の中に消えていった。
「ぬぉわははは! でかいことをやるなら、我輩も仲間になってやってもいいぞおおお! ぬぉぉぉぉおおははは!」


 そして、パーティー会場。
 仮面ツァンダーソークー1が、ンカポカの前で啖呵を切る。
「地球人滅亡計画? 悪いが、その計画はもうオシマイだぜ!」
 レバーを引くタイプの爆破スイッチを持っている。
 ンカポカは、退屈そうにガムをくちゃくちゃ。
「もうバレてんだよっ。この船は、ただの船なんかじゃねぇ! 変形合体巨大ロボットなんだろうが! しかし、見ろこれを!」
 望月あかりがちょこちょこやってきて、写真を見せる。
 ――それは、ホワイトルームの中で、マッサージチェアに爆弾をセットしている写真だ。
「もちろん我は馬鹿じゃない。このコクピットだけを爆破する、小さな爆弾だ。船底に穴をあけるつもりはない。ロボットに変形できなくて、残念だったなあ!!!」
 とスイッチレバーに手をかける。
 ンカポカは溜め息をついて、一言。
「好きにしろ。そこは、ただの放屁研究室だ」
 そのとき!
 幸が気がついた。
「待った! オナラガス爆発が起きたら、コクピットだけじゃなくて船底に穴があきますッ!!!」
 ソークー1は手を止めたが、まだ自分の説を信じている。
「しかし、そんなはずはない。あれはコクピット。あの部屋はロボットの操縦室だ」
 「船底に穴」と聞いて、泳げない連中が震え上がった。
「おいおいおい。それだけは勘弁だぜぇ〜」
 あっという間に、カナヅチ同盟が結成され、カガチ、和希、ヴァーナー、大和、リュース、エースの6人がワナワナしながら、ソークー1に爆破をやめるように声を荒げる。
「やめてくれええ! もしロボットじゃなかったら、どうするんだ!」
「かかか、仮にロボットだとしても、ンカポカを倒せばそれでいいではないですかかかか」
 ソークー1は、息をひとつ吐いて、
「わかった。そこまで言うなら……」
 と、そのとき、ソークー1は突然、奇行症が発症する。
 手を前後に動かして、
「ツァンダー体操!!」
 一瞬の静寂の後、その音はパーティー会場まで響いた。

 ドッカーーーーーン!!!

 船底に最も近い部屋で、オナラガス爆発が起きた。
「死ぬううううううううううううううううううううううううううううううううう」
 泣き叫ぶカナヅチ同盟に、カレンが教えてあげた。
「救命艇が全員分あるから大丈夫なんだよっ!」
「そ。そうだよな。へへへっ」
 和希が照れ隠しに笑う。
 が、イーオンが壁にあいた大きな穴を指差した。
 外を見ろ、というのだ。
 夜が明けはじめて、外は白んできていた。
 全ての救命艇が本船から無人のまま離れていく様子が、よく見える。
「うわあああああああああああ……んぱーんぱー!!!!」
 カナヅチ同盟は、脳みそがトコロテンになってしまった……。
 こうなったら、とっとと倒すしかない!
 発症したソークー1に替わって、パラミタ刑事シャンバランが前に出る。
「おい! ガムガム星人! 世界の平和は俺が守る!!!」
 そして戦闘ポーズを取り、
「シャンバランダイナミィィィッッッッッッッッッ…………」
 物陰から正義のヒーローたちを応援していた薫が、ビクッとした。
「まさかでござるよ……?」
 シャンバランはクルッと体の向きを変えて、薫に向かって愛の告白。
「きいてくれー! トメさーん! トメさんのことを知ってから、僕は君の虜になってしまったんだ! 愛してるってこと! 好きだってこと! ぼくに振り向いて! トメさんが僕に振り向いてくれれば、ぼくはこんなに苦しまなくってすむんです! 僕は君を! 僕のものにしたいんだ! その美しい心と美しいすべてを! 誰が邪魔をしようとも奪ってみせる! 君の心の奥底にまでキスをします! 力一杯のキスをどこにもここにもしてみせます! 心から君に尽くします! それが僕の喜びなんだから! 喜びを分かち合えるのなら、もっと深いキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらいます! トメさーーーーーん!」
 
 ついに、正義のヒーローはあと1人。
 頼みの綱、ケンリュウガーだ!
 ンカポカは相変わらず、ポケットに手を突っ込んで、ガムをくちゃくちゃ。
 ケンリュウガーは、みんなの期待を背に、その前に立つ。
「ンカポカ……」
 戦闘ポーズだろうか、ケンリュウガーは少し斜に構え……

「俺に惚れるなよ」

 発症していたあああ!!!
 ぜんっぜん頼りにならんんん!!!
「うおおおお! こうなったら俺がやるぜえええ!!!!」
 有沢祐也が走ってきて、ンカポカめがけて爆炎波をぶっ放す――
 直前。
 発症して、ケンリュウガーの肩をもみもみする。
「ご立派なお方で」
「俺に惚れるなよ」
「……ほんと、ご立派な方で」
 ンカポカは小さく笑みをこぼして、静かに甲板に向かった。
 誰かが迫れば発症し、あるいは誰かが攻撃すれば誰かが発症して邪魔してしまった。奇行の連鎖が、ンカポカの周囲を安全地帯にしていた。
 ンカポカは甲板に出て、みんなもそれを追うが、それでも触れることすらできなかった。
 ンカポカの周囲全員が必死に戦い、ンカポカ自身は一切戦うことなく、部下に用意させていた大きな軍用ヘリコプターに乗り込んだ。
 ンカポカは、見慣れない男に気がついた。
「おい。この汚物はなんだ」
 ンカポカの隣に、野武が座っている。
「ぬぉわははははははは! おぬしがヌカポカかああ!」
「おい、こいつ沈めとけ」
「ぬぉわははは! 馬鹿め。自爆こそ男のロマン。我輩が死ぬときは、我輩が決めるのだああああ!! それは今! たった今でも構わんのだぞおおお!」
 越乃が野武について説明する。
「本当に地球人を全員抹殺するつもりなら、協力したいと言ってるんですが……?」
「好きにしろ」
 バリバリバリバリバリ。
 ヘリコプターが浮き始める。
「ぬぉわははは! ぬぉわはははははははははははは……はぐっ」
 越乃の酒瓶殴りで、黙らされた。
 そして、ヘリは飛んでいってしまった。

 表通路には、置いてきぼりをくった警備員が1人。
 飛び立つヘリをぽかんと見ていた。
 荒巻さけは、背後から迫って警備員の頭をぽかんと殴る。
 警備員はゆらーっと振り向くと、壊れた機械のように決り文句を言う。
「お客様。申し訳ありませんが、本船からの即時退去をお願いいたします」
 さけの作戦は、洗脳を殴って解き、何か情報を聞き出すことだった。が、思惑が外れた。
「あら……困りましたわ」
 そのとき。
 甲板から発症したレンがやってきた。
「ラオ!」
 警備員をぶん殴る。
 が、警備員は強い。殴り返してくる。
「お客様。申し訳ありませんが、本船からの即時退去をお願いいたします……ふんっ!」
 屈強な警備員と発症中のレン、2人の壮絶な殴り合いが始まる。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
「ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ! ラオ!」
 レンが押している。
 が、しかし、症状はそう長く続かない。
 2人の間で、聖の3分カラータイマーが「ピコーンピコーン」鳴っている。
 さけは聖の口を塞ぎ、タイマーを止めた。
 レンは殴り続け……
「ラオッ!」
 勝った。
 警備員は、脳みそがトコロテンになった。
「んぱー。んぱー」
「これはこれで話が聞けませんね。うまくいかないわ」
 そこに、静麻がやってきて声をかける。
「そういうときは、きっとこれが効くぜ。……あらよっと!」
 警備員を担ぐと、甲板まで歩いていって、
「おっちゃん! これで、目を覚ましな!」
 どっっぼーーーーーーん! 
 プールに落とした。
 警備のおっちゃんはいったん沈んで……ぷかぷか。下を向いたまま浮かんだ。
 死んじゃったのだろうか……。
 と、そのとき。
 発症中のエースがウミガメとなってプールをすいすい泳ぎ出し、おっちゃんにぶつかってひっくり返した。
 エースはその後、目が覚めて溺れた。
 静麻とさけで頑張ってエースを救出し終わると、おっちゃんは目を覚ましていた。
 自力で泳いでやってきて、プールからあがって静麻とさけを見た。
 まだ目つきはぽーっとしてるようにも見える。
 と、そこでさけが発症した。
 突然、おっちゃんの手を自分の腹にあてて、
「あなたの子よ。あなたの子なのよ!」
 すると、おっちゃんの目から、涙が一粒。

「佐知子……!」

 さけに抱きついて、泣き崩れた。
「佐知子ぉぉおおおおお!」
 そこで、静麻が発症して、
「おかあさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
 泣き崩れた。
 さけは目が覚め、驚きながらも、心の中で奇跡に感謝。
 この展開に臨機応変に対応するべく、そっとおっちゃんの頭を撫でてやった。
「佐知子ぉ……」
 そして、すぐそばで泣いている静麻の頭も、自然に撫でていた。
「おかあさーーーん」
 夜は明け、パラミタ内海の日の出がきれいに見える。
 みんなも出てきて、日頃の冒険や戦闘を忘れてしまうほどの美しく眩しい太陽を、目に焼き付けた。

 ――ブルー・エンジェル号。

 この船に乗ったみんなが運命共同体だ。
 そう、手のひらに真っ赤な血潮が流れる限り。
 ウィルネストが発症し、声をあげる。
「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」
 そして、わんこしいなが遠吠えをあげた。
「わおーーーん!」
 プールサイドでは、翡翠が静かに発症していた。
 コーヒーカップを片手に、めちゃ渋い声で呟いた。

「夜明けの珈琲、どんな味?」



【つづく】

担当マスターより

▼担当マスター

菜畑りえ

▼マスターコメント

みなさん。お疲れ様です。
はじめましての方、脳みそトコロテンのんぱんぱシナリオの世界にようこそ。
お馴染みの方、お帰りなさいませ、ご主人様。今宵も楽しんでいただけましたでしょうか。

今回、書きこみすぎました。ボリューム的に。
これはまあ、テレビドラマの初回拡大版みたいなもんだと思ってください。
次からは、通常の文章量で仕上げますので、よろしくお願いします。

さて、その他の注意点などをザザッと書きます。

◆突発性奇行症
症状はガイドやサンプルにある通り、単純かつ持続性のないものです。
手順が必要なもの、漠然としたもの、複雑なもの、持続性のあるもの……などは、テキトーにアレンジしました。
(そもそも、希望と全く関係ない症状になってもらった方もいますが。)
なお、この病気はいつ治るのか、いつ発症するのか、今のところ何もわかってません。お大事に。

◆奇行の記録
メイベルさんのビデオカメラは完全防水仕様だったので、みなさんの奇行は全て記録されています。
また、ブラックルームの盗撮映像は、操舵室にいたラーフィンさんが持っていると思います。
次回まで多少時間があくので、記録を見せてもらい、怒ったり凹んだりしてお楽しみください。
(公式掲示板の本シナリオ参加者用スレに、それ専用のスレがあっても楽しいかもしれませんねー)

◆パロディとメタ発言
私はポリシーとして、“過度のパロディやメタ発言”をなるべく書かないようにしています。
物語という「夢」から醒めてしまう恐れがある、と思っているからです。
醒めない程度の“軽いパロディやメタ発言”は今までもしてきましたし、これからも続けますが、あくまでも私が「醒めない」と判断できる程度までですので、ご了承ください。
(もちろん、他のマスターさんのところでもダメというわけではありません。たぶん。)

◆個別コメント・称号・招待
残念ながらボツになったアクションに関して、なるべく理由(時には言い訳)を説明しています。
お節介な助言をしていることもあります。
これは、より「蒼空のフロンティア」あるいは私のシナリオを楽しんでもらうために送っているものですから、参考にしていただければ幸いです。
称号は、今回は時間の都合もあり、少なめです。すみませんっ。
招待は100人シナリオなので意味あるかわかりませんが、いろんな理由で、少しだけ送っています。

◆ブログ
今後の予告や執筆方針など、ここで書けなかったことをブログ「んぱんぱにっき」で発信してます。よかったらのぞいてみてください。


それでは、100人の運命共同体がそのまま「第2話」に帰ってきてくださるのを信じて待っております。
とはいえ、残念ながらどなたか抜けられるのがフツウだと思いますから、新規参加者さんのためにステキな登場シーンも考えております。
そちらもあわせて、『ンカポカ計画 第2話』を乞うご期待!です。んぱーんぱー。