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ンカポカ計画 第1話

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ンカポカ計画 第1話

リアクション


第6章 変態


 アルフレードは、会場に戻って、芋けんぴをテーブルにドンと置く。
「お、おお! 芋けんぴ!」
 セオボルトは大好物の芋けんぴを見たら、アルフレードを怒らせる作戦など忘れてしまった。
「こんな豪華なクルーズ船で芋けんぴを食べられるなんて、ありがたいことですな。ローリング爺さん、ありがとうございます」
 そして1つ食べてみて、
「う、うまい……! こんなうまい芋けんぴは初めてです! 後で厨房に挨拶に行かなくちゃいけませんな」
 なんてことを言いながら呑気に食べていると、
「んん?」
 セオボルトの様子がおかしい。
「んんん? なんか、芋けんぴの減りが早すぎるような……」
 よく見ると、親指大の小人がちょこちょこテーブルを歩いて……芋けんぴを担いでいる!
「こ、これは小人の小鞄ッ!」
 足下を見れば、蟻の行列のように小人の行列ができている。

「いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ。いもけんぴ……」

 セオボルトが這っていって後を追うと……
 小人を差し向けていたのは、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)だった。
「な、なぜ! 芋けんぴを!」
「あはは。あはは。あはははは。アルフレードさんの話を聞いていれば、わかるじゃないですか。散々怒ってたのに、芋けんぴだけはすぐに取りに行ったんです。間違いなく、これがウイルスの素なんですよ」
「そんな馬鹿な……。芋けんぴがウイルスに利用されるなんて……!!!」
「危なかったですね。セオボルトさん自らウイルスを大量放出するところでしたわ。あは。あは。あはははは」
 信じたくないセオボルトは、ただただ芋けんぴを握りしめていた……。
 と、そのとき――
 サボって芋けんぴを食べていたアルフレードの前に、つかつかつか……。
 影野 陽太(かげの・ようた)が歩いてきた。
「すみませんが、あなたの文句も愚痴も聞いてる暇はありません。単刀直入に伺いますが……」
「ああ?」
 アルフレードが顔を上げた。

「あなたがンカポカですか?」

 アルフレードは、じっと陽太を見つめた。
 陽太は怯まずに見つめ返す。覚悟はできている。
 会場のみんなが注目する中、アルフレードがようやく口を開いた。
「わしはウエイターじゃ。注文がないなら、とっとと消えな」
「注文は……汁粉ドリンク! メイプルシロップ割りでお願いしますっ!!」
 アルフレードは溜め息をひとつついた。
「甘いわ。わしがンカポカだったら、どうするつもりぞな。おぬしごとき甘ったるい地球人に、わしを倒せるとでも思っちょるのか。ったく、馬鹿らしいことをぬかしやがって――」
「倒そうとは思ってません」
「なら、なんぞね。ったく、めんどくせえこと――」
「どうして! どうして地球人を滅亡させるなんて、そんなこと考えるのか教えてください。どうして地球人が嫌いなんですか?」
「いいことを教えてやろう……」
 アルフレードはゆっくり立ち上がると、ちょいちょいと手招きをする。
「え? 私ですか……?」
 呼ばれたのは、ソアだ。
 とことことこ……
 アルフレードは陽太の目をじっと見つめて、真剣に言った。
「わしは地球人は好かんがのお、……女の子は大好きじゃ!」
 バサッ!
 ソアのスカートをめくって、きゃっきゃ喜んでいる。
 前ににたーっと笑っていたのは、パンツが見えたからだったのだ。
 ソアは恥ずかしかったが、ここは親しくなるチャンス! と瞬時に判断した。
「ちょ、ちょっと! おじいさんたらっ。もうっ! 怒っちゃいますよ。ぷうう」
「はーっはっはっは。かーわいいのお」
 陽太は席に戻るしかなかった。
「まさか、こんなスケベジジイがンカポカということはないでしょう……」
 とぼとぼとぼ……
 そんな陽太を励まそうと、女装をあきらめたトライブが声をかけた。
「よお、元気出せよ。作戦失敗の気持ち、わかるぜ……」
 トライブの妙な作戦と一緒にされても困るが、陽太は控えめに答えておいた。
「あ。はい……ありがとう」
 そのとき。

 ♪ ぴきゅううううううう。ぴこぴこぴこぴこぴこ。ジャンジャンジャカジャン、ジャカジャン、ピピッ!

 甲板から大音量のアイドルソングがかかり、プール前の特設ステージに超ミニスカートの自称“蒼空学園のアイドル”小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が立っているのを見るや、トライブは陽太を置いて駆け出していた。まあ、陽太も後から行くのだが……。
そして、アルフレードも行くのだが……。
 美羽は、歌って踊って目立つことで、ンカポカをおびき寄せるつもりだ。地球人が嫌いということは、わいわい盛り上がられるのが一番ムカツクかもしれないから。
 とはいっても、ンカポカがかえって甲板から離れるかもしれないし、来たところで確証は持てない。かなりグズグズの作戦と言えよう。
 おそらく美羽は……目立ちたいだけだ!
 そして、そっちの作戦は大成功だ。
 見えそうで見えないパンツを目指して、のぞき部や、のぞき部予備軍と呼ばれるスケベ野郎どもがぞろぞろ集まってくる。
 モップ戦術講座をやってる薫も、チラチラ見ていた。シロはなかなか終わらないモップ講座に呆れて、チラチラとステージを見ていた。
 キリン隊隊長の焔さえ、「間違いが起こらないように警戒してるだけだ」などと白々しいことを言いながらステージのそばに立っている。きっとチラチラ見ているのだろう。

 甲板には、ウンラートがいた。
 こんな目立つところに来たら、当然現れるのが、アンビリバボー・カルテットだ。まだまだ話を聞き足りないらしい。
「ウンラート君はさあ、女の人なら誰でもオトせるの?」
 英希が挑発的に尋ねてみると……
「ええ。まあ、そうですね。たいていは」
 なんという自信。なんという憎たらしいクソガキ!
 英希はそれならばと、さらに挑発する。
「だったらさ。ここにいる女の人だったら誰がオトせそう?」
「どなたでも構いませんが、では、ちょうど目の前にいるあの方で挑戦してみましょうか」
 とビシッと指を指す。
「え? わたくしが何が?」
 指名されたのは、メイドの格好をした秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だ。
 そして、次の瞬間――
 つかさの目が、やらしい目つきに変わった。
 そして、ウンラートの前にひざまづいた。
「ウンラート様。わたくし、2人だけでお話したいですわ」
 つかさの方から誘っている!
「では、ご一緒しましょう。みなさま、ご機嫌よう」
 2人は、唖然とするカルテットを置いて、そのまま甲板を後にした。
 英希は呟いた。
「し、師匠……!」
 と、英希の肩をグッと掴む男の手があった。
「あいつが童貞卒業だと? そんなのオレは認めねえぜ」
 嫉妬してるようだ。
「残念だけど、師匠は本物だよ。本物の男だよ。つまらない嫉妬はやめなよ」
「嫉妬なんかじゃない!」
 強く否定するところがかなり疑わしい。
「オレは、オレは、ぜっっっっっったい! 認めねえぜ!」
 拳をぷるぷる握りしめ、ウンラートを追った。
 嫉妬にかられた哀れな男子、国頭 武尊(くにがみ・たける)が。
 ウンラートは、つかさと並んで歩いているうちに大事な用事を思い出した。
 珠輝をピンクルームに待たせているのだ。
「つかさ様。大変申し訳ないのですが、先約がありまして、私たちの甘い夜はまた後で……ということでお願いできませんか」
「そうですか。残念ですけど、仕方ありませんわね。楽しみにお待ちしておりますわ」
 ウンラートはお詫びの印にと、甘いケーキの入った箱をつかさに渡して、ピンクルームに急いだ。マメな男はモテるというのは本当なのかも知れない。
 そして、ウンラートが階段を下りようとした、そのとき!
 後方から嫉妬男が走り寄る。
「ばーか! 敵に背中を見せるとは、ぷぷぷ。そこの君! 最強戦士じゃあねえな!」
 ドッカーン!
 思い切り蹴り飛ばし、派手に階段を転げ落ちるウンラートに上から吐き捨てる。
「見たか! さすがはオレ。オレの勝ちだぁああああ!!!」
 が、よく見ると落ちたのはウンラートではない。
 つかさだ。
 嫉妬に狂った武尊の隙をつき、ウンラートを脇に押し退けて自分が攻撃を受けたのだ。
「ウンラート様。今度は貴方様がいじめてくださいますよね」
 つかさは主人のためなら傷を負うのも快感という、本物の総受け。彼女こそ、変態の中の変態だ。
 残念、嫉妬に狂った悲しい子羊は警備員に連行されていった……。

 そして、この後、本日最高の運命的出会いが待っていた!

 階段落ちしたつかさの目の前の扉が、ギーッと開いた。
 部屋の中は、ピンク色。あのピンクルームだ。
「きゃんきゃん」
 わんこしいなとともに、ひと汗かいた彼が現れた。
 世の中に変態と呼ばれる者は多くとも、本物の変態というのはそうそういるものではない。
 しかし、だからと言おうか、本物の変態同士は出会った瞬間、一目見た瞬間、互いにそれを認知するという。
 ――明智珠輝と秋葉つかさ。
 今、パラミタ大陸一の変態が、名もなき海域の上で出会ってしまった!!!
「くううん。きゅん。きゅん」
 ご主人様が自分以外のペットの元に行ってしまうのをニオイで感じたのか、尋常でない変態的緊張感に耐えられないのか、わんこしいなはただもう震えるばかりだ。
 そして、2人の変態に言葉なぞ要らない。
 珠輝はわんこしいなの頭をひと撫ですると、リードを表につないで、部屋の中に戻った。
 つかさはウンラートに一礼すると、ケーキの箱を手に部屋に入っていった。
 そして……バタン。扉は閉まった。
「きゅうん……」
 取り残されたわんこしいなが、静かに鳴いた……。

 ――わんこしいなは、ずっとわんこしいなのままである。

 奇行症ならすぐに覚めるはずだが、何故だろうか。この異変を見て、その近くにいたウンラートを疑わない者はいない。
 ウンラートは、一息つく間もなく囲まれていた。
 烏山 夏樹(からすやま・なつき)はウンラートの前に立ちはだかる。
「どう考えても、ウンラートさんが怪しいですね」
「困りましたね。なんのことだか……」
 と振り向けば、神無月 勇(かんなづき・いさみ)が立っている。
「もうバレてるんですよ。キミが黒幕ってことは」
「私が? こんな子供の私がですか?」
 近くの警備員はみな武尊を連行していて、誰もやってこない。
 さすがのウンラートもお手上げか、2人に挟まれて動けなかった。
 大きく溜め息をつくと、ついに暴露した。
「では、白状しましょう。そうです。私が……ンカポカです」
 瞬間!
 夏樹と勇が襲いかかる!
 同時に襲いかかり、吸精幻夜をかまして精神を幻惑すれば地球人滅亡計画を暴くことができる!

 ガブウウウウウウウウーーーッ!

 2人は噛みつきながら、拳を握りしめ、勝利のガッツポーズ。
 と、何か聞こえてくる。
「きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん!」
 わんこしいながやけに吠えている。
 よく見ると、ウンラートは2人の間でしゃがみ、靴ひもを結んでいた。咬まれてなどいないっ!
 では、夏樹と勇が咬んだのは誰なのか……
 会話を聞いてみよう――
 2人は同時に口を開いて、全く同じことを問う。
「言えぇぇ。地球人滅亡計画の全貌を……」
 互いに出したこの問いに、やはり互いに答える。
「そんなことは知らないぃぃ……えっ?」
 まさに異口同音。
 おお、なんという残念な吸精幻夜の使用法だろうか。2人はそれぞれの首をクロスするように、互いを咬んでいたのだッ!!!
 惑わしながらも惑わされている2人は、現実に気がつくことなく再び同時に問うてしまう。
「な、ならばウイルスの秘密を話せぇぇぇ」
 当然、これも同時に、
「そんなことは知らないぃぃ……えっ?」
 こうして2人は「えっ?」と首を傾げながら、互いにマヌケな問答を繰り返した。
「実験施設はどこだぁぁ……知らないぃぃ……えっ?」
「船の行き先はどこだぁぁ……知らないぃぃ……えっ?」
「この犬はどういうわけだぁぁ……知らないぃぃ……えっ?」
 そして、根本的な問いに辿り着く。
「本当にンカポカなのかぁぁ…………違うぅぅ…………ええええええええええええええええええええええええええええっっっっっ!!!」
 ついに2人の脳みそはトコロテンになり、仲良く船内を彷徨うのだった。
「んぱー」

 ウンラートはようやく1人になり、トイレに入った。
 船内だが、小便用の便器がいくつか並んでいる立派なトイレだ。防犯上の都合で、乗員も乗客と同じトイレを使用しているのだ。
 すると、ウンラートの隣に珠輝やつかさとはタイプの違う“かわいい変態”黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が立った。
 2人は、男の醍醐味、並んでおしっこをする。
 ちゃーーー。
 なんとも言えないこの“間”が、徐々に緊張を高めていく。
「ウンラートさん。夜はやっぱり冷えるっすねえ〜」
「そうですね」
 にゃん丸は何気なく話しかけながら心の中で宣戦布告をする。
 (小僧。童貞卒業だとぉ? いい気になるなよぉ〜)
 チラリとウンラートの顔を見ると、ケータイを取り出した。
 すると、どうしたことか……にゃん丸のちんちんの辺りがバカに眩しい。
 そう。わざわざ光条兵器を呼び寄せ、ちんちんの横に並べて光らせているのだ! なんてバカ。なんて無駄遣い。
 (ふっふっふ……恐れ入っただろうねぇ。どうだい小僧。光るちんちんだぜぇ……!)
 と、にゃん丸は愕然とした。
 (な、なにぃ!!!)
 このとき、あまりの衝撃におしっこがはねて光条兵器に少しかかったことは、パートナーには内緒だ。
 そう。なんと、ウンラートのちんちんも光っていたのだっ!!!
 ウンラートは何事もなかったかのように、光るちんちんをピッピッと振って、収めた。
「何か?」
「いや……なんでもねえよぉ」
 (くそう。負けたぜ……! だから女にモテるのか!!!)
 ウンラートが去っていき、にゃん丸は仲間の刀真にメールを送った。
 刀真はそれを読んで、またがっかりした。

『ウンラートのちんちんは、“パラミタ真珠”入り。ぜったいンカポカ!!!』

 にゃん丸が満足してケータイをポケットにしまうと、
 ギーッ。
 『清掃中』の札がぶら下がっていた個室のドアが、開いた。
 中には、刀真が入っていた。
「なんだぁ、そんなとこにいたのか。君にも見せたかったぜぇ」
「ばかばかばか! なにやってんのさ、こんなしょうもない情報いらないんだよ!」
 刀真は、つくづくのぞき部の連中と組んだことを後悔したのだった。

 そして、パーティー会場。
 久しぶりに司会者の越乃が戻ってきて、パチン!と指を鳴らして楽団を呼んだ。
「さあ、チークタイムのはじまりだ!」