校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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母の心配 今日里帰りをすることは連絡してあったから、空港では既に迎えが待っていた。 「お帰りなさいませ。どうぞこちらへ」 迎えに案内されて車に乗りこむと、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は窓の外に視線を移した。 車窓を流れるのは懐かしい長野の風景。 パラミタとは明らかに違うその景色に小夜子は目をやり続けた。 実家に到着し車を降りると、小夜子は感慨深く屋敷を眺めた。 小夜子がパラミタで生活しているのは何年も、というわけではないけれどひどく年月が経った気がする。 けれど、屋敷のたたずまいは小夜子の記憶と何も変わりない。そのことに、地球にいたときに自分が送っていた生活と、パラミタに行ってからの生活の違いを思っていると……。 「小夜子、お帰りなさい」 使用人が知らせたのだろう。玄関の外まで母、冬山 雪子が迎えに出てきた。白い髪に青い目の端正な顔立ちは小夜子に良く似ている。違うのは雪子の方がずっと背が高く、髪の長さが腰の半ばまであるところだ。 小夜子は走っていって雪子に抱きついた。 「お母様、ただいま。元気でした? 身体は大丈夫?」 立て続けの小夜子の質問に、雪子は娘を抱き締め返しながら微笑んだ。 「ええもちろん。それより小夜子はどうなんですの? パラミタは危ないところだからずっと心配していたんですのよ」 「私は元気ですわ」 「無事で帰ってきてくれてほっとしましたわ。長旅で疲れたでしょう? 早くお入りなさいな」 雪子に促され、小夜子はしばらくぶりの実家に入った。 そのまま居間に通されて、母と共に紅茶を飲みながら話をする。 「お父様は……?」 姿を見せない父のことを尋ねれば、案の定商談の為に不在だとのこと。先祖の財産を投資に回し、大きな財を築いた父親は家より仕事重視の人。小夜子ももとより期待はしていなかったけれど、それでも父に帰省の挨拶が出来ないことは少し寂しい。 「それで、パラミタの方はどうなのかしら? 不穏な情勢だと聞いたのですけれど……」 心配そうに尋ねる母を安心させるように、小夜子は百合園女学院で普段どうしているか等の暮らしぶりを話して聞かせた。 向こうで大切な人ができたことを話すと、母はそのことを喜びつつも、その為に無理はしないかと心配そうな様子を見せた。母としては娘の安全がやはり一番気になるのだろう。 パラミタが危険なところなのは承知しているけれど、と雪子は顔を曇らせる。 「小夜子……一度、家に帰ってきたらどうかしら」 やはり言われてしまった、と母がそういい出すのを予測していた小夜子は思った。母の心配は痛いほど分かる。けれど……。 「お母様の懸念はもっともです。でもお父様はたぶん、帰るのを望みませんわ」 娘を良いところに嫁がせたい、というのが父の考えだから小夜子が家に帰ってくるのをよしとはしないだろう。 「それに、百合園女学院に私自身、やり残したことがありますから、今帰るわけにはいきません。……ごめんなさい、お母様」 「そう……ですの」 雪子はしばらく考えていたけれど、やがて小さく息をついた。 「それが小夜子の決意ならば、認めないわけにはいきませんわね」 「お母様……」 「でも、何かあればいつでも家に帰って来るのですよ。お父様だってきっと分かって下さいます」 「はい……ありがとうございます」 心配してくれることへの有難さ。けれどそれを受け入れられないことの申し訳なさに小夜子は頭を垂れるのだった。