校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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一家談乱 「ちょうど私もお父さんも揃って家にいるのよ。たまには一家団欒なんてどうかしら?」 そんな風に母の匿名 望に誘われたので、匿名 某(とくな・なにがし)は結崎 綾耶(ゆうざき・あや)を連れて実家にやってきた。 某の父親匿名 希は仕事の関係で、1年のほとんどを海外で過ごしている。母親の望もおっとりとした見た目とは裏腹にキャリアウーマンで、やはり仕事上海外にいることが多く、2人が家に揃っていることはなかなかに珍しいことなのだ。 食卓の上には、心づくしの料理が並べられていた。食欲を刺激する良い匂いに、某の腹の虫が騒ぐ。 「ささ、綾耶ちゃん、こっちに座って」 「ありがとうございます」 希は綾耶を食卓の席に案内すると、某に懐かしそうな目を向けた。 「久しぶりだな息子よ。……で、や っ た の か ?」 これを全く普通の世間話のようにしてくるのだから、たまらない。 「開口一番の挨拶としては最悪だな!」 これが久しぶりに息子に会う父親の言葉なのかと某は呆れる。見た目は特徴がないのが一番の特徴な、平凡な父親なのだけれど、その頭の中にはきっと未知の思考回路が詰まっているに違いない。 「そうですよ、お父さんたら……」 茶碗にごはんをよそいながら、母の望は苦笑する。そして山盛りについだごはんを某に差し出しながら、にっこりと尋ねた。 「それで、男の子? 女の子?」 「こっちは過程をすっ飛ばしやがった!」 望の容姿も取りたてて言うところのない平凡な母親なのだけれど、その頭の中にはきっと無限のお花畑が広がっているに違いない、と某は確信する。 「どちら似なのかしらねぇ。女の子だったら綾耶ちゃんに似ていないと、ちょっと可哀想なことになるんじゃないかしら?」 「可哀想って、どういう意味なんだよ!」 「おかしいな。某はこんなに察しが悪かったかな?」 「いやねぇお父さん、もう息子のこと忘れちゃったの?」 内容を聞かなければ、ほのぼのとした家族の団欒、とう雰囲気なのに、交わされている会話はかなりひどい。 「?」 綾耶は何について話されているのか、さっぱり分からない様子で料理を口に運んでいる。分からないままでいてくれた方がいいので、某はあえて説明せずにおいた。 その間も、匿名希・望夫妻の暴走は止まらない。 「名前を考えないといけないわね。男の子なら無名(むな)、女の子なら名無(めいむ)なんてどうかしら?」 「またそれか。今度はせめて個人特定させてあげようや!」 そこまで姓に忠実にならなくても良いだろうと、某は突っ込みを入れるが、そんなものは両親の耳には届かないらしい。なおも楽しそうに近未来の展望を語っている。 「匿名無名、匿名名無か。いっそのこと双子だといいんだがな」 「あら素敵だわ。今はベビーカーも双子用のがあるから心配いらないし。ね、綾耶ちゃん、それがいいわよね」 「あの……?」 「ああ、綾耶は聞かなくていいから!」 「ダメよ某。女の子側の気持ちは大切にしてあげなくちゃ」 「ああああああー!」 「こら。食事中に大声をあげたりしないの」 めっ、と母親が軽く睨む。 「そうだぞ。久しぶりの家族の団欒じゃないか。某もヤれるくらい大人になったんだからな」 はははと笑う父親のほがらかな声に、某はみしっと音のするほど箸を握り締めたのだった。