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リアクション
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、シャンバラ側から坑道に入った後、坑道内にトラップを仕掛けながらセルウス達を探していた。
後でこの道を通ることになるとは限らず、また通るタイミングで敵が現れているとも限らず、使われるかどうかは分からないが、備えあれば憂い無し、である。
仕掛けるのにはそれなりの時間がかかるので、簡単なものから、大きいものまでを、通る道の片端から仕掛けて行く。
そんな彼の努力は報われた。
アンデッドとの戦闘は、シャンバラへ向かう道のりの障害であって、掃討が目的ではない。
だから避けられるものなら避けるべきだった。
「此処は、あそこか……!」
遭遇したアンデッドと、戦いながら逃げる。
恭也は場所を思い出して呟いた。
ドワーフの坑道にしては珍しく、地盤が緩んでいる場所を見付けて、それを利用し、破壊工作技能をフル活用して、念入りに仕掛けを施した唯一の場所があったのだ。
ここから近い。
「皆、もう少し下がれ!」
「もう少しって!?」
セルウスが訊ねる。
「あと30メートルくらい!」
アンデッド達にマシンピストルを撃ちながら、道を空け、その場を離れる。
全員がそのラインを越えたのを見て、恭也は仕掛けを発動させた。
轟音を上げて壁と天井が崩れ、アンデッド達を生き埋めにしながら道が塞がれる。
「うわー」
セルウスが目を丸くした。
「……待てよ。
今迄も地響きを感じたことがあったが……」
ドミトリエはふと思い出す。
まさか、あれも坑道を崩落させていたのか。
「ドミトリエ、怒られる?」
セルウスの問いに、恭也も、げっ、と呟く。
「やばかったか?」
ドミトリエは首を横に振った。
「いや。ドワーフ達は特に堪えないだろう。
仕事の嫌いなドワーフはいない。
使わない道は暫く放っておくかもしれないが、勇んで補修するだろう」
「ま、まあ、これが追手の足止めにもなればいいしな!」
恭也は空笑いしてごまかした。
思ったんだけど、と、グラキエス・エンドロアが言った。
「逃げながら、所々で天井を崩して坑道を塞いで行けば、向こうの足止めができるんじゃないか?」
じろっ、とドミトリエに睨まれて、
「あ、嘘。ごめん」
と謝る。
「ドワーフに迷惑がかかりそうですので、その作戦はやめておきましょう」
エルデネスト・ヴァッサゴーは答える。
「余計なところまで崩れたりして、自滅してしまうかもしれませんし」
それよりも、と彼は扱っていた銃型HC弐式を見て唸る。
「情報攪乱、うまくいかないのか?」
「どうも、向こうでも同じことを考えている人物がいるようですね。
ですが、向こうはあまり人数が多くないようですよ」
「どうして解るの?」
セルウスが訊ねる。
「内容までは傍受できませんが。通信回数が少な過ぎます」
「少数精鋭、てやつかな」
「人手不足、だといいんですけどね」
エルデネストは肩を竦めた。
「出遅れ……ましたね……」
九十九 昴(つくも・すばる)達は、シボラの長老の夢を見てから、坑道に入る迄に時間を食ってしまっていた。
随分、遅れを取ってしまった気がする。
「できるだけ……急ぎましょう……」
坑道まではそれぞれ、昴の光竜、白夜や、クリムゾンブレードドラゴン等に乗って来たのだが、坑道内は、洞窟にしては広く、連れ込めることはできたものの、流石にそれに乗って飛んで移動することは不可能だった。
ドラゴン達は、坑道内を窮屈そうに、歩いて移動する。
「やれやれ……よくも知らない相手に協力するとは……。
まあ、昴らしいで御座いますが」
パートナーの英霊、九十九 天地(つくも・あまつち)は、そう肩を竦めつつ、いつもの通り、昴に付き合う。
「ツァルトちゃん、大丈夫? 無理、してない?」
ヴァルキリーの九十九 刃夜(つくも・じんや)が、花妖精のツァルト・ブルーメ(つぁると・ぶるーめ)を気遣った。
「大丈夫、です。ありがとうございます」
ツァルトは恐怖を隠して、気丈に答える。
戦いは、怖いし嫌いだ。
それでも、何もしないでいるのは、もっと嫌だった。
誰かを助けに行くのなら、手伝わせて欲しい、と頼み込んで、ツァルトも共に来たのだ。
「さて、来たようでございます」
天地が言った。
ザワザワと、獣の這いずるような音と鳴き声がする。
「アンデッド……ですか……」
「早いところ片付けないと、遅れる一方だよ」
刃夜が言ったところで、分岐の向こうから、ゾンビ鼠がゾロゾロと飛び出して来た。
大きい。
翼分を除けば、昴の光竜、白夜とも匹敵する。
ひっ、とツァルトがか細い悲鳴を上げたが、必死に留まる。
「遅れるわけには参りませぬな。それでは、急いで片付けましょうか」
「さあ、行くわよ!」
昴がゾンビ鼠達の中へ飛び込んだ。
ゾンビ鼠の数は、三匹程度だ。
まずはと天地が英霊のカリスマを放つ。
ゾンビ鼠達はびくりと尻込んだが、すぐに昴達に向かって来た。
動物以下、知能を殆ど持たないゾンビには、畏怖の効果も薄いということか。
戦うことはできないが、何かの役には立ちたいと、ツァルトは歌でゾンピ鼠達の動きを鈍らせる。
刃夜がゾンビ鼠の横から、その胴を切り払った。
反対側から、昴が首を断ち落とす。
しかし、ゾンビ鼠の動きは止まらず、断面や傷口から、無数の触手が零れ出てきた。
「きゃあっ!」
その異様な姿に、ツァルトが悲鳴を上げる。
触手は長く伸び、昴や刃夜の体を絡め取ろうとするが、二人は斬り払って逃れる。
斬られた触手の断面から、更に新しい触手が生えて伸びてきた。
断ち落とされた首の方も、断面を覆うように無数の短い触手が生え、それらを足のように使って地面を走る。
立ち竦むツァルトの背後にいた青鱗竜『朧』が、炎のブレスを吐いた。
「お、朧……ありがとうです」
天地も、クリムゾンブレードドラゴンにブレスを吐かせる。
ゾンビ鼠は、簡単には燃え尽きなかったが、それでも、やはり炎には弱いようで、狂ったように暴れた。
「畳み掛けるわ!」
昴が言った。
早く片付けて、セルウス達に合流しなくてはならなかった。
三道 六黒(みどう・むくろ)がセルウス達に合流する時は、多くの者が彼を疑った。
大概の場合、彼は悪の道に準じて行動している。
その前例から見て、セルウスの味方になることは考えられなかったからだ。
「いいじゃないの。シボラの国家神の夢に興味があって来たのよ」
我ながらよく言うわ、と思いながら、六黒のパートナー、魔女のネヴァン・ヴリャー(ねう゛ぁん・う゛りゃー)はそう笑った。
シボラの国家神の思惑などどうでもいい。
六黒もどうでもいいと思っているだろう。
興味があるのは、セルウスの周りに集まるであろう、運命の力だ。
それはどのような? そしてどれほどの?
それが知りたい。
「利用すればいいじゃない。そこらの木偶の棒より、役に立つわよ。
そこの坊やの側にいなければ、あなたたちも安心なんでしょう」
ネヴァンは元エリュシオン人だが、現在は決別していて、既に不文律も適用されない。
六黒達は最後尾で、アンデッド達が現れた時の露払いを受け持った。
腐臭をまとうアンデッドとの戦闘後や、そうではなくとも時折気紛れに、篭った空気を、ネヴァンが清浄化させる。
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