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リアクション
sex : 地下に潜む者
夢は起きたら忘れるもの。
故に、猫のぬいぐるみ型機晶姫、アレクス・イクス(あれくす・いくす)も、起きたら夢の内容を忘れてしまった。
「起きたらすぽーっと抜けたにゃう……」
けれど、ドワーフの坑道……というのだけは何となく憶えていた。
「よくわからないけど、坑道に行かないといけないにゃう!」
パートナーのエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)に主張する。
「そうですね。奇妙なアンデッドが出るという話も聞きますし。
真偽を確認しに行ってみましょうか」
潔癖症のエメにとって、地下の坑道、しかも腐った死体が相手となると、二重の嫌悪なのだが、迷った末に、アレクスの希望を聞き入れることに決めた。
「アンデッドってさ、自然発生するタイプのモンスターじゃないよね。
それが最近現れたってことは、ネクロマンサーでも潜んでるのかな」
パートナーの剣の花嫁、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が、周囲を警戒しながら歩く。
アレクスは、もしもの時に備えて、迷彩塗装で姿を隠していた。
デジタルビデオカメラで、坑道内部を撮影しながら進んでいる。
「そう考えるのが自然でしょうね」
エメは頷く。
こんな、地下の洞窟に来ていても、彼の装いは、純白三つ揃いのスーツに白手袋だった。
場に適応していないことこの上無いが、これがエメのこだわりだ。
「何か裏がある気がするよね。
こう、何者かの意図を感じる、っていうかさ」
「だとすれば、こんなところで何を企んでいるんでしょうね……」
ふと、会話を止める。
「来たみたい」
リュミエールが言った。
「多いよ!」
ゾンピ鼠は、群れで坑道を疾走していた。
エメが仲間達の盾になるように前に立ち、リュミエールがエメにパワーブレスを施す。
速攻で仕掛けたエメだったが、ゾンピ鼠はしぶとく、簡単に倒れなかった。
斬った傷口から、何本もの触手が伸びてきて、エメの体に絡みつこうとし、咄嗟に飛び退く。
「剣はやめた方がいいみたいだね!」
リュミエールがファイアストームを仕掛けた。
炎はアンデッド達に効果的なようで、鼠達は苦しげに嘶いたが、しかし即死はしなかった。
死に至るまでの間、尚一層凶暴になって暴れ、突進してきた鼠に跳ね飛ばされる。
「エメ!」
「大丈夫。少し汚れてしまいましたが」
起き上がりながら、エメは頷いてみせる。
防御を固めていたが、ゾンビ鼠の鋭い爪が掠ってしまった。
怪我は大したことはなかったが、スーツが汚れたことの方を、エメは気にした。
「撮影してる場合じゃないにゃう」
アレクスが、六連ミサイルポッドを構える。
目標はゾンビ鼠ではない。天井だ。
「二人とも下がるにゃう」
言うと同時、全弾天井に撃ち尽くす。
天井が崩れ、瓦礫がゾンビ鼠を押し潰しながら、通路が埋まって塞がれた。
こちら側に残ったゾンピ鼠は僅かだ。
エメ達は気を取り直して戦い、激闘の末に何とか全滅させる。
「ありがとう、と言いたいところなのですが……」
エメはアレクスに言って、苦笑して崩れた坑道を見た。
「これ、怒られてしまいませんか」
「気にしてもしょうがないにゃう」
「とにかく、一旦戻って、他の道を探そうよ」
リュミエールの提案に、そうですね、と苦笑した。
地響きに、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は顔を上げた。
「何でしょう」
「他で派手にやらかしてんじゃないのか」
パートナーの剣の花嫁、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が答える。
坑道に棲みついたというアンデッドを殲滅する為に、二人はその発生源を探っているところだった。
「……ったくよ、アンデッドとか、苦手なんだよな、俺」
ハイラルはブツブツと愚痴っていた。
「あの腐ってんのとか、臭いとか。
ただでさえ、こんな閉鎖されたところで、空気がこもってそうだし、アンデッド退治とか気が重いぜ、ホント……」
「俺の武器は、アンデッドと相性がいいと思います」
「だからって無理はすんなよ。
アンデッドの臭い屍肉でぐっちょぐちょ、とか絶対嫌だからな!」
「パワードスーツを着込んでいるのですから大丈夫でしょう」
「せめて努力すると言え!」
分岐点にさしかかり、二人の会話がふと止まる。
「……来たか」
溜め息をつきたい気分で、ハイラルが言った。
前方から、何かが飛んで来る。
無数の、人の頭のゾンビだった。多い。
ぎゃあぎゃあと耳障りに喚きながら、不自然な大きさの耳が羽ばたき、不器用な動きで、上下しながら飛んでいる。
すっ、とレリウスの雰囲気が変わった。
「……殲滅する」
光輝属性を持つ薙刀、逵龍丸を構え持ち、レリウスは首の群れに果敢に飛び込んで、それらを片っ端から斬り捨てる。
「こうなるよな……」
半ば諦めの口調で、ハイラルはそのサポートに回った。
首のゾンビは、一体一体は脅威的な強さではなかったが、何しろ数が多かった。
前方の頭を断ち落とす後ろから、別の頭が肩に噛み付く。
二人はパワードスーツで全身を固めていたが、食らいついた頭はピラニアのように剥がれず、歯がスーツを通らないと見るや、また別の頭が、どかどかと腹や背中に激突してきた。
「くそ、キリが無いぜ!」
それでもレリウスは、まるで機械のように淡々と、冷徹に戦い続ける。
不意に、別の分岐から、何者かが現れた。
「今度はスケルトンかよ!」
ハイラルは内心、それでもゾンビ系統でなくてよかったと思いながら素早く身構える。
骨だけの相手なら、思い切り叩きのめせる。
「待つネ、待つネ、オレはアンデッドじゃないヨ」
骨格標本のような骸骨剣士は、ぱたぱたと手を振った。
見れば、同行しているのは人間だ。
「こちらは、葦原の陰陽師、東朱鷺。
彼はスケルトンみたいな外見ですけど、ポータラカ人ですので」
東 朱鷺(あずま・とき)がそう名乗りながら、ゾンビ首に向かって戦闘用イコプラを飛ばす。
「話は後にしましょう。取り込み中の様子ですし」
イコプラに援護の攻撃をさせながら、朱鷺は退魔の符を手にした。
「手伝ってくれてありがとよ」
残りが少なくなると、ゾンビ首達は逃げて行った。
何とか群れを片付けて、ハイラルが朱鷺に礼を言う。
「こちらこそ、助かりました」
「え?」
「実は、道に迷っていましたので。ここは何処ですか?」
朱鷺の問いに、レリウス達は顔を見合わせた。
朱鷺は、最近パートナー契約した第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)のあまりの弱さに、彼を鍛える為にと坑道へ来ていた。
「剣と盾の扱い方は覚えましたか?」
「大体ネ。まだうまく使いこなすには遠いネ」
出現するアンデッドとの戦闘はほぼ朱鷺に任せ、第六式は、ひたすら実戦の経験を積んでいる感じである。
「……それにしても」
と、朱鷺は周囲を見渡す。それを見て、第六式も訊ねた。
「随分歩き回ったネ。朱鷺、道オボエテル?」
いいえ、と朱鷺は首を横に振る。
「ここは何処でしょう」
「オレも憶えてないネ」
「きちんとマッピングしておくべきでしたね……」
敵を探してさ迷い歩き、坑道内部に探究心を刺激されて探索を続けている内に、二人はすっかり道に迷っていたのだった。
「まあ、迷ってしまったものは仕方在りません。
この際ですから、とことん探索してみましょう」
と、特に気にせず進み続けて、二人は、その隠し部屋を発見した。
そこは宝物庫のようなところではなく、むしろ倉庫に近かった。
鍛冶の道具、穴掘りの道具、日常品、雑多な道具に、値打ち物の品も無造作に混じって置かれている。
朱鷺と第六式は、それらの中から、それぞれ一つずつ選んで、持ち出した。
「お宝も手に入ったし、あとは出口を見付けるだけネ」
と、相変わらずマッピングせずに迷いながら探索を続けて、やがて二人は、レリウス達と遭遇したのだった。
「騒がしいな。……出たか?」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、注意深く周囲を警戒した。
ヘルハウンドの群れを引き連れて、坑道に出没するという化物退治に来た陽一は、前方から来るゾンピ首の群れに気付き、真紅のマフラーを手にした。
後頭部には大帝の目を装着し、全方位対応としている。
陽一は素早く数を数えた。多くは無い。
獲物が一人と見るや、ゾンビ首達は、一斉に陽一に襲いかかった。
陽一は、その突撃を躱しながら、展開したマフラーで首を断ち落とす。
一対多数は最初から想定していたものの、流石に、一人で相手取るには数が多かった。
背後から来たゾンビ首をマフラーで絡め獲った更にその背後から、複数の別の首が襲いかかる。
避けきれなかったその内のひとつが、陽一の肩に噛み付いた。
「くそっ、……こいつら、首を狙ってくるのか!」
本能とはいえ、実に的確な場所を狙って来る。
陽一は、ゾンビ首を手でもぎ取って地面に叩き落とし、蹴り飛ばした。
ミシミシと締め上げたマフラーの中で、ゾンビ首が動かなくなったのを見て、ごろりと地に落とす。
ようやく全てのゾンビ首を片付けて、陽一は自分の負傷を確認する。
傷自体はそれほど多くも深くもなかったが、ゾンビの不潔な歯で噛み付かれたのが、多少気になる。
「こんなのがあちこちにいるのか……。
まずは大元を何とかすべきなのかもしれないな」
宝探ししている暇もないな、と、陽一は呟いた。
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