リアクション
◇ ◇ ◇ 「アンデッドが出没するって噂だけど。 途中アンデッドと遭遇しても、いちいち相手にしていたらきりがないよねえ」 「スルーできるものはスルーして行くのが望ましいでしょうね。 セルウスさんを確保する時に、荒事にならないとも限らないのですし、余計な消耗は好ましくありません」 なぶらの言葉に、パートナーのヴァルキリー、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)も言った。 「頑張らないと……龍騎士団員なんだから」 「まあ、色々きな臭いものも感じないではないですが……まずはセルウスさんと接触しなくては始まりませんし」 二人は追跡する分裂エニセイの後に続き、坑道を進んで行く。 「何だか、怖いところね……」 ハーフフェアリーのアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が、パートナーの辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)に囁いた。 二人はそれぞれ分裂エニセイに乗っている。 小柄な二人が、その背に乗って進んで行けるようにと、キリアナが、他の分裂エニセイより、二人に一頭ずつ、大きめに斬ってくれたのだ。 折角だから刹那と一緒に乗れるようにして欲しいとアルミナは思ったが、 「ウチは構わへんけど、そうすると、ポニーくらいの大きさになってしまいますえ」 とキリアナに苦笑された。 あまり大きいと、追跡させるには向かなくなってしまう。 最も、二人が乗ろうと言う時点で、既に追跡には使えないだろうが。 「どうします?」 訊かれて、刹那が 「普通の大きさで構わん」 と答えた。 「ほなら」 と、この大きさになったのだ。少し残念だったが、仕方がない。 坑道の内部は真っ暗ではなく、予想に反して明るかった。 所々に、機晶石による灯りが灯され、内部を照らしていたからだ。 稀にその灯りが切れて暗くなっているところもあったが、概ね、進むのに支障は無い。 天井も高く、馬程度の動物であれば、連れて進むことも問題なかった。 それでも、怖いところだわ、とアルミナは思う。 空気が淀んでいるような気がする。 アンデッドが出る、と刹那が言っていた。 刹那がいるなら、怖がることなど何もないのだが。 「アルミナ、避けておれ!」 刹那の奈落の鉄鎖で落とされた首のゾンビが、そのまま潰される。 武尊は、飛来して来たゾンビ首をバットでフルスイングした。 首は天井に激突した後、跳ね返って壁と床に激突した後、もう一度壁に激突してからぼとりと床に落ちる。 ひくりひくりと動いている様子から、それでもまだ、しぶとく生きてはいるようだった。 「くそ、キリがねえなあ! しかもシャンバラに近付くにつれて増えて行ってるぜ」 「しかし、方向に間違いはないようです。 ……先程も、アンデッドの死骸が散らばっていましたし」 白竜が言った。 「あちらさんも、アンデッドには苦労しているようですなあ」 「だからと言って、この道の先にいるとは限りませんが」 「いくつも分岐してるしな」 羅儀も頷く。 分岐ごとに、分裂エニセイの反応が分かれた際は、キリアナ一行もそれに従って手分けしている。 稀に、一旦分かれた仲間が、再び同じ道に合流することもあった。 「それにしても、奇妙なアンデッドどすなあ」 キリアナは一行の最後尾に、馬の2倍ほどのサイズに縮んだエニセイと共にいた。 アンデッド対応でキリアナの手を煩わせない、と言った白竜に 「ほならお願いします」 と、下がっているのだ。 「……だが、真の脅威は、アンデッド共じゃねえ」 武尊は呟いた。 真の脅威は、契約者だ。 今回の依頼で、帝国を快く思わない者や、他に思惑のある者、罪人セルウスに味方する者が必ず、こちらの邪魔をしに動いて来る。 極端な話、シボラ側から坑道に入った者以外は全て敵、と見てもいいだろう、と武尊は思っている。 それくらいの警戒は必要だ。 「邪魔する奴がいたら、全員顔を覚えて仕返ししてやる」 又吉は、記録の為にデジカメを非物質化して隠し持っている。 「向こうは、坑道内部でHCを多用してくると思ったが……」 ドラゴニュートのゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)は、HCの通信傍受を試みながら、首を傾げた。 今のところ、有益な情報が得られない。 マッピング程度にしか使っていないということか。 実は、この坑道内部では携帯電話が使用できた。 全範囲ではなく、エリュシオン・シャンバラ間を中心に、現在も範囲拡大中で、ドワーフ達による、光ファイバー設置工事が進められているところなのだ。 |
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