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リアクション
duo : 追跡者達
セルウス達を追ってシボラへ来たキリアナ一行は、セルウス達がドワーフの坑道を利用してシャンバラへ向かったことを突き止めた。
シボラの長老の夢の情報は、既に、キリアナに与する契約者達も得ていた。
その情報により、捜索の結果、坑道の入口を発見するに至っている。
恐らくそれは、セルウス達が入った入口とは違うと思われたが、坑道内で道を探して行くしかない。
その過程で、セルウスは、一人ではないらしい、という情報も掴んでいた。
「俺は、選帝神白輝精様に仕える者、なんだけど……。
キリアナくんに協力して、大丈夫かな」
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、懸念していたことをキリアナ・マクシモーヴァに訊ねた。
エリュシオン臣民ではないが、エリュシオンに属する者と位置することは、不可侵の掟を破ることとなってしまうだろうか。
白輝精にとって不都合にならないかと心配すると同時に、帝国臣民のキリアナへの介入、ということになるかもしれない。「かまへんよ。ウチかて、エリュシオン人やけど、法を破ってることにはならへんし。
それとおんなじや」
キリアナはあっさり答える。
「それならよかった」
最悪、依頼を受けたものの留守番、ということになりかねない、と案じていたので安堵するが、また別の疑問が沸いてくる。
「キリアナくんは何故、不可侵を免れてるの?」
「それは秘密。
乙女のプライベート、ってことで許してな」
キリアナは肩を竦めて、それには答えなかった。
「とにかく……折角だから、分裂エニセイを借りようよ」
パートナーのクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、キリアナの龍を見上げる。
「ぷちエニセイ、お行き」
キリアナが、龍を斬り分けた。
二人で一匹の、分裂エニセイを預かる。
猟犬サイズの龍が、クリストファー達の足元に寄り添った。
「追跡能力に長けているんだっけ……。
でも、ボク達は主に、敵の接近や襲撃に警戒して行くことにしよう」
クリスティーが言う。
「エニセイには、龍の咆哮で意志の疎通ができるかな?」
クリストファーの問いに、キリアナは頷く。
とりあえず、よろしくと挨拶しておいた。
「それじゃあ、よろしくお頼みします。
モンスターも棲み付いているようで色々難儀やけど、生かして捕まえてくれたら、多少痛い目に合わせてくれても構わへんよって」
分裂エニセイを協力者達に渡しながら、キリアナは彼等にそう頼む。
「構わないの?」
エリュシオン第七龍騎士団員、相田 なぶら(あいだ・なぶら)が訊ねた。
肩書きだけではなく、それに見合う成果を上げたい、とこの依頼を受けている。
「まあ、腕に覚えがあるようやしなあ。
それくらいの覚悟はしとるやろと思うし、そんなヤワでもないと思うんですわ」
キリアナは、細かいことは気にしない性分らしい。
「ひとつ気になることがあるんだけど」
なぶらはもうひとつ訊ねる。
「その子、仮に樹隷の仕事が嫌になって逃げ出したとして……
コッソリ逃げ出せば、こうして追跡されることもないのに、何故わざわざ、従龍騎士の試験会場を荒らして、追われる原因を作って行ったんだろう?
何か、深い事情でもあるのかなぁ?」
「さあ、あちらさんの事情は、わからへんけれども」
キリアナは肩を竦めた。
「腕試しとか、ちゃうかなあ。
従龍騎士候補生に勝負を挑んだり、挑まれたりとやっとったらしいし。
まだ子供やし、駆け引きとかその後のことなんかは頭になかったんやないやろか」
つまり、血気盛んなだけ、ということか。
「……だとすれば、温情の余地なしにとっ捕まえないと、てことだなぁ……」
「そやな。よろしく頼んます」
キリアナはにこりと笑った。
なるほど、と、その会話を樹月 刀真(きづき・とうま)も聞いていた。
多少手荒にしても構わない、と言うことは、特にセルウスが持ち出した物なども無い、ということだろう。
「これは、質問ではありませんが」
刀真は個人的に、キリアナ自身に興味を持っていた。
「今回の件で、俺の実力がそれに足ると思えたら、手合わせしてくれませんか」
「ええですよ」
キリアナは笑って頷く。
「この仕事が終わってからでしたら。今は任務が優先ですよって」
「勿論、それで構いません」
そんな刀真の様子を見て、パートナーの剣の花嫁、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は複雑だった。
「刀真がキリアナを気にしてる……」
「月夜さん、気にしすぎですよ。
刀真さんは、『プリンス・オブ・セイバーの再来』とまで言われているキリアナさんの実力に興味があるんですよ」
守護天使、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が慰める。
簡単に言えば、ジェラシーである。
キリアナは、いかつい面相の龍に乗り、剣技はプリンス・オブ・セイバー再来の異名を持つが、本人は、若く可憐な美貌の少女だ。
「でも……もっもしかして、『ちょっとした接吻』にも興味があるのかもっ……」
「接吻、ですか……」
白花は考える。
月夜が気にしているのは、つまりそこなのだろう。
「でしたら、今度刀真さんに命の息吹をかける時、口移しでしてみるというのは?」
「くっ、口移し……!」
「恋する乙女ですなあ」
その時、背後からの声に、二人は驚いて振り返った。
キリアナが微笑んでいる。
「あら、可愛いお人やないの。
心配しなくても、男なら放っときませんえ」
「……刀真さんは、その手に関しては、とても朴念仁な人ですので……」
白花が、月夜への深い同情を込めて言った。
「あらぁ、片思いですの?」
「……私は刀真のモノよ」
キリアナは、ふふっと微笑んだ。
「性格も可愛いお人やね。好きやわ」
すっと目前に来たかと思うと、キリアナは、月夜に軽く口付けた。
「……!!!!」
両手で口を押さえ、月夜は後ずさる。
「何をするんですっ」
白花がその前に立って、キリアナを睨んだ。
キリアナはにこりと笑う。
「そんな、とんがらんでも、報酬の先払いをしただけですえ」
「あなた、ひょっとして、恋愛対象が女性……?」
キリアナは目を丸くして、くすくす笑い出す。
「まあ、これで朴念仁さんが、少しは嫉妬してくれたらええですね」
「……女性同士のキスでは、呆れるくらいで、嫉妬なんてしないのではないでしょうか」
「………………そういえば、そうかも。
でしたらホラ、ファーストキスということにしたらどうです?
最初は朴念仁さんにあげたかったのにーって」
と、キリアナは月夜を見て、首を傾げ、白花を見た。
「……ウチ、そんなにすごいこと、してしまったんですやろか」
「まあ、そうですね」
月夜は、ショックを受けて固まったままだ。
「オレは接吻など要らん」
分裂エニセイを借りる際、国頭 武尊(くにがみ・たける)はそう言った。
「君個人からの報酬は、接吻ではなくぱん」
ごっ、と、後ろから殴られる。
「ぱん?」
武尊の背後で、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)のパートナー、悪魔のサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が呆れていた。
「流石に、初対面で言う話ではないのではなくて?
仕事が終わった後にしたらどうですの」
「何を言う。最優先事項だぜ」
武尊はそう主張したが、渋々話を本題に戻した。
「セルウスって奴の容姿や特徴を訊きたいんだが」
パートナーのゆる族、猫井 又吉(ねこい・またきち)が、デジカメをキリアナに渡す。
「こいつを持って、そいつの容姿を強く念じてくんねーか」
そしてデジカメにサイコメトリとソートグラフィーを併用すれば、セルウスの姿を写し出すことができるのでは、と思ったのだ。
キリアナは、困ったように笑った。
「すんまへんなあ。
ウチ、その子に会ったことないんどす」
「何っ?」
「闘技場やらで聞き込みをしたので、特徴は聞いてます」
「それは、最初に聞いたやつだろ」
「そうです。
十二、三歳くらいの少年で、腰に頭蓋骨を下げてます。
随分明るい性格の子みたいやね。
体の何処かに、刺青をしてます。多分胸あたりやないかな。
服の襟足から、それらしきものが見えてたらしいんで」
「そんな程度かよ……」
「すんまへん。会えば解る、て思うてたんで。
確かに助っ人の皆さん方は、ウチらとは感覚が違いますもんなあ」
「まあ、その辺は臨機応変で何とかする」
武尊が溜め息を吐く。
「首尾はどうだ」
と、ジャジラッドはサルガタナスに訊ねた。
「代王迄、直接話を届けることはできませんでしたけれど、シャンバラ政府から回答を得ましたわ」
「それで」
「『回答を保留する』だそうですわ」
「つまり、対応を決めかねているわけか」
「そういうことですわね」
「ふむ……」
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