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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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リアクション


【5】 G【1】


 天御柱学院・普通科校舎の地下に秘密のフロアがある。
 一見すると普通のフロアだが、フロアマークを示すのは”1F”でも”B1”でもなくただ”G”とだけ刻印された謎のフロアだ。
 地下にあるため窓にはシャッターが下り、照明も足元を照らす非常灯だけ。人気もなくとても奇妙な空間だ。
 そこに『謎の設定資料室』はあった。
 中に入ると目に飛び込んでくるのは、たくさんの本棚だ。左右の書棚は三階に届くほど背が高い。巨大な図書館のような部屋だった。
「わぁーーっ! 学校の下にこんな図書館があったんだぁ!」
 遠藤寿子は目を輝かせた。
「しかも専門書ばっかり……あ、このイコン図鑑、日本でしか売ってない奴。あーこれ、アメリカから取り寄せないと駄目なレアものだ」
「おい、遠藤さん、これを見ろ。イコン全集2022年度版(初回限定版)だ。今ネットオークションでとんでもない高値がついてる奴だぞ」
 調査に同行するエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)も目を輝かせていた。
 一方、同じく調査に同行する学院整備教官長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は冷静に部屋を観察していた。
「普通科校舎の地下にこんな場所があったなんて……」
「どうもきな臭いね」
 クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)がそう言うと、真琴も同意した。
「実際に話をしてみて感じた事ですが、大文字先生は悪い人ではないと思います。浪漫を追い過ぎて現実が見えていないのは確かですが」
「まぁねぇ」
 クリスチーナは苦笑した。
「ですが、大文字先生の研究室から繋がるこの施設。この規模を考えると不自然ですね。これが整備科なら試作機の保管庫や実験施設など幾らでも仕様法はありますが、普通科には必要のない施設です」
 目を細めた。
「正直なところ、前のように裏で何か、それも天御柱学院自体をひっくり返そうという企てがされている気がしてなりません。せっかく、新体制になり生徒と教官が一致団結をしている最中に不穏な火種を持ち込ませるわけには……」
「大文字先生はそんな事しないよっ!」
 寿子は叫んだ。
「……寿子さん」
「先生は正義を愛する心を持った人だもん。皆を困らせるような事なんてしないよ!」
「気持ちはわかりますけど、私たちはそれを明らかにするために来ているのでしょう?」
「でも……!」
「まーまー落ち着け」
 エヴァルトが仲裁に入った。
「先生の身の潔白は遠藤さんが証明すればいいだろ? な?」
「う、うん……そうだねっ」
 寿子は気をとり直し、部屋の調査に向かった。
(とは言ったものの、あの先生を信用しきってる遠藤さんじゃ、怪しいものでもスルーしかねないよな……。俺もしっかり調べないと)
 記録に残すため、エヴァルトは書籍の山を、まずカメラに収めた。
「これだけあると一冊一冊調べるわけにもいかないか」
 エヴァルトは資料が山積みになっているテーブルの上にPCを見つけた。めぼしいものがないか、データを洗ってみる。
「そう言えば、ニルヴァーナ探索で壊れた機体も修復しないとな……。{ICN0004048#ヴェルトラウム?}のパワーアップのためにも何か情報が欲しいところだが……」
 ここに収められているデータは、主に大文字の発明品に関するものだった。
「へぇ、”スパイラルナイフ”?」
 それは十得ナイフから着想を得た発明品だった。
 本体は柄の部分で、刀身は流体金属。スイッチを押すと剣や刀、斧、槍、槌と武器の形状が変わり、あらゆるシーンに対応出来る便利な武器だ。
「おお。こっちは”ヒーロー認定書”だ」
 サインするだけで、ヒーローになれる変身キット。誰でも憧れの特撮ヒーローに変身出来る優れものだ。
「……うーん、一瞬いいかもと思ったが、なんか違うなこれ。そう。そうだよ、ヒーローは変身ベルトじゃないと。紙にサインして変身とか、役所じゃないんだから……」
 と思ったら、データに大文字のコメントが掲載されているのに気付いた。
『企画しといてなんだが、ヒーローが契約書書いて変身とか違う気がする。うーん、ヒーローは止めよう。”魔法少女仮契約書”とかにして、女子向けのアイテムにしてみるか(勇作)』
「こいつは……!」

 その横でPC内データを調べていた真田 恵美(さなだ・めぐみ)は、大文字の発明品”閉鎖空間発生装置”の項目で止まった。
「閉鎖空間か。シャドウレイヤーってのに似てるのかな。先日の戦闘データを帰投後の整備で見せてもらったけど、あんなのがこれからも出るなら対策を講じないといけないからな……、何かヒントになるといいんだけど」
 ファイルを展開してみた。
 この装置は、どうやらコンセプトは特撮ヒーローものに出てくる敵が発生させる亜空間のようだ。発生した亜空間の中では、特定の条件を満たした者以外が弱体化する。
 弱体化させる方法に関してはまだ研究している段階で、具体的には決まっていないが、ナラカの瘴気と同等のものになるよう研究しているようだ。
「シャドウレイヤーに似てるな、すごく……」
 恵美は眉を寄せた。
「この装置に何か弱点とか対策方法はないのか?」
 大文字のコメントを開いてみた。
『あ、今いいこと思いついた。ヒーロー認定書……いや、魔法少女仮契約書と組み合わせると面白くなるな。ヒーローだけが空間で戦える。そういう展開が大好きだ。この空間は魔法少女だけ特例で影響を受けない作りにしておこう(勇作)』
「……魔法少女仮契約書?」
「例の”同好会”で使われてる道具だ」
 エヴァルトは言った。
「ああ、話には聞いてる……ん、待てよ。このシャドウレイヤーに似た空間を作る装置も、その対策措置の契約書も大文字先生の発明ってことか?」
「そう言うことになるな。未来世界はどうも複雑な事になっているようだ」

「案の定、大文字先生の書いた企画書ばかりですね」
 真琴はイコン関連のデータを調べていた。
「この間、企画書や図面を見せてもらったけど、あれらは現在の技術じゃ実現不可・開発不可能って言ってたよな?」
 クリスチーナは作業を手伝いながら尋ねた。
「ええ」
「思うんだけど、例えばアイリのような未来人が海京のどこかに潜んでいて、その技術を裏で回しているとすれば、実現の可能性はあるんじゃないか?」
「”未来の技術”があれば、と言うことですか」
「ああ。例えば、クルセイダーとかのさ」
 真琴はPCの画面に目を落とした。
 大文字が図面を引いたイコンは本当に無数にあった。
 そして、そのほとんどが荒唐無稽な……中学生の考えたような企画段階でスポンサーが逃げそうなイコンだった。
 どれも初めて見るものばかりと言う事は、計画が頓挫しているのだろう。
「……これを見る限り、先生には”未来人”との交友関係はなさそうですね」
「これ、企画のリストか……う、ほとんど凍結の文字が付いてる……」
「……どうやら先生には疑った事を謝らなければならないかもしれません。以前、先生が技術革新が起らない限り、企画のほとんどが日の目を見ないと言っていましたが、そこに偽りはないようです」
「まぁ仮にそんな後ろ盾があるなら、こんなことにはなっていないだろうしね……」
「未来人と関わりがないってことは、クルセイダーとも繋がってないって事か……」
 とその時、リストの中に”G”とだけ表記された項目を発見した。
「これは……」
 真琴はコピーしようとUSBメモリを接続したが、厳重にかかったコピープロテクトを突破する事は出来なかった。
「仕方がありません」
 コピーを諦め、直接ファイルを開いた。
 展開されたのは、巨大なイコンのデータだった。全長200m。必要な機晶エネルギーは第2世代機のおよそ1000倍。きっちり図面に起こされている。
「これ、先生が話していたイコン……?」
「ちょっとこれ……」
「!?」
 巨大イコンには開発中の印があった。