リアクション
▽ ▽ 市街戦だった。 「街で戦争なんて……」 街で戦闘が始まり、ヴァルナは逃げ損ねてしまった。 戦争は嫌いだ。 けれど、一般の民を巻き添えにするようなこの戦いを、逃げてしまうことに躊躇ったのだ。 その防衛戦で、ミルシェは先頭で突っ込んで来るマーラの戦士、ジョウヤを相手取る。 「これ以上先には行かせないよっ! この街には、私達の学校だってあるんだからっ!」 次々と放つ強力な魔法の攻撃を、ジョウヤは躱しながら突っ込んで来た。 とりあえずはその周囲の別の敵兵に命中していたので、無駄弾じゃないよねと思いつつ、ミルシェは威力を弱めて精度を上げる。 「今度こそっ!」 避けきれない、と思ったジョウヤが、腕を顔の前に構える。 ゴッ、と炸裂した爆炎が広がり、やったと思った直後、炎の中からジョウヤが突っ込んで来た。 「――甘いよっ!」 ミルシェは足を蹴り上げて、ジョウヤの攻撃を受け返す。 「チッ、とんだジャジャ馬じゃのう!」 一歩退いて、しかしにやりと笑う。 ジョウヤは、軍人ではなかった。 ただ戦いが好きで、常に戦う場所を探し求めていた。 戦いが起こる場所に引き寄せられては、こうして、首を突っ込むように戦いに加わり、それに没頭する。 二人の戦いの隙をつき、ミルシェの背後から、他の兵士が攻撃を仕掛けた。 「あーもう、邪魔っ!」 ミルシェは振り返り様に、その兵士を蹴り飛ばす。 「うわ、眼福……」 驚いた呟きに、ミルシェははっとした。 援護に回ろうとしていたのだろうか、同じく防衛戦に出ていたシャクハツィエルが、絶妙の場所と角度で、ミルシェのパンツを目撃したのだ。 「きゃ――! 何見てんのよ――ッ!!」 ミルシェはシャクハツィエルに平手をかます。 べしゃ、と彼は地に沈んだ。 オイオイ、とジョウヤは呆れたが、ここで笑って見逃してやるほどお人よしでもなかった。 「貰った!」 ミルシェの急所を狙った一撃を叩き込む。 「危ないっ!」 自分の力の及ぶ戦いではない。 解ってはいたが、その光景を見たヴァルナは、咄嗟にミルシェを庇って飛び込んだ。 「あっ!?」 ミルシェは、ジョウヤの攻撃を受けて倒れるヴァルナを、愕然と見る。 きっ、とジョウヤを睨みつけた。 「仕切りなおしか?」 ジョウヤはにやりと笑う。 倒れたままのヴァルナは動かない。相当傷が深そうだった。 △ △ トオルを捜す人員が、それなりにはいると知った光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は、手分けしてローラー作戦で捜そう、と提案した。 何手かに分かれて、森に入って行く。 分かれる前に、シキに『禁猟区』の魔法を施した。 「トオルを追っとる奴等の情報が少ないのが難じゃが、向こうの人数は多くないとみた。 こっちが先に探し出して、出し抜くことも不可能じゃないけえ」 そんな翔一朗も、ぽつぽつ前世を思い出してきているが、今のところ、あまりそれを気にしていない。 「前世も現世も、やっとるこたぁあまり変わらんのう」 くらいの意識しかなかった。特に誰かの恨みを買ったりしている様子でもないし、放っておいても問題はないだろう。 「今はとにかく、トオルが先じゃけ」 翔一朗は、気持ちを切り替えて捜索を続けた。 ▽ ▽ 彼を選んだ理由は恐らく、エセルラキアの戦友だったからである。 けれどそこにある思いは、自分自身にも解らなかった。 魔剣であるキアーラは、主を殺され、ヤマプリーに対する敵意、憎悪と、そのヤマプリーの民であるエセルラキアへの恋慕の間で板挟みになっていた。 そんな矢先にエセルラキアの死を知り、自分の感情が、自分で解らなくなってしまった。 答えを探し求めるかのように、戦場を彷徨い、フェスティードの姿を見つける。 「――封(と)じられた扉を開け」 我知らず、キアーラは自分を魔剣化する時に設定している言葉を呟いた。 彼の死によって、自分は何かを知るだろうか。 「万物一切、虚無に帰せ。 幽冥の闇を汝が手に――神々を殺しつくせ」 自分を手にする主はいない。 誰でもよかった。彼を殺せるのなら。 △ △ テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)と、パートナーの瀬名 千鶴(せな・ちづる)は、ジャタの森に獣人の集落を見つけて、聞き込みを行った。 「トオルって青年を捜しているのだけれども」 千鶴は、トオルの特徴を伝えて訊ねる。 「この集落の住民の中に、トオルちゃんを見た人は、居ないかしら?」 「ああ、彼なら確かに、この村に来たよ」 集落の男が答えた。 「本当? 今何処に?」 「さあて。翌朝には居なくなってしまったからな」 「詳しく聞かせてもらえる?」 「電話はないか、と走って来たんだよ。随分慌ててはいる様子だったが」 生憎、この小さな村には契約者もなく、地球の文明の利器とは縁無しだった。 「だが、疲れている様子だったので休んで行けと誰かが言って、まあこの村には宿なんてもんは無いんだが、家に泊めると言ったら、物置とかそんなんでいいと言って、隣の家の納屋で寝て……次の日の朝にはいなくなってたな」 「どんな様子でしたか?」 テレジアが訊ねる。 「周りを気にしてたよ。俺達にも、あまり近づかなくて。何か訳ありかなとは思ったが」 テレジアと千鶴は顔を見合わせた。 「とにかく、皆に伝えましょう」 ▽ ▽ 自分の家族を殺したのがメデューだったと知った時、ミフォリーザに迷いはなかった。 絶対に許さない。ミフォリーザは、その時が来るのを待った。 メデューは、ただ殺し、命を喰らうことだけを考える殺人鬼だった。 しかし子供の姿に本性を隠し、普段ひっそりと生きるたった一人の人間を、この広い世界で捜し出すことは容易ではなかった。 それでもミフォリーザは、執拗に捜し続けた。 どんな屈辱があろうとも耐えた。 そして、ついにその時は来る。 ミフォリーザは、何の躊躇いもなくメデューを屠った。一切の慈悲もかけなかった。 「皆……仇は討ったわ」 横たわる骸を無表情に見下ろして、ミフォリーザは、ぎゅっと拳を握り締める。 戻って来ない。誰一人帰っては来ない。 そんなことは解っている。それでも。 「……皆」 閉じた目から、涙が零れた。 △ △ 「目撃情報……」 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、同じくトオルを捜索する者達から回ってきた情報をHCに受けて、呟いた。 「此処からは遠いわね……。この辺ではないかしら」 ふ、と溜め息を吐いて、周囲を見渡す。 理由のない苛立ちに、軽く頭を振った。 「こんなの……オカルト雑誌ネタのはず、だったのに」 前世を思い出し始めてからというもの、感じるようになった違和感が、どんどん強くなって行く。 身体も精神も、まるで自分だけのものではないような、奇妙な感覚に捕らわれるようになったのだ。 受け入れがたい、受け入れたくない、けれど、あまりにリアルな。 「どうすればいいの……」 どんな風に、これらを受け入れたらいいのか。 自分は、セレンフィリティ以外の何者でもないというのに。 ▽ ▽ 自分が盾となるはずだった。 とん、と押されて転び、転んだまま振り返ってタテハはぎょっとした。 「フェスティード様あっ!!」 彼の身体を、剣が貫く。 頭が真っ白になり、その後のことは、よく憶えていない。 ただ深い嘆きが、タテハの感情をいっぱいにした。 (わだす、誰も、護れねぇ、んだか? わだす、やっぱり、『呪われた子』だっただか?) 戦場の真ん中で、ガエルはその光景を見つけて咄嗟に走った。 骸の側に、誰かが呆然と座り込んでいる。 それは戦士では有り得なかった。 ガエルは、その少女に振り上げられようとする剣から護ろうと、飛び込む。 間に合わないかもしれないタイミングで、少女を護るには、自らの体を盾とするしかなかった。 迸る血潮に、タテハは愕然と目を見開く。 躊躇いはなく、後悔もなかった。 ただ最期の瞬間に、ガエルは友人ケヌトを思い出す。 我は弱き誰かのためにある 故に 我は弱き者を救うため、この命を捧げよう 我が生きようが、死のうが関係ない 弱き者を救えるのなら問題はない だが きっと心残りが出来るだろう 我が友、ケヌトよ 我が逝こうとも、我を思い続けてくれるだろうか ケヌトの心に、友としてあり続けられるだろうか それだけが心配でならない 「逃げろ」 タテハに一言、そう言い残し、ガエルは息絶えた。 がく、と、タテハは両手を地面につく。 じゃらりと鎖が鳴る。 (わだすが、もっどもっど、強がったら、えがったか? わだすが、わだすが、) ぱた、と、涙が鎖の上に落ちた。 (わだす、もう、誰も、信じねぇだ……) タテハは、一切の記憶、一切の感情を放棄する。 ぱきんと手足の枷が外れた。 △ △ テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)は、前世の記憶が煩わしくて仕方がなかった。 自分は死んだことなんてない! なのに、この記憶は一体何だろう。 もう、こんなのは嫌だと叫びたい。 「ぐぇらぐぅらららう!?」 相変わらず、保護者達に不在を気付かれないまま、一人では、何をどうしたらいいかもよく解らない9歳児のテラーは、何をすれば、この煩わしさがなくなるのか、見当もつかなかった。 とりあえず、いなくなった人を捜そう、と、森に来た。 「………………」 聳え立つ森の木々に、テラーの存在が埋もれる。 「ぐれぅぎりぉろうぅぅ!」 大きくなったら見つけ易くなる! テラーは、海王龍の因子を取り出し、体長10メートルの海龍へと変身した。 バキバキと森の木々を踏み潰し、長い尾でなぎ払いながら、トオルの姿を捜す。 しかし、その効果時間は、10分。 木々の上に聳えていた龍の姿は、あちこちを歩き回った後、唐突に消えた。 「もう、何やってんのかしらね。 こっちはなるべく森を傷つけないように戦わなきゃと思ってたのに……」 巨大化したテラーの姿は、遠くからでも確認できた。 「トオルがアレを確認したとして、敵として遠ざかるか、味方だと思って近づくかだけど」 ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)が、一行の殿から、そう声を掛ける。 「私、遠ざかると思うなー」 先頭の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言った。 |
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