リアクション
▽ ▽ シヴァは、ヤミーへの想い故にヤマプリーを出奔したが、ヤミーに想いを伝えられたわけではない。 だが、稀にヤミーが戦場に出る時は、スワルガの民として共に戦った。 彼女の主となり、剣として使うことはできなかったが、友人として側にいることは出来た。 その戦場では、シヴァは使命を与えられていた。 情報の提供をしたのも、戦場を選んだのもシヴァだった。 戦いの中で、彼は目指すものを発見する。 「……!?」 タスクは、自分が標的とされていることに気付くが、策を講じるには遅かった。 「何……これはっ……」 強制的に、その姿が紫水晶に変わって行く。 「くっ……!」 タスクは咄嗟に、ポケットから指輪を取り出し、それを遠くに投げた。 大きく弧を描いて、指輪は藪の中へ消え、タスクはそのまま紫水晶に変化する。 祭器としての器に封じたタスクを、シヴァは拾い上げた。 「……すみません」 「終わりましたの?」 ヤミーが気だるく歩み寄る。 「はい」 「なら、帰りましょうか。早くお昼寝したいですわ」 ヤミーは先に立って歩き出し、シヴァは紫水晶を丁寧にしまうと、それに続いた。 一方、シャウプトもまた、ひとつの祭器の発見、奪取に成功していた。 最初から黒曜石の鏡の姿のまま、人型をとることがなかったカーラネミは、しかしスワルガ軍の上層ではなく、別のところに預けられた。 それについて、シャウプトが思うことは特になかった。与えられた任務は果たした。 それが何なのかを知る必要はない、と考えていたからだ。 ――カーラネミは、イデアの手に渡ったのだった。 △ △ 木を隠すなら森、本を隠すなら本。 ならばやはり、人を隠すなら人だろう、と思った風馬 弾(ふうま・だん)は、この城の近衛の制服を貸して貰えないかと願い出た。 「これで皆でここの兵士に変装すれば、あの変なおじさんを騙せると思うんだ。 きっとおじさんは、シャンバラで交戦した俺達がいることも、普段以上に『書』が警備されてることも知らないんじゃないかと思うから」 ジュデッカにひどいことをしたイデアを許せない、と弾は思っていた。 (お姉さんはとてもいい人だったのに……) 弾は、ジュデッカにからかわれていたことに全く気付いていない。 「知らないということは無いだろう」 ダリルが言う。 「『書』は、一度探知魔法に掛かった。 そして現在封印を強化して、探知魔法に掛からなくしている。 警備が強化された、と、判断されて然るべきだ」 「……そっか」 「確かに、兵士装の者が紛れていることで、不意をつけるかもしれないとは思うが」 「う、うん。そうかなっ」 「いい方法だと思います。僕も兵士に変装しておこう」 周防 春太(すおう・はるた)が、弾の提案に乗る。 「でも、向こうの探知能力って、意外と低かったですよね?」 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がそう言って、ルカルカは首を傾げてダリルを見た。 「低い? でも、シャンバラからルーナサズの『書』の在処が解っちゃってるんだもん、低くないよね?」 「ザンスカールの時は、アニスが使っていた探知だろう。 今回はイデアが使っているもの。多分、種類が違う。……精度も」 ダリルの回答に、ルカルカはふむふむと頷く。 ▽ ▽ 平和そうな街。幸せそうな夫婦。幸せそうな生活。 フラリフラリと立ち寄った街で、ツェアライセンはもう、興奮を抑えられなくなっていた。 嬉しくて嬉しくて溜まらない。 今から、それを滅茶苦茶にしてあげられると思うと、考えただけで震える。 けれどこの興奮を我慢して我慢して我慢した後に解放すると、もっと気持ちいいのを知っているので、限界まで我慢する。 頂点に達した時、目の前にいた人物は―― 「嗚呼アアああぁぁ!? もう、が、我慢なんてできないよぉぉぉ!! 気ンもち イイィィィィィ!?!?!?」 脳裏が真っ白になるような快感の後で、ツェアライセンは、足元に転がるネックレスに気が付いた。 「あははは、きれいねぇ。 お姉さんの肉にはぁ、かなわないけどぉ。 でももう、コレ必要ないよねぇ。だってぇ、もう首が繋がってないもん! あたしが、もらってあ・げ・る♪」 ツェアライセンは、肉塊の中からネックレスを拾い上げ、首にかけようとしたが、指のブレードがネックレスを切ってしまう。 「あれぇ、切れちゃったぁ。だめじゃん!」 笑いながら、ツェアライセンはその家を後にする。 近くにいた住民が、その有様に驚いて騒然となった。 ツェアライセンは嬉しそうに笑い、叫んだ。 「いいよぉ。来て来てぇ! ううん、イッちゃう!」 △ △ 「選帝神殿が、『書』の偽物を用意してくれましたので、今回、僕はこれを持ちます」 博季・アシュリングが、『書』の偽物を皆に見せた。 今回は、質より量の前回ではなく、精巧に出来た偽物の書が用意された。 「それは、複数ありますか?」 「あります」 博季は、和輝にまた別の『書』を渡す。和輝は、その厚みを確かめた。 「ジュデッカの書と殆ど変わらないね。色が違うくらい」 ルカルカが言って、ダリル達も頷く。 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、じっとその書を見つめ、ジュデッカのことを思い出した。 「……作られたモンでも心は心、それを一方的に踏みにじったヤツを許しはしねぇ。 ジュデッカ……あんたの仇はとってやる」 ▽ ▽ 何故、彼は自分を捨てたのか。 はっきりと思い出せない、その記憶。 けれど、捨てられる前、彼と共にあるその記憶の中で、断片的な彼の言葉を憶えている。 「俺を殺せる奴がいるとすれば、それはお前だけだ。 だからもし俺が…………したらその時は……お前が――」 ああ、何故はっきりと思い出せないのか。 けれどその言葉に対して、自分は誓ったのだ。 その時は、自分がそれを成す、と。 △ △ 教会の出身者でもあるフランチェスカ・ラグーザは 「いっそ『書』を焚書してしまいたいところですが」 と、言った。 「それは、不可能でしょう」 話を聞いていたイルヴリーヒが、苦笑して口を開く。 彼等の会話には口出ししないようにしていたようだが、おっと、と肩を竦めた。 フランチェスカはイルヴリーヒを振り返る。 「冗談ですわよ。いえ本気ですが、我慢ですわ」 「あれは通常の火では燃えません」 「そうですの?」 「書の形をしていますが、あれは魔力の結晶です。石の塊にろうそくの火を近づけるようなものです」 芦原郁乃は、ふむふむと皆の話を聞いているリンネの顔を見つめた。 (今度こそ、今度こそリンネを助けて、『書』を護って、奪われた『書』も取り戻すんだ……。 そうしなければ、何の為に思い出したのか、思い出そうとしているのか解らない。 何でリンネを護ろうとしているのか、リンネの為に力を貸そうとしているのか解らないじゃない!) 郁乃は、鈴の付いた組み紐を握って誓った。 わたしはわたしの全力を以って、リンネを助ける。 わたしはわたしの誓いを、約束を守ると。 リン、と鈴が音を立てて、リンネが郁乃を振り向いた。 「今、呼んだ?」 「え、ううん」 「そっか。今度こそ、二人で大活躍しようねっ」 郁乃が答えるよりも先に、鈴が揺れて、リンと鳴った。 「あは。やっぱり呼んだでしょ」 郁乃は鈴を見る。何だか勇気が沸いてきた。体に力が漲ってくる。 絶対に、リンネを護ろう。 「わたしの力はその為に使うんだ!」 |
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