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機械達の逃避行

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機械達の逃避行

リアクション

 白雪を抑えつけたままの樹月刀真を、漆髪月夜が見遣る。
「刀真……はたから見ると、刀真が女の子を襲っているよう見えるよ」
「白雪様、拘束させていただきます!」
 小尾田真奈が白雪を背中から押し倒した。そのまま、六連ミサイルポッドを引き剥がしにかかる。
「こんな物騒なもの、つけているから悪いんだ」
 パワードアームにより、強引に火炎放射機を引き剥がすエヴァルト・マルトリッツ。
 これで、白雪の武装は全てなくなった。
「暴れないでね」
 漆髪月夜が白雪を拘束する。
「変な電波にやられたのかもなー。真奈」
「はい、ご主人様」
 小尾田真奈が【雷術】と【情報撹乱】を組み合わせ、妨害電波を作り出す。白雪を正気に戻そうと試みる。
 しかし白雪は拘束されてもなお、暴れてバッサイーンを睨んでいた。
「白雪……」
 追いついた起木保が、荒い息を吐きながら肩を落とす。
「とりあえず、無事でよかった……」
「しかし……やはり、止めるだけでは駄目なようだな」
「原因を、どうにかしないとな」
 エヴァルト・マルトリッツと七枷陣が頷く。白雪と対峙していたメンバーは、先を行くバッサイーンに目を向けた。

「もう少し左に寄ってください」
 地上からの夜住彩蓮の指示に従い、姫神司とグレッグ・マーセラスが箒に乗って誘導し続ける。
「あっちの方は止まったみたいっスね……」
 覗きこむように白雪の方を見て、アレックス・キャッツアイが呟いた。
「そのようですね……」
 ヴィゼント・ショートホーンもアフロヘアーを揺らして頷き、トミーガンをしまった。
「……今度は師匠達を止める番っスか」
「…………」
 ため息をつくアレックス・キャッツアイに、返す言葉を失うヴィゼント・ショートホーン。
「お嬢……本当に、無茶はしないでください……」
 祈るように言う。
 脇目も振らず走り続けるバッサイーンを、リカイン・フェルマータと空京稲荷狐樹廊が追い続けている。
「このバッサイーンってロボット、攻撃はしてこないみたいね。狐樹廊、無理にとめる必要はないかも――って、聞いてないわね」
 リカイン・フェルマータは、深く息をつく。空京稲荷狐樹廊は変わらず瞳に闇を宿し、怒りに顔を火照らせて扇を構えている。
「どうしても止まらぬというのなら、止めるまでです」
 空京稲荷狐樹廊は、扇を振る。その中に隠されていた、さざれ石の短刀が、バッサイーンのノコギリへ一直線に向かう。
 金属と金属が触れ合う、高い音と共に、バッサイーンが手に持ったノコギリが石化した。
 途端に、重くなったノコギリでバランスを崩したバッサイーンが転倒。
「あ、今がチャンスね!」
 リカイン・フェルマータが弾丸のように飛び出し、バッサイーンに向かっていく。
「一矢報いることができたようですね。参りますか」
 空京稲荷狐樹廊もそれに続く。
「……行っちゃったっスね」
「……仕方ないですね」
 深く息をついた二人が、再びバイクに乗りこみ、後を追う。
「二人共、落ち着くっス!」
「お嬢、待ってください」
 転倒したバッサイーンは、ジタバタしてなんとか態勢を立て直す……。
「よし、今なら止められるはずだ! 【リヒテン・マルゼーク】、出番だぜ!」
 びしっとバッサイーンを指差すヴァル・ゴライオン。
「適材適所っスね! さすが、ていおうっス!」
 感激の声を上げるシグノー イグゼーベン。
「いよいよ、自分の出番ですな」
 銀の髪を撫でつけ、枯木を掲げるマーゼン・クロッシュナー。そのままバッサイーンに近付き、注意を引く。
 バッサイーンの黒い眼……カメラが枯木を分析。切るべき対象としてノコギリを持ち上げようとし、下ろす。
 石化したノコギリは、バッサイーンの体のバランスを、大きく崩させていた。
「……氷」
 アム・ブランドは【氷術】を放つ。
 放った氷は、バッサイーンの足元へ。小型ロボットは再び、転倒。 石化したノコギリが、氷を割る。
 すぐに起きあがったバッサイーンの足元に再び【氷術】を放つと、また転倒。
 そこへマーゼン・クロッシュナーが枯れ木を差し出し、氷へと導いていく。
「白雪も止まったみたいだし、こっちも頑張らないとね!」
 本能寺飛鳥が、黄色いツインテールの髪をぴょこんと揺らし、微笑む。
 他の【リヒテン・マルゼーク】のメンバーも近付いてきた。
「プログラム、完成したわ!」
「では、ファウストに渡しに行きましょう」
 マーゼン・クロッシュナーがバッサイーンを引きつけている事を確認し、ゴットリープ・フリンガーとレナ・ブランドが走る。
 待機していたケーニッヒ・ファウストにメモリーカードが渡される。
「任せました」
「了解っ! 行くぞ」
「おう!」
 ケーニッヒ・ファウストとアンゲロ・ザルーガが、おびき寄せられるバッサイーンを見遣る。
 目標は、バッサイーンの背中の蓋の中の、外部入力スロット。そこに受け取ったメモリーカードを挿入することだ。
 任務達成のため、じっと身をひそめる二人。
 ほどなくして、マーゼン・クロッシュナーがバッサイーンを引き連れてきた。
「自分の出番は、ここまでですな」
「あとは任せろ!」
 得意げに微笑むアンゲロ・ザルーガと共に、ケーニッヒ・ファウストが飛び出した。
 小さなロボットに躍りかかり、二人がかりで倒し、組み敷く。
 二人の下でバッサイーンが暴れるが、腕をノコギリごと押さえられて何もできていない。
「あとはこれを……」
 アンゲロ・ザルーガに押さえつけることを任せ、ケーニッヒ・ファウストは、バッサイーンの背中を開く。
 小さな蓋の先に、メモリーカードを入れるべき穴があった。
「挿入っ!」
 濃紫色のメモリーカードが、バッサイーンの背中に刺さった。
 ピーガガガガ
 と、機械らしい音を発したバッサイーンが、一切の行動を停止した。
「任務完了!」 
 叫んだ【リヒテン・マルゼーク】のメンバーは、お互いの顔を見て力強く頷き、微笑み合った。
「いまだわ!」
「やった、バッサイーンとまった!」
 バッサイーンに向かい、一直線に走っていた柳尾みわと彼方蒼が走る速度を上げる。
 バッサイーンに飛び掛ろうとした目前、黄色い物体が二人の足を捉えた。
「みゃっ!」
「わぅ!」
 小さな二人が、転倒。【バナナの皮】が仕掛けていたバナナの皮が、小さな二人を転ばせたのだ。
 二人の瞳が、揺らぐ。
「お嬢、蒼坊! ――え」
 それを見つけた蚕養縹が二人を回収しようと近付き――。
「みーちゃん! やっと追い付いた――あれ?」
「蒼! 勝手な行動しないで――わ」
 東條カガチも、椎名真も駆け寄り――。
 ズルっ
 と、バナナの皮で、転倒した。
「なんでこ〜なったんだろねぇ〜?」
 作戦を提案した当の本人、ルイーゼ・ホッパーは他人事のように、しかし楽しそうに笑った。
「ターゲット、カツドウテイシ、カクニン」
 同時に、押さえつけられて尚、暴れていた白雪は、煙を上げたまま動きを停止した。
「やっぱり、バッサイーンが原因だったのか……」
 緋桜ケイは、納得したように頷いた。
「俺の眼に狂いはなかったな! 帝・王・アァァァァァイ!」
 ヴァル・ゴライオンが、得意げに叫んだ。