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機械達の逃避行

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機械達の逃避行

リアクション

 ミサイルが、大地を穿つ。火炎放射機が、路傍の草花を焼く。
 その惨状を前に、怒りの声が上がった。
「理子様のおわすシャンバラでの狼藉、許さんっ!」
 高根沢理子の親衛隊隊員であるアシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)が吠えた。
 バッサイーンの後に続く白雪に、厳しい視線を向ける。綾刀を振り上げ、瞳を閉じて集中力を高める。
「その報いを受けるのじゃ!」
 銀の瞳を細め【爆炎波】を用いて白雪を止めようと刃に炎を宿す。
 アシュレイ・ビジョルドの気合いのこもった一撃。しかし炎の波は白雪に届かない。
「くっ……まだじゃ。まだ次がある!」
 拳を固くして再び刃を振り上げた。【爆炎波】を再度放つため、構える。
「良い炎が上がってるなー!」
 花火でも見ているかのような気楽さで、白雪とアシュレイ・ビジョルドの炎を見遣るウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
「俺も負けられないぜ!」
 悪戯っぽく笑うと、集中。呪文を唱え、手を掲げる。
「行けっ、ファイアストームっ!」
 白雪を指差し、魔法を放つ。現れた炎は指の示す方向に向かっていくが、白雪が大きく右にそれて不発。
「ざーんねん……次は当てにいくぜ!」
 歌でも歌いだしそうな勢いで微笑み、新たな炎を作り出す。
「二度目の正直、ファイアストーム!」
 再び繰り出した炎は、気合いのこもった分広がりも大きい。
 白雪を狙った攻撃は、周囲の木や花を焼いていく……しかし、目標には、あと一歩で届かない。
「仏の顔も三度まで、俺の限度も三度までだあぁ!」
 苛々しつつも、意地になって再びファイアストームが放たれる。炎は、勢いよく白雪を追う……。
 シャンシャンと鈴を鳴らしながら、夏の空をサンタのトナカイが走る。
トナカイに積み込んであるのは、買い物袋と機関銃。
「せっかくの買い物を邪魔されたのですから、足止めくらいはしないと」
駆け回る機械達を視界にとらえ、手綱を引く乃木坂 みと(のぎさか・みと)。地面を駆けていたトナカイが、ふわりと浮かび上がる。
彼女の背後で、相沢 洋(あいざわ・ひろし)が腕を組んだ。
「みと、標的を見失うなよ! なお、市街地につき魔力限定使用許可! 範囲攻撃は周囲への被害が大きいと判断! 出撃するぞ」
「はい、洋さま。もっとも、向こうの反撃が厳しそうですから回避行動に専念します」
 快諾した乃木坂みとが頷く。途端にミサイルが向かってきた。
「緊急回避だ!」
「はい、洋さま、お掴まりください!」
 サンタのトナカイごと右に傾き、移動。避けたすぐ左を、ミサイルが抜けていく。
 ミサイルの出発点を追い、相沢洋が視線を走らせた。大地を駆ける機晶姫の姿が、青い瞳に映る。
「みと! 標的を確認した! これより攻撃を開始する!」
 機関銃を構え、連射。轟く銃声。
 白雪の足元を狙った攻撃はしかし、彼女を足止めするには至らない。
「魔力使用許可! 目標に対し、氷術だ! 可能な限り足を狙い、これ以上の逃走を阻止せよ!」
 銃弾を放ちながらの指示。乃木坂みとが頷く。
「氷術、狙っていきます! 洋さま、トナカイの操縦をお願いします」
 手綱を渡した乃木坂みとが、魔力を収束。集中力を高め、暴走する白雪の足元一点に、【氷術】を放つ。
 しかし、凍ったのは白雪の足ではなく、地面だった。
「同時に攻撃して追いこむ! 頼むぞ、みと!」
「はい、洋さま」
 二人が攻撃しようと集中。白雪をまっすぐ見遣る……。

 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、固く拳を作った。
 空京を気持ちよく散歩していたのに、轟音と人々の叫び声に、意が削がれてしまったのだ。
「暴れるなら、他所でやってくれますか……?」
 冷たい声が、ミサイルの音にかき消される。
 広場に向かっていく二機の姿が遠く見える。
「容赦しませんよ」
 音のする方向へ、駆け出す。強化光状兵器を掲げる。
 と、少し先から炎が繰り出されるところが目に入った。
「おや、あちらの方々も、攻撃をしているようですね。行ってみますか」
 ウィルネスト・アーカイヴス達の攻撃をみとめて近寄る。
「協力させてください。どうしても、あの機晶姫に報いを受けさせなければなりません」
 緋桜遙遠の提案に、ウィルネスト・アーカイヴスも頷いた。
「いいぜ」
「わいも手伝おう」
 アシュレイ・ビジョルドも加わり、三人が機械二体を見遣る。

「白雪様! 周りの方に迷惑をかけるような暴走はやめて欲しいのであります!」
 力いっぱい叫ぶのは、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)。しかし、暴走を続ける白雪には届かない。
 ぶんぶんと首を振って、彼女は悲しげに眼を細めた。
「お友達のそんな姿を見るの……スカサハは悲しいであります! 止まらないのなら……スカサハが止めるであります!」
 勢いよく駆け出すスカサハ・オイフェウスの背後に続く鬼崎 朔(きざき・さく)は深く息をつく。
「スカサハ……無茶はしないようにな」
 そんな彼女の忠告をかき消すように、ミサイルが連続で放たれる。
 地面や木々に着弾する直前で、スカサハ・オイフェウスが六連ミサイルポッドを使用。ミサイル同士が相殺し、空中で弾ける。
「白雪様、止まって欲しいであります!」
 言いながらメモリプロジェクターを起動。白雪の目前に映像を展開し、錯乱させるためだ。
 同時に鬼崎朔が【氷術】を、白雪の進路に使用。いくつもの氷の柱が、白雪の行動範囲をさらに狭めていく。
「今、行くであります!」
 白雪の勢いがやや治まったところで、加速ブースターを使用。スカサハ・オイフェウスが一気に距離を詰める。
 近付くことを拒むかのように、新たに放たれたミサイル。白雪を迎え撃とうとするメンバーが、空中で撃墜していく……。
 鬼崎朔もそれに続き、袋を取り出した。中身を取り出し、豆まきの要領で白雪へ向けて蒔く。
「……これで……」
 納得するように頷いた鬼崎朔。そのまま、パートナーのサポートを続けようと構える……。

「ここも……あれも、違うわ……」
 空京の景色を見渡して、ため息をつくドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)
 傍らを行く機晶姫、アンジェラ・エル・ディアブロ(あんじぇら・えるでぃあぶろ)は、黙ってその様子を見守っている……。
 そんな二人の耳にも、騒動の音が届いた。二人の眼に映る、暴走する機晶姫、白雪の姿と、それを追う多くの人々。
「……ルーツ探しはここまでにして、あの子の手助けをしましょ」
「わかったわ、マミー」
 二人は、白雪を追う者達のもとへ。
「……もう、邪魔しないで頂戴。そんなにしつこくされたら、私もあなたの邪魔してやりたくなっちゃう」
 言いながらドルチェ・ドローレが緋桜遙遠に向け【鬼眼】を使用。
 しかしそれを無視し、緋桜遙遠は平然と【ブリザード】を放つ。
 氷は白雪を固める一歩直前で、途切れる。
「……邪魔をするくらいなら早くあの破壊活動をどうにかしてくださいよ? 被害は増えますよ?」
 呆れた彼は正論を唱えるが、ドルチェ・ドローレは聞くそぶりも見せない。
「彼女の意思を尊重してあげなくちゃだめよ。自由にさせてあげて」
「訳が分かりませんね」
 大袈裟に緋桜遙遠が首を振る。彼の背後から、アンジェラ・エル・ディアブロが息をつく。
「……私達が何を考え、何を思うのか。人間に分かるはずない」
 言いつつ【ガードライン】をパートナーに展開。防御力を上げていく。
 ドルチェ・ドローレ達二人は、白雪に攻撃を続けるメンバーに近付いていく。
 説得を続けながら、攻撃を開始するスカサハ・オイフェウスの元へ――。
「……スカサハの邪魔は、させない」
 言った鬼崎朔は痺れ粉を二人にまく。手足の自由をなくしたドルチェ・ドローレがその場にとまる。
 更に放たれた【アルティマ・トゥーレ】により、痛めつけられたドルチェ・ドローレが身体を押さえた。
「っく、まだいくわよ!」
 負傷しつつも、彼女は攻撃を止める行為をやめようとはしない。
 攻撃をするものと、妨害する者、追う者、追われるもの……さらに人が増え、空京は大混戦となっていた。