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機械達の逃避行

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機械達の逃避行

リアクション

 混乱の中、涼しい顔で木の上に立つ物が一人。
 仮面を光らせ、爆風にマントをはためかせて下界の様子を眺め、不敵に笑う……クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の姿。
「機械のトラブルは、俺にお任せください!」
 叫びつつ、ひらりと飛び下りる。
「おばあちゃん直伝の必殺奥義でスクラップ……もとい、正気に戻して御覧に入れましょう!」
 大袈裟に両手を広げ、胸に手を当て仰々しく頭を下げて見せる。
 暴走する機晶姫は、クロセル・ラインツァートに迫っていた。
「行きますよッ、必殺奥義『斜め45度チョップ』!」
 言い放って【則天去私】と【ドラゴンアーツ】を発動。掌の側面から繰り出される会心の一撃――。
 ドオォオオオン
 轟音。白雪のミサイルと数名が放ったミサイルが空中で相殺。けたたましい音と爆風。その風に、マントが巻き込まれた。
「え、ちょっ……」
 チョップを白雪に食らわせることもなく、クロセル・ラインツァートは爆風に巻き込まれる。
「うわぁあああ!」
 さらに偶発的に起こった気流の荒れによって彼は巻き上げられ、空高く飛んで行く。
「そんなー!」
 その姿はまるで一番星が輝くように、煌めいて飛ばされていった。 

 小型飛空挺が空を舞う。
 上空から暴走する白雪を発見したレン・オズワルド(れん・おずわるど) は、風に乗って加速する。
 打ち出された数発のミサイルに、眉をひそめた。
「これ以上、街を破壊されるわけにはいかない」
 言って【シャープシューター】と【クロスファイア】を併用発動。ごく限られた範囲で、炎が炸裂。
 飛び出したミサイルを、次々に空中で爆発させる。
 ドオォオオオオオン
 爆音と共に爆風が吹き荒れる。
 その中を裂くように、レン・オズワルドの乗った小型飛空挺が、白雪を目指して飛んで行く……。
 そんな飛空挺の脇を飛ぶ、もう一つの小型飛空挺。
 やはり、白雪を追っている。
 運転するのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)。後部座席に乗るのは、樹月 刀真(きづき・とうま)
 ブラックコートを身にまといつつ、白雪を観察する。
「このまま不意打ちで壊しちゃうのが一番楽な気がする……いたっ」
 不穏な物言いを、漆髪月夜が拳で止める。
「刀真、それは駄目」
「わかってますよ?」
「その言い方は、分かっていない気がする……」
 再び拳を振り上げようとするパートナーに、勢い良く首を振る。
「そ、そんなことは……あ、ほら白雪を見失うから、運転に集中、集中!」
 ごまかすように言う彼に、首をかしげつつも、漆髪月夜は言われたとおりに運転に専念する。
「真上に位置付けてください」
 ミサイルの海の源へと、二人が進む――。

 大きな買い物袋や紙袋を前に、女三人と男一人が対峙していた。
【バナナの皮】のメンバーのミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)、そして春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)の四名。
ルイーゼ・ホッパーが、瞳をキラキラ輝かせて、悪戯っぽく笑った。
「もちろん、持ってくれるよね? 男の子だしねぇ?」
「……わかった、持つぜ」
 ロレッタ・グラフトンのやや不安げな瞳をちらりと見てから、春夏秋冬真都里が荷物を見て、一番重そうなものを選んで手にした。
「まさか、それだけしか持たないなんて言わないよねぇ〜?」
 そう言ったルイーゼ・ホッパーは、荷物の全ての持ち手をまとめ、春夏秋冬 真都里に差し出した。黒豹の獣人が浮かべる笑みに、反論の余地はない。
「う……も、もちろんだぜ」
 ロレッタ・グラフトンの様子を横目でちらりと見ながら、頷く。
「ルイーゼ、やりすぎだよ……真都里くんも、無理なら無理って言っていいよ?」
 ミレイユ・グリシャムが、小首を傾げて春夏秋冬真都里に問いかける。しかし彼は、しっかりと荷物を持ち上げた。
 そして、よたよたとおぼつかない足取りで、踏み出す。
 それは荷物を持っているというよりも、荷物に引かれる形で進んでいるのに近い。
「やっぱり荷物、半分持とうか?」
 ミレイユ・グリシャムが一歩進み出て、春夏秋冬真都里の前に立つ。彼女の背後から、ロレッタ・グラフトンも彼を見ている。
「無理すると危ないんだぞ」
「いや、俺は――」
「誰か、白雪とバッサイーンを止めてくれ!」
 街の外れの方から、声。四人が覗き込むと、暴走する白雪と、バッサイーン、そしてそれを追う人々と、遅れてくる起木保達の姿が見えた。
「わ、と、止めないと〜!」
 急いで飛び出そうとするミレイユ・グリシャムの肩を、ロレッタ・グラフトンが掴む。
「ただ行ってもしょうがないぞ。どう止めるか、作戦を考えるぞ」
 少女の冷静な判断に、ミレイユ・グリシャムは、こくりと頷いた。
「そうだね」
 微笑んで頷き、駆け出しかけた足を止める。
「どう止めるか、を考えるんだよね。うーん、捕まえるのに役に立ちそうなものは持ってないな……」
「俺も持ってないぜ」
「せめて使えそうなものは……買ったものは食材や小物ばかりだぞ」
 ため息をつく三人とは対照的に、ルイーゼ・ホッパーがにっこり笑う。
「その買い物袋の中にあるバナナの皮を全部剥いてさ、それを通り道にばら撒いて動きを止めればいいんじゃな〜い?」
「そうだね、やってみようか」
「……そう上手くいくのか?」
 ルイーゼ・ホッパーの提案に、ミレイユ・グリシャムは頷き、ロレッタ・グラフトンは首を傾げる。
 春夏秋冬真都里は曖昧に頷いてみせるだけ。そんな彼に、ルイーゼ・ホッパーの視線が向けられる。
「真都里く〜ん、手伝ってくれる〜? くれるよね? はい決定ぃ〜♪」
 誰の了承も得ぬまま、ルイーゼ・ホッパーは買い物袋からバナナを取り出し、彼に渡した。
「ってことで、置いてきてね♪」
 朗らかに笑う彼女に、返す言葉を失い、がっくりと肩を落としつつ春夏秋冬真都里が、バナナの皮を仕掛けていく。ミレイユ・グリシャムは軽経杖を構え、パートナー達と共に見守る。
「これ……本当に効果あるのか……?」
 首を傾げていると、彼の身体が傾いだ。
「……あれ? うわ……」
 そのまま、ずでん、と地面に倒れる。仕掛けた罠に、自分が引っ掛かってしまったのだ。
「まったく、見てられないんだぞ」
 たたっ、とロレッタ・グラフトンが駆け出し、春夏秋冬真都里の元へ。
「大丈夫か?」
 少女が手を差し出す。バナナの皮で滑って転んだ春夏秋冬真都里は、火が出そうなほど顔を赤く染め上げながら、こくりと頷く。
 彼が立ち上がると、ロレッタ・グラフトンは得意げに胸を張った。
「ここは危険だぞ。早く戻るんだぞ」
 そう言った少女が、春夏秋冬真都里の手を引く。やや上を向き、歩き出した彼女の足元には、バナナの皮。
「わ――」
「危ない! うわ――」
 転びそうになるロレッタ・グラフトンを助けようと、春夏秋冬真都里が庇おうとする。しかし、上手くいかずそのままもつれ合うように、倒れた。
 二人が眼を開ける。ロレッタ・グラフトンの背に手を回したまま春夏秋冬真都里が倒れたため、二人は至近距離で互いの顔を見上げ、見下ろす形になる。
 眼と眼が合い、今にも唇が触れあいそうな距離。
「わ、あのそのえっと……ごめん!」
「い、いや……」
 顔を赤くした二人がわたわたしている間に、爆音が近付く。
「二人共、危ない!」
 ミレイユ・グリシャムの声に即座に反応した春夏秋冬真都里が【氷術】を発動。ロレッタ・グラフトンを護るように氷の壁を作る。
「俺が護るんだぜ!」
 凛々しく言い放った春夏秋冬真都里に、ロレッタ・グラフトンは頬を更に赤く染めた。

「止まってくださいですぅ」 
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)が、遅れて白雪を追いかける。
 そして【驚きの歌】を発動。歌ってみるが、白雪が驚く様子も、止まる様子も微塵もない。
「はうぅぅぅ……失敗しましたですぅ……」
 深く息をついて、肩を落とす。
 しかし何かに気付いたようにぴくっと肩を震わせ、白雪を見遣った。
「今度は、上手く行くかもしれませんですぅ」
 にっこり笑って、【トラッパー】発動。先回りし、落とし穴を作り始めた。
「物は試しと言いますですぅ」
 そのまま、穴をいくつも作っていく。