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リアクション
●準備、そして開演!
何より大事なのは、入念な準備である。
イベントというものを成功させるには、出し物の質もそうだがそれを支える土台となる、会場の設営というものがやはり大事だと中原一徒(なかはら・かずと)は考えた。
問題はその考えに行き着いた経緯なのだが、子供の相手が苦手、自分には特に見せれるような芸もない。そういった理由から一徒は裏方の仕事を率先して手伝ってくれている。
「兄ちゃん、こっちのも運んどいてくれないか!」
教導団の設営スタッフの一人から荷運びの指示を一徒は受けた。
「ああ、どこに持っていけばいい?」
指示を受けたのは、教導団が用意した小麦粉の袋である。
ヒーローショーやライブの途中にお腹をすかせた子供が出るかもしれないと、危惧した運営スタッフが有志を募ってお菓子を作るということになったものだ。
「あそこの、調理器具一式がおいてあるところがあるだろう? そこから外に出れるから、他のやつらと協力して外まで運んでもらえないだろうか?」
「わかった、俺にまかせておけ!」
教導団が用意した子供たち歓待用のお菓子に使う小麦粉、ざっと見積もっても千人以上分はある。それを一徒は胸を張って運んでいくのだった。
○
準備が終わって、子供たちを迎え入れる時間。
子供たちの集団の中に、赤嶺霜月(あかみね・そうげつ)と霜月のパートナーであるアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)はいた。
霜月の身近にいる子供たちを楽しませたい。そんな一心で霜月は教導団のこの歓待に来ていた。もちろん子供たちに危害が及ばないように、と周囲に気を配っている。
そんなことを知ってか知らずかアレクサンダーは落ち着きなくあたりをきょろきょろと見回していた。
「ヒーローショー楽しみ! どういうのが見れるのかなぁ?」
どうやら、ヒーローショーがとても楽しみのようだ。
「どうだろう。ちょっとわからないなぁ」
前情報をほとんど仕入れず、教導団で子供たちを招いてのイベントがあるという知識しか仕入れてきていないのだ、霜月ですら何があるのか把握していなかった。
「そっかぁ、楽しみだね!」
先ほどから、アレクサンダーは楽しみという言葉を連呼している、瞳もらんらんと輝いていて、待てと指示されてお預けを食らっているワンコのようになっていた。
「ただいまより開場いたします、ご来場の皆様方、前の人を押さないようにご入場ください」
アナウンスが響き、会場の扉が開かれた。
ドドドと、地鳴りのような足音が響き、扉の外で待機していた子供たちにアナウンスの注意は無意味であった。
今か今かと待ち構えていた子供たちはスタートダッシュの要領で会場内へと雪崩込んでいく。霜月たちもそれに負けずについていく。
「うわーん!」
霜月の後ろから男の子の泣き声が聞こえてきた。
どうやら、入場戦争で転んでしまった子が膝をすりむいて痛みで泣いているようだった。
「大丈夫?」
会場に入ろうとしていたアレクサンダーが敏感に気付き、転んでしまった子に声をかけた。
年のころはアレクサンダーとそう変わらないように見える。
子供を立たせて、アレクサンダーはその子のすりむいている膝に手を当ててヒールを唱えた。
「もう痛くないよね!」
無邪気に微笑むアレクサンダーに、泣いていた男の子も泣き止み一つうなずいた。
「一緒にヒーローショー見ようよ!」
「う、うん」
ぐずっと鼻をすすりながら、泣いていた男の子はアレクサンダーに手を引かれて入っていく。
その様子をずっと見守っていた霜月は、ほんわかと暖かい気持ちになった。そして、アレクサンダーに遅れないようにと、後を追って会場へと入っていった。
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