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ヒーローショーでまったりしっぽり?

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●おなかはすきませんか?
 そう、そこは戦場だった。
 お菓子を求める子供たちでごった返す戦場である。
 そんな中、ダガー・コットワール(だがー・こっとわーる)とそのパートナーノア・アイギアス(のあ・あいぎあす)は奔走していた。いつもはノアがダガーを茶化してというようなノリなのだが、今日ばかりは茶化している余裕もあまりないようだ。
 調理場に殺到する子供をテーブルに座らせ、ノアがサイコキネシスでメインであるパンケーキを浮かべる。それに子供たちが気を取られている間に、ダガーが食器を並べる。そうして、並べられた食器の上にノアがパンケーキを乗せる。最後にダガーがグラスにフルーツジュースを注いで、テーブルセッティングが一つ終わる。
「まさか、ここまで大変だとは思いませんでしたね」
「子供とは言え、千人でござますからね。子供の相手のほうが辛い場合もあります」
 ダガーは額に浮かぶ汗を拭い、ノアはそんなダガーをねぎらっている。
「さて、ダガー様、次はあちらのテーブルで子供たちがお待ちしているようです。行きましょうか」
 先ほどの空中浮遊パンケーキを見ていた子供たちが、早く早くと体中で表現して待っている。
「分かりました、行きましょうかノア」
 そうして、ダガーとノアは子供たちへの配膳へと向かうのだった。
 ダガーとノアたちの行動を見て何か動かされるものでもあったのだろうか、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が整列の手伝いを始めた。
 口々に「おねーちゃんおかしちょーだい」といっている子供たちに対して、
「お菓子はちっちゃい子からね〜。おっきい子はお兄さんだったりとか、お姉さんだったりとかで我慢できるよね〜?」
 そう言って、前に出てきてる年長組みをまずは下がらせる。
「テーブルで良い子にしてたら、何もしなくてもお菓子が並ぶよ〜」
 お行儀よく、テーブルに着いていたら、パフォーマンスも見られるということも餌にして、とにかく配布場所に集まっている子供を散らそうという魂胆だ。
 そんな様子を見ていた、源鉄心(みなもと・てっしん)はウィノナの手伝いをしようと子供たちの整列に協力することにした。
 彼は今日使う調理関係の交渉ごとを一手に引き受けていた。ミスドの小麦粉も使わせてもらおうと交渉をしてみたが、千人分は厳しいとのことだった。その話を聞いた、レオンが教導団側で、最高級の小麦粉を用意するなどのドラマが会ったわけだが、それはまた別の話である。
 鉄心はティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に振り返る。
「ティー、イコナ、迷惑をかけないように頑張れよ」
 そう言うと、用意したフルーツの一部をジャムにした瓶を手に持ち、テーブルで待っている子供たちのところへと向かった。
「頑張りましょう!」
「あ、当たり前よ。わたくしに何を言ってるのですか」
 ティーの言葉に、イコナが生意気な応対で返す。イコナが生意気なのは今に始まったことではないのでティーは微笑むだけでスルー。
 変身と称して、コートを脱ぎエプロンを身に着けるくらいなことをしているのだから、イコナが本気で取り組んでいることは近くにいるものとして簡単に分かることだ。
「お、やってるですねー」
 そんな間に乱入してきたのは、広瀬ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)だ。
「上手上手!」
 ココアパウダーが混ぜられたパンケーキを綺麗な色合いで、ひっくり返しているイコナに向かって褒める。
「ふ、ふん! あ、当たり前ですわ」
 内心では焦がしてしまったのではないのかとドキドキものだったが、ファイリアがそう褒めるとイコナは頬をほんのりと染め上げながらそう答えた。
「ファイも頑張りますですー!」
 ドライフルーツが混ぜられた生地と、何も入っていないプレーンな生地の二つを用意して熱せられたフライパンの中にまず、プレーン生地を少量落として薄く広げると、次は一枚分より少し足らないくらいのミックス生地を流す。
 ぷつぷつと生地に穴が開くくらいまでに弱火で焼き上げると、一度生地をフライ返しで持ち上げそこにまた、プレーン生地を少量フライパンの上に広げる。最後に元の生地をひっくり返してじっくりと焼き上げる。
「これで完成ですよー!」
 少し大きめサイズになってしまったが、ドライフルーツが入ってないように見せるフルーツパンケーキの完成だ。
 サイズがまばらになってしまうというのが、やはり手作りの醍醐味だろう。
 広瀬刹那(ひろせ・せつな)はファイリアの手つきをしっかりと見て学習している。
「おねーちゃん、お菓子ちょおだい?」
 そんな刹那に女の子が声をかけてくる。整列からもれたのか、もしくはずっとこの調理を見ていたのかは刹那には判断しかねた。
 しかし、周りを見渡してみても、特に混雑しているわけでもない。それに、出来上がったパンケーキを作ったスタッフが直接子供たちに手渡しているのを見ていると、自分もそうしていいのかという思いはじめた。
「お皿ある?」
「あるよ!」
「じゃあ、ちょっと待ってね、おねーちゃん下手だけどいい?」
 それは刹那にとっての自信の無さの表れだった。
「焼いてひっくり返すだけなら、子供でもできますわ。それなら一緒に作ればいいじゃないの」
 割って入ったのは、黙々とパンケーキを焼いていたイコナだった。
 余計な一言ではあるが、ただ作って配るより、こうやって子供たちと一緒に触れ合うというのも悪くないものである。
「じゃあ、一緒に作る?」
「うん!」
 女の子が大きくうなずいて、刹那と一緒にパンケーキを作る。
「はい、これをどうぞ」
 ティーがジャムと、カットフルーツを持ってくる。
「好きなように塗っていいからね。果物も付け合せにどうぞ」
 目線を合わせてにこっとティーが微笑むと、一緒に作っていた女の子も同じようににこっと微笑んでいる。
「おねーちゃんも一緒に食べよう?」
 出来上がったパンケーキの乗ったお皿を持って刹那に問いかける。
「うーん……」
「いってきていいですー」
 悩んでいる刹那に、ファイリアが答えた。
「大丈夫っスか?」
「大丈夫よ。でも戻ってきたら目一杯働いてもらいますわ」
 やはり、目を合わせずに黙々とパンケーキを焼いているイコナが、憎まれ口のように言った。
「じゃあ、行ってくるっス!」
 ぺこりと頭を下げて、刹那は女の子と一緒にテーブルへと向かって行った。
 そんな様子を鉄心とウィノナは見ていた。
 諍いごとが起こらなかったことに安堵する鉄心と、子供たちと触れ合うのは楽しそうだなぁと思っているウィノナ。
「子供たちも、だいぶ時間がたってちゃんと並んでくれるようになりましたし、キミも配膳の手伝いをしてもらっていいかな?」
 やはり、体格差というものは出てしまうもので、体の大きな子供たちが前に前に出てきて、体格の小さな子やは後ろのほうで取り残されている。
 そういう子に優先的にパンケーキが行き渡るようにテーブル席もあるのだ。
「うん、わかったよ〜。ボクとあなたで小さな子をテーブルに座らせて、配膳だね」
「後は、ダガーとノアの方の手伝いもだな。ああやってスキルを使い続けていたらいずれバテてしまうだろう」
 さっきから、ノアが調子よくサイコキネシスでパンケーキを運んでいるのだが、額に玉のような汗が浮かび始めていた。
 ダガーも同じようにノアに合わせているせいで、走り回る羽目になり肩で息をし始めている。
「では、俺はダガーのところに向かって、交代してくるとしよう。キミとダガーのペアでよろしくお願いするよ」
「まっかせてよ〜」
 そういって二人は別れた。
 鉄心がダガーの方へ向かい何事か話しているうちに、ダガーがウィノナの方へとやってくる。
「いやぁ、子供たちの相手も大変ですね」
「気負っていると、疲れちゃうよ〜。子供たちの期待は適当に流して、子供たちのレベルまで思考を落として考えるといいよ」
 そして、ウィノナは後ろのほうで取り残されている小さな子供たちのところへと向かう。
「それじゃあ、おねーちゃんがお菓子持ってくるから、そこのテーブルでいい子にしといてね〜。もし、どっか行こうとしたら悪い子だと思われて、ぐわー! って怪人さんに連れて行かれちゃうぞ〜!」
 おどけて、子供たちをわざと怖がらせる。そして、ウィノナは子供たちをテーブルに座らせた。
「一人じゃもてないから、運ぶの手伝ってほしいな〜」
 ウィノナがダガーにお願いをする。
「わかった」
 そうして、忙しいながらもパンケーキを作成組みのお昼時の時間は過ぎていく。