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リアクション
●準備時間
隣で、大規模なパンケーキ作成を見ながらもエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は同じような場所を間借りして、ポップコーン作成とジュースを配っていた。
やはり、好みは分かれるようで、パンケーキに行く子供と、ポップコーンに行く子供で分かれている。
ポップコーンが弾ける様子を見えるようにしていることが成功しているのか、エースの所には、ポップコーンマシーンを囲むように子供たちが集まっている。
「面白いですか?」
「面白いよ! なんかちっちゃいのがぽんぽんポップコーンになってるの見ると楽しいよ!」
エオリアの問いに、子供たちが答える。きらきらと目を輝かせて見入ってる所をみるとエースとエオリアの作戦は成功のようだ。
「そこのお嬢さん、ポップコーンはいかが?」
まるでホストのように、格好をつけて、エースはパンケーキをもらいにいくか、ポップコーンをもらいにいくか迷っている女の子に声をかけた。目線まであわせ、花を一輪プレゼント。
「じゃあ、ポップコーンにする!」
「何味がいいかな?」
「普通のー!」
「エオリア、塩味を一つだ」
女の子の注文に、エースが詳しくオーダーを通す。
「少し待ってくださいね」
エオリアがにこやかな笑みを浮かべて答える。
ぽんぽんぽんと、乾燥されたコーンが弾け、ふんわりとしたポップコーンになる。
できあがった、ポップコーンを容器に入れ、エオリアはエースへと渡す。
「さあ、召し上がれ、熱いから気をつけてな」
一輪の花を一緒に手渡した。
女の子が去って行った後、
「ボクにもポップコーンください!」
女の子に手を振っているエースに向かってアネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)が注文をつける。
「おっと、これは可愛らしいお嬢さん、何味がいいかな?」
「うーん、カレーとかってありゅ?」
「あるよ」
「じゃあ、カレーで!」
元気一杯に注文をだしたアネイリンは満足そうに武神牙竜(たけがみ・がりゅう)のほうへと振り向いた。
「ボクだって一人でできるんだぞ!」
胸を張って自慢をするアネイリンに苦笑を浮かべて応対する。
そんなところに、レオンが通りがかった。
「レオン、ちょうどよかった」
牙竜は通りがかったレオンを呼び止める。
「うん?」
「いや、今後の参考にと思って、今日のショーで気づいた部分をまとめてみたんだ」
「ふむ……」
レオンは顎に手を当て考える。
「見せてもらってもいいかな?」
「ああ。なんなら、俺が解説してもいい」
「そうか、それじゃあ、あっちのほうで少し話を聞かせてもらってもいいかな?」
レオンが静かになれそうな場所を示す。
「おー? どっかいく?」
ポップコーンを受け取っていた、アネイリンが牙竜とレオンを見上げて問いかけた。
「ああ。お前の意見も大切だからな、ポップコーン食いながらでいいから付き合ってくれ」
「わかっちゃ!」
アネイリンが大きく頷いた。
そして、牙竜とアネイリン、レオンの三人は静かに話ができるスタッフの休憩所まで向かうのだった。
○
子供たちもお菓子を食べ終わり満足して、施設内で遊びまわっているころ。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は施設内の見回りに従事していた。
彼女たちは、警備スタッフとして今回のイベントに参加している。
こういう大規模なイベントな時こそ、スリや痴漢なんかが多発するのだ。
正義感に満ち溢れているルカルカは、ギラギラと目を光らせて悪いことをしている人はいないかと見回っていた。
「ルカ、そうまで気合をいれなさんな。目当てのものの前に疲れちまうぜ」
「まぁ、そうね。でも、これも任務だからしっかりやらなきゃとは思うわ。でも勘違いしないで。これでもちゃんと楽しんでるよ!」
「ははっ、気負い過ぎない程度に頑張れよっと、早速仕事のようだ」
カルキノスが目前でないている男の子を見つけたようだった。
「ひぐ……うぐっ……」
立ち尽くして、男の子は泣きじゃくっている。
「よう、坊主、何泣いてんだ?」
カルキノスが気さくに話しかけるが、その竜の鱗に覆われたいかつい見た目のせいで男の子は言葉を失い腰を抜かして座り込んでしまった。
「わははは! こんな見た目だがなぁ、イイコにしてりゃあ、喰わねぇぜ?」
「ひぅ…………んと?」
しゃっくりにまぎれて言葉が途切れてしまったが、カルキノスには言いたいことが伝わったようだった。
「隣のねーちゃんに全部任せたら、すーぐ解決しちまうぜ」
「ちょ! カルキノス!」
カルキノスの無茶振りにルカルカはあわてる。
「わはははは!」
しかし、カルキノスが豪快に笑うと、男の子もおびえた様子は霧散したようだった。
「それで、君どうしたの? お母さんと離れちゃった?」
ルカルカが問いかけると、男の子は小さく頷いた。
「そっか、それで泣いてたのね……」
理由がわかったルカルカは男の子のあたまをよしよしとなでる。
「それじゃあ、探そうかね」
よいしょ、という掛け声でカルキノスが男の子を抱え上げ、肩に乗せた。
急なことに最初は驚いた男の子だったが、いつもと違う視線で物が見れることにはしゃぎ始めた。
そして、男の子の母親はすぐに見つかった。
「ママ!」
カルキノスの肩の上から男の子が大声を出した。
「お、見つかったか。それ、行ってこい」
肩から男の子を下ろすと、男の子は一目散に母親の元へとかけていった。
そして、ルカルカとカルキノスへと振り向くと、手を目一杯大きく振って、
「ありがとー!」
大声でそういうのだった。
「さてさて、そんじゃ、見回りを楽しみながら続けますかね」
「うん! 頑張ろう!」
カルキノスとルカルカは男の子に手を振って、見回りを再開する。
○
所変わって、子供たちがごろりと寝転がれるスペースがあるところの一箇所に子供たちが集まっていた。
中心にいるのは大岡永谷(おおおか・とと)、そしてその脇でやんちゃな子供のおもちゃにされている熊猫福(くまねこ・はっぴー)の二人だ。
永谷は手に絵本を持ち、子供たちに読み聞かせをしている。
地球では古典文学として名高い絵本だ。
子供たちが飽きないように、声の抑揚をつけ、笑えるところは楽しそうに、怖いところはおどろおどろしく、そして勇敢に戦うところでは勇ましく。声の調子を変えることによって、子供たちは固唾を飲んで話に聞き入っている。
「……めでたしめでたし」
ぱたんと本を閉じ一つの話が終わると、わっと子供たちの歓声があがる。
「ねぇねぇ、次はどんなお話を聞かせてくれるのー?」
永谷の服の裾をくいくいとひっぱりながら、女の子が聞いてきた。
「そうだな……それじゃあ、いじめられっこの女の子が、お姫様になる話でもしようか」
そして、永谷は用意しておいた絵本のストックから一冊を引っ張り出して、
「むかーしむかし……」
読み始めたのだった。
活発な子供はお任せ! と福は永谷に乗せられて子供たちの相手をしていたが、予想以上にハードだった。
やんちゃな子供たちはその一つ一つは軽いが、殴る蹴るなどをしてくるのだ。
「あた、いたたた!」
着ぐるみなのがやはり気になるのか、福のチャックを執拗に狙ってくる子供もいる。
「ちょっと! そこだけはだめよー!」
しかしそれも、しばらくすれば収まる。
お菓子を食べて、おなか一杯になった子供たちが好き勝手暴れたあとは、やはり電池切れのごとく寝入ってしまうくらししかないもので……。
「おや、寝ちゃったか」
「そうみたいね」
起きている子供もいるけれど、それ以上に眠っている子供のほうが多い。
「起きてる子には悪いけれど、毛布かけるの手伝ってもらっていいかな」
永谷がそう声をかける。それに対して子供たちはわかったなどと了承の意を伝える。
永谷と福が眠っている子供たちを寝かしなおし、起きている子供たちが毛布をかける。
そうして、ライブの準備時間は過ぎていくのだった。
○
レオンがヒーローショーのセットの片づけをしていると、ぼんやりと壇上を見上げている天海北斗(あまみ・ほくと)がいた。
「よっ、北斗じゃないか、お前も来てたのか?」
「レオンじゃないか! あ、当たり前だろ! オレがレオンの名前を見逃すわけが無いだろう!」
張り紙のレオンの名前数時間で張り替えられていたはずなのだが、北斗は目ざとくレオンの名前を見つけていたようだった。
「そうかそうか、それで俺のところへやってきたと」
「本当は、お前と一緒に舞台に立ちたかったんだけどな」
北斗のその言葉にあーっとレオンは言葉を濁した。
今日のヒーローショーの参加者は事前に打ち合わせをして、ショーの練習までしてきていたのだ。
レオン自信もその練習光景も見ており、本当は参加する予定ではあったけれども当日になってみればこのように裏方で走り回っている有様だった。
「どの道今回は俺が舞台に上がれなかったから、一緒に演じることはできなかったぜ?」
「そうなのか?」
「今日は主催側だからな、手配にこうやって裏方の仕事。そうだ、ちょっと舞台の片づけが遅れているから、北斗手伝ってくれないか?」
そのレオンの提案に北斗は目を輝かせて、
「やる! オレ、お前の為だったら何だってやるよ!」
「おう、じゃあお願いするぜ。さすがに一人でやってると辛いものがあるからな。手伝ってくれる人がいてくれるのはありがたいぜ」
レオンは北斗の肩をぽんと叩いた。
そして、二人は一緒に、ショーのセットの片づけをし、ライブの準備をするのだった。
その様子を影からちらちらと見ていた天海護(あまみ・まもる)はほっと胸をなでおろした。
今日のイベントで北斗はヒーローショーをやろうと思っていたが、先のニャンコショーの面子以外でヒーローショーを行う人員が足らずにどうするべきかと思っていたのだった。
しかし、こうやってレオンを北斗を見つけてくれて、奇しくも北斗がレオンと一緒に行動ができるだけでもありがたいとも思っていた。
護はその様子を遠くから眺めつつ、自分の作業に取り掛かるのだった。