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ヒーローショーでまったりしっぽり?

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ヒーローショーでまったりしっぽり?

リアクション


●It is show time!!
 準備も終わり、ヒーローショーのセットからライブのセットへと様変わり。壇上にはドラムセットが置いてあり、左右にアンプ。
 なぜか壇上の下には送風機がセットしてある。何かの演出で使うのだろうと予想されるが、こればかりはセットした人にしかわからないことだ。
 ヒーローショーとは違い、暗幕が下ろされ壇上が照らされている。
 脇から壇上へと出てくるのはシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だ。総スパンコールドレスに身を包み、静々と歩いている。
「今日は集まってくれてありがとう。シルヴェスターじゃあ」
 見た目とは裏腹に、広島弁に聞こえる言葉を扱うシルヴェスターだ。
「わしが、歌うんは、演歌じゃけぇのぉ。よぉく聞いとくれよ」
 そこまで言うと、シルヴェスターは舞台脇に合図を送る。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がその合図を受け取ると、哀愁漂うメロディが流れ出す。
 シルヴェスターはマイクを強く握る。
「キぃマぁクぅのー……」
 出だしからコブシの聞いた声で歌い始める。
 その出だしのよさに、ガートルードも小さく飛び跳ねて喜んでいる。
 シルヴェスターのステージは今日が久々であるため、失敗するかもという若干の不安があったが、いざステージに立ち歌い始めてみると、なんともなくいつもどおりのステージになっていた。
 一番を歌い終え、二番までの間奏中に、シルヴェスターは子供たちの様子を伺う。
 興味のある子供と無い子供の数は半々といった様子だ。小さな子は不思議なメロディラインを不思議そうに聞き入っているか、まったく集中していないかのどちらかである。
 逆に年が上になるにつれ、ノリノリで聞いている子と、歌い方を真似している子に分かれているようだった。
「三下ぁ役ぅのー、俺ぇだぁけどー。分かぁるー奴がー、いるぅはーずーさぁー」
 歌いきり、、メロディも止まると拍手が響いた。なんだかんだで、歌っている人を見るとふざけているように見えて、みんなが真剣に聞いているようで、シルヴェスターもガートルードも安心したのだった。



 シルヴェスターが舞台から降りると、入れ替わりに熾月瑛菜(しづき・えいな)が、真っ暗な壇上に照らし出されマイクを握っていた。
「さて、シルヴェスターが暖めてくれた舞台をありがたく使わせてもらうよ! あたしらパラ実軽音部のライブ、よろしくな!」
 いつでもどこでも、ノリを変えずに瑛菜が叫ぶ。
「まずはギターの紹介だぁ! 飛び入りで参加してくれたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)!」
 ギターの弦を弾く音がアンプから流れ、ローザマリアがスポットライトで照らし出される。
「今日はイベントということで瑛菜と一緒にライブをやりたいと思うの! よろしくね! 次はグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)!」
 ローザマリアが挨拶をすると、低音がきれいに響くベースの音が奏でられ、グロリアーナがスポットライトに照らし出された。
 そして、順番にキーボードの上杉菊(うえすぎ・きく)、ドラムのエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)と紹介が進んでいく。
「最後にぃ! 本日のニューフェイス! 屋良黎明華(やら・れめか)!」
「ひゃっはぁ〜! パラ実軽音部の黎明華だぁ! 瑛菜と一緒にボーカルだよろしくぅ、ひゃっはぁ〜!」
 瑛菜と肩を寄せ合い、黎明華は挨拶をした。
 二人は、パラ実生では珍しく規定の制服を着用しているのだ。そのせいで二人が壇上の真ん中に立つと見栄えがよい。
「それじゃあ、君たちの好きそうな音楽の中から数曲演奏させてもらうぜぇ!」
 瑛菜がノリノリで説明をする。
 これは打ち合わせで決めたことだった。
 相手は子供。下手に流行の曲を歌うよりかは、昔から連綿と続く熱く深いロボットアニメや特撮ヒーローの主題歌を歌うことに決めたのだった。
 果たしてそれは、正解だった。
 分かりやすいシャウトの曲、各楽器がソロで演奏できるパートを組み込み、楽しくそして子供たちも楽しませる。
 ノリノリに歌い、そして歌い終わる。
 肩で息をしているメンバー。
「まだ時間はあるが、他が控えておるのでな、わらわたちはここで退散だ」
 そうグロリアーナが言う。
「またこういう機会があったら繰るから、そのときもよろしくね!」
 言葉を引き継いで、エリシュカがそう言った。
「では、わたくしたちはここで引きますが、残りの時間もお楽しみくださいね」
 菊もそう言って、瑛菜を除く五人が壇上から降りていく。
 スタッフも聞き入っていたようで、退場していくときには拍手喝采で送られて行ったのだった。



 そして、入れ替わるように緋ノ神紅凛(ひのかみ・こうりん)赤城花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)があがってくる。
「さて、残り数曲だが、メンバーを入れ替えて行かせてもらうよ」
 瑛菜が簡単にメンバーの紹介をする。
「張り切って頑張るから、よろしくね♪」
 ベースを構えて花音が簡単に一言。
「僕も頑張りますのでよろしくお願いしますね」
 ドラムのセッティングをしながらリュートが花音に続いた。
「あたしも頑張るよ」
 マイクを握り紅凛も続いていく。
「よし、それじゃあいくよ!」
 瑛菜がギターの弦をかき鳴らして、先ほどまでの流れを引き継いでいく。
 また子供向けのアニメや特撮ヒーロー系統の主題歌を、よくも息ぴったりで演奏できるものだといわんばかりに演奏していく。
 ボーカルを花音、紅凛、瑛菜で回し、リュートがドラムを叩いて盛り上げる。
 そんなハーモニクスで、激しい曲、淑やかな曲、元気な曲とさまざまな種類の音楽を奏でていった。
 その様子を南鮪(みなみ・まぐろ)は舞台下から機会を窺って聴いていた。
「さぁて、そろそろだぜヒャッハァー!」
 舞台の熱は最高潮に盛り上がり、鮪が瑛菜のパンツを奪う準備まで整いだしている。
 流れている曲調はロックに近いテイストのものだ。
 激しい曲調はそれだけで演奏者の動きすら大きくするものである、と鮪は考えている。
 そして、この日のためだけに、根回しをし送風機が瑛菜のスカートを大きく巻き上げるように仕向けていたのだ。リハーサルまで見学し、当日瑛菜がどの位置に立ち、その位置からならどの角度で風を起こせば見栄え欲スカートを捲くれるのかまで計算までしていたのだ。
「ヒャッハー! つ、ついに瑛菜のパンツが俺の手に……!」
 そして、鮪が送風機のスイッチを入れようとしたとき――
 ギィンと不協和音が会場に走った。
 そして、演奏が一時的に中断されてしまう。
「おっと、ごめんね。あたしのギターが不調のようだ。代えのギターを用意するからちょっと待っておくれ」
 瑛菜が自分のギターを舞台袖に置くと、そのまま鮪の方へと向かってくる。
「鮪、あんたの考えていることは分かっているのよ」
「お、おお俺は何もしてないぜ!?」
「じゃあ、そのスイッチは何かな。」
 瑛菜は鮪からスイッチを奪うと電源を入れた。
 ぶおおおおぉぉぉぉぉ。
 壇上、先ほどまで瑛菜がいたところに強風が吹く。
「これで何をしようとしたのかな?」
 電源を切り、瑛菜は鮪に詰め寄った。
「おま、お前のパンツを……」
 鮪は正直に瑛菜に、 瑛菜のパンツを奪うためにすべて用意したと話した。
「まったく。危うくライブを台無しにされるところだったわ。あんた、あたしのギター役やりなさいよ!」
 人間ギターである。
「ひゃ、ヒャッハァー! しょうがねぇな、やってやろうじゃないか!」
 鮪の野望の一つ、瑛菜のパンツを奪うことはかなわなかったが、代わりに人間ギターになってやってもいいという思いは知れずに成就されていたのだった。
 瑛菜に引きつれらて、壇上へと登った鮪は早速瑛菜のギターの代わりとなった。



 イベントはライブの最後のほうが情操教育上どうだったのかはさておき、全体的に好評で幕を下ろした。
 片付けのさなかでも、いまだに施設に残っている子供たちがいた。
 その中心にいるテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)は子供たちに楽器を触らせていた。
 ライブが幕を下ろした後、放送機器を借りて興味のある子には楽器を触らせると伝えたところ少人数の子供たちが残ってテスラのところに集まっていたのだ。
「ギターは、左手でこっちの棒の方の弦を押さえて、右手のほうでこうジャンジャンって弾くんだ」
 子供にはずいぶんと大きいギターを持たせて、テスラは後ろから支えながら、ギターの音をさまざまに変えながら弾いているように聞かせる。
「まだ君たちには重いかもしれないけれど、慣れてきたらさっきみたいなこと、できるようになりますよ」
 サングラス越しにテスラは笑みを浮かべて、子供たちに楽器の取り扱いを教えていく。
 そして、片付けが終わり、子供たちの保護者が引き取りに来るまでテスラの優しい楽器教室は続くのであった。