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リアクション
第零章 28分前
「中々男前じゃぞ、クライス」
「そう言うセシリアも愛くるしいね」
そう言って、若い二人は笑顔を交わした。
好青年のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)と、幼女から少女へと羽化しつつあるセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)。
五年も経てば誰からも年齢差を気にされずに済むカップルの、微笑ましい光景に見えたかもしれない。
ただしそれも、彼らが洞窟の中で、しかも互いに、腐った死体の仮装をしていなければ、の話だ。
彼らは蒼空学園主導で開催された、肝試し大会の【仕掛け組第一斑】として、会場設営に汗を流していた。
「戯れるのはそのくらいにして、今は手を動かすのだクライス。予定よりも作業が遅滞している」
洞窟の薄暗がりを照らす懐中電灯の光を浴びて、ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)の金髪が輝いた。
弟子に言葉を掛ける間も、肝試し参加者を誘導するためのガイドロープを張る手は止まっていない。
「そうするかのぅ。皆が外で待っておるし」
眼窩から飛び出している眼球を振り子のように揺らしながら、セシリアはパートナーのファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)と並んで作業を始めた。
「ええ。皆さんに楽しんでもらうための、大切な準備ですから。特に、ガイドロープ設営は、安全管理の面でも重要です」
ファルチェは頬を緩め、白い歯を見せた。着衣のあちこちが既に土埃で汚れているのは、ファルチェが甲斐甲斐しく働いた証拠に他ならない。
「それはそうと、あれは誰だろうね? 凄く衣装も凝っているよ」
クライスが指し示す方向に、皆、視線を向けた。
そこには、暗がりの中でもはっきりと存在感を放つ人物が立っていた。
長身で肩幅が広いが、病的なまでに痩せていた。剃りあげた頭頂部から額にかけて、禍々しい刺青が彫り込んである。全てを射抜くような視線は、岩壁の向こうまで見通すようだった。
「ホホぉ……邪悪な魔法使いといったコンセプトかのぅ。私も早ぅ、ああいった貫禄を身につけたいもんじゃなぁ……」
呟いて脳裏に自分の未来像を描いたセシリアの鼻腔を、激しい腐臭が突いた。
「うおッ! な、なんじゃ? このニオイは……」
「……三人とも、私の後ろに下がりなさい」
剣の柄に手を掛けたローレンスが言葉を閉じ終わる前に、ファルチェの体が三人を庇うように動いていた。
「あれ? 準備もできてないのに、もうお客さんが……」
ファルチェの肩越しに見える複数の人影に、クライスが漏らした言葉は、彼の師匠が奏でる鞘走りの音に語尾を掻き消された。
「クライス。質問をせず、私の言うとおりにせよ。セシリア殿を守り、この場から逃げるのだ」
緊張を孕んだローレンスの声がクライスの耳に届き、震える小さなセシリアの掌が、クライスの指を握った
「え? どうしてそんな……」
「しんがりを務めます。セシリア様、クライスさん。今はローレンスさんの指示通りに」
温厚なはずのファルチェの声までが、硬質なものに変わっていた。
「とにかく逃げるぞ、クライス! アレは客ではない。ゾンビじゃ!」
「ええええええ! わ、わかったよ!」
言うが早いか、クライスは小柄なセシリアを横抱きにし、無我夢中で走り出した。
「く、クライス! 出口は向こうじゃ!」
セシリアが示した方向……出口と真逆の洞窟深部に向かって、クライスは駆けだした……地図と懐中電灯を落としながら。
「うわ! そっちもゾンビだらけだよ! どうするの?」
「構わぬから、そのまま通路に突っ込むのじゃ! 足を止めるでないぞ!」
クライスのフットワークに体を揺さぶられながら、セシリアは口早に呪文を唱える。すると、セシリアの掌に炎が宿り周囲を照らし出した。
「これでゾンビのまばらなところが見えるじゃろ? 隙を縫って走るのじゃ! 近づかれたら私が……えいっ!」
クライスの顔を掠めてセシリアの手刀が唸った。直後、クライスの二の腕に噛み付こうとしていたゾンビの脳天が割られ、その場に崩れ落ちた。
「…………え?」
「呆けておる場合か! 私はこれでも未来の大魔女なのじゃ!」
鼻息を荒げたセシリアが、再度、掌に炎を灯す。
「わかったよ。じゃ、飛ばすから、しっかり抱きついて!」
クライスの逃げ足がグン、と加速する。
「……仮装をしておいて、幸いじゃった……」
ゾンビの面の奥で、紅潮する頬の熱を悟りながら、セシリアは呟いた。
「二人の声が遠くなった。私たちも追いましょう」
赤い剣身が奔り、また一体ゾンビを切り伏せるとローレンスは、腕部内蔵型削岩機とカルスノウトの二刀流で、ゾンビの腰椎を砕き追い足を封じているファルチェに声をかけた。
「それしましょう。ですが困ったことに……」
緑色の瞳を曇らせながら、ファルチェは削岩機を腕部に収納した。
「ええ。二人が逃げたのは、入口と反対のようです。急がねば厄介な事になるやもしれません」
二人は意を決した表情で頷き合うと、それぞれの主を追って、駆け出した。
第壱章 死者たちの夜
「遅いなぁ。準備はまだ終わらないのかな?」
「だよな。仕掛け側が洞窟に入って、もう三十分も経ってる」
「トラブルが起きていなければいいけれど……」
夜中であるにもかかわらず、この夜は真夏日だった日中の暑気を引きずっていた。気温の不快さと待たされている事への不満とが相まって、生徒の口々から辛辣な言葉が出始めていた。
喧騒が虫の声を塗り潰しそうになる……その直前、虫の音が突然絶えた。そして……
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!」
耳をつんざく女性の悲鳴が、生徒達の喧騒を塗り潰した。
肝試し参加者の視線が、悲鳴の源を探して一点に集まる。そこには、既にボロ布に成り果てている蒼空学園の制服から蝋のように白い肌を晒し、足首まで届く長い髪を振り乱した女生徒がいた。
口元からは涎を垂らし白目を剥いて足を引きずりながら、まるで泳ぐような仕草で生徒達に向かってくる。
さらに、数え切れないほどの人影が、小走りに女生徒の背後から迫ってくる。
「こ、これも演出かな?」
サリア・エンディミオン(さりあ・えんでぃみおん)は、傍らのサイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)の袖を握り締めた。
サイクロンは返答せず、無言でカルスノウトを引き抜いた。ふと見れば、サイクロンの影に寄り添うかのように、グランメギド・アクサラム(ぐらんめぎど・あくさらむ)の姿がある。
「え……どうしたのサイクロン? なんだか怖い顔……」
十センチ上にある幼馴染の瞳を見上げ、サリアは更に強く袖を握った。
「サリア。悪い事は言わない。すぐに、ここから逃げるんだ……」
袖を握らせたまま、サイクロンはサリアの体を後ろへと追いやる。
「え? どうして?」
サリアの問いに、サイクロンは声を低くしたまま答えた。
「洞窟内部に入った運営委員は、多く見積もっても二十人くらいだろう」
「だが目の前の集団は、少なく見積もっても三百人はいる。いや……三百体、と称した方が、正確かもしれぬが」
ワンドを握り締めたグランメギドが、サイクロンの言葉の半分を補った。常に冷静な彼には珍しく地に垂れた尾が、落ち着きなく左右に揺れている。
「そこのあんた! はやくこっちに!」
不安と戸惑いとに着色された、生徒達のざわめきを突き破って、緋桜 ケイ(ひおう・けい)の声が響いた。
女生徒は、焦点の定まらぬ瞳でケイの姿を捉えると、ケイの体にしな垂れかかり、そのまま全体重を預けた。
「だ、大丈夫か? あんた」
膝への負担にめげそうになりながらも、ケイが問う。
「……たすけて……早く見つけて……このままじゃみんなが死んでしまう……」
女生徒は額をケイの肩に預けたまま呟いた。
「嫌な予感がする……全員、逃げろォォォォ!」
ケイの絶叫が、虚空に響き渡った。
その直後、三百を超える人影……生ける死者の群れが、地響きと唸り声を上げて、生徒達に突進してきた。
「え? なに?」
対応が遅れた生徒の一人が、死者の波に飲まれた。
無数の腕に引き倒され、始めは衣類が、やがて肉片と血飛沫が宙に飛び散り始めた。
尤も、それを間近に目撃した数名の男女も、次の瞬間には赤黒い染みと化している最初の被害者と同様の運命を辿った。
「しまった!」
詠唱を試みようとして、女生徒にしがみつかれ両腕が動かせない事実に気が付いたケイは、眼前に迫る腐肉の波を睨みつけ、自嘲めいた微笑を浮かべた。
「専守ッ!」
ケイの視界を見覚えのある背中が塞いだ。声の主は気合一閃、カルスノウトを抜き打ちに放つ。地面に刻まれた切っ先の軌跡に一瞬遅れて爆炎破の壁が吹き上がり、ゾンビの猛攻を堰き止めた。
「……あんたか」
顔を確認しないまま、ケイは背中を見せる男に、懐かしさの混じる声をかけた。
「この場はベアと私が引き受けるから、ケイさんは、そちらの女性と一緒に後方に来て!」
ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)のパートナー、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が人懐っこい笑顔をケイに向ける。
「ベア、マナ! 恩に着る!」
急くように言い放つと、ケイは女性を庇ったまま後方に下がった。
「いいさ。誰かに感謝されるために、戦っているんじゃない」
ベアの呟きは、彼の傍らに立つマナにしか届かなかった。
「でも、私は見ていたよ。ベアは、確かに人の役に立った」
マナが、さらさらとベアの短い髪を撫でる。その間にも、火勢の弱まった壁の向こうから、新たなゾンビが迫り来る。
「それに、まだ守りきったわけじゃない。マナ! 行くぞ!」
「うん!」
ベアとマナは並んで戦列を形成し、防衛戦闘を開始した。
「死人だったら、これでも食らえ〜!」
青果店で買ってきた桃をゾンビにぶつけながら、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)は洞窟に侵入する隙を覗っていた。
しかし、周囲は追う者追われる者、喰う者喰われる者とで繰り広げられる狂乱状態が鎮まらず、おまけに舞い上がる土埃で、視界が極端に悪くなっていた。
「なら、これを聴いて鎮まりなさいまし!」
アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)は、取り出した竪琴を奏で始める。しかし、絶える事のない阿鼻叫喚と怒号の合唱が凄まじく、奏でている本人の耳にすら竪琴の音が届きづらい。
「これじゃ、突入するどころか、グループ内でも迷子が出そうだな」
樹月 刀真(きづき・とうま)は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の手を握ったまま、【洞窟調査班】のメンバーを探した。
特徴的な外観の筐子はともかく、他の者は数百人が混在するこの戦場に於いて、はぐれたら最後、合流の目処が立たない。
「刀真……あそこ……」
月夜が指し示した所には逃げる事もせず、棒立ちのままの春告 晶(はるつげ・あきら)と、晶を必死で庇う永倉 七海(ながくら・ななみ)の姿があった。
「君たちは、【洞窟調査班】か? ……ま、どっちでもいいか。とりあえず、こっちに来て!」
刀真の呼びかけに応じ、七海は晶の手を引いて駆けつけた。
「ありがとう。呼びかけてくれて助かったよ。ホラ、晶もお礼を言って」
快活で飄々としたところのある七海とは対照的に、晶と呼ばれた少年の声は小さく、表情には感謝の色どころか恐怖の色すら浮かんでおらず、能面のような無表情を保っている。
「……ありがと……」
読唇術の心得がない刀真には、晶がなんと言ったのかすらわからない。それほどに、声が通りにくい状況ではあった。
「わ〜い! せ〜んそうだ戦争だぁ!」
満面に喜色を浮かべたカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)を引き連れて、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は筐子の元へと急いでいた。
「……む?」
幸いにも、筐子を目印に【洞窟調査班】のメンバーは、はぐれることなく揃ったが、イレブンは奇妙な光景に疑問を覚える。
筐子の投げつけた桃を、ゾンビたちが拾って貪っていたのだ。
「ゾンビが、桃を食べている……人を襲うよりも、優先順位を上げて?」
その疑問を抱えたまま、イレブンは身を守るための戦闘行為に従事しなければならなくなった。
ゾンビは、数の上で生徒を圧倒していたのだから。
「冗談じゃねぇぞ……オイ」
眼前の修羅場をよそに、改造バイク『デッドライジング号』に跨ったままの国頭 武尊(くにがみ・たける))は、奥歯を鳴らした。
「驚かせる側に回るつもりで来てみりゃなんだ? オレ抜きで祭りが始まってやがる。オマケにリアルゾンビの大行進ときたモンだ。だがそれは、こまけぇことだ」
湖の殺人鬼を思わせるホッケーマスクの奥に怒りの表情を忍ばせ、武尊は鉄パイプの両端に二丁のチェーンソーを固定し、さらにその鉄パイプをバイクのハンドルにくくり付けた。
「では、何が『こまけぇこと』ではないのですか?」
バイクのタンデムシートに横座りしたシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が、やはりホッケーマスクを被ったままの小首を傾げる。
武尊は答えず、苛立ち紛れにスターターを蹴り付けた。爆音とともにマフラーから白煙が吐き出される。
「振り落とされンなよ シーリル! カウンターを忘れるな!」
シーリルの腕が腰に回った事を確かめて、武尊は前輪を浮かせたままバイクを急発進させた。
「……死者が相手か。技を見せる気にもならん」
刀身に張り付いた腐汁を払いながら、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は吐き捨てた。
「でも、ゾンビを放置はできません。このままでは、被害が広がる一方です。ゾンビの感染拡大も予想されます」
半歩遅れてクルードに随伴するユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が、表情を曇らせた。
「フン。歯応えがなくて、不満なだけだ。戦うことには……異論は、ない!」
言葉がユニの鼓膜に届くより速く、クルードの姿は傍らのゾンビを間合いに捕らえ、一刀の下に斬り伏せていた。
突如、クルードの横顔が眩い光に晒される。 金色の瞳を細めたクルードの脇を、土煙を巻き上げる二輪が通り過ぎた。
「全力疾走するゾンビなんざ、オレは、認めん!」
ハンドルの両脇から突き出した左右のチェーンソーと、カウルでの体当たりで、次々にゾンビの集団を切り裂いてゆくライダー……武尊の姿があった。
「十三……十四……十五……クールです。あと五体をコンボで倒すと、ブラボーになります」
タンデムシートに座っているシーリルが、残像を描く指使いで、カウンターを回している。
「あれは、武尊だなぁ。あいつ、ここにも来やがったかぁ」
現状に似つかわしくないほどの、のほほんとした口調で東條 カガチ(とうじょう・かがち)が額に掌を翳している。クルードは表情を消したまま、肩の埃を払った。
「リーダー。ウカウカしてると、武尊に獲物を取られちまうぜ? じゃ、そんなワケで、俺ァ先に斬り込ませてもらうよ」
言うが早いか、カガチは自前のカルスノウトを引っ提げ、ゾンビの中に踊りこんでいった。
「誰が何体倒すかは問題ではないが、目の前の事象に決着をつけねばならんのは確かなことだ。違うかね? クルード」
クルード、カガチと同じく、チーム【ディバイン・ウェポン】の軍師役を務めるイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が厳かに口を開いた。
そうしている間にも、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が、己の主人であるイーオンの背を守って、迫り来るゾンビを排除している。
「見えているだけでも三百。恐らく中には、それ以上のゾンビがいることだろうな。それに、防戦は肌に合わん」
クルードは、酷薄そうな微笑を浮かべると、刀を構え直した。
「今より、【ディバイン・ウェポン】が道を作る! 皆、続け!」
「リーダー! 私も戦わせてください!」
クルードが声の主に視線を向けると、黒い瞳一杯に涙を溜めた峰谷 恵(みねたに・けい)の顔があった。
「人間を害する化け物は許せない! これ以上、誰も殺させたくありません!」
キッと鋭い視線をゾンビに向けると、エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)の豊かな胸元に浮かび上がった銃把を掴み、抜き撃ちにて三匹のゾンビにヘッドショットを叩き込んだ。
「申し訳ありませんが、ケイは魔物を見ると冷静さを失います。克服しきれぬ過去の傷故、御了承下さい。これにてご挨拶に代えさせて頂きます」
言い残すとエーファは、拳銃型光条兵器を連射しながらゾンビの壁を撃ち崩してゆく恵の後を追った。
「レディの足元が危ないとあっちゃ、黙ってられませんねぇ」
茶色の瞳に快活そうな光沢を湛えて、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が軽口を叩いた。肩には長大なランスが担がれている。
「そんなこと言っちゃってェ。恵ちゃんとかエーファちゃんとかと、ねんごろになりたいだけなんでしょ〜?」
大和よりも頭一つ分以上背が低い位置から、ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が混ぜっ返す。
「あ? わかっちゃっいましたか?」
「まぁね〜。大和ちゃんのコトだからね〜」
ウフフフとひとしきり笑顔を見せ合った後、大和とラキシスは、クルードとイーオンに会釈して、恵とエーファの後に続いていった。
「これで、【ディバイン・ウェポン】の面子は揃ったな。では、俺たちも行くとするか。アル、フロントを頼む」
「イエス・マイロード」
イーオンは、アルゲオを前面に押し立て、火術で進路を切り開いていった。
「……さても、個性的なメンバーが揃ったものだ」
鼻から忍び笑いを漏らすと、クルードも洞窟の入口を目指して戦闘を開始した。その背中に、付かず離れずユニが従っている。
「聞いたかトーマス!」
「うん! このゾンビを操る事が出来れば、波羅蜜多ランド設立の夢に近づけるね!PVで躍らせることもできそうだよ!」
【ディバイン・ウェポン】が駆け抜けた後に、悪辣そうな笑顔を浮かべる男、悪斗 レオ(あくと・れお)とその相棒、二メートルで三百キロ。巨漢のゆる族、トーマス・スタインベック(とーます・すたいんべっく)の姿があった。
「わざわざゾンビが一番湧き出すところ……つまりはゾンビをコントロールする仕掛けがあるに違いない場所を、御丁寧に掃除してくれるそうだ。これを利用しない手はないな!」」
「レオは賢いなぁ! じゃ、それがしたちも早速洞窟に入らないとね!」
赤いドレッドヘアをなびかせながら走るレオの後を、焦点の合わぬ瞳に出しっぱなしの舌、という不気味な狼型のトーマスが追いかける。
「最後には、先回りせねばならんからな! くれぐれも見つかるなよ? トーマス!」
「任せておいてよ! 準備もバッチリだよ!」
示し合わせたレオとトーマスは光学迷彩を起動し、【ディバイン・ウェポン】の後を密かに追いかけていった。
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