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リアクション
第二章 正面口の闘い
ジャングルの木々と背の高い茂みの向こうに見えたのは、巨大な神殿だった。
正面には緑色に澄んだ湖を構えており、湖には密林の続きのように何本もの大木が生えうねっている。
湖の端から巨石を積み重ねて作りあげられた橋が大きな神殿の入り口へと通じていた。
橋と同じように巨石を組み上げた神殿は、五千年の年月を掛けて様々な植物や苔、大木の根に端の方から侵食されるような形になっている。
緩やかに吹き抜けていく熱帯の風。
湖や葉に光を降り撒く太陽と青空の下。
神殿の入り口となる橋の手前の開けた泥地や、橋の上、橋の奥の入り口には、様々に武装したホブゴブリンで溢れ返っていた。
ジャングルの中から、それらを観察していたリーベルニア・ルーデンバウム(りーべるにあ・るーでんばうむ)が嘆息する。
「あの数……やはり、裏口から侵入した方が――」
パートナーに伝えるつもりで言いながら振り返ると、パートナーの五明 漆(ごみょう・うるし)が、すたすたとジャングルを抜けて正面口の方へ行こうとしている所だった。
「あの……ウルシ、私の話を聞いてましたか?」
リーベルニアが追って、漆の袖をぱしっと掴む。
漆が眠たげな顔をリーベルニアの方へと上げ。
「裏口だ地下だの……行くのが面倒じゃからのう」
くあっと欠伸交じりに言う。
聞いて、リーベルニアはカックリと肩を落とした。
「あんなにホブゴブリンが居るんですよ? ウルシ……もっと危機感を持ってください」
そもそも、リーベルニアは今回の事件に漆が関わるのに乗り気では無かった。
なにせ、漆の理由が『大怪獣によって”安眠”を妨害されたくないから』だ。
この気楽さ。
心配で仕方ない。
「なに、わらわ達の他にも正面を抜けようという者は居るじゃろう」
漆が、くたんっと半分開きの眼でリーベルニアを見上げたまま言う。
「それに、おぬしが守ってくれるじゃろう? 憂いは無い」
ぽん、とリーベルニアの胸を叩いて、漆は再び神殿の方へと歩き出した。
残されて、リーベルニアはわずかに口元を崩す。
そして、
「……ウルシは、ずるい方です」
小さく小さく呟いてから、リーベルニアは漆の後を追った。
漆は再び欠伸を零し、
「――鏖殺寺院だか観世院だか知らんが、早いところ連中から槍を取り返すぞ。わらわは早く終わらせて眠りたい」
「観世院は薔薇の学舎の校長ですよ、ウルシ」
リーベルニアに突っ込まれる。
神殿の正面口に続く橋の前。
ジャングルの方から、ザゥンと響く排気音。
それを合図にして、多くの鳥がジャングルの空へ飛び立った。
周囲を警戒していたホブゴブリンたちが怪訝に首を巡らし合う。
刹那。
ズッパーン、と国頭 武尊(くにがみ・たける)の操るバイクが、密林から泥地へと飛び出した。
千切り散らされたツタやら枝やら草っきれやらを引っ掻き回して。
「退きやがれ!」
バイクは泥を削り飛ばしながら加速する。
呆気に取られたホブゴブリンを跳ね飛ばす強引なハンドリング。
「くぅ――」
バイクの後ろにはシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が、振り落とされないよう、武尊にしっかりと掴まっていた。
「邪魔する奴ぁ跳ねッ飛ばして引き千切るぜぇ!!」
バイクは、慌てふためいたホブゴブリンどもの射撃の間を抜け。
数匹のゴブリンたちを轢き飛ばし散らしながら、真っ直ぐに神殿入り口に続く橋へと向かっていく。
それを合図に。
密林のあちこちから、正面突破を狙う生徒達が次々に飛び出していた。
舞い散る草葉を貫いて、轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)の槍先がゴブリンを突き、捨てた。
「バーゲンの置き引きなんて庶民的なもんが原因の割には――」
足は止めずにそのまま駆け抜ける形になる。
雷蔵の体を追って、タタタン、と遠くから放たれた弾丸が泥土を跳ね上げていく。
「状況はシリアスだよな」
と。
雷蔵を狙って射撃していたホブゴブリンへと火球が飛ぶ。
燃え上がって身悶えしながら倒れたゴブリンの方へ、目をにんまりと細めながらファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が優雅に地面を踏んだ。
「んふ、今日は魔術の冴えが良いのぅ」
「ジェーンさんも、すこぶる絶好調、いぇいいぇい! なのでありますっ! いぇいいぇい!」
ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が、ひょいひょいっとゴブリン達の攻撃を避けながら、カルスノゥトで斬り伏せていく。
「ジェーンめ、この島に来てから妙にテンションが高い」
ファタは眉を軽く顰めた。
どうも、ジェーンの好奇心旺盛な部分がゴアドー島の珍しい動植物やら『探検』という状況にはまっているらしい。
ジェーンの頭のアホ毛も御機嫌に踊っている。
正味、このテンションは若干鬱陶しい。
「まあ、良いか。邪魔になるで無し」
捨て置いて。
「それに――」
ファタは、つぅと唇の先に指先を当てて笑んだ。
「わしも、大怪獣なんぞというフレーズで心躍っておるからして、とやかく言えんかものぅ」
指を唇をなぞるように口元から離し、術を組み上げる。
ファタの手元に生み出された雷気の塊がヴゥンと音を上げ。
するりと伸ばされたファタの指先より、ホブゴブリンに吸い込まれるように虚空を走った。
バツッとホブゴブリンの体が衝撃に痙攣して、そのまま幾筋もの細い煙を上げながら、ふらふらと力無く倒れふす。
「是非、復活した姿を拝みたいものじゃ」
「おいおい……そりゃ、俺も大怪獣ってのは面白そうだと思ったけどよぉ」
雷蔵がジェーンの切っ先を逃れたゴブリンを屠りながら、嘆息を零す。
「想像し得る犠牲を考えっと、どうも復活は阻止しねぇとマズそうな――」
「そのためには探索でありますっ! 探検なのでありますっ! 少年少女探検団が未開の秘境にて怪獣復活絶対阻止っ! 燃え上がるこのシチュエーション、いぇいいぇい! なのでありますっ! いぇいいぇい!」
いぇいいぇい、に合わせてジェーンのアホ毛がびょんびょんと踊る。
スタタと地を駆けて橋に踏み込んだジェーンが、切っ先を散らし、ゴブリンを湖へと斬り飛ばしていく。
「ほんっとテンション高ぇな……と」
雷蔵が地を蹴った足裏を橋の表面に滑らせ。
剣をかざし迫ったゴブリンを貫いて、それから、グッと槍を引いた。
そして、槍に突き刺さったゴブリンの体を振り上げた足で蹴って抜きさる。
「ウルシにもあれくらいのテンションを……いえ、足して2で割るくらいが丁度良いですか」
リーベルニアがジェーンを横目に、漆へと迫ったゴブリンを斬り捨てた。
「何か言ったか?」
ウルシが手の中に生み出した火球を、最小限の動作でゴブリンへと放って首を傾げる。
「いえ、儚い妄想ですから」
「ふむ?」
漆が、ぽやんっと頭の先を揺らす。
その向こうで、時枝 みこと(ときえだ・みこと)とパートナーのフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)は橋の上を駆けていた。
「みことさん」
フレアがパワーブレスをみことに掛けながら、声にかすかな鋭さを込める。
「うん、分かってる」
みことは目の前に立ち塞がったゴブリンへと斬り上げながらフレアに応え。
血飛沫を上げて呻いたゴブリンの腕を取り、体を入れ替えるように引き回した。
銃撃音とゴブリンの屍骸を叩く鈍い衝撃。
側方から撃ち出されてきた弾丸を受け止めてくれたゴブリンの屍骸を前方へ思い切り蹴り出しながら。
みことはアサルトカービンを構えたホブゴブリンへと駆け、跳び、切っ先を巡らせた。
肉を裂く、二つの音。
みことの刃が斬ると同時に、ゴブリンの首元へダガーが突き刺さっていた。
乳色金の髪先が踊らせながらガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、身を翻す。
ガートルードは、ゴブリンの血粒を風に捨てて戻ってきたリターニングダガーを手に取りながら。
アサルトカービンを構えるホブゴブリンへ、ギンッッと音が軋みしそうな程に強めた眼差しを向けた。
鬼眼によって怯んだゴブリンへと、しなやかに振るった腕。
放たれたダガーが戦場に舞った土飛沫を切ってゴブリンの咽元へと刺さる。
「これで――四つ」
ガートルードが、数え、息を付いたその時。
チリと感じた殺気。
視線を走らせた時は遅く――斧を振りかざしたゴブリンが眼前に迫っていた。
不恰好な風を鳴らして振り下ろされてくる斧。
避けるも受けるも間に合わない。
と、そばで地面を打つ足音が聞こえた。
そして、斧ゴブリンの体に叩き込まれた斬撃。
シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の金髪が舞う。
「『眼』の使い方は様になってきたのぅ、親分。だが、油断したな」
隣に立ち、外見に似合わず豪快に笑うシルヴェスターを見やり、ガートルードは眉端をわずかに垂れた。
「すいません、先生」
言いながら跳んで、ゴブリンの剣先を避ける。
ガートルードの残像を引っ掻いて橋の床石を削った剣ゴブリンをシルヴェスターが一閃。
返す刃で二つ目の斬線。
そして、笑う。
「数はおるけんのう。こいつらが尽きるまで、存分に腕を試せば良い」
「はい」
ガートルードは音も少なに着地して、己を狙って襲いくるゴブリンどもを、再び、ギラリと睨み付け、数匹のゴブリンの身を竦ませる。
その向こうでミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の放った雷術が橋の上のゴブリンを撃ち払って湖へと弾き飛ばした。
メニエス・レイン(めにえす・れいん)がゴブリンの消えたその場を悠々と抜けていく。
「そうよ、ミストラル――『邪魔なもの』だけ狙えばいいの」
「ええ、もちろんです。メニエス様」
ミストラルが、スゥと恍惚めいた笑みを浮かべる。
「邪魔なもの、だけ」
■
神殿、正面通路内部の中腹。
通路内へと侵入した生徒達とゴブリン達の戦う喧騒が響き渡っていた。
通路の所々で魔法の光が柔らかに灯りを点している。
その灯りの下。
武装したホブゴブリン達の間を、黒い鎧に包まれた男が苛立たしげに足音を鳴らしていた。
遠く、通路の入り口方面から響くのは
『姑息な手を弄する輩め、我の槍の錆にしてくれる!』
藍澤 黎(あいざわ・れい)の凛とした声。
男は不快そうに双眸を顰めた。
「……崇高なる寺院の意を理解出来ぬ愚者どもが」
吐き捨て、槍を持つ手に篭る力。かすかに擦れる音。
押し迫る攻勢にすっかり浮き足立ったホブゴブリン達が、慌て騒ぎながら彼のそばを行き交う。
「うろたえるなッ!!」
男の放った一喝が通路内に木霊し、ゴブリン達を黙らせた。
「第六から十二班までをこちらに呼べ。許可はいらん。グダク様には、後に我輩から言う。今、此処を通してしまっては儀式の妨げになろう……それだけは避けねばならん」
男の指示にホブゴブリンの一人が駆けた。
男の槍が石突で床を、一つ叩く。
「我輩も出る。……所詮は雛鳥の集まりよ」
■
武尊は、ゴブリンどもを弾き飛ばしながら一直線に通路をバイクで駆けていた。
広い通路の両端には巨大な石柱が連なっており、柱とその奥の壁との間には、湖から染み流れ込んだらしい川が走っていた。
と。
「あん――?」
武尊は眉を顰めた。
通路の真ん中に立った黒鎧の男が、槍を構えている。
反射的に、武尊はバイクを前方へ叩き付けるように乗り捨て、片手にシーリルを抱きながら空中に身を躍らせた。
乗り手を失いながら駆けたバイクが、奥から現れた黒鎧の男の槍先によって吹き飛ばされ、派手な音を立てながら地面に擦れて行く。
武尊はシーリルと二人、地面に転がった。
そして、巡る視界の中、掌で地面を叩き付けて、アサルトカービンを手に体勢を立て直す。
「その槍が――星槍か?」
やぶ睨みの視線が黒鎧の持った槍へと向けられる。
「え?」
周囲のゴブリンどもを警戒してメイスを構えたシーリルが、一寸だけ、黒鎧の方を振り返り見る。
黒鎧の目が嘲りを匂わせながら細められる。
「だとすれば、どうする?」
問い掛けに対して、武尊は引き金を引いた。
黒鎧の飛び抜けた虚空を弾丸が連なって突き抜けていく。
流れ弾で、黒鎧の背後に控えていたホブゴブリンが撃ち倒される。
「よこせ」
「残念ながら、我輩の槍は星槍では無い。今はまだ、儀式の最中だからな」
ザァ、と黒鎧の足裏が石畳に音を立てる。
「しかし、じきに儀式は終わり、いにしえの神は蘇る」
黒鎧が構えに入る。
距離はある。が、次の瞬間には迫って来るだろう事が分かる。
武尊は鼻先を鳴らし、
「大怪獣の復活だとかチューだとか」
既に光条銃を取り出していたシーリルから光条銃を受け取った。
そして、
「そんな事はどうでもいい」
槍先を構えて突進してくる黒鎧に向かって光弾を撃ち放つ。
光弾は、身を滑らせた黒鎧を掠め、後方の石柱を抉る。
「オレにとって大事なのは――星槍が物干し竿の代用品として使えるか否か。それだけだ」
武尊は憮然と言い放ちながら、迫る槍先を見据えた。
「へ? も、物干し竿――?」
と、やや間抜けな声を出したのはシーリル。
そういえば、この前、物干し竿が壊れたから代わりを探して云々と――
といった近況がシーリルの脳裏を走るのと、ほぼ同時に、武尊の体が黒鎧の槍先に突き飛ばされて宙を舞った。
「武尊さんっ!!」
シーリルが追い縋る先で、武尊の体は弧を描き、通路端を流れる水路へと落下する。
高く上がる水飛沫。
武尊を追って水路縁へと駆けるシーリルを黒鎧の槍が狙う。
が。イィンッ、と高い音を立てて、その槍先に槍先が絡む。
ゴブリン達を抜けて、黎が黒鎧とシーリルの間に滑り込んでいた。
「我が、御相手しよう」
黒鎧男を静かに見据え、黎が言う。
その向こうでシーリルが武尊を追って水路に飛び込む音。
黒鎧男が黎を見る目を強める。
「その声……」
再び、金属を打ち合わせる音が響いて、二人は互いに飛び退り、距離を取った。
「誇り高き寺院を卑怯と罵るは貴様か」
黒鎧が憎々しげに言葉を噛み、黎を睨む。
「無垢な少女を罠に掛け、星槍を奪い去った輩に誇るべき道など無かろう」
侮蔑を滲ませた黎の瞳が薄く、黒鎧男を見遣る。
「せや! 大体、鏖殺寺院なんかに従うちゅたってイイコトなんかナンもないのに、ケッタイなヤツラや!」
黎のパートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)が、黎の後ろから間髪入れずに言葉を並べ立てた。
「……真に深き崇高なる寺院の考えを――」
「グダグダややこい言葉並べたってな、キミら一個も格好なんか付いてへんぞ!」
フィルラントの叩き出した言葉が黒鎧の声を掻き消してしまう。
「よう考えてみぃ、そないな根性と黒ダルマな格好でこないな地下遺跡ちゅう、根暗な場所におるから、キミらは女の子にもモテへんのやぞ!
阿呆らしないんか? 客観的に見て、ものっそい阿呆らしいぞ! 第一、なにかっちゅうたら寺院寺院寺院てアホの九官鳥のよにして、それで満足しとるキミらは間違いなく阿呆や!」
「……愚かなも――」
と、黒鎧が何か言いかけても。
なお、フィルラントの口撃は留まらなかった。
留まらないったら留まらない。
「阿呆も阿呆で阿呆丸出しやって、はよ気づいて星槍返しや!
そしたら可愛い巫女はんが、ちぅしてくれはるちゅうから、どっちが人生幸せか、どんだけ阿呆でもさっすがに分かるやろ!」
ドバババっと打ち出されたフィルラントの言葉にさらされて。
黒鎧の口端がヒクリと揺れた。
「……ピーピー、ピーピーと……」
黒鎧の背後には増援のホブゴブリン達の足音が鳴り響いていた。
「無知な雛鳥は身の程もわきまえずによく喚く……」
男が壮絶な表情を浮かべて、フィルラント達を睨みあげる。
「二度と鳴けぬよう、その口、磨り潰してくれるッッ!!」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)の放った雷撃がパートナーの紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)の前に立ち塞がったゴブリンを撃ち弾く。
雷撃を受け、バネ人形のように痙攣するゴブリンの体を肩で跳ね飛ばして。
遥遠は、その奥でアサルトカービンを構えていたゴブリンの懐へと踏み込んだ。
一拍でゴブリンの体を斬り上げた刃。
剣を持つ手とは逆の手で、斬ったゴブリンのアサルトカービンの先を叩き弾く。
死んだ指が引き金に絡んで撃ち出された弾丸が、高い高い通路の天井へと撃ち出されて尽きた。
切っ先を振って血を捨てた遥遠の横を、遙遠が通路奥へ向かって駆け抜け。
「あれを――」
すれ違い様に言う。
その視線の先では黎とフィルラントが黒鎧を相手に立ち回っていた。
技量では圧倒的に黒鎧が勝っている。
が、彼らはそれなりに応戦している。
どうやら黎達は彼を倒す事を目的としておらず、挑発し、攻撃を受け流し、避ける事に専念しているようだった。
それが、対等とはいかないまでも黒鎧を翻弄するのを可能にしていた。
「どう見ます?」
遙遠が遥遠へと問い掛けながら、手の先にキィンと氷塊を生み出してゴブリンへと放つ。
「――陽動、でしょうか?」
遥遠がカルスノゥトを閃かせ、遙遠の背後に迫っていたゴブリンの腹を切っ先で突く。
背後に肉の裂ける音を聞きながら遙遠は頷いた。
「ええ、おそらく彼らの目的は同じ」
「こちらへ敵を引き付け、他の戦力を削ぐ」
遥遠が刃をスンと骸から抜き去ると同時に、
「援護しましょう」
遙遠は駆けていた。
追って、遥遠が駆ける気配。
遙遠は組み立てた魔術の射程距離にて立ち止まり、己を追い越して黎達へ向かう遥遠の脇へと軌道を取って、雷撃を放った。
その雷撃がフィルラントへと襲い掛かろうとしていたゴブリンを撃ち払う。
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