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大怪獣と星槍の巫女~前編~

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大怪獣と星槍の巫女~前編~

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第八章 正面突破 そして
■正面通路
 だだっ広い通路内。
 空気に舞う埃を焦げ散らかして。
 ファタの放った火球がホブゴブリンを焼き払った。
 ファタは、それを満足げに見ながら、
「ジェーン」
 パートナーを呼んだ。
「あいあいさーっ、でありますっ!」
 ファタへと襲い掛かって来ていたホブゴブリンを斬り捨てて。
 ジェーンがアホ毛をひゅるんっと回転させながら、ファタのそばへと跳んだ。
「マスターを充電するでありますっ! びびーっ」
「おぬしと一緒にするな」
 ジェーンのSPリチャージにより、ファタに再び魔力がみなぎる。
 その時にはファタは既に、雷術を組み立てており、振り返りざまに後方のホブゴブリンへとそれを放った。
 突き抜けていった光が、アサルトカービンを構えたホブゴブリンに爆ぜる。
「んふ、的が程好い」
 そう笑んだファタの横から、ジェーンがひょいっと跳んで再びホブゴブリン達の方へと切っ先を閃かせていく。
 ファタは、新たな魔術を組み上げながら視線を滑らし……。
「しかし、なにやら増援のゴブリンどもが減ったのう?」
 わずかに首を傾げた。

(こちらが陽動と気づかれたか)
 黎が黒鎧の槍先を受ける。
 防御体勢を取っていた黎の体が、それでも激しく打ち飛ばされた。
 フィルラントのヒールを感じながら、黎は己に斬り掛かってきたホブゴブリンを槍で払い叩く。
 遙遠の氷術が、黎を追撃しようとした黒鎧の足元を凍らせるが、それはすぐに砕かれてしまった。
 だが、遥遠が相手の懐へ踏み込むだけの隙を生む事は出来た。
 猪の如く進もうとする黒鎧の前へと遥遠が滑り込み、爆炎波で、どうにか押し返す。

 と、遙遠を狙う銃口。
 その目の前にガートルードが躍り出て、銃を構えるホブゴブリンへとその鋭い眼光を向けた。
 次手でリターニングダガーをそちらへ投げ放ち、また跳ぶ。
 その顔にわずかな疲れが見える。
「気張れ、親分! まだまだじゃあ!」
 ガートルードに寄り添うように駆けながら、シルヴェスターが檄を飛ばしていく。
「元気が良いのぅ――」
 その声を聞きながら漆が、ふぁっと欠伸をしつつ、ぽいっと火球をゴブリンへと放った。
 ぼんやりオーラ全開な漆へとゴブリンの切っ先がしなる――のを、リーベルニアの槍が弾き上げる。
「せめて、ここを離れるまでは起きていてくださいね……ウルシ」
 リーベルニアが嘆息し、ゴブリンの体へと槍先を閃かせた。
 そうしながら、視線を周囲に鋭く巡らせる。
 その視界の端を雷蔵が駆けた。

 向かった先は黒鎧。
「お前を倒せば――」
 駆ける勢いのままに、腰に構えた槍先を黒鎧へと突きこんで行く。
「崩せる!」
 が。
「我輩は倒れぬッ!!」
「――ッッ!」
 ズォと重く空気を切り混ぜた音と共に、雷蔵の体に黒鎧の槍先が叩き込まれる。
 吹き飛んだ雷蔵の体を。
「フレアッ!」
「はいっ!」
 みこととフレアが二人で受け止めた。


 と、いうような事が行われているのを。
「ひっひっひ」
 ミューレリアは、ゴブリンの群れを率いる黒鎧の背中側から見ていた。
 彼女は、はなっから裏口から侵入して正面通路で敵を挟み撃ちにするのを目的としていた。
 先ほどまではゴブリンの数が多くて手が出せそうに無かったが、今は、何故か良い具合に増援が減ってくれた。
「いやぁ、待ってみるもんだぜ」
 柱影に身を潜めながら、持ち込んで来ていた打ち上げ花火をウキウキと並べていく。
 そして。
「いっつぁー、ショーターイム!」
 火を付けた。


 スポーーン、スパーーン、バババン、と黒鎧やホブゴブリン達の後方でけたたましい花火の音が鳴り響いた。
 その音に驚いたのは、ミューレリアを除くその場に居た全員だったが。
 振り向かなければいけなかったのは黒鎧男とホブゴブリン達。
 彼らの目に映ったのは嬉々として突撃してくるミューレリアの姿。
 ともあれ、それで隙が出来た。
 生徒達がホブゴブリン達を一気に蹴散らしていく中。
 フレアのヒールを受けて回復した雷蔵が、黒鎧男の背中に一撃を突き込む。
 槍を振りかざしながら振り返る黒鎧男のそばを、体勢低く駆け抜けていたのがみこと。
 ザァアア、と踏み擦った床が鳴るのを聞く。
 視線で黒鎧男の無防備な姿を見上げる。
 剣に迸らせる雷気。
「ハァッッ!!」
 それを、黒鎧男の側面に思い切り叩き込む。
「――グゥッ!?」
 黒鎧が苦しげに呻きを上げながら、後方へと跳び退った。
 ミューレリアが、突然の挟み撃ちに混乱したホブゴブリンどもの間を駆け抜けて、わずかによろけた黒鎧男の背を狙う。
「貰ったぁあッッ!!」
 その槍先が確かな手応えと共に、黒鎧男を貫く。


 そして。
 黒鎧を倒し、統率力を失ったゴブリン達を蹴散らした一行は、神殿内部を目指して駆けていた。
「やはり、手薄ですね」
 遙遠が駆けながら呟いた。
「他の侵入口方面へ戦力を振られてしまった――」
 遥遠が頷く。
「だとしたら、オレたちが怪獣の復活を阻止しなければいけないな」
 みことが言って。
「もう余り時間は残されていないはず――急ぎましょう」
 フレアの言葉に生徒達が各々頷く。
 と――。
「ミストラル」
 メニエスが小さく言って、ミストラルへ目配せをする。
 メニエスの視線が指し示した通路の奥。
 巨大な扉があった。それが、今は開かれている。
「――なるほど」
 ミストラルは頷き。
「皆様ッ、待ってください!」
 強く声を上げた。
 ミストラルが制止する声に皆の足が止まる。
 メニエスとミストラル以外の。
「おおっ?」
 横を駆け抜けていったメニエスをジェーンの視線が追う。
 メニエスがやたら楽しそうな笑みを浮かべながら、
「もう全員用なし、よ」
 生徒達に向かってアシッドミストを放った。
「――ッッ!?」
「なっ!?」
 酸性の霧の中で身悶える生徒達を尻目に、メニエスとミストラルが扉の奥へと駆け抜けて。
 その巨大な扉を閉じてしまう。
 閉じた扉の向こうで、扉の合わせ目を凍らせる氷術の音。


「『みんなのために力を合わせて戦う』なんて、貴重な経験だったわ……」
 メニエスが口元に歪んだ笑みを浮かべながら、閉じた扉の方を一瞥する。
「楽しかったですか? メニエス様」
 二度目の氷術で扉を更に凍らせながらミストラルが言う。
 メニエスが片目を顰める。
「ええ。眩暈がするほど、ね。――それくらいで良いわ、ミストラル。もう行きましょう」