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リアクション
その頃、姫野 香苗(ひめの・かなえ)はお姉様の胸の中で夢心地だ。
借金のカタに囚われている女の子を救出してあははうふふするつもりの彼女はいち早く乗り込んだのだが、ダンスを踊るお姉様達の姿に理性(と言っていいのかどうか)を忘れ、本能に身を委ねている。
香苗は、仮面を付け正体がばれないのをいいことに、絶賛過激なスキンシップ中である。薄暗いしそもそもいかがわしい臭いのする仮面舞踏会、相手もこれだけいれば運命のお姉様もどこかにいるはず……!
もしかしたら、彼女は恋に恋する乙女なのかもしれない。
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)とミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は踊り終えると、舞踏会場から続く、ゆるスター賭博の部屋へと移動する。囚われの女の子を救うため、社交場の実態を調査するのだ、と有栖はミルフィに話していたが、
「楽しんでいらっしゃいませんか? バカンスで来たのですから、それにこしたことはありませんけれど……」
有栖は借りた衣装で仮装を楽しんでいるように見える。さっそくゆるスターが走り回っている幾つかの台を覗きながら、面白そうです、なんて言っているのだ。
「お嬢様、、わたくし達はあくまで潜入目的で来ているのですから……あまり羽目をお外しになってはいけませんわ……」
「あ、ごめんなさい私ったら……でも、とっても楽しそう……♪」
楽しそうどころか、実際に賭け事を楽しんでいる生徒もいる。
ビリヤード台を三つほど繋げたような長さの台に、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)がかじりついている。彼女が熱烈な視線を注ぐ先は、6つに区切られた出走ケージで待つゆるスターの一匹。それはボディチェックを受けた彼女のゆるスター、黒い毛並みの“ガノンドロフ”だ。
倍率に従って参加者がかけ終わり、これも怪しい仮面を付けた店員が卓に据え付けられたボタンを押すと、一斉にケージの入り口が開いた。
「優勝したら高級なひまわりの種をいっぱいやるぜ! いっけー!」
他のゆるスターより一回りは身体が大きいガノンが、ぶつかったゆるスターを押しながら、第一関門のトンネルに入っていく。
「あの子に賭けておけばよかったかなぁ〜?」
仮装した後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)が指さしながら、同じく色違いの格好をしたマノファ・タウレトア(まのふぁ・たうれとあ)に話しかける。
マノファはすっかり賭博を楽しんでいた。お金が入ったら、パンダ先生(マノファのペンネームだ)に新しい同人原稿用のパソコンを買ってあげるつもりでいる。賭で巻き上げられた女の子の話はちゃんと聞いていたが、マノファに、「あれはフェルナンの用意した推理ごっこのイベント」じゃないかと言われ、すっかり信用してしまったのだった。
「そうは言ってもぉ、ゆるスターに詳しくないんだしぃ、どれに賭けても同じじゃん」
樹理にどれにしようかと言われてマノファが選んだのは、時計の秒針でランダムに選んだ番号──2番ケージの子だ。
「お嬢様学校ってやっぱりすごい、こってるねぇ〜」
無邪気にレースを見つめる樹理を、マノファはほほえましく見つめている。大金を賭けるつもりはないんだし、結果はどうだっていい。彼女が楽しめれば。
「駆け抜けろガノンッ! ピリオドの向こう側までっ!!」
ミューレリアが声援を送るが、ゴール地点のケージに真っ先に飛び込んだのは、小柄な1番のゆるスターだった。2着は5番。がっくりと絨毯に手をついて、
「ま、負けた……さようなら、新しい武器」
落ち込むミューレリア。
単勝・連勝に応じて、台に並べられていた掛け金が、店員の手によって振り分けられていく。多額の掛け金に目をやって、永夷 零(ながい・ぜろ)はふむと、一つの決心をした。欲しい物を買うためにとパートナーと一緒に客船でバイトしていたが、これで儲けられるなら……。
零は同行者のルナ・テュリン(るな・てゅりん)と高潮 津波(たかしお・つなみ)を振り返った。二人は零と同じく、馴れない仮装をして、仲良く話をしている。どっちかというとルナが津波をからかっているようにも見えるのだが。
「これで賭けてみるか?」
何戦かレースを見て、イカサマに注意を払ってはみたが、仕掛けのしくみはさっぱりだ。
「ボクは構わないですよ。タカシオも、お金を賭けなくても遊べると仰ってます」
ルナはパートナーに従うつもりだったので、素直に頷く。津波の方は逆に、零のように賭博に対して不安がないという理由でにっこり笑って同意する。
「ええ、やってみましょう」
フェルナンと少女については、犯人捜しの推理イベントをやっているんだ、とマノファと同じように考えていたのだった。もし何かあっても、ちょっとお小遣いをかけるだけで充分楽しめそうだったし。
「でも、せっかくですから、ゲームをしませんか」
「ゲームでございますか?」
「三人の中で、一番勝った人のお願いを聞くっていうゲームです」
津波の提案に、いいですよとルナは再び頷く。それから緑の目をくるくる動かして、面白いことを思いついたようににこっと笑った。零はルナの様子に嫌な予感を覚えながらも、断る理由もないかと、
「ああいいぜ」
あっさり承知する。……願いといっても大したことはないだろう。勝ったら、もっとルナと津波が仲良くなるようになったらいいな、と……彼はのんきに考えていた。一見無害なその願いも、口から発せられた場合、微妙な問題になるだろうが。
準備用のケージに、ゼッケンを付けて動き回っている6匹のゆるスター。その中から、津波は一番小さいゆるスターを、ルナは一番可愛くない子を選び、零は残りから選ぶ。
出走が始まり、もつれ合いながら走るゆるスター。ケージからケージを渡るだけの短い時間なのに、津波にはそれがとても長い時間にも思われた。何走かして、決着がつく。
「タカシオの勝ちですね」
唇をちょっとだけとがらせたルナが言う。零は、お願いって何だと気軽に聞く。一人だけ、早くなる心臓を静めようとしながら、津波は決心を口にした。
「わたし! 永夷さんのこと…前からかっこいいなって思ってたの!」
それは自分で思ったよりも勢いが良すぎて、逆に自分を驚かせる。目を丸くしている零にしまったと思い、音量を落とす。こんなところで名前を大声で呼ぶなんて。
「この旅の間だけでも、よければその……一緒に……というか恋人みたいに過ごしたいなって……。美人でもないし、性格もそんなに可愛くないけど、で、ルナさんが…恋人じゃなかったら……でいいんだけど……」
むしろ聞こえないくらいに消え入りそうな語尾になってしまう。
零はと言えば、以前から彼女の好意には何となく気付いていたが、積極的に自分から何かしよう、ということもない。
「ルナは恋人じゃなし……それがお願いでいいんなら……」
そんな消極的な返答に、ルナは、これならまだタカシオをいじれそうだな、などと考えていた。
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