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桜井静香の冒険~探険~

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桜井静香の冒険~探険~

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 観光客がのんびりと一日を楽しんだ──その日の朝早くに話は戻る。
 何でもできるメイドを目指す篠月 流玖(しのづき・るく)は、メイド修行のため、この船に乗っていた。そして彼女はちょっぴり腹を立てていた。目の前に散らばるパンくずに、である。
 巨大な袋を抱えた貴婦人が、あろうことか歩きながらパンを食べながら船室から甲板方向へと歩いていったのである。
 お掃除は好きだけど、マナーの悪いお客さんは好きとは言えないかも……。
 持参の箒で廊下を掃いていた流玖の目の前を、もう一人、マナーの悪いお客さんが駆け抜けていこうとした。その少女は、はたと気付いたように急停止すると、
「ねぇ、あの、女の人が通らなかったかなっ?」
 それは普段の姿からは考えられないほど取り乱した桜井静香だった。彼女が走っているとは思わなかった流玖は目をぱちぱちさせながら、
「静香さま……?」
「ごめん、それだけじゃ解らないよね。えっとね、陶器の豚とパンを持ってて、パン食べながら歩いてて、足もとまである長い白いドレスを着てて……顔半分を仮面で覆っている人」
「その人でしたら昨日の夜、通りましたよ。豚は見当たりませんでしたけど」
「ありがとっ、じゃあっ」
「ま、待ってください! ……お困りごとでしたら僕もご一緒します」
 再び走り出そうとする静香を、彼女は引き留める。
「え、でも……」
「そのご婦人を僕は目撃していますし、お一人でお客さまを行かせてはメイド失格ですから」
 きっぱりと言われ、静香は考えていたようだが、目撃者を連れて行くのを優先した結果、おずおずと頷いた。
「それじゃあお願いするね」
 二人はパンくずを辿って、船内を歩いた。船長からの説明通り、パンくずは船の外を出て、草原の方向へと点々と散らばっている。
 その姿を見付けたのが葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)だった。
「静香校長っ♪ こんなところで何してるんですか?」
 何をしてるのかって、それはこっちもよねー、と思いながらアリスも頷く。
 思いっきりぎくっとした表情を隠さない静香は、しどろもどろになりながら、
「えー、あ……あー……あさの、朝のお散歩だよっ」
「ゆるスター探しをしてるんですっ。よかったら一緒に散歩しませんかっ♪」
 可憐は、上流階級で只今大人気中、百合園生徒のペットとしても飼われているゆるスターが欲しい。もしかしたら野良ゆるスターがお外にいて、捕まえられないかな……と思って散歩中なのだった。
 アリスに言わせれば、こんなところにいないんじゃないかなぁ、というところだが、意見は言っても反対はしない。行動力があるのも可憐のいいところだと思ってしまうくらい、パートナーに甘いのだ。お散歩には違いないし。
「ごめんね、でもちょっと急いでるんだ」
「お散歩なのに急いでるんですか? もしかして、何か珍しい現象とかが起こるとか? だったらご一緒したいです」
「そういうのはないんだけど……ちょっと人捜しをしてて……うん」
「でしたら尚更人が多い方がいいですよね。一緒に行きましょう!」
 四人。流石に目立っちゃうだろうか、早く追いかけなきゃなぁ、と静香が心配しているところに、今度は別の歌声が聞こえてきた。それも合唱だ。
「校長先生に皆様、おはようございますぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、それにフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)。朝の散歩を兼ねた歌の練習中だった。
「どうしたんですかぁ、そんなに慌ててぇ、何かあったんですかぁ?」
「……あ、慌ててなんて……ないよっ?」
「これを飲んで落ち着いてくださいな」
 フィリッパが肩に提げた水筒から、こぽこぽと琥珀色の液体を蓋兼コップに注いで差し出すと、朝食も飲み物も取ってない静香は、受け取って一気に飲み干してしまった。再びフィリッパがお代わりを差し出す。
「お腹も空いていらっしゃるなら、お茶菓子もありますわ」
「それは嬉しいな……じゃなくって、えーっと」
「誰かが困ってたらぁ、助けるのがお互い様ですぅ。人っていう漢字は、互いにぃ、支え合ってる姿を現したものって聞いてますぅ」
 メイベルに言われ、静香は渋々といった様子で口を開いた。
 今朝、財布を取り出そうとして金庫を見たら、持参した陶器製ぶたさん貯金箱がなくなっていたこと。その中にはチャリティ・オークションで寄付して貰ったお金が入っていたこと。
 金庫はスイートルームの寝室にあって、自分以外は入っていないこと。鍵も自分と船長室の金庫の中に入っていること。こじ開けられてはいなかったこと。
 しかし夜に、近くの廊下を豚を持って歩く、仮面の貴婦人が目撃されていたこと。
 今朝早く、その貴婦人がパンを食べながら草原の方向に歩いていったというので、そのこぼれたパンくずを追っていること。
「彼女が犯人って決まったわけじゃないけど……何か知ってると思うんだ」
 それを聞いた可憐が拳をぎゅっと握りしめる。
「ゆ、ゆるスターを探してる場合じゃないですっ。静香校長っ、私も一緒に犯人を探させてくださいっ!」
「そうですぅ。手分けして探しましょう」
 こうして七人は、パンくずを追いながら、草原を歩き始めたのだった。
「それにしても、不思議ですわね。パンくずと言えば『ヘンゼルとグレーテル』。わざとにしても、すぐに小鳥が食べてしまいそうなものですけれど……?」
 フィリッパが疑問を呈するも、可憐は、
「それも聞いちゃえば分かるよ。もし敵対的なら、みんなでこらしめちゃうんだから!」
 草原の背の低い草の上を目で追いながら、七人は船から徐々に遠ざかっていった。