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桜井静香の冒険~探険~

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第2章 無人島観光


 降り注ぐ陽光の下、お揃いの日傘が二つ、咲いている。
 片方の日傘がくるくると回っている。走り出したかと思うと急に振り返ったり、止まったり、砂浜の上に不規則に影が踊る。
 両方の日傘の中には、こちらもお揃いのピンク色をした頭が二つ。人間とドラゴニュートの組み合わせだ。
 先に立って歩いているのはエルシー・フロウ(えるしー・ふろう)、砂浜に付いた自分の足跡や、寄せては帰る湖水、湿った砂浜の上で動く動物や昆虫たちを眺めたりつついたり忙しい。
 ルミ・クッカ(るみ・くっか)は身体が丈夫とは言えないパートナーが無茶しないように見守っている。元気になったからといって、はしゃぎすぎて倒れてしまったら心配だ。
 そんなルミの気持ちも知ってか知らずか、
「これは何でしょう?」
 エルシーは石の裏側を返して、張り付いていた小さな蟹のような生き物をしゃがんだまま追跡する。彼女は子どものように、あっちこっちに、珍しい生き物や植物を見つけ出してはルミに尋ねる。
 ルミの日傘を持っていない方の手には、生き物図鑑がある。該当のページを探しながら一つ一つ答えていく。エルシーはパラミタだからという理由だけではなく、ベッドの上からでは見ることのできなかった世界に夢中なのだろう。
 大人の足で2時間もあれば回れそうな島の外周をのんびり歩いていると、前方からはしゃいだ声が聞こえてきた。
「ずる〜ぃ。エレンまた胸大きくなってない?」
「そ、そんなことないですよ。それに葵ちゃんだって、まだまだ成長期なんだし、身長だって胸だって大きくなるから」
 水着の少女が二人、湖に膝まで入って遊んでいる。周りには白鳥の着ぐるみのゆる族船員が、三人、同じように水に入っていた。
 少女のうちの片方、水色の競泳水着姿の少女が、エルシー達に気付き、手をぶんぶん振って叫んだ。
「ねぇねぇ、一緒にあそぼー!」
 二人の元まで来たエルシーは、残念そうに首を振る。
「ごめんなさい、泳ぐのは苦手なんです……」
「だぁ〜いじょうぶっ、あたしなんて泳げないからっ」
 競泳水着の少女秋月 葵(あきづき・あおい)は薄い胸を張る。はずみで頭の上の大きなお団子が傾き、小柄な足が不安定な砂を掴もうとして、
「わ、わっ」
 片足が浮いたところを、慌ててもう一人の水着の少女エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が肩を支えた。こちらは白いワンピースに白百合柄のパレオという清楚な姿だ。
「うぅー、胸があればバランス取れたのに」
「馴れない髪型だからです、胸は関係ないですよ。そうそう、ビーチバレーやりませんか?」
 胸から話題を逸らしながら、エレンディラは改めてエルシーに顔を向けた。周りの船員の手には確かに空気で膨らませたビーチボールが抱えられている。
「もし私たちに勝てたら豪華ディナーおごっちゃうよー」
 葵はやる気満々のようだ。
「いい思い出になると思いますよ。お体さえつらくなければ、ご一緒させていただきませんか」
 ルミに促され、エルシーは頷いた。
 こうして四人と船員は、砂浜でビーチバレーを楽しむことになった。
 流石ナイトというべきか、葵とエレンディラの縦横無尽の活躍に、誰も歯が立たない。
 やがて休憩が終わった船員が帰ってしまったが、チームを組み替えて何戦かする。体力に不安のあるエルシーを葵がサポートしてトスを上げ、えいやっとエルシーが打ち込む。お昼にさしかかった頃には、すっかり四人はうち解けていた。
「一旦お昼にしよー。エルシーちゃんとルミちゃんは何がいい? おごっちゃうよ」
「でも、勝ったらってお約束でしたよね。私達、思いっきり負けてしまいましたよ」
「そんなの関係ないない。楽しかったからそのお礼だよ! 午後は一緒にお散歩しようねっ」
「葵ちゃん、ご飯の前にシャワーを浴びて、着替えましょうね」
 こうして砂を払い落としてランチの後、再び四人は浜辺へと散策に出発したのだった。

 イルミンスールからの旅行客、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は一旦森に入ったものの、船内に引き返してきていた。
 フェルナンの遺跡探索に同行して、発見できたまでは良かったが、フェルナンはうさんくさいし、遺跡からは何やら女生徒が出てきて賭博がどうたらと言っているし、すっかりそんな気分ではなくなってしまったのである。
 フェルナン始め女生徒達を助ける人もいるようだが、メニエスに言わせれば自業自得、関わり合いになるのは煩わしい。
 夕方になるまでは船の中で過ごし、日差しが弱まった頃に浜辺に出る。彼女に日傘を差し掛けるのはメニエスの従者を自認するミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)。メニエスは木陰を探して腰を下ろすと、目を細めて持参の魔術書に目を通し始める。目つきが悪いのは、吸血鬼になったからだけではないだろうが、日に弱いせいだ。
 木陰まで主人を送り届けたミストラルは、とことこ付いてきたロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)を呼びつけると、テントの設置に取りかかった。フェルナンが用意した遊び道具の一つである。
 ささっとテントを設置すると、ミストラルはたき火をおこし始める。船から分けて貰ってきた食材で、夕食を作るつもりだ。ロザリアスはテントの中に入ったかと思うと、すぐに飛び出してきた。
「ロザ、早いですわね」
「うん、下に着てきたんだよ。行ってきま〜す」
 ロザリアスは水着姿で海に勢いよくかけだしていった。まだまだ遊び足りない年頃なのだ。そのまま海に飛び込みそうだったが、砂が鳴るのが面白いのか、足の裏でぎゅっぎゅっと砂浜を踏みつけている。
 二人の姿を時々眺めながら、メニエスは静かに本を読み続ける。
 やがて日は暮れ、空は青から赤を経て藍へと変わり、たき火を囲んで食事をして──ロザリアスが鍋に小さい蟹や魚、藻だか海草だかのようなモノを放り込んだりするハプニングはあったが──波の打ち寄せる音に耳を傾け、或いは波に流されるように乗り、本を読み。時間はゆっくりと流れていく。
 地上の景色がたき火の赤だけになった頃になってようやく、三人はテントに入った。