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リアクション
エピローグ お茶にしましょう
ちょっとしたハプニングもあったけれど、雪だるまコンテストも無事に終わり、冷えた身体を“シーツの海の部屋”で温めたり、着替えをしたりしてきたみんなが続々とパーティー会場へと集まってきた。
静香とラズィーヤも、元のテーブルへと戻り、ホワイトチョコレートフォンデュやケーキやタルトなどを美味しそうにいただく生徒たちを見つめていた。
「みんな楽しんでくれたみたいでよかったね」
「そうですわね。地球には楽しいイベントがたくさんあって良いですわね♪」
微妙にラズィーヤのカンチガイは修正されていないままなのだが、まぁいっか、と静香は思う。みんなが楽しければそれでね。
そんな和やかな雰囲気の流れる中、なぜか深刻な表情をした少女が一人、そっとテーブルに近寄ってきた。
グライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)は、二人に近づくと一礼して、ラズィーヤの耳元で、何かぼそぼそと呟いている。静香の頭上には“?”マークが飛び交っているものの、ボクに聞かれたくない話しなのかな、と気を利かせてなんとなく視線を外した。
その視線の先にロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がこちらを見つめていることに気付く。セリナはきょろきょろと周りを見回して、みんながお茶に夢中になっていることを確認すると、小首を傾げる静香の元へとやってきた。
「静香様。あの…ご迷惑でなければ」
と、小さな包みを静香に差し出した。キレイな青いリボンがかかっている。
「イヤリングなのですが、私が付けている物の方割れです。いつかお揃いで付けられたら……と、大切な人が出来た時に取っておいたものなのです。その、御迷惑でなければ、受け取ってもらえないでしょうか」
「そんな大切なものを、いいの?」
静香はじっとセリナの瞳を見詰めた。
「はい。あの……私、静香様のことが、好きです」
「ありがとう。大切にするね」
静香はにっこりとほほ笑むと、プレゼントを受け取り、大切そうに、ドレスに合わせたパーティーバッグの中へとしまった。
セリナは真っ赤になりながらも、嬉しくて泣きそうになりながら、パーティーの輪の中へと帰っていった。
相談ごとは終わったのか、ふんふん、とグライスの話しに耳を傾けていたラズィーヤは「そんなこと、簡単ですわ。いっぱい美味しいものをいただいて、それからミルクをたくさん飲むと良いですわ」
「……ミルク、ですか」
「古来より、ミルクが聞くと伺っていますから、絶対ですわよ♪」
「わかりました。ありがとうございました」
グライスは納得したのかしないのか、微妙な表情を浮かべつつ、姫野 香苗(ひめの・かなえ)と楽しそうに談笑している峰谷 恵(みねたに・けい)の元へと歩いて行った。
「で、なんだったの?」
「乙女の秘密の話しでしたわ。あの年頃ならよくあることですわ」
「そう。まぁ、それはともかく、そろそろみんなおなかもいっぱいのようだし、暗くなっちゃう前にお開きにしようか。可愛い生徒たちを危険な夜道に出すわけにはいかないからね」
「そうですわね。それでは、忘れちゃいけない、メインイベントをしなくちゃですわ。誰に当たったのかしら」
ラズィーヤは楽しそうに言うと、小さなマイクを使ってみんなに呼び掛けた。
「名残惜しいですけれど、もうそろそろパーティーはお開きにいたしますわ。みなさん、今日は楽しんでいただけて?最後にもうひとつ、プレゼントを用意してますの。フォーチュンクッキー、もうみなさんに行きとどいていると思いますが、その中のメッセージには、どんなことが書いてありましたか?中にひとつ“当たり”とだけ書かれたメッセージがあったと思いますの。“当たり”の方は出てきていただける?」
そう言われると、フォーチュンクッキーをまだ食べていなかった人はクッキーの袋を急いで開けて、中を確認したり、メッセージを読みなおしたりしていた。
「あの……」
おずおずとフォーチュンクッキーのメッセージカードを持ってラズィーヤの前に立ったのはフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)だった。
ラズィーヤはフィルのメッセージに“当たり”の文字を確認すると
「おめでとうございます。今日一番のスペシャルプレゼントは、あなたのものですわ」
と、メイドの押してきた布のかかったワゴンをみんなに見えるように置き、さっとその布を取ってお披露目した。
“静香様のホワイトチョコ像”
静香の愛らしい姿をホワイトチョコレートで型取ったそれは、透明のケースに入れられた。
素晴らしい出来栄えに、うわぁ、と歓声が上がる。静香ファンの多いこの百合園女学院生にとっては、確かにスペシャルなプレゼントかもしれない。
「割れモノですから、あとでとどけさせますわね」
フィルはみんなに祝福の拍手をもらって、ぺこりと頭を下げた。
静香は、自分のチョコレート像には少々困り顔をしながらも、そっとフィルに
「おめでとう」
と、言った。
* * * * * * * * * *
パーティーの終わりは、何かいつももの哀しい。パーティーは好きだけど、パーティーの終わりは好きじゃないわ。と、ラズィーヤはいつも思っていた。日が暮れ始めた百合園女学院の中庭は、雪のおかげでいつもよりも寒い。雪だるまコンテストで作られた雪だるまたちが、愛らしい顔をして、馬車に乗り込む生徒たちを見送っている。
ラズィーヤはホストとして、一人ずつに挨拶を交わし、見送っていた。
静香の元には、可憐な姿の少女がひとり。真口 悠希(まぐち・ゆき)が決死の思いで訪れていた。悠希の必死の思いを、静香は黙って聞いていた。時折、小さく頷いたり、小さく首を振ったりしている。
「そんなに思いつめていたなんて、知らなかったよ。ごめんね」
静香はまず、謝った。生徒たちの思いを知り、常に生徒のためを思う静香にとって、何度も会う機会がありながら、悠希がまさか退学にされてもしかたがない、とまで思い詰めるまで気付いてあげることが出来なかったことに、ショックを受けたのだった。
「でもね。ボクはそういう方向で考えて欲しいとは思わないよ。そんなに思ってくれるのなら、だからこそ、この百合園女学院のために、ステキなナイトになってくれないかな。そのほうが、ボクもうれしい、よ」
「……はい」
悠希は静香の言葉に、涙で声にならない声で、返事をした。
静香はそんな悠希の涙を救いあげるように、そっと頬に触れた。その涙は、とても熱かった。
馬車ってっそれほど、実は乗り心地良くないよねー、と思いながら、小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)は思いながら、寒い中待ちぼうけをしていてくれた篠宮 悠(しのみや・ゆう)に、くすねてきたチョコレートやクッキーを渡した。
「で、楽しかったのか?」
「うん!美味しいモノたくさんあったり、百合園の娘たちも可愛かったしね♪」
「しかし、ほわいと・でい☆って、ああいうパーティーをするものじゃないんじゃなかったのか?」
ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)は納得しかねる様子で言った。周りの反応から、どうやら、ほわいと・でい☆が本来どのようなイベントであるのか察したらしい。
「ラズィーヤ様らしくっていいじゃない。楽しいのが一番よ♪」
椛はそういうと、ミィルの口の中にホワイトチョコをひとかけ、押し込んだ。
おしまい。
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