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ほわいと・でい☆

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ほわいと・でい☆

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第1章 れっつ!ぱーてぃー

 世の中、お金がすべてではないけれど、お金があれば出来ることっていうのが、けっこうある。と言うか、無茶が出来るということをラズィーヤはいつでも証明してくれる。お嬢様というのがいかに世間知らずかということも教えてくれるので、良い反面教師と言えないこともない。
 人工降雪機ならいざ知らず、本物の雪を空輸出来てしまうのは、パラミタ大陸広しと言えども、なかなかいない。ヴァイシャリーの家の名は伊達じゃないと言える。

 ほわいと・でい☆に雪がなければいけないなんていうルールはどこにも存在しないのだが、ラズィーヤの中では白=雪、だったらしい。案外短絡的な思考だ。
 それでもこの季節にそんなに大量の雪に触れる機会はないので、すでに百合園の乙女たちも大はしゃぎ。もちろん、他校生でパーティーに参加する人たちには馬車で使いを出していたのだが、白く染め上がった百合園の校舎を前にテンションも上がるというもの。
 さっそく、雪にぼふっと倒れ込んで天使を作る娘もいれば、小さな雪うさぎをいくつも作って飾っている娘もいる。予想外の雪に可愛いあの娘が冷えてしまわないように、とぴったり抱っこで温めて上げている娘たちの寄り添っている姿も愛らしい。

「あの、ラズィーヤ様、これが本当の雪なんですよね」
 鼻の頭を真っ赤にして、白い息を吐きながら、稲場 繭(いなば・まゆ)が、サロンへと入ってきた。
「そうですわ。みなさん喜んでくださっているかしら」
 ラズィーヤが答えると繭は可愛く、えへへー、と笑みをこぼしながら「とっても楽しいです」と言った。
「でも、パーティーが始まる前に冷えてしまいますわよ。みなさん、そろそろ一度サロンのほうへ来てくださるように伝えてくださいな」
「はぁい」
「ほらーやっぱり冷えたんでしょ?私が温めてあげるからー」
エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は、繭の肩にそっと手を添えると、中庭のみんなへと声をかけに出ていった。


* * * * * * * * * *


サロンの中には、明るい雰囲気が溢れていた。
ラズィーヤの提案で、ホワイト・チョコ・フォンデュのセットがテーブルの上に並べられているのだが、それを取り囲むフルーツや、カットされたバームクーヘンやカステラなども凝った形に切りそろえられている。乙女の小さなお口に合うように、小さくカットされたフルーツ類は、愛らしく、美しい皿に盛り上げられている。

静香とラズィーヤは、サロン全体が見渡せる場所にテーブルを置き、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)がタルトと共に差し入れてくれたローズティを口に運んでいた。
「そろそろみんな、集まったかな?」
「そうですわね。開催の時刻ですし、そろそろパーティーの始まりといたしましょうか」
 ラズィーヤ家のメイドがゲストたちに紅茶を配るのを見届けると、静香はカップの柄を摘み、
「バレンタインにはたくさんのプレゼントをありがとう。今日のほわいと・でい☆はボクとラズィーヤからのみなさんへの感謝の気持ちです。楽しんでくださいね」
 優雅にカップを持ちあげると、わあっと歓声が上がった。
「今日は、ほわいと・でい☆ということで白をテーマとしたパーティーにいたしましたの。しっかり食べて、しっかり楽しんでくださるとうれしいですわ」
 ラズィーヤがススメると、みんなはテーブルの上に並んだケーキやフルーツ、白い器から漂う甘い香りのホワイトチョコレートに目を向けた。
 
百合園女学院のサロンには、緩やかなクラシックが流れ始めた。
「静香校長先生、ラズィーヤ様、この度は素敵なパーティーを催し頂きまして♪」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が、金色の髪をさらさらとなびかせながら、二人のご挨拶に伺うと、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は、静香様から受け取ったフォーチュンクッキーを不思議そうな瞳で見つめた。
「変わった形のクッキーですわね」
「ほんとですね」
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)も、くの字型に曲がった、変わった形のクッキーを見て目の前でくるりと回してみる。
「静香様、これが“フォーチュンクッキー”というものですか?」
「そうだよ。中にみんなに想いを込めたメッセージが入ってるから、紙まで食べないように気をつけてね♪」
「あの……、これ、上手に出来たかわからないんですけど、静香様、受け取ってもらえますか」
 セリナは可愛いフィルムでラッピングされたクッキーを静香に差し出した。静香がありがとう、とにっこりとほほ笑むと、セリナは真っ赤になって俯いた。静香は俯いたセリナを見つめ、青い髪にそっと手をおいて、ぽんぽん、とした。
 静香は目の前で、ラッピングをほどき、一口、クッキーを齧った。
「うん。おいしいね!ありがとう」
「あの、静香様……ボクにも、フォーチュンクッキーをいただけますか?」
真口 悠希(まぐち・ゆき)は、おずおず、と静香様の前に進み出た。悠希は、静香の顔をそっと見上げた。セリナもそっと悠希の、後押しをしてくれる。
「うん。もちろんだよ」
 静香は変わらぬ笑顔で、悠希にクッキーを差し出した。

「ホワイトチョコレートのフォンデュなんて、初めて見たですよ♪」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、テーブルをにこにこ見つめながら美味しそうに光るフルーツを見つめていた。
「ヴァーナー、このイチゴとかおいしいと思いますわ。はい、あ〜んですわよ」
セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が、ホワイトチョコレートを絡めたイチゴをヴァーナーにあ〜ん、としてあげる・
「あ〜ん」
 ヴァーナーが小さなお口をあ〜ん、と開けて、もぐ。
「おねえちゃん、こっちこっち!」
サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)が、弾んだ声でヴァーナーを呼ぶ。
基本のバナナにチョコレートを絡めて、クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)とバフバフにも、はい、と差し出す。
「あ〜ん、だよっ」
 サリスがバフバフの白い毛をなでなでしてあげる。
「ん〜、チョコの香りだけでもし・あ・わ・せ、だよね♪」
遠鳴 真希(とおなり・まき)は、自分の焼いたクッキーを差し出しながら、ヴァーナーたちにそっとススメてみる。
「よかったら、これどうぞ」
「わ〜!ありがとう。おねえちゃん」
 クッキーとチョコレートの相性だってバツグンだ。クレシダは真希のクッキーを受け取って、さっそくホワイトチョコレートにちょんちょん。
「私も、もらっていいかしら」
高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が、真希の差し出したクッキーに、横から手を出した。
「瀬蓮ちゃんっ!!」
「あ。瀬蓮おねーちゃん、ごきげんようです!」
ヴァーナーもにこにことセツカにあ〜ん、のお返しをしながら振り返った。
「ごきげんよう。ホワイトチョコレートフォンデュってどう?美味しい??」
「おいしいです〜。チョコはどうしてこんなにあまくてしあわせになれるのかな〜」
「真希ちゃんのクッキーも美味しいね。真希ちゃんも食べなよ〜!」
 瀬蓮は真希の持っている袋から、クッキーを取り出して、チョコレートに絡める。
「はい、真希ちゃんも。あ〜ん」
「え……、あの、いいよぅ。自分で食べれるから」
「自分で作ったんだから、そんな遠慮しないの!ほらほら」
「あ〜ん、ですよ!真希ちゃん」
ヴァーナーたちもにこにこと見つめている。…っくん。
「ほら、美味しい」
 瀬蓮が真希の顔を覗きこむようににこにことほほ笑むと、真希は恥じらうように、俯いて小さな声で言った「おいしい、ね。あの、ありがと」
 瀬蓮には、伝えたいことがたくさんあった、けど。あとでゆっくりでいいかな、と真希は思って、みんなに頬笑みを向けた。
「わたくしも仲間にいれてくださいな〜♪」
小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)は、小柄なヴァーナーの背中からぺたっとはぐっときた。
「きゃんっ」
ヴァーナーがびっくりして、可愛らしい悲鳴を上げると、そこにはピンク色の髪の少女が、ヴァーナーの胸の当たり紙袋をふりふりとした。
ミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)が、椛を軽く小突いてヴァーナーから引き離そうとするが、椛は一向に動じる様子はない。
「あ…あの、はじめまして!です〜」
 ヴァーナーがはぐはぐされながらも椛に挨拶をすると、椛はやっとヴァーナーをから名残惜しそうに手を離し「ごきげんよう」と挨拶をした。
「百合園の生徒さんでは、ありませんわね」
 瀬蓮が尋ねると、椛は薔薇の学舎から来たことを告げた。百合園女学院の生徒は、なかなか他の学校に行く機会が少ないので、椛の話しに興味シンシンモード発動。
「薔薇の学舎って、どんなところなんですかぁ?」
 クレシダは白いバフバフの上から、ミィルを見上げる。大きな白いセントバーナードが近づいてきたのでミィルはちょっと引き気味。ほわいと・でい☆ってどんな日なんだっけー?
「ま、ま。その話しはゆっくりして差し上げますわ。わたくしのクッキーも召し上がってくださいな」
 椛はミィルの反応を面白そうに横目で見ながら、クッキーをススメた。
「おいしそうです〜!」
 みんなが椛のクッキーに手を伸ばしかけたその時……


「ちょっ!!し、静香様になんてこと、す、すするんどすかっ!!!」
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)の、慌てふためいた声がサロンに響いた。