イルミンスール魔法学校

リアクション

第3章　シーツの海はあったかです

　ぱふぱふ。
部屋中に敷き詰められた白いマットレスの上には、ふわふわと毛の塊のようなシーツがまるで波のように重なりあって、その部屋はまるで白い海のようになっていた。
　シーツというよりも、わたのような質感のもふもふした毛布のような毛足の長い布の感触をミルフィ・ガレット（みるふぃ・がれっと）は、手のひらでなでながら、ほら、お嬢様、とーっても気持ち良いですわよ♪と、神楽坂　有栖（かぐらざか・ありす）のスカートの裾をそっと引っ張って自分に手繰り寄せた。
「ほんとだぁ〜、ふわふわだねっ。ミルフィ、こっちだよー」
　有栖がさりげなくミルフィの手から逃げて、シーツの海に潜り込む。重なりあったシーツは、誰がどこにいるのかわからないくらい、あちこちでもこもこと誰かが動いているので、有栖は楽しくなって必死で逃げるフリをした。
「ふふっ。お待ちくださいませ。お嬢様♪」
　ミルフィの楽しげな声が、もごもごともシーツの中でくぐもって聞こえる。ミルフィが手を伸ばし、そばにあった細い腕を捕まえると……
「うわぁっ」
霧島　春美（きりしま・はるみ）はびっくりして、声を上げた。可愛い獣人の女の子ディオネア・マスキプラ（でぃおねあ・ますきぷら）が、丸い目をしてミルフィを見上げた。
「あら、ら。ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたわね」
　ミルフィはバナナやクッキー、チョコレートを小さな袋に詰めておててをぐーにしている女の子の腕を放した。
「ううん。ふわふわの探検、おもしろいよー！」
春美は新しいモノを発見した時と同じように目をキラキラと輝かせて言った。
「おねーさんは、百合園女学院の人だよね？ほわいと・でい☆にパーティーを開いてくれるなんて、楽しい学校だね！」
「静香様とラズィーヤ様は、生徒思いの優しい方たちですわ」
　ミルフィがにっこり微笑むと、春美はうんうんとうなずいた。ミルフィがつぶらな瞳で自分を見上げるディオをそっと撫でると
「ミルフィ〜〜、どこぉ？？私はここですよ〜〜」
　ちょっと心細くなったらしい、有栖の声がどこかから聞こえた。
「わたくしのお嬢様が待っているみたい。またね♪」
　ミルフィがもぞもぞ、とカンを頼りにシーツの海の中を行ってしまうと
「ディオ、キレイなおねーさんだったね！春美、デュオが人型になった姿も見てみたいなぁ。シーツに隠れて、誰にも見えないしさ、ここでちょっと見せてよ。ねっ」
「ここで？！だってそんな、今みたいに誰か来ちゃったらどうするの？ダメだよ。ぼく裸なんだから、恥ずかしいよー」
「だぁいじょうぶだって。こんなに広いんだもん。めったに人なんて来ないし、いざとなったら春美がちゃんと守ってあげるっ」
「ん〜……、でもさ、もしも。もしもだよ？人型になったぼくの顔が、あんまり春美の好みじゃなかったら、どうしよう。ぼく、不安だよ」
「ばぁかっ。そんなこと心配してたの？どんな姿だってデュオはデュオ。大好きな気持ちは変わらないよっ」
春美がぎゅっとデュオを抱きしめると、デュオはそのぬくもりに安心した。いつも自分を守ってくれる可愛い相棒。背中に回された手が、熱い……。
デュオは「ん？」と覗きこむ春美の顔を見ながら、そっと、人型へとその姿を変えていった。
いつものふわふわとしたデュオの感触とは違う、手のひらに吸い付くような肌の感触を感じて、春美はそっと目を開けた。
「なんだ、デュオってば可愛い顔してるんじゃない。正直、もっと生意気な顔してるんじゃないかって思っていたのよ」
　春美は照れくさそうに呟きながら、そっとデュオの唇に、自分の唇を重ねた。初めての感触に、デュオは熱くなるのを感じて、なぜか涙が止まらなかった。それは甘い、涙だった。

「お嬢様、今度こそ捕まえましたわよ♪」
　ごそごそ、っとまたもやカンを頼りに華奢な腕をつかむと「きゃっ」と驚きの声が上がった。如月　日奈々（きさらぎ・ひなな）は手だけをつかまれた状態で振り払うこともできず、固まっていた。
「ち、ちゆりちゃぁああああ〜ん」
　日奈々が怯えて、そばにいるはずの冬蔦　千百合（ふゆつた・ちゆり）の名前を呼ぶのと、ミルフィと千百合が、ん？あれ？なに？？とシーツを頭からはずしたのは同時だった。
「あら、日奈々様でしたの。申し訳ありませんわ」
　ミルフィは千百合を驚かせてしまったことを詫びた。
「あ……、ミル、フィさんでしたか……。ごめん…なさい。大きな声、、、出して」
千百合は相手がミルフィだったことに安心したと同時に、思わず大きな声で千百合を呼んでしまったことを恥ずかしそうに謝った。
「有栖さんだったら、あたし、もっと向こうのほうで見たよ」
　千百合は今、自分が来た方向のほうを指した。このサロンの続き部屋は広いので、一度見失ってしまうと、なかなか見つけ出すのが難しい。
「ありがと♪もぅ、お嬢様ったらどこ行っちゃったのかしら」
ミルフィは千百合にお礼を言うと、もぞもぞもぞ。愛しのお嬢様を探しに旅立った。
「びっくり、しちゃったね」
千百合は、日奈々の手をそっと取ると、安心させるように、自分の胸に当てさせた。
とくん、とくんと規則正しく響くその音が、日奈々をいつも安心させてくれる。
「意外とたくさん人、いそうだし、端っこ、行こっか」
暗に人の少ないほうに誘う千百合の気持ちに気付いているのかいないのか、日奈々は、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「はい、、、ですぅ……」と、控えめにうなづいた。

「ふっわふっわのシーツってすっごぃ、気持ちいいね！素肌にシーツは定番☆」
姫野　香苗（ひめの・かなえ）は、そんなことを言いながら、ごそごそとシーツの中で自分のお洋服を脱いで、素肌でシーツの感触を楽しみつつも、やっぱり少し恥ずかしい気持ちもあるのか、シーツをそっと身体に巻き付けます。
「ほらぁ、恵ちゃんもっ！気持ちいいよ〜」
　手を引っ張られて、ちょこん、と香苗の隣に座らされた峰谷　恵（みねたに・けい）は、香苗の白い肌から目線を逸らすようにして「寒くない？」と聞いた。
　ラズィーヤが「雪遊びから帰ったらこの部屋で温まってね、と言った部屋なので、むしろ服を着ているのほうが暑いくらいだ。
「んもう、寒いわけないぢゃんっ！それにぃ〜……」
　香苗は、ぐんっと案外強い力で恵を引き倒す。「寒いなら、温めて？」
　香苗は恵の豊満な胸に顔を埋めるように抱きつく。ぽわん、としてとても温かい。
「あら、今日は香苗ちゃん、セクシー路線？」
どりーむ・ほしの（どりーむ・ほしの）はシーツに包まった身体で恵にのしかかっている香苗の背中をつ、つーと指でなぞる。
「ふぁっ」
　思わず声を上げて、背後を見上げるとどりーむと赤い顔をしたふぇいと・たかまち（ふぇいと・たかまち）がこちらを見ていた。
「香苗さん……だいたん……」
「恵ちゃんの胸、気持ち良さそうね〜」
　どりーむは、そう言うと、香苗の横からむしゃぶりつくように恵の胸の上にダイブする。「きゃんっ」
「ごめんね。痛かった？……痛くないように、さすってあげるわね」
　どりーむは恵の胸にそーっと、円を描くように指先を滑らす。そしてもう一方の手でシーツの上から香苗の身体のラインをなぞるように、下から撫で上げる。
「……っや！」
「香苗ちゃんも可愛い声、上げられるんじゃない。や、じゃないでしょう？それに、ほら、一緒に恵ちゃんを可愛がってあげられる、こんなチャンスなかなかないわよ」
　どりーむは恵の胸に滑らせていた指で、一番敏感な部分を摘み上げる。恵が思わず喘ぎ声を上げた。
「ほら、他にも人がいるのに、こんな声聞かれたら恥ずかしいじゃない。ちゃあんとお口、ふさいであげないとね」
　どりーむはお先にどうぞ、と言わんばかりに香苗を促す。香苗は胸の高まりを感じながら、そっと恵の唇に自分の唇を重ねる。そのやわらかい感触に、思わず脳がぽっとなるのを感じる。唇が熱を持ったように、熱い。
「はぁ……」
　どりーむは緩慢な動きながらも少しずつ恵の胸を攻め上げていく。切ない吐息が漏れる恵のお口に、香苗は自分の舌でまさぐるように、彼女の感触を味わう。くにゅっとした舌の感触、小さくてキレイに並ぶ歯と歯茎の間に舌を這わせる。恵が小さく抵抗する手のひらを抑えつけて、今度は唇そのものを吸ったり、舐めたりする。恵がびくっと身体を震わせるそのたびに、香苗は小さな支配感を感じた。ゾクゾクとする感覚。
　バサっと、数枚の毛布が上からかぶされた。もぞもぞ、とふぇいとが潜り込んで来て、どりーむに身体をすりよせている。香苗が恵とのキスに夢中になっている間、二人の身体をゆったりとした手つきで、しかし的確に愛撫を重ねていたどりーむに、おねだりする。
「どり〜むちゃん…この子たちばかり相手にしないで…私も…私にもして…」
　ふぇいとは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、どりーむの頬に自分の頬を寄せて、どりーむからのキスを待っている。
「もうっ。まだぜんぜん楽しんでないでしょう？いいこに待ってなさい。あとで、いやと言っても辞めてあげないから、ね？」
　正座するふぇいとの太ももに手を置いて、すりすりしながら、どりーむは『おあずけ』した。

　バサッバサッとシーツがかぶさる音が聞こえて、その音に日奈々は身体をびくっとさせた。部屋のはじっこ。千百合一緒に寝転んで髪をなでなでしてもらっている時だ。
「だいじょぶだよ、日奈々。誰かがシーツ、ばさばさってしただけ。近くじゃないよ」
「う……うん」
　日奈々は目が見えない分、とても感覚的に優れている。千百合が自分の胸に日奈々の手を導き、鼓動を伝える、ほら安心でしょ？の合図だ。
「日奈々は、さ。あたしだけに集中して？」
　千百合はそう言うと、もう何度も重ねている唇に、それでも毎回心の底から愛おしい気持ちを込めて、そっと触れるようにキスをする。
「ほわいと・でい☆だし、今日はそのお礼をしてあげるね」
　千百合は可愛らしい赤い舌で、ちろり、と日奈々の唇を舐める。日奈々がどんなキスに弱いのか、千百合にはもうわかっている。ん……、日奈々が切なげな吐息を洩らす。
　いつもの優しいキスを、千百合は繰り返す。何度も何度も、その儚げな存在を確かめるように、包みこむように。
　いつも優しいキスを繰り返す千百合の舌が、少しずつ奥へと進入してくる。いつもと違う感覚に、日奈々は戸惑いを感じながらも、信頼する千百合に身を任せる。舌が舌の上を這う、ねろっとした感覚に日奈々はくすぐったいような気持ちの良いような、表現出来ない気持ちを感じる。腰の上のあたりが、うずっとした。
　千百合の舌に、たどたどしいながらも日奈々も応えようと努力する。舌が自分の思い通りに動かないもどかしさを感じながら、それでももっと千百合を感じたい、と思った。
　千百合はそんな日奈々の気持ちを感じ取ったかのように、唇を離して、そのまま首筋へと舌を這わせていく。ぴくん、と身体を震わす日奈々を愛おしそうに見つめながら、耳元で囁く。
「……いいよね？日奈々、大好きだよ」
　日奈々は答える代わりに、自分からそっと千百合の首に腕を回した。