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intermedio 貴族達の幕間劇 (前編)

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第11章 そして……

 そのとき、貴族の半ばは室外に避難しており、残りの大半は倒れており、残る者は恐怖や驚きに動けないでいた。
「……だ……誰か、運ぶのを手伝って! すみません、ソファを!」
 硬直から回復した静香が、アレッシアに駆け寄って、その身体を抱えた。生徒たちが手伝って、我に返った執事たちが用意したソファに横たえる。
「薬じゃな……まさか、自分で飲むとは……」
 昏倒したアレッシアを見て苦々しく呟いたのはミア・マハ(みあ・まは)だった。彼女はアレッシアの口に手を入れると、薬を吐き出させようと上半身を起こす。
 ほどなくアレッシアの口から胃液とともに大量の白い錠剤が吐き出された。
「奥様!」
「アレッシア様!」
 かろうじて避難していた使用人、控室にいた使用人、そして舞台の上の役者・スタッフたちが、悲鳴を上げて彼女に駆け寄る。
「奥様はご無事ですか!?」
「大丈夫じゃ、ちょっと薬を飲んでおるだけで命に別状はない」
 執事にそう言って必要なものを告げながら、
「寝室に運ぼう。信頼できる使用人以外は入れぬ場所の方が良かろう」
「あ、僕も……」
 同行しようとする静香に、ミアは首を振った。
「ここは任せて、校長は指揮を執っておれ。それから……あやつに気をつけてくれ。
こういう時は本性が出易いからのう」
 ミアが、視線で遠くの席で優雅に酒を傾けるビアンカ・カヴァルロを示す。
「あやつは生粋の貴族ではないな」
「うん、ありがとう。お願いするねっ……」
 静香は頷くと、倒れている貴族や使用人、生徒たちの救護所を作るよう、執事に頼み、残る生徒には彼らの手当てをするよう指示をする。
 そんな静香に、避難していたアウグストの罵声が飛んだ。
「だから地球人どもは嫌いなんだ!!」
「申し訳ありません」
 はっとして、彼の側に駆けつけ、頭を下げる静香の高等部に、アウグストはなお罵声を浴びせ続ける。
「お怪我はありませんか? 落ち着かれてください」
 急いで静香の隣に行ったフェルナンの、その差し出した少量の酒が入ったワイングラスを、アウグストは手で払った。床でグラスが砕け散り、ワインが流れる。
「お前もだ! 契約者になんぞろくな者はいないな!! どんなに上流ぶろうがやはり商売人は卑しい商売人だ!」
 アウグストは自分でも興奮している自覚はあるのだろう。大きな息を吐くと、肩を落ち着かせながら、メイド長に言い放った。
「いいな、アレッシアはシャンバラ人の医者に診せる。地球人、およびシャンバラの人間でも、契約者との接触は許さん!!」

 何とか謝罪をして、この場の収拾に携わることを許された静香は、アルコリアに近寄った。
「イケマさん。僕は悲しいよ。みんなに相談してくれなかったこと。それに……」
「相談はしましたわ。はじめは殺される前に殺せばいいと思ったのですが、友人に人が殺ぬのは駄目と言われて、折衷しましたの」
「うん、でもね、、貴族の方にも迷惑をかけたこと、何より同じ百合園のみんなを傷つけたことは、校長として、イケマさんには何らかの対応を考えなきゃいけない。処分は……ラズィーヤさんと相談するとして」
 静香は目に涙をためていた。
「何て言えば……僕が、強かったら……」
 力だけじゃなくて、自分に誰かの心を動かす力があったのなら、こんなことにはならなかったのに。
「アウグスト様は地球人がもともとお嫌いなのです。ヴァイシャリーの貴族である、という意識が強い方です。仕方ありません。後のことはまた相談して考えましょう」
 フェルナンが静香にハンカチを渡す。
「まだ、大丈夫、取り返せますよ。幸いと言っていいのかわかりませんが……事件は、終わっていないのですから」

 誕生日パーティは、そのまま中止となってしまい。貴族たちは帰路へ就いていく。
 彼女は呟く。
「最後まで見たかったな」
 オペラを見れたのは結局、第一幕だけだった。
 それでも、と終夏は気を取り直す。思い出せばまだ胸の奥が熱い。美しい歌声、すばらしい演奏。
 ……指が、ひとりでに動く。
 足が自然にリズムを取っていた。
 いつしか腕がバイオリンを奏でるように動いていた。歌声が静かに回廊に流れる。
 オペラ『騎士ヴェロニカ』第一幕、ヴェロニカのアリアだ。




 私が騎士である限り
 貴方とは結ばれることはないでしょう
 私の心は、身体は、忠誠は女王陛下のもの

 どちらの端にも結ばれれば
 私の心は引き裂かれてしまう 
 私は女王陛下に全てを捧げた騎士
 私の全ては女王陛下のもの

 次の冬よ、早く来て
 わたげうさぎも凍える息吹で
 ヴェロニカの花を枯らしてください



担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 シナリオへのご参加ありがとうございました。
 残念ながらオペラは第一部しか上演されませんでしたが、皆さんのおかげで、アレッシア・バルトリは無事、一命を取り留めました。
 ですが……さて、脅迫状を送ったのは実際は誰で、何のためだったのでしょうか。
 アレッシアは何故援助を打ち切り、ディーノの何が援助を打ち切らせたのでしょうか。
 そしてもう一つ。バルトリ家を真に狙っているのは誰でしょうか?
 それらは、皆さんの調査で、既にはっきりしています。

 ──ということで、お話は後編へ続きます。

 では後編の予定は……と言いたいところなのですが。
 申し訳ありませんが、後編の前に一本、イラストシナリオを挟ませていただく予定です。
 日程の詳細等は、マスターページにて告知いたしますので、お待ちいただければ幸いです。
 
 ちなみに今回「アレッシアに招待される」為に、自由設定に名家・貴族……など書かれた方の設定を採用させていただきましたが、このシナリオ限定となります。
 必ずしも他シナリオで認められる・その設定を利用したアクションが通るとは限らないこと、ご了承ください。

 それでは、宜しければまた次回お会いいたしましょう。