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リアクション
永井 託(ながい・たく)
あいさつもそこそこに彼女は本題を切りだしたんだ。
「さっそくだが、ヨン・ウェズリーについて知っていることを教えてもらいたい。
地球での戦歴などの背景的な話は省いていただいて結構だ。
たぶんも私もあなたと同様のものを知っているはずなのでな。
あなたが接触した彼について話してくれ」
特命を帯びてコリィベルにやってきたというロイヤルガード、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)大尉は、まじめそうな軍人さんだ。
きれいでまじめというのが客観的な事実なんだろうけど、彼女に会ったほとんどの人は、前部は外して、ただただまじめな人物として彼女を記憶する気がする。
凛としすぎていて、目の前にいるとこっちが身だしなみを整える鏡が欲しくなるくらいなんだもの。
しかも、そんな人がびしっと軍服を着てるんだから、威圧効果は抜群だ。
彼女とむきあった俺は、当然、すぐには普通に話せなくて、口ごもった。
ヨンさんについて話せる材料なんて、ほとんど持ってないのにね。
「あなたはヨンと接触し、話し込んでいたようだな。
目撃者が何人もいる。
その後、ヨンは所内から姿を消した。
あなたは彼となにを話していたのだ」
「特にこれといった話題もなくて、彼は、ビールを飲みながら、本を読んでいて、僕はそれを眺めて」
大変そうだけど、でも自由そうな大人だなぁ、と思ったりした気がする。
「犯罪者の護送にきたジャスティシアとその直後に行方不明になる受刑者との面会にしては、私には意味がなさすぎる気がするのだが」
「そうかもしれないけど、僕も、ヨンさんが消えてびっくりして、彼を探してたんだ」
あちこちに聞き込みしたりしてたら、ここのスタッフに呼ばれて、こうしてクレアさんと話すことになったんだけどさ。
「最初に伝えたが、もう一度、言っておく。
私はロイヤルガードとしての任務を帯びてここにきている。
あなたへの尋問も任務を遂行するための手段一つだ。
永井託。あなた自身がいま置かれている立場をあまり軽く考えない方がいい」
「軽薄なこたえで申しわけないけど、僕はもともと彼に興味があったんだよ。
不敗の悪魔ってどんな人なんだろうってね。
短い間でも話せてよかった。
あくまで僕の個人的な意見だけど、彼はここでは姿をあらわさないつもりじゃないかな。
もし、彼が自分の意志で消えたなら、ここですることは終わったって意味だと思うんだ」
「あなたの私見はおいておいて、彼が消えた状況をありのままに教えてもらおうか。
どうやら、彼に会うにはその謎を解く必要がありそうだ」
「僕なりの見解があるんだけど」
クレアさんは、黙って首を横に振った。
はいはい。事実を説明すればいいんですね。わかりましたよ。
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「密室での人間消失、か」
話を聞き終えた彼女は、ほんの少しの間だけ、遠い目をした。
「寡聞にして知らぬが、ここには、犯罪王や20世紀最大の魔術師といった連中も収監されているのか」
「誰ですかそれ。
僕は知らないな。
ヨンの消失は、僕は、部屋自体に仕掛けがあったと思っているんだ。
まだ、それは発見できていないけど、さっき、天井も外して調べてみたんだよ」
「天井裏には、なにかあったのか」
「別になにも。暗くて、狭くて、それだけだった。
うっすら埃が積もっていて、人が歩いたり、這ったりした後はなかった。
彼があそこから消えたのは事実だ。
あの部屋のたった一つの出入り口の前には僕がいた。
室内でなにかが起きたとしか思えない。
彼が姿を消すなにかがね」
「探偵もきている」
つぶやくと、いきなり、クレアさんは席を立った。
「あなたが、いや私たちが直面している謎は、探偵むきの問題だ。
ついこの間、知り合いからメールをもらった。
いま、ここには彼がいるはずだ」
「探偵。
そいつは頼りになる人なのかな」
僕も立ち上がる。これから彼女がどうするにしろ、僕もまだヨンを探すつもりだし。
「弓月くると。
少年探偵と呼ばれている。
頼りになるかはわからんが、私は、彼と介助者に会ってみることにする。
あなたは」
「とりあえず、僕も大尉のお供をさせてください。
弓月くるとは、知りませんけど」
介助者つきなんて、大丈夫か。