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リアクション
柚木貴瀬(ゆのき・たかせ)
俺は友達を大事する方かな。
よくわかんないや。
自分のことって本人は案外、わかってない場合が多いよね。外見とか性格とかさぁ。
だから俺も自分自身についての評価は、自信がないってことにしておく。一応ね。
コリィベルにくる前に瀬伊から聞いてはいたけど、実際、話してみると天ヶ原はすごくヘンなやつなんだ。
純粋で、わがままで、しかも泥棒なんだよ。俺はキライじゃないけど。
俺は天ヶ原に案内してもらって、彼の御自慢のメカを見学した。
そこには、瀬伊にみせてもらった資料にあった、みおぼえがある機械が組み込まれてて。
「こっちの専門じゃないから、完ペキには理解できないんだけど、ようするにキミは、学舎から盗んだ技術でこれをつくったんだよね」
「うん。
正確には、一部として使わせてもらってね。
天ヶ原メイは、薔薇の学舎で研究されていた新エネルギーの理論、技術を盗んで、パラミタ各地をさまよった後にコリィベルにたどりついて安らぎを得たんだ」
「まるで他人言だね。
安らぎを得たって、本当に、ここでキミは安心して暮らしてるわけ。
俺は別にいいけど、瀬伊はキミをこのままにしておくつもりはないと思うよ。
つまんないこと言って申し訳ないけど、これから、どうするの」
天ヶ原があっけらかんとしてるせいか、俺もなにげに聞いちゃった。
「僕はただ遊ばせてもらってるだけだから、別に。
イコンもそうだし、新エネルギーにしてもそうだけど、君ら契約者たちこそ、どこへ行こうとしてるんだい。
パラミタをフロンティアしてどうしたいの。
いつかは、かって地球と同じように貧富の差がどんどん広がって、資源が枯渇して、ってなるだけじゃないのかな。
戦争はうすでにいくつも起きているし」
「だよねー。
人間はそういう生き物なのかもしれない。
たしかに、それは正論かもと思うけど。
さっきも話したけど、ジェィダス校長が子供になっちゃったりとか、俺の身のまわりでも、毎日、けっこういろいろあって、それなりに楽しいから、心配はしてないよ。
楽しかったら、それでいい」
「となると、なにを持って楽しいとするかが問題だね。
楽しい、か。
事象を楽しく感じる感性においては、貴瀬はタフそうだから、きっと平気だろうね。
ねぇ、君に秘密を教えたいんだけど、いいかな。
君は口は堅いかい。
約束を守る人かな。
友情は大切にしているかい」
話しているうちに、予想してなかった展開になった。
天ヶ原は、俺に秘密を教えてくれるみたい。
どうしよう。
聞かない方がいいの?
教えてもらった方が楽しいかな。
秘密って一口に言っても、不思議なものも、本人以外にはなんでもないものも、不幸なものもあるから。
知ってしまうまで内容は、わからないし。
「キミは学舎から新エネルギーの理論、技術を盗んだ泥棒だ。
普通の人じゃないよね。
キミの抱えている秘密は、きっと、面白いと思うな。
俺は、自分が友達思いかどうかわからないけど、キミの秘密を知りたい。
天ヶ原は、俺に教えてもいいの」
彼は黙って頷くと俺の手首を握って歩きだした。
母親に連れられた子供みたいに、俺は彼にくっついて、あるドアの前まできたんだ。
彼は俺の手を金属製のまるいドアノブへ導いた。
「新エネルギーよりも、僕には人間の友情や愛情の方が不可思議に思える」
「人の感情には、こうすればOKって、完全な正解がないから?」
俺がノブを握ると、天ヶ原は手を放して、後ずさる。
「開けて。
いつか誰かに開けてもらおうと思ってた。
いまが正解なのかはわからないけど、そろそろいいんじゃないかな」
「ドアを開けて、いいんだね」
ここに天ヶ原の秘密がある。
少し怖い気もしたけど、俺はわくわくしてノブをまわしたんだ。