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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション



ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる) 茅野瀬衿栖(ちのせ・えりす)  若松未散(わかまつ・みちる)

私が大講堂を訪れた頃には、現場はそれなりに落ち着きをとり戻し、次なる混乱のスタートを前に、小休止をしている、そんな状況だった。
今日、ここコリィベルにいる間の私は、シャンバラ教導団第四師団水軍指揮官ローザマリア・クライツァールでなく、人権派弁護士ステラ・ウォルコット。
軍人の私が弁護士のマネをしても、口を開けばすぐにバレてしまうんじゃ、と思うでしょ。
こうみえても、弁護士の生態や裁判については、アメリカの名プロデューサー、デビット・E・ケリー制作の連続TVドラマでよく勉強してるの。
「アリー my ラブ」「ザ・プラクティス」「ボストン・リーガル」あなた、どれか一つくらいは、見たことあります?
私のオススメは、「ボストン・リーガル」ね。
道徳よりもお金。正義よりも勝訴を求める、敏腕弁護士さんたちのお話。
だから、ステラは、ボストンのクレイン・プール&シュミット事務所の出身です。
演劇一家の御曹司Mrシュリンプ。その死には、彼の一族の闇の部分が、きっとかかわっている。
殺害される直前の私との面会でも、彼は今回の収監に関して、裏があるのをにおわせていた。
私、FOXテレビの弁護士&法廷ドラマやそれ系の映画もたくさんみてて、いつか、自分が弁護士の立場で犯罪事件にかかわってみたかったの。
時が来たわ。
新カラスのメンバーのニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)の悪戯で損壊されてしまったシュリンプの遺体。
殺人容疑者のフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は、PMR(パラミタミステリー調査班)の人たちに取調べを受けている。
まだまだ他にもいくらでも、おもしろそうな要素が転がってるわ。
ステラさんとしては、どこから首を突っ込もうかな。
あーっと、緑のロングコートを着た長身の男性が、どこかで見覚えのある、かわいらしい女の子二人組にからんでる。
メガネをかけた男性は、痩せすぎで、ド神経質そうで、みるからに変質者っぽい。
弁護士としてというか、国軍の軍人として、いや一女性として、放っておけないな。
「演芸会に出演されたタレントの方たちですね。どうかされましたか。
私は、弁護士のステラ・ウォルコットです。
例え、芸能人相手のファンの方による行為でも、度をすぎた愛情表現は、人権侵害や犯罪にあたりますからね。
しかも、ここは場所が場所ですし。
大丈夫ですか」
「なんだよー。おまえはさぁー。
ボクは、ボクは、ボクの子猫ちゃんのみっちーやえりえりとお話ししてるんだぞぉ。
ボクは、ずぅーっと前っから、846プロを応援してるんだ。
弁護士なら、弁護士らしく、裁判所にでもいればいいんだ。
ここじゃなくて、ヨソへ行けよ。いなくなっちゃったみーにゃんを探してこいよッ。
ハアハアハアハア。
とにかく、どーでもいいから、ボクらの邪魔をすんなッ」
血走った目、口角泡を飛ばしながら私につかみかかろうとした男を女の子たち二人が、それぞれ左右の腕をつかんで抑えてくれた。
「私たちと一緒にいたいんなら、余計なトラブルを起こすなっーの」
「そうよ。BB(ビックブラザー)さん、私たちと探偵できるなんて最高だって言ったばかりじゃない。
ここで弁護士さんに暴行を振るったら、私も、未散さんも、今後の調査はあなたとは別行動をとらせてもらいますからね」
「ハアハアハアハアハア。
みっちーとえりえりにしがみつかれて、ボクは、幸せだあー。
あああああああ。
すぐ側で二人のにおいがするぅぅぅぅ。
ぬくもりが服の上からつたわってくるぅぅぅぅぅぅ」
「わかった。わかったから、落ち着け、この野郎。
至近距離で吠えるんじゃねぇ。耳が痛てぇだろうが。
しっかし、てめぇが筋金入りなのは、知ってるけどさ。ここまで、本物だとなんちゅうか、もう」
「ほら。ほら。
ね。
私と未散さんの側にいられて、今日はすごくラッキーでしょう。
だから、おとなしく、まじめに調査してね」
「う、う、う、うん。
ボクは、二人のために頑張るよ」
「申し訳ございませんが、お三人のご関係が私、よく理解できないのですが」
なんとなくわかる気もするが、事実を把握したいので、聞いておくことにする。
「私は846プロ所属の茅野瀬衿栖(ちのせ・えりす)です。
自分で言うのもなんですが、アイドルをしていまして、人形師と、探偵(助手)としての活動もしていて。
今日はここのステージに呼ばれたんですけど、事件が起きて舞台は中止になってしまったので、お友達の未散さんと、あと、お客さんとして席にいらした、以前から私たちを応援してくださっているBBさんと探偵活動をしようとしていたところなんです」
ミニスカートで、髪には大きなリボン。
人形師ということは、彼女は胸に抱えている三体の人形を糸で操作したりするんだろうか。
衿栖は、たしかに肌も髪もキレイなのだが、アイドルにしては少々、雰囲気が清潔で、知的すぎる気がする。
いや、別にアイドルに偏見があるわけじゃないんだけれど、あんまり賢すぎるカタい子は、男子に人気がでないんじゃないかな、と思うので。
「で、私が若松未散(わかまつ・みちる)だ。
846プロ所属の落語家。シュリンプの事件が起きた時には、ステージで噺をしてた。
衿栖とは、ユニットをやってる。
ユ、ユニット名は、えっと、その」
自分たちのユニット名をまさか忘れたのか、言いにくいのか、彼女は口ごもり、視線を私からそらした。
落語家の未散は、大きな瞳が印象的なアイドルっぽいおさな顔で、外見にあわない少年みたいなしゃべり方も、アンバランスな魅力になっている。
私の印象だと、かわいくてどこか危なっかしい未散はアイドルとして王道的なキャラクターで、大人びている衿栖は、アイドルというより、タレント、女優タイプなんだけどな。
「みっちーとえりえりのふ、ふ、ふ二人は、アイドルユニット「ツンデレーション」を結成してるんだ。
おまえは、「ツンデレーション」も知らないんだろ」
BBさんが親切に教えてくださいました。
はい。存じ上げませんが。それが、なにか?
衿栖は仕事としてわりきっている感じだけど、ユニット名を口にされた時の恥ずかしげな態度からして、未散はアイドル扱いされるのに不満があるみたいね。
きっと、落語家としての実力を認められてない気がして悔しいんじゃないのかな。
「ボクは、ここの住人だから、ここの情報にくわしいから、死神のやつが犯人だって知ってるから、みっちーもえりえりもボクと調査したいんだ。
ボクは、二人の力になれて、すごく、すごく、すごく、うれしいんだよ」
そーか。そーか。そりゃ、よかったですね。
二人の間で荒い息をしているBBは、正直、正視するのもつらいタイプ。
私が特別、心が狭いわけではなく、彼に会えば、誰でもそう感じると思うんだけど。
「ステラさんも、もし、よろしければ、私たちと一緒に調査しませんか」
衿栖が誘ってくれた。社交辞令かも。でも、それも悪くない。
「まぁ、なんだ。調査しがてら、弁護士稼業のおもしろい話でも聞かせてくれたら、私の今後の芸のこやしにもなるし、怪我の功名っう感じで。って違うか。
どぉーだい、おまえさん、あちきらと行くかえ」
はにかみ笑顔の未散にこう誘われたら、ほとんどの男の子はついてくだろうな。
地がアイドルなんだよね、この子は。
「おまえも、くるのか…。ハアハアハア」
行きません。
自分の獲物を横取りされるのを恐れる獣のような、猜疑と狂気に満ちた目をしたあんたがいるから。
「私はクライアントを探してみます。
殺人の第一容疑者や、他にも弁護士の力が必要な人がここにはいるでしょうし。
お二人とも、お気をつけください。
ここが凶悪犯の収監された刑務所で、あなたたちは普通にしていても、彼らを刺激する存在であるのをお忘れなく」
「残念ですね。
では、またいずれ」
「旅は道連れ世は情け、っうんだけどな。
渡る世間は鬼ばかり、とも言うか。
とにもかくにも、袖ふれあうもなにかの縁、今日はこれまでといたしましても、以後よろしくお見知りおきを」
礼儀正しく衿栖は頭をさげ、未散は落語家らしい口上をプレゼントしてくれた。
BBは冷たい視線のみで、コメントなし。
私は、彼女たちと別れて、他の人たちにも話を聞きに行くことにした。