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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション



アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)

あまね殿とくるとは、白髪の少年を連れて戻ってきた。
「アキラさん。お待たせしました。
先にきて、待っててくれたんですね。
彼は、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)さんで、くるとくんの、友達? でいいのかな。
いろいろあって、彼と一緒に探偵しなくちゃいけなくなったんです。
よろしくお願いしますね。
ほら、ニコさんもあいさつしなさいよ」
「うるさいなー。
そんな、ユーノみたいなこと言うなんて、古森はほんとに偽善者のいいおばさんだね。
僕はニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)
世間知らずの弓月の指導教官みたいなもんかな。
きみらの捜査ごっこに同行して、指導、サポートしてあげるよ」
寸足らずの小僧にエラソー言われても、説得力がないな。
たしかニコと言えば、マジェの切り裂き魔事件の時に模倣犯騒ぎを起こしたやつだった気がする。
うーむ。
もし、そうなら危険人物の彼を、あまね殿とくるとは、手元に置いておきたいのだろうか。
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)か。
探偵なのかい。
ふぅん。キミは正義の味方なんだねぇ。立派だね。
実は、僕は正義も悪も本当はどっちも信じてないのさ。
ところで、キミのお連れはなに。
正義の探偵さんには、似つかわしくない人物に思えるけど、気のせいかな」
ニコに言われるまでもなく、俺たちと共にいる人物が、ニコ以上に怪しげな雰囲気を漂わせているのは、百も承知している。
「アキラさん。そちらの方は、どなたさんですか」
あまね殿は彼を眺め、やや表情をこわばらせた。
「わしは連れてくるなと言ったのに、このドアホが、調査の役に立つかもといってのう。わざわざ引っ張ってきたのじゃ」
「ワタシもルーシェと同じですネ。危険な予感がするヨ」
魔法少女(外見は)のルーシェことルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)も、俺の上着のポケットから顔だけだしている身長28センチの少女人形、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)も彼を連れてくるのは、はじめからイヤがっていた。
それでも俺は、パートナーたちの反対を押し切っても、彼をくるとにあわせたかったんだ。

待ち合わせの場所と時間を決めて、くるとたちといったん別れた俺たちは、とりあえず、目の前の、ほんの数メートル先にいるコリィベルの医療チームとやらに声をかけられた。
「あなたたちも問診しましょうか」
「俺はアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
あんたちの呼び方だと外来になると思う。
こっちの魔女ルックはパートナーのルーシェ。
俺たちは特に診てもらう必要はない気がするんだが。
どうしてもと言うのなら、二人とも診てくれないか」
好奇心半分で、どうせここまできたなら、コリィベルの治療とかを体験してみるのも悪くはないと考えたんだ。
ルーシェも同じ考えなのか、異を唱えずに、俺の横でおとなしくしてたし。
「ふむ。人の道の間違えた人間を正常に戻す治療なら、こやつの膿んだ脳味噌も、きれいに消毒してもらえるのかのう」
「うぉぉぉぉい。
なにをされるか、わかってないのに、おそろしいことを口にすんじゃねぇ」
「でも、治せるもんなら、治してもらった方がいいんじゃナイノ」
俺の上着の胸ポケットの隠れたまま、アリスがまじめにつぶやく。
「特殊刑務所の専属スタッフだからのう。期待できるかもしれんな」
「じゃーついでにルーシェのツンデレも治してもらって、新しい流行の性格にしてもらおうぜ。
今度は、デレデレですかね」
「誰がツンデレじゃ!」
ぶれのないのハリセン一撃が俺をすぱーんと襲った。
最近のルーシェはハリセンの扱いになれて、周囲に他の人がいても、ためらいなく、コンパクトなフォームで、シャープに俺の後頭部を撃ちぬく。
いや実際は、カンベンして欲しいんだが、この件についてルーシェから謝られた記憶がないのは、こいつは俺の頭をハリセンで叩くのは当然だと思っているからだろうか。だろうな。
「デレデレもわしは聞いたおぼえがないのじゃが、それは、状況をわきまえず、ただ媚びているだけではないのか。
まったく実用むきではないな。
まだ、ツンデレの方が使える。しかし、わしはツンデレではないぞ」
「こうして側でみているとあなたたちは、重病患者の可能性があるわね。
では、二人とも、私の質問にこたえてちょうだい」
先ほど、あまね殿に問診していた、デキル女風の女医殿が、俺とルーシェを眺め、ほほ笑みかけてきた。
「げーむはお好き?」
「俺は、けっこー好きだ。先生殿は、PBWって知ってるかい」
「嫌いではないのぅ。しかし、3G通信は意外に使えぬ気がするのだが、電気、電波にばかり頼らぬで、ここらで魔法の力を使ったげーむ機を開発してみてはどうじゃろう。
パラミタの契約者の間では、人気がでると思うぞ」
「好きだケドー、ワタシ、小柄デショ。ボタンからボタンへ飛び移らないといけないし、操作が大変なのヨネェ」
俺にしか聞こえない小声で、アリスも律儀に返事をしている。
「どの回答も、反応アリと言えなくもないわ。
あなたたち、まんがはお好き?」
「好き。
21世紀を生きる普通の青少年としては、当たり前のこたえだね。
ついでだけど、アニメも好きだぜ。
家にTVやネット環境があれば誰でも視聴できるはずのアニメの方が、本を手に入れる手間のかかるマンガよりも敷居が高い気がするのはなんでだろうな」
「嫌いではないのぅ。
アキラの言葉を借りるなら、普通の青少年と契約したわしは、やつの本棚にある20世紀からのマンガの数々と自然に親しんでおるからな。
アニメの方はアキラがあの調子なので、あまり見はせんが、嫌いではないぞ」
「マンガも読むのが大変なのヨ。
アニメが一番楽でいいんだけど、アキラもルーシェもアニメよりもマンガを読んでる方が好きなのヨネ」
いまさらだが、この問診で進行を診断される病気って、そもそも、なんなんだろうな。
「かなり手ごたえを感じます。
マンガが好きなあなたちがお好きな作家は誰?
マンガ家でもかまわないわ」
「作家ぁ。えーっとえーっと。
マンガ家じゃなくて、作家でいくぜ。
俺が好きなのは、あ、あ、あ、あ、アガサ・クリスティーって、いたよな」
「ふぅむぅ。
作家か。まず、マンガ家は和田慎二じゃ。
和田作品をいま映像化するなら、「スケバン刑事」等にでてくる神恭一郎をイケメン俳優にやらせて、神を主人公にした作品を制作すれば、ヒットする気がするのう。
和田のマンガは、「ピグマリオ」も読んでおる。白泉社版の花とゆめコミックスがアキラの部屋にあるのじゃ。
小説の作家なら、時雨沢恵一あたりかのぅ。
「キノの旅」の絵師が黒星紅白だったのは大正解じゃったな。
アニメはまぁ黙認しておるが、「ブギポ」のように血迷いついでに実写化などせんで本当によかったと思っておるぞ。
わしはな、時々、キノの旅がライトノベルにカテゴライズされていることに幸せな気分になるのじゃ」
「ふーん。それはどうしてかしら」
「広くて、そして狭いラノベの世界にキノがいる意味は、ラノベ読者のこれから先の読書の旅をゆたかにする手がかりだと感じるのじゃ。わしは書店の電○文庫の棚にキノが並んでいるか確認するために、ごひいきのシリーズの新刊がでていない時でも、あの棚の前へ行く気がするのう。わかってもらえるじゃろうか」
「正直、よくわからないわ」
「それで、かまわんのじゃがな」
「そう? 世間の常識からはみだした行為じゃないの」
「読書とは自分の外を知るための行動であったりもするのでな。わしはその勇気を確認するためにも電○文庫の棚へ行くのかもしれぬな」
「ふーん」
「さてと、話すぎた感もあるし、今日は、これくらいにしておくか。おやすみ先生」
「おやすみ。魔女さん」
途中から、ルーシェと女医殿のやりとりが、それ風になった点から推察するに、女医殿は、実はかなりキノを読んでいるのではないのだろうか。
「ルーシェがそんなにキノに思い入れがあるなんて、俺は知らなかったな」
「ノリじゃ。
先生がエルメスっぽいあいのてを入れてきたので、つい口がすべってのう」
「ぼんぼやーじ」
作家の名前を思いつかなかったらしいアリスが、ポケットで奇声をあげた。
「最後の質問です。
自己診断して欲しいんだけど、あなたたち、自分は腐ってると思う?」
「むぅ。俺は、まだ、そこまでは行ってないと思うけど。
女医殿。あんたが診断してるのは、ひよっとして中」
病名を言いかけた俺の口を女医殿の手の平がふさいだ。
「言葉にしてはいけません。
ゆりかごの名物囚人たちをみれば、わかるでしょ」
「わしはどうじゃろうなぁ。自分ではよくわからぬ」
「アキラのポケットは蒸し暑くて、いまのワタシは、腐るというより発酵しかかってるカンジネ」
問診を終えた女医殿の視線は、ルーシェにだけむけられていた。
「そうねー。彼は大丈夫そう。
そして、自覚のないあなたは、非常に危険な状態よ」
「つまり、わしは、治療を受けねばならんのか」
「外来さんですけど、ちょっと入院していただきたいかなぁ、みたいな感じ」
入院となるとルーシェはゆりかごの囚人になるわけか。さすがに、それは困る。
「お言葉ですが、ルーシェはパートナーの俺が責任を持って看病しますんで、自宅療養にしてもらえますか。
薬もちゃんと飲ませるし、規則正しい生活を送らせますので、ご安心を」
「ダメよ。
選択肢はないの。ここでの私の診断は絶対」
医療チームの白衣の連中が俺とルーシェを取りかこんだ。
「わしは、なんなら入院しても別によいが」
「ダメだ。
へたしたら一生でられないぞ。おまえがその気でも、俺が認めない」
「アキラは、わしと離れたくないのか」
「わぁ。人生の転機を前にして、アキラとルーシェの関係が次のステップへと進もうとシテマスネ。キャー」
アリスには大地震かハリケーンに見舞われた感じだろうが、俺はただポケットを軽く叩いただけだ。
俺とルーシェが見つめあっている間にも、医療チームは包囲の輪をせばめ、それぞれ武器をだし、戦闘準備万端だ。俺たちの問診をした女医殿は、後ろにさがって輪の外からこちらを眺めている。
「診察結果を受け入れられない場合は、所内の危険分子として、しかるべき処置を行わせてもらいます」
「入院せねば、わしらは戦わねばならぬようじゃぞ。今回は探偵をしにきたはずじゃが」
「俺と一緒にいたかったら、戦え」
ルーシェは一瞬ためらった後、ハリセンを一閃し、俺の頭を張り飛ばしてから、医療チームにむけ、手をかざした。魔法で戦うつもりらしい。
俺は、那須与一の弓を構え、女医殿に狙いをつけた。
俺たちか医療チーム、どちらかが先に手をだした時点で戦いがはじまる。
中、長距離型の戦闘コンビの俺たちは、数のうえでも、状況的にも、圧倒的に不利だ。
だから、敵のリーダー格の女医殿にダメージを与え、場を混乱させて離脱する。
口にしなくても、俺の作戦はルーシェにはわかっているはずだ。
「待っていても仕方がないな。わしがはじめの一撃を放ってやってもよいぞ」
俺は頷きでこたえて、弓を引く腕に力を込めた。

「医療チームとまさに一触即発になった時に、場をおさめてくれたのが彼だった。
紹介するぜ。リチャード神父だ」
「父と子と聖霊の名において、みなさんの運命に幸あらんことをお祈りします。
はじめまして、リチャードと申します。
神の子として、その教えを広めるために、生かされている者です。
神はこのゆりかごにも当然、おられます。
みなさんが思うよりも、ずっと近くに。
私は、神様から直々に、コリィベルで布教活動を行うように、申しわたされました。
非常に残念にも、アキラくんのパートナー、ルーシェさんは、病に侵されています。
ここの医療チームは彼女に入院治療を求めたのですが、彼女はそれをお断り、あやうく無益な争いが起こるところだった。
本日、たまたま医療チームに同行していた私は、両者が刃を交える前に、提案をさせていただいたのです。
私がルーシェさんを治療しましよう、と。
私は彼女の問診をすぐ側で聞いていましたが、入院は最善ではあるが、絶対ではない、と考えました。
少年探偵弓月くるとくんのお友達である彼女は、ここでくるとくんと調査をしながら、私のカウンセリングを受ければ、じゅうぶんに回復すると思います」
リチャード神父は、金髪をスポーツ刈りにした好青年っぽい外見の人物だ。歳はまだ二十代だろうか。
濃いブラウンの瞳は、思慮深く、慈悲の光をたたえている感じに俺にはみえるが、ルーシェとアリスは、本人には聞こえないようにこっそりと、何度も、ヤバイ、おかしい、彼は危険人物ヨ、などと失礼なことをつぶやいている。
罰があたるぜ。
たしかに独特の近寄り難い雰囲気もあるにはあるが、神父だし、黒い神父服(スータンだっけ)も着てるしで、彼の個性というより、職業柄のせいだと思う。
「入院しなきゃいけない重病患者をあんたのカウセリングだけで治せるの。
心霊治療ができるんなら、あんたよっぽどすごい神父なんだね」
「少年よ。ありがとう。
きみのことは、ニコくんと呼んでもいいかな。私は、リチャード呼んでくれてかまわないよ。
信じてくれれば、私は期待にこたえてみませしょう。
医療チームが私のわがままを許してくれたのは、私は神の御加護を受けている聖職者だからです。
さっきも言いましたが、ここには本当に神がいるのですよ。
私は彼の直々の指示によって医療チームに同行していたのです。
彼は、私の罪を許してくれます。みなの罪も許してくれるでしょう」
ニコの手をとり、甲に口づけをしたリチャードに、ルーシェも、あまね殿も眉をひそめている。俺のポケットから顔をだしたアリスは、ゲーェエエエ、と吐きマネをした。
「キス、長すぎないかな。
僕の手はおいしいのかい」
「私は子供が好きでね。
ここでは子供にあう機会があまりなくて、久しぶりなので、つい。
きみの幸せを心から祈らせてもらったよ」
キスを終え、顔をあげたリチャードは、今度は唇を求めるかのごとく、ニコの頭に腕をのばした。
「ちょっとー。なんなのさ」
「なでてあげたくなってね」
ニコが体をそらしたので、リチャードの指を空を切り、そのまま、横にいたくるとのうえにおりる。
「少年探偵。
きみと遊んであげたかったんだ。
きみは、孤独だろう。
私は、孤独をわかちあい、きみと共に神に懺悔してあげるよ」
「Deliver Us from Evil」
「噂には聞いていたが」
くるとがささやくと、リチャードは膝を折り、少年にしても小柄なくるとと目の高さを合わせた。
「言いたいことはそれだけかな」
「2006年に製作されたアメリカのドキュメンタリー映画。
教会は、聖職者の児童性的虐待があった場合、隠蔽する体質を持っている。
米国の聖職者による児童性的虐待事件は、すでに十万件を超えてて、この映画では、ある神父が起こした事件を通じ、それらの実態をスクリーンに映しだした。
あなたが生きる世界では、児童性的虐待ははるか昔からの歴史を持つ文化にまでなっている。
映画の邦題は、フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜」
「それが、どうしたのかな。
映画の記憶を手がかりに、人のプライヴァシーに土足で踏み込むきみには、やはり、治療が必要ですね」
リチャードは、くるとを抱きしめ、立ちあがった。
くるとは抵抗しない。できないのか。
「みなさん。すいませんが、くるとくんの治療がすむまで、私は彼にかかりきりにならなければなりません。
私たちはしばらく席を外しますが、探さないでください。いいですね」
「くるとくん!」
リチャードに飛びかかろうとしたあまね殿をニコがおさえた。神父の片手は、くるとの細い首をわしづかみにしている。ニコの判断はナイスだ。
「だから、危険と言ったではないか。アキラは人がよすぎるのじゃ」
「くるとがゆりかごのどこに監禁されてモ、ワタシが隅から隅まで探して、必ず、見つけだしてあげるワ」
俺のパートナーたちは、ルーシェもアリスも少しも驚いていない。
「リチャード殿。くるとになにをするつもりだ」
ほほ笑みだけを返し、くるとを抱えたまま、リチャードはゆっくりと後ずさっていった。