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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)

血まみれで息もたえだえのところ悪いけどね、私はあんたに聞きたいことがあるんだよ。
「どうして、私の患者の首を切り落としたりしたんだい。あんたが、あんなふうにしちまわなけりゃ、私の治療であの人の具合もきっとよくなったのにさ」
ようやく見つけだした黒マントは、呼吸をするのも苦しげで、私の質問にこたえるのにも、ずいぶん時間がかかった。
「きみがパールで叩く前に、彼は絶命していたよ(僕はきみの邪魔をしたつもりはないんだけどね)」
「そんな言い草は認めないね。私がきちんと治療してりゃ、息を吹き返した可能性もあったはずさ」
「さあね。僕はブードゥーの呪術者ではないんで、死者を蘇らす方法はよく知らない(せっかく死んでるのに起こしてまわるのも無粋じゃないのか)」
「あんたの首切りのおかげで、私は、殺人事件の容疑者にされちまってるんだ。どうしてくれるんだい」
「死体を解剖すれば、きみが犯人でないのは簡単にわかるはずさ(きっと、いま頃、探偵の誰かが手をまわして、それくらいはしてるんじゃないか)」
どうみても死にかけてるってのに、口の減らないやつだね。
話してみて思ったけれども、こいつは本当に、私に悪意はないらしい。
しかも、ケガ人だ。医療従事者の私としては、みてみぬふりはしておけないね。
「とりあえず、わかったにしておいてやるよ。
さぁ、じっとしておいで。指一本動かすのもつらそうじゃないか。私が治してやるよ」
「追加ダメージは、かんべんして欲しいな(そんなに人殺しになりたいのか)」
「いいからとっとと傷をおみせ、治療してあげるって言ってるんだからさ!」
本意ではないけれど、バール治療以外の普通の治療法だって、私はできるんだ。
男のクセにこわがりやがって、情けないやつだね。
しかたないから、まずはバールなしでやってやるよ。
「頼むから強引に服を脱がそうとするのはやめてくれ(人気がないとはいえ、刑務所の廊下の隅で、いい度胸すぎるな)」
「患部の確認だよ」
「げっ。またまた怪しい医者かよ。
やっと、兄ちゃんを見つけたと思ったら、女医に襲われてるとは。こんな場面にでくわすのも、俺クオリティの為せるわざか。となると、俺にも責任の一端が」
私らに近寄ってきたのは、白髪紅眼のアルビノちゃんだった。
「コリィベルのスタッフではなさそうだけど、あんた、黒マントの知り合いなのかい」
「正確には、こいつの妹の友達の友達ってポジションな。
ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)。長いからベスでいいぜ。
この兄ちゃんに会うためにわざわざコリィベルまできたんだが、なかなか会えねぇし、会えたらすぐ消えるし、そんでもまぁなんとかこうしてめぐり会えたわけだけど、バール姉ちゃん、あなたはどなた」
アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)
通りすがりの善意の医療従事者とでも思っておくれ。
バールは私の治療道具さ。
私は、バールで殴って人の病気や物の故障をたちどころになおすんだよ」
「うさんくせええええええええ。
兄ちゃんも嫌がってる様子じゃねぇか。
なぁ、ひとまずここは俺が、ヒールで応急処置をしてやるよ。
バール姉ちゃんを全否定する気はねぇが、あんたのやり方は、患者との信頼関係ないと、そもそも実行不可能な難易度Zな治療法じゃねぇのか」
「失礼な。
おい。私の患者に勝手にさわるなよっ」
私はバールを振り回して、アルビノを追い払った。
重傷の患者をわけのわからないやつにさわらせられるかい。
「なんだよ。
ほら見ろ。
ノロノロしてるから、ヤバそうなやつらが来ちまったじゃねぇか。こうなったら治療は後まわしで、兄ちゃんかついで逃げるか、ここで戦うしかないぜ」
ベスが指さした方向にいたのは、上半身にロープを巻きつけられ、両腕の自由を奪われた医療スタッフらしき白衣の背中の曲がった男と、彼を連行するような恰好で両側に立つ私のパートナーたち、それと純白のドレスの少女だったのさ。