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リアクション
月詠 司(つくよみ・つかさ)
俺に肉を食わせろ。
肉だ。人の肉を持ってこい。血のしたたる人肉を喰らいつくしてやるぜィィィィィ。
「グゥォォォォォォォ」
「もっとエサをあげないとうるさくってたまらないわ。シオン。司にかませる猿ぐつわはどこ」
青いドレスの女が、なにか言ってる。俺は、別におまえでもいいんだぜ。食わせろ。俺におまえを食わせろ。
「クロードの料理は、司、じゃなくてアギトの舌にはあってるようだけど、料理と料理の間が空くと、この獣やかましいわね。
ほら、これをこいつの口にはめて、後頭部でベルトを締めて。
ワタシはやらないわ。いやよ、よだれや口のまわりの血が服につくじゃない。マイト、あなた、おまわりさんよね。庶民を助けて、お願い」
「これは警官の業務とは関係ない気がするが。
ボールとゴムベルトの猿ぐつわとは。
本来はなんに使うものなんだ。シオンさんは、常にコレを持ち歩いているのか」
「パートナーのためにね。道具なら他にもあるわよ。あなた、使いたいの」
「ゲギュウウウウウウウウウウ。肉ぅぅぅぅぅ」
「猿ぐつわだけで結構だ。
こうなると、どこまでがアギト化の影響で、どこから薬のせいなのか、わからんな。
すまないな。司。
もう少しおとなしくしてくれ」
俺の、俺の口に、ボールが入れられたぁあ。
「危険な薬だわ。司が全部一人で食べてくれて助かったわ。運ばれてくるとすぐに飛びついたものね、私、皿まで食べるかと心配したわ」
「ブリジット。クロードさんのお料理は、やっぱりジャスティンさんも食べたくないようですし、私が厨房へ行って、もっと普通のお料理を作ってこようかしら。ねぇ。ジャスティンさん。まだお腹が減ってますよね。あの、さっきからどなたと話ししてるんですか。よかったら、そちらの方に、私も紹介していただけますか」
「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」
「声が小さくてなにをお話ししてるのか、わからないんですけど。私、橘舞と言います。ジャスティンさんのお友達さんですね。お姿はみえませんが、はじめまして、よろしくお願いしますね」
「舞さん。見えない人に自己紹介するのは、ちょっと」
「私、どこかおかしいですか。マイナさんにはジャスティンさんがお話ししてるこちらの方が見えるのですか」
「見えません。誰にも見えないと思います。ですから」
あーあー。メスどもがなにか話してるぜィィィィィィ。
ボールで開けっ放しの俺の口からよだれが、よだれが落ちるぅ、したたるぅ。
う。いいにおいだぜ。どいつだ。俺に食わせろッ。
「めずらしい食材で食事会をしていると聞いたのですが、ここでいいのですよね。
私は、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)。百合園女学院の雷霆リナリエッタ、リナのパートナーです。
同好の士がこんなにいるなんて、うれしいですね。
推理研のみなさんは、食の方でもミステリアスがお好きなのですね。大変、けっこうな趣味です。
実は、ここだけの話ですが、私は好きがこうじて以前、超大物俳優ダン・ジュロー氏を拉致監禁してしまったことがありましてね。ええ。彼は、シュリンプのお父さんです。愛の前には法律など無意味ですから。
あの時は、結局、食べられませんでした。
だから、こうして、彼の息子さんを口にできるなんて、幸運としか思えませんよ。
生でもいけるのですが、専門の調理人が料理してくださるのでしたら、それも味わってみたくて。
食することで理解も深まるのです。
シェフは、あちらの厨房ですか。フフフフ。
よかった。さっき全部食べてしまわなくて。材料を持っていけばいいのですよね」
新鮮な血肉のにおいがするクーラーバックを持ったそいつは、どこかへ行っちまったぜ。
理屈はいらねぇ。生でいいんだ。俺に喰わせろ。
「いまの人、筋金入りの愛好家よね。
クロードに調理してもらうために、わざわざ持ってきたんだ。シュリンプのカケラを。
これが好きな人、アギト以外にもいるのね。びっくりよ♪」
「類がともを呼ぶのね。おそろしいわ」
「この不道徳な宴を主催しているのは、叔父というより代表の気がするが」
どいつもぐちゃぐちゃうるせー。俺は喰いたいだけだ。それだけだぜィィィ。
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私は月詠 司(つくよみ・つかさ)です。胃もたれがして、気分が悪いのですが、なにを食べたのでしょう。
隣の席にいるシルクハットの紳士は満足気な表情で、腹をさすっています。
「おいしかったですねぇ。アギトさん」
「は、はぁ」
「あれだけ量があったのに、私たち二人で全部食べてしまいました。
他の人にはすまなかったと思います」
テーブルにいるのは、私、マイトくん、マイナさん、ブリジットさん、舞さん、私のパートナーのシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)さん、隣の彼、舞さんの横の少女。
「みなさん、私たちはなにをしているのでしょうか」
「あーら。正気にかえったの。
今日からあんたは、人食い司よ」
「シオンさん、またそんな冗談を」
え。なんですか、その冷たい視線は、なんて目を私をみるんです。私がなにをしたと。
「人間の隠された本性はおそろしいわね。人食い月詠司さん」
ブリジットさんに、フルネームプラスさんづけで呼ばれるとは。
「う、うううううううう、うげー」
腹の底から急にせりあがってきたそれを我慢できず、下をむいて床にぶちまけてしまいました。
「きゃー」
舞さんが悲鳴をあげ、横にいるうつろな瞳の女の子が彼女を抱きしめます。
私の嘔吐物には、どうみても、ぶつ切りにしたとしか思えない人間の指らしきものが。
「おやおや。それはなんですかねぇ。私たちがいただいたのは、豚肉料理のはずですから、きっとなにかの間違いですよ。
見なかったことにしておきましょう」
「うわあああああああああああああ」
紳士は平然としていましたが、私は絶叫して、数度にわたって嘔吐を繰り返しました。
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だいたい予定通りに到着できたようですね
私、ヒルデガルト・フォンビンゲン(ひるでがるど・ふぉんびんげん)は幻視を行う者です。
捜査のためとはいえ、忌まわしい宴に参列するのは、やはり気がとがめますので、私は予め幻視した宴の終了時刻ちょうどに、あゆみ、時尾さんの三人でこの場に参らせていただきました。
私の幻視は都合よく未来が見聞きできるものではありませんが、重要な意味を持つ事柄なら自然と心の目に映ってきます。
私たちの役割は、宴の後にここにきて、事実を告げること。
「ピンクレンズマンさんに言われるままに、あんたたちを頼って会いに来たんだが、本当にあたしを助けてくれるのかい。そんな力があんたたちにはあるのかい」
時尾さんの感想はもっともです。
現在ここにいる推理研の関係者は、ブリジット代表、舞さん、マイナさん、シオンさん、レストレイド警部、司さんの6人で、人数的にはともかく、周囲にはなまぐさい血のにおいと、あれ特有の酸っぱいにおいが漂っていて、初対面の場としては、あまりにもふさわしくないですね。
舞さんは薄っすらと泣いておあられ、司さんは両手で頭を抱えてうめいておられますし。
「お見苦しいところをおみせして申し訳ないわね。
めい探偵といえども、華麗に事件を解決するまでには、こんな隠れた苦労もあるのよ。
あんた、私たちを頼ってきたのね。事情をきいてあげるわ」
こんな時でもいつもと変わらぬテンションとオーラを保っているブリジット代表は気丈な方です。
私も状況に流されずに自分の役割を果たすとしましょう。
「時尾さんのお話の前に、私の話を聞いていただけますか。
すみませんが、時間がないのです」
「みんな、ヒルデの言葉を聞いてあげて。お願い」
あゆみさんがフォローしてくださって、ジャスティンさんも含め、みなさんが私をみてくださいました。
ジャスティンさんとは初対面ですが、私は彼女を知っています。幻視でお会いしましたから。
「みなさんは、世界は永遠だと思われますか。
空は、月は、星は、太陽は、永遠不変なのでしょうか。
そうですね。こたえは、いいえです。
ですが、私たち人間は、その短い人生の中で、それらに永遠を感じて生きています。
いずれは消える有限のものをは知りつつも、自らの一生でその終わりをみることはないものと考えて。
アレは、それを壊すものです。
神にも許されてはいない行為をしようとしているのです。
神とは、我々の内にあり、我々と共にあるものなのに、アレにはわかっていないのです。
己を神と信じきっているのでしょう。
価値あるもの、無価値なものは選別され目の前には出ては来ません。
毒と薬は分別する必要があるのです。
アレの蛮行は、じきに私のうえに降りかかります。みなさん、備えてください。
我々にもアレと戦う武器はありますが、まず、耐えるのです。時尾さんがもたらせてくれた情報と、ミディの側にある力、いま、アレの近くいる春美さんたち、他にも」
時が来ました。
突如、ゆりかごは激しく揺れ、私たちは床に投げだされたのです。
揺れは断続的に続き、止みました。
「みなさん、大丈夫ですか。ヒルデガルトさん、いまのはなにが起こったんです」
舞さんにこたえたのは、私ではなく、長い休養を終えたばかりの彼女のお友達でした。
「神を名乗る野郎が攻めてきたのよ。
上等じゃない。今度こそ、ぶっ飛ばしてやるわ。
姉ちゃんにも神のやつっけ方をいっぱいきいてきたしね。
やつを倒したら、あたしの分の報酬はちゃんともらうわよ。よろしくね」
「ジャスティンさん、あなた」
「ただいま、舞。お菓子、おいしかったわ」
こうして闘志みなぎる天才少女魔導師も仲間に加わり、私たちの戦闘準備はとりあえずは整ったのです。