校長室
早苗月のエメラルド
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気づいたら、いつの間にか砂の中に埋まっていた。 船が無人島へ漂着した時、未だ意識を取り戻していない者の中で、いち早く目を覚ました雅羅は、 自分の胸を枕に蔵部食人が意識不明の状態になっているのに気がついた。 それが故意であろうと無かろうと。 罪を犯してしまった者には等しく罰が下される。 「ダーリンてばもー、ホント困った人だなぁ。 キミ、ここは任せてよ。ボクが代わりに制裁しておくんだよ」 そう言って意識の無いままの食人をここに埋めたのは、彼のパートナーこと魔装侵攻 シャインヴェイダーその人だった。 こうして自身は少しも気づかないまま、砂浜に身体を埋められてしまった食人は、 彼の友人達が楽しくキャンプでご飯を作ったり、食べたり、 彼の仲間達が恋人とラブラブしながら過ごしたりしている間も一晩中、潮の満ち引きに戦々恐々としながら過ごし、頭を海藻とゴミで完全に覆われながら、 来る望みの薄い助けを求め、待ち続けていたのだ。 「こんな所にいらしたんですか!」 「無事で良かったねぇ」 「いやこれ明らかに無事じゃないでしょ」 彼を見下ろして口々に言い合う姫星らに、食人は咳払いをした。 「いや、い? いえ、違います。お……違、だから私は海藻とビニールゴミの妖精です」 「……ばればれよ」 ジゼルの呆れた声に、その場に居た全員が吹き出してしまった。 皆が笑いを止められないままで居る中、リースは小さな声でジゼルにだけ言葉を届ける。 「ジゼルさん、話しましょう。ちゃんと話して、戦いましょう。 貴女ならそれが出来るはずです」 彼女達の様子に気づいた和深は皆にある提案をした。 「とりあえずお茶にでもしようか」 * 「良い香りね」 「アイブライト、ハイビスカス、ローズヒップ、マリーゴールドその他諸々のブレンドだよ。 目がお疲れだったみたいだから」 優しく微笑む和深がどこからともなく出してきたティーセットで、砂浜は突然のアーリー・ティータイムになった。 「ちょっと癖のある味ですね」 「酸味がツンてくるのね、でもお陰で目が覚めたわ」 談笑する皆に、ジゼルは安心してしっかりした声で話しだした。 「私ね、怖いの。 今迄セイレーンが戦いの為に作り出されたなんて気にした事無かった。 けど……昨日鯨を見たときに、私が持ってる力がどういうものなのか分かったの。 何時か……ああして皆を傷つけてしまうかもしれないって思うと……」 「それがどうしたんですか?」 姫星はかちゃりと音を立ててカップをソーサーの上に乗せると声を荒げた。 普段は底抜けに明るくて、何より丁寧な口調で話す彼女だったから皆驚いて動きを止めて彼女を注視した。 「そんなことがどうしたっていうんです! 人間を殺す為に作られたモンスター?それがどうしました?! だってジゼルさんはジゼルさんです。そして私のお友達です。 私だって合成獣。似た様な物ですよ。 でも私はわたしです」 姫星の言葉に続いたのは食人だった。 「君は確かに周囲と少し違うかもしれないが、だからこそ君にしか出来ない事がきっとある」 「私にしか、出来ない事……?」 「お互い仲良くして行きたいと思う心があれば、それだけで十分。友達ですよ」 姫星に言われて、ジゼルは皆の顔を見た。 誰もが微笑みをジゼルに向けている。 「有り難うみんな。大好きよ」 ジゼルは席を立ちあがると、食人の前に膝をついてにっこりとほほ笑んで彼の頬にキスをした。 「ありがとう、海藻とビニールゴミの妖精さん」 お茶の時間を終えて、和深がやはり出した時と同じように魔法の様にティーセットを片づけると、皆笑いあいながら海岸を歩き出した。 ジゼルはキャンプの入り口で密かに彼等を待っていた刀真に視線を送ると、ありがとうと告げる様に小さく微笑んだ。 誰も居ない海岸。 一人の男が砂浜から首だけを出し、不安げに潮の満ち引きを見ている。 「……ところで俺、いつになったら出してもらえるの?」