校長室
早苗月のエメラルド
リアクション公開中!
「鉄心っ!!」 雅羅が彼女を庇って倒れた鉄心を抱き起すと、彼女の肩を大吾が掴む。 「酷な事を言う用だけど、今は」 「雅羅。ここは私に任せて」 理沙に言われて、雅羅は冷静さを取り戻し頷くと、操舵に戻って行く。 荒れ狂う波に斜めになった甲板で雅羅を庇い続けた鉄心はジガーマストの柱に強く打ちつけたのか、頭から血を流している。 「大丈夫よ、絶対に助けるわ」 理沙は冷静に応急処置を施していった。 あの鯨の手の攻撃を受けた瞬間。 前方フォアマストが破壊されて粉々に飛び散った。 エースが咄嗟に投げた槍は裕樹を支えていたザイルを破壊し、瀬山 裕輝が落ちてくる彼を受け止めた。 「全く、無茶したらあかんでほんま」 「悪い。助かった」 空蝉の術で倒れてきたマストを避けたレキがメインマストを振りかえると、ジゼル達に向かって破壊された柱やロープが、 鯨が暴れる風圧ででたらめな方向へ飛ばされて行く。 「ジゼルちゃん!!」 歌い続けるジゼルを、抱きしめる様にして庇った。 「指一本触れさせません!」 上から落ちてくる柱の一部は姫星は槍を回転させ防いでいる。 正面から来る木片を武器を両剣にして弾いていた雫澄の肩に、横からゴムが弾かれたような勢いでロープが飛びかかってきた。 雫澄はジゼルに触れさせまいとそのまま腕を犠牲にして耐えたが、それを見ていたジゼルは顔を青くしている。 「ジゼルさん、歌をやめちゃだめです!!」 リースの声に鼓舞されて、ジゼルは歌い続けた。 和深のコートを、姫星の羽根を、飛ばされたものが傷つけて行く。 ――もう止めて! お願い!! 悲痛な願いは歌に乗り、ディーバ達の元へ届けられる。 魂が呼応しあうように、七ッ音とさゆみは膝をついた。 「この歌、苦しい……!」 「――胸が、痛いよ」 二人の元へリカインと東雲がくると、背中を叩く。 「飲まれないで」 「俺達が彼女を支えるんだ」 四人が歌う声に、ジゼルの歌の音は安定を取り戻していく。 負傷者の数は少なくなかった。 彼等を治療する為に甲板をリアトリスとヴァイスが走りまわっている。 暴れ続けている鯨に劣勢の状況でも、刀真は勝機を掴もうとその背中の上に飛び移った。 「刀真が行ったわ! 皆、声を!!」 ルカルカがディーバ達に呼びかける。 船から届けられる怒りの歌と激励が刀真を後押しする。切札が彼に続いた。 刀真が一晩中続けていたイメージトレーニング。 それを以て、視線や態勢や攻撃時の前動作を見切った。 刀真はワイヤークローを首や身体に巻き付ける。 切札は鯨の歌の発生源を探ろうとしていた。 「歌は……腹部から響いている!?」 気付いたところで、海に使った部分に攻撃は届かない。 鯨が二人を攻撃する前に、切札は身体に巻きつけていたのロープを利用して戻った。 刀真も、永夜が伸ばしたツタを掴み船へ戻ろうとする、そこへ鯨の舌が刀真の背中を襲った。 「危ない!!」 と叫んだ、陽は、何故か刀真の代りに鯨の舌に向かって宙を舞っていた。 ――え? え? 状況を掴めない陽の目に、「いってらっしゃい〜」と手を振る託の笑顔が映る。 叫ぶ自分と、それを遠くから見ている自分。 陽の精神は二つに分裂していた。 ――ああそっか。僕ってば船底に逃げようとして託さんに捕まったんだった。 それで投げられて……投げられて…… 「うわぁあーっ!!」 ――死んだら、みんな、僕の事忘れないでいてくれるかな? 陽の頭の中に走馬灯が流れてゆく。 普通の子供だったあの頃。楽しかった日々。料理をしている自分。それからお母さん。 たった十数年だったがそれなりに幸せな人生だった。 「って死ねないよ!!」 陽は起き上がると、舌を掛け降りようと走り出した。 舌の上で跳ねる超小動物に鯨は気持ち悪さに顔を振りまわし上を向いた。 そこへ透かさずルファンの遠当てと、某の真空破が放たれる。 「って口閉じちゃうから、やめてやめてやめて」 叫びながら走り続ける陽。 暴れる鯨。 その時鯨の目の前に光の刃が飛んできた。永夜が放ったのだ。 眩しさに顔を避けた鯨の口から陽が落ちてくる場所へ貴仁は走って飛びこむと、上手い事キャッチして回収した。 そこへ託がやってくる。 「いや〜よく生きてたね、陽さん」 「うん、本当よかっ……じゃないよ!!」