リアクション
リアトリス・ブルーウォーター 『そろそろコンテスト参加者も残り少なくなって参りました。エントリーナンバー20番、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)さんです』 シャレード・ムーンが名前を呼ぶと、パンパンパンと手拍子が聞こえてきた。 棘を取り除いた赤薔薇をくわえて、リアトリス・ブルーウォーターが姿を現した。 エメラルドグリーンの鮮やかなマイクロキャミソールを着て、肩とおへそのあたりのくびれを大胆に出している。同じ色のフラメンコスカートは美しいひだを寄せた布が何段にも重ねられ、もう一輪の薔薇を持ったリアトリス・ブルーウォーターの手の動きによって美しく翻った。 ひらひらと激しく翻るスカートから覗く長い足で、リアトリス・ブルーウォーターが華麗で色っぽいステップを踏んで花道を進んで行く。ただ、なんだか必要以上に内股なのがちょっと気になる歩き方ではある。けれども、その動きに合わせて、ふさふさとした長い犬の尻尾がキャミソールとスカートの間から出てお尻のあたりでゆらゆらとゆれ、大きな犬耳のついた頭からストレートにのびた青い髪と共に、踊りの激しさを物語るように右へ左へと動いていた。 「なんで内股なんであります?」 スカートから覗く足を堪能しながらも、大洞剛太郎がちょっと疑問に思う。 タップの音で拍子をとりながら進んで行き、花道の突端でタンという決めの音をたてていったんポーズをとって静止する。 「はあ。なかなかスタイリッシュですねえ」 体形や動きにほれぼれして、ベアトリーチェ・アイブリンガーが言った。 再び歩き出したリアトリス・ブルーウォーターは、来たときと同じように踊るステップで、必要以上に内股になりながらステージへと戻っていった。 ステージではフラメンコの音楽が鳴り響き始めた。 「華麗に舞うよ」 くわえていた薔薇と手に持っていた薔薇を二人の審査員に投げると、リアトリス・ブルーウォーターが本格的なフラメンコダンスを踊っていった。 「さすがだ。ちゃんと、一挙手一投足に意味を持たせて踊っている」 指先一つにまで神経を配って踊るリアトリス・ブルーウォーターに、イグナ・スプリントが感心しながら言った。 「うおおー、圧倒されるぜ。パワフルだあ」 なんだかリズムに乗ってきて、アキラ・セイルーンが叫んだ。 やがて、タンという小気味いい音と共に突然音楽と踊りが終わり、会場は水を打ったようにシーンとなった。 「さすがは、世界一可愛い旦那様ですぅ。あちきも、気合いを入れないとぉ」 ステージ裏からそっと様子を覗いていたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が、気合いを入れた。 とはいえ、先ほど出番が終わったミスティ・シューティスと一緒に、二人ともまだ思いっきり着替え中の下着姿である。ミスティ・シューティスが可愛らしい白とピンクのシュミーズなのに対して、レティシア・ブルーウォーターの方はヒョウ柄のビスチェに紐パンツ、薔薇柄のストッキングとカーターベルトというちょっとアダルトな雰囲気だ。これも、既婚者の大胆さが成せる技であろうか。 『さあ、審査員の方々の感想はどうでしようか』 ステージでは、シャレード・ムーンが審査員に質問している。 『なかなか派手で、堪能いたしましたわ』 投げられた薔薇を帽子の脇に刺して、エリシア・ボックが言った。 『おしいなあ。煙にはよく分かるよお。会場の男性諸君、実に残念だあ』 なんだか、独り合点して、不動煙はうんうんとうなずいていた。 リン・ダージ 『続いては、エントリーナンバー21番、リン・ダージ(りん・だーじ)さんです』 「えー、ちょっと待て、いつの間に参加していたんだ?」 また聞いていないぞと、ココ・カンパーニュが叫んだ。 「さあ、いつでしょお」 自分も聞いていないと、チャイ・セイロンが首をかしげる。 「まあ、いいんじゃないの。なんだか、ジャワもいつの間にか参加していたし」 別にどうでもいいじゃないかと、マサラ・アッサムが言う。 「私は、聞いてないぞお! こうなったら、あたしも……」 「おねえちゃん、どうどう。ペコさん、手伝って」 「リーダー、どうどう」 なんだか自分も参加しようとしているココ・カンパーニュを、アルディミアク・ミトゥナとペコ・フラワリーがあわてて押さえた。 ゴチメイたちがもめている間に、肝心のリン・ダージがステージに現れる。 スケスケのネグリジェで、ピンクの下着が丸見えだ。ショーツは思いっきりのローレグだが、ブラジャーはほとんどサラシにしか見えない。みごとな幼児体形である。珍しく髪は解いていて、頭の左右にわずかに小さな角を覗かせていた。 「リンちゃん、なう!」 裸足で枕をかかえると、リン・ダージが花道をぺたぺたと歩き始めた。 「ふふふふ、こんなとこに集まっている観客なんて、アリスである本性を現したあたしにかかれば、イチコロよね」 なんだか自信満々で、リン・ダージが花道を歩いて行く。途中、鼻を押さえてふらふらしているコハク・ソーロッドを見つけると、立ち止まってぴらっとネグリジェの裾をめくって見せた。 「いろいろとちっちゃ……。ぶふぁ!」 「きゃあ、コハクさん!」 直接止めをさされたコハク・ソーロッドがひっくり返り、ベアトリーチェ・アイブリンガーの胸の中に倒れ込む。 「もう、面倒だなあ」 コーラルリーフでペチペチとコハク・ソーロッドの頭を叩きながら、テティス・レジャが面倒くさそうに回復を始めた。 「何をやっているんだか」 なんだか微笑ましくその騒ぎをながめつつ、大洞剛太郎がのんびりと水筒からお茶を飲んでいた。 「可愛い?」 のかなあと、ユーリカ・アスゲージが首をかしげる。 「いや、それはどうかと……」 「ちょっとはしたないでございますね」 イグナ・スプリントとアルティア・シールアムは、あまりエッチなのは気に入らないようだ。 「みんなー、リンちゃんをよろしくねー」 ステージから投げキッスをすると、リン・ダージが背中に小さな翼を出してパタパタとゲートの奥へと去って行った。 『リン・ダージさんでした。さて、いかがだったでしょうか』 『ふっ、こんな所に出てくるのは十年早いですわね』 シャレード・ムーンに聞かれて、エリシア・ボックが一笑にふす。 『残念です。すばらしく残念です。特に胸のあたりが、すばらしく残念です』 なんだか、凄く嬉しそうに不動煙が言う。 「どーいう意味よ!!」 すかさず、ステージ袖から枕が飛んできて、不動煙の頭に命中した。 |
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