蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

パラミタ・ビューティー・コンテスト2

リアクション公開中!

パラミタ・ビューティー・コンテスト2

リアクション

 

ブルタ・バルチャ

 
 
『エントリーナンバー16番、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)さんです』
うひょひょひょひょひょ……
 シャレード・ムーンに呼ばれて、がしゃがしゃと魔鎧姿のブルタ・バルチャが現れた。それをビューティーと呼ぶのには、もの凄い勇気が必要だ。土偶のような鎧姿の中にははたして何が入っているのかもしれず、ひび割れた亀裂からは深淵とこちらを覗き返す無数の目玉が見えるという。ただでさえ障気を纏っているかのような不気味さに、会場では泣きだす者が続出した。
「ひーん」
「見ちゃダメですよ、ユーリカ」
 さすがに、非不未予異無亡病近遠がユーリカ・アスゲージをかかえて慰めている。
「さすがに、これは酷いのでございます」
 アルティア・シールアムも、ブルンと身を震わせて言う。
「お許しがあれば、我が成敗して参りますが」
 剣の柄に手をかけて、イグナ・スプリントが非不未予異無亡病近遠に許しを請うた。だが、さすがそれはまずいと、非不未予異無亡病近遠が止める。
 会場全体がざわめく中、当のブルタ・バルチャは花道をドスドスと往復しながら密かに「計画どおりぃ」とほくそ笑んでいた。
 そのままステージに戻ると、何をするでもなく隅っこの方に座り込む。
『終わりですか? では、審査員の方々……』
 どうアナウンスしていいのか分からずに、シャレード・ムーンがさっさと審査員たちに振った。
『これのどこがビューティーですの? こんなのがノーンと同じステージに上がるなど、クレームを入れますわ!』
 エリシア・ボックはえらくおかんむりである。
『こ、これはあ。絶対残念賞に推薦しますう』
 なんだか、一人喜んでいる不動煙であった。
 
 
ステンノーラ・グライアイ

 
 
『それでは、気をとりなおして。続いては、エントリーナンバー17番、ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)さんです……。ステンノーラ・グライアイさん? おられませんか?』
 名前を呼びはしたが、肝心のステンノーラ・グライアイの姿が楽屋に見られず、シャレード・ムーンがちょっと困った顔をする。
「心配ない。スノーはボクがこれから呼び出すんだよ」
 そう言うと、隅っこで座っていたブルタ・バルチャが立ちあがった。何やら、一瞬ブルタ・バルチャの喉元が鈍い光につつまれる。
「おいでませー!」
 ブルタ・バルチャが、ステンノーラ・グライアイを召喚した。
 ステージが闇につつまれる。
「お呼びになられましたか?」
 ステージの中央が、ぼうっと淡い光につつまれた。月明かりや燐光に近い光の中に、ステンノーラ・グライアイの姿が浮かびあがる。
 枯れ木と髑髏を組み合わせた椅子に、手に持ったカーニバル用の仮面を顔に当ててステンノーラ・グライアイが腰をかけていた。
 豊かな胸をやっと収めている漆黒のビスチェの下は、ペタルスカートとなっていた。薄く透けたパネルが花弁のように幾重にも重なって、柔らかなふくらみを持つスカートを形作っている。だが、その裾は血に濡れた蜘蛛の巣のように解けた糸が絡み合っていた。そこからのばされた張りのある美脚は、蜘蛛の巣模様の灰色のストッキングに被われ、ハイヒールの編み上げロングブーツが足先を飾っていた。
 纏まりのよいプラチナブロンドは頭になでつけられ、後ろ髪は綺麗な縦ロールとなって背中を飾っている。その左側の一巻きには、大輪の青い薔薇の花が飾られていた。むきだしになった腕から肩、そして胸元にかけて、透き通るように薄いシルクが肌の上を被っている。その表面に刺繍された文様が、白い肌の上に金色に浮かびあがっていた。
「こ、これは……。先ほど汚れた目が、洗われるようであります」
 ブルタ・バルチャの姿を記憶からおいだして、大洞剛太郎がステンノーラ・グライアイの肢体に見とれた。
「やっぱり怖いですわ」
 どうにも、この妖艶な雰囲気になじめず、ユーリカ・アスゲージが非不未予異無亡病近遠たちにだきついて震えた。
「ようし、見せびらかしてこい」
「かしこまりました」
 ブルタ・バルチャに言われて、ステンノーラ・グライアイが手に持った棒の先についた仮面を顔から外した。極彩色の飾り紐と羽根飾りがつけられた玉虫色の仮面の下から、軽く目を閉じた貌が現れる。
 そのまま目を開けることもなく、ステンノーラ・グライアイが花道を歩き出した。
「凄い、美羽とはまた別の美脚です。これは、コハクさんには刺激が強すぎます!」
 刺激の強い物はこれ以上見せまいと、ベアトリーチェ・アイブリンガーがコハク・ソーロッドの腕を引っぱってだきしめた。たっゆんに顔を押しつけられて、コハク・ソーロッドが手足をバタバタさせる。
 花道の突端に辿り着くと、ステンノーラ・グライアイが優雅に腰を沈めてお辞儀をする。
「あっ、おい、ちょっと待て……」
 源鉄心が止めようとするのも聞かず、あんな美人があんなのにつき従っているだなんて許せないとばかりに、後ろにいたアサシン軍団が姿を消した。
「御苦労だったね」
「それでは」
 戻ってきたステンノーラ・グライアイにブルタ・バルチャが言うと、再び照明が落ちて、二人揃って姿を消してしまった。ついさっきまでブルタ・バルチャがいた場所には、何本かの投げナイフが突き刺さっているだけであった。
『ええっと、審査員の方々、評価は?』
『なかなかの美人でしたが、暗いですわ。何にましても、暗かったのですわ』
 エリシア・ボックが、やっと明るくなった会場にちょっとほっとして言った。
『残念ですよお。なんであんなののパートナーになっているのかあ。すっごく残念ですよお』
 不動煙が、もの凄く残念がる。
 ブルタ・バルチャの、自分を当て馬にして、同情されたステンノーラ・グライアイの評価を目一杯あげるという作戦は功を奏したようだが、はたして全体の中ではどのあたりに位置するのだろうか。