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パラミタ・ビューティー・コンテスト2

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ミルディア・ディスティン

 
 
『それでは、いよいよ最後となりました。エントリーナンバー23番、ミルディア・ディスティンさんです!』
 シャレード・ムーンに呼ばれて、メイド服姿のミルディア・ディスティンが静かにゲートから歩み出てきた。
 正統派のヨーロピアンメイド服を着たミルディア・ディスティンが、気配を消しつつ花道を進んで行く。黒を基調とした長袖ロングスカートのメイド服に、豊かにふくらんだ胸元から膝のあたりまでを被う白い大きなエプロン、頭にはプリム、袖には白いカフスをつけ、足許はショートブーツというオーソドックスな服装である。それゆえに、着こなしも完璧であった。
 足音をたてず、御主人の邪魔をせず、床に落ちているピヨの和毛を舞いあがらせることもなく、しずしずとミルディア・ディスティンは進んで行った。まさに、正統派メイドの極地である。
 まるで足も動かさずに床の上を滑っていっているかのようななめらかな動きで花道の突端に達すると、ミルディア・ディスティンがロングスカートの左右を手で持ちあげて、清楚なお辞儀をした。
「お帰りなさいませ、御主人様。では、こちらへ」
 まるで観客たちを案内するかのように、ミルディア・ディスティンが自然な動きでターンし、また花道を戻り始めた。今度は、人を案内するかのように、地味な中にもちゃんとした存在感を出して歩いて行く。
 さて、ステージに戻ってきたが、これといった芸もする気はないので、お辞儀してさっさと退場しようとする。
「いいえ、勝負はこれからよ」
 まだ押しが足りないとばかりに、お辞儀をしているミルディア・ディスティンの背後に、イシュタン・ルンクァークォンが隠れ身でそっと近づいた。
必殺、一閃服脱がし!
 イシュタン・ルンクァークォンが、ミルディア・ディスティンの襟元にちょろっとだけ出ている糸くずを思いっきり引っぱった。
「えっ!? ええっ〜!!」
 一瞬にして、ミルディア・ディスティンのメイド服がバラバラになって足許に舞い落ちる。
 下着姿になったミルディア・ディスティンが、呆然とその場に立ちすくんだ。
「ぢゃ、後は頑張って」
 役目は終わったとばかりに、イシュタン・ルンクァークォンが再び姿を隠す。これで、審査員や観客には、最大のインパクトで記憶に残るはず。それに、ミルディア・ディスティンならば、このくらいのアクシデントも、みごと乗りきってくれるはずだ。
「いやー!」
 我に返ったミルディア・ディスティンが、あわててその場にしゃがみ込んだ。
「眼福であります!!」
 最後の最後でいい物を見せてもらったと、大洞剛太郎が感涙に咽ぶ。
「きゃー、コハクさん、死んじゃダメ!」
 ぴくりとも動かないコハク・ソーロッドをブンブンとゆすって、ベアトリーチェ・アイブリンガーが叫んだ。
「早く治療を……」
「や、休ませて……。私の力だって、無尽蔵じゃないんだから……」
 何度目なんだとばかりに、椅子から半分ずり落ちるようにしてぐったりしたテティス・レジャが答えた。
「いしゅたんめ、こんな罠を……。でも、負けない。こんなこともあろうかと……」
 そう言うと、ミルディア・ディスティンがブラジャーの中に手を突っ込んだ。そして、パッド代わりに詰め込んでいたタオルを取り出すと、素早く胸と腰に巻きつけた。豊かだった胸がいつも通りに戻り、ブラジャーがずり落ちそうにはなるが、タオルでしっかりと巻いたので大丈夫だった。
 しかし、下着姿というのも恥ずかしいわけではあるが、これはこれでお風呂に入っているかのようで別の意味でエッチい。
「し、失礼いたします!」
 とにかく早く引っ込もうと、ミルディア・ディスティンはあわてて駆け出した。
 そして、ゲートの所でつまずいてお約束通りすっころんだ。客席にむかってお尻を突きあげた格好のまま、なんとか這うようにして楽屋へと逃げ込んでいく。
「いしゅたん、コロース!」
 下着姿のままでドタバタと、楽屋でイシュタン・ルンクァークォンを捜すミルディア・ディスティンであった。
『それでは、審査員の方々に今の感想をお聞きしましょう』
『あざとい! あざとすぎますわ。大胆ですわ!』
 シャレード・ムーンにむかって、エリシア・ボックが力説した。観客席でも、イグナ・スプリントとアルティア・シールアムがうんうんとその言葉にうなずく。
『いやあ、最後の胸の残念さは、評価するべきじゃないかなあ』
 ますます、判断基準――いや、嗜好が分からなくなってきた不動煙であった。