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荒野の空に響く金槌の音

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荒野の空に響く金槌の音

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■ 荒野の空に響く金槌の音【11】 ■



「という経緯でこちらのお手伝いをさせていただくことになりました」
 度重なるドジっ子ぶりに相性の問題かもしれないからとの励ましの言葉と共に、こちらに移動してきたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、すっかりしょげつつも、それでも、やる気は十分ですと両手を握り込む。
「ま、こっちのが遥かに簡単だろうし、名誉挽回と行こう」
「はい、マスター」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に慰められているフレンディスにジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)も目配せで、がんばろうと伝えた。
「おー、そうか。じゃぁ、手伝ってもらおうかな」
 匠のシャベルを持って土を掘り返していた新谷 衛(しんたに・まもる)は、こっちこっちと三人を手招く。
「まもたん、まもたん、ちっちゃなおいけをここにほしいんれす」
 緒方 コタロー(おがた・こたろう)の要求に衛は掘り返して山にした土の上に登った。コタローが此処に池をと地面を指す。
「池ー?」
「あい! こたのぼーえーけーかく(防衛計画)れは、こっちにしょーがい物があるろ、てきしゃんが来づらくなるれすお!」
「ぼーえー? ほうほう、蛮族防衛のための小細工ね……そりゃいい考えだわこたの助。それじゃ早速――」
 片手を挙手しているフレンディスに気づいた衛が、どうした? と首を傾げる。
「蛮族防衛って、この外遊びはそういう遊びも出来るようになっているのですか?」
「こたの助の考えではそうみたいだぜ」
「それでは、あの、僭越ながら提案があるのですが――」
 自分の経験から、こういう工夫も出来て、こうすれば遊びながら身体能力も伸ばせると力説するフレンディスの画面のない口頭だけのプレゼンテーションにベルクは思わず額を押さえた。いつものようにツッコミするべく口を開いて、
「え? それ、既に遊び道具じゃねーじゃん!」
衛のフライング気味ツッコミに先を越される。
「ふれんじすしゃん、それれすとあしょびじゃなくれ、くんれんになうれす。ねーたんや、まおたんが、きょーのーなん(教導団)にいた時に、してたのといっしょれすお……」
「……確かに、コタローとマモルが言うとおりだな。身体を鍛えるどころか、生傷が絶えなくなるぞ、そんな遊具じゃ」
 フレンディスが提案したのは、例えば子犬時代の犬を修行と称し崖から突き落とす様なもので、実際そんな過去があったりするが、それと同じことをこの場で再現すると、子供には危険すぎて無理だと即却下となった。例え設置できても、対象年齢がドーンと高くなってしまい、結局遊べずに終わりそうである。
「え、あ、うー……」
 コタローとトドメの緒方 樹(おがた・いつき)の言葉に、フレンディスは自分がまたやってしまったのかと思い、僅かに顔を赤くした。
「べるべる、トンチンカンな彼女持つと大変だな。 ……コレ居るか?」
 どこから取り出したのか慰めにトマトジュースを差し出され、心配していた通りの、むしろお約束なフレンディスの言動にベルクは、それこそどこからトマトジュースを出したと衛に乾いた笑みを向けて、それを受け取った。
「で、マモル、私……私達はどの辺りを手伝えばいいのだ?」
「おう。いっちーとオレ様はペンギンアヴァターラ達と一緒に穴掘りと山作りで!」
「穴掘りと山作りだな。わかった」
「んで、ふれにゃーとべるべる達には」
「まもたん、ちっちゃなおいけ!」
「わーってるって、こたの助と一緒に池作りを手伝いしてくんねぇかな?」
「わかりました。お任せください!」
「……フレイが心配だ。よし、ほら、ジブリールも一緒にやるぞ」
「う、うん」
 役割分担が決まった。
「おっしゃ建築工兵の底力、見せてやんぜ!」
 衛の一声に、皆もまた腕を上げて応えた。



…※…※…※…




「ああ、元気になられてよかったです」
 しょんぼりしたフレンディスの背中を見送っていたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は、皆で作業の再開の旗揚げをしている姿を見て、ほっと安堵に胸を撫で下ろした。
「大丈夫みたい?」
 同じく心配してくれた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)にジーナは頷く。
「大丈夫そうです。ワタシ達も続きをいたしましょう」
「はい。あともう少しですしね」
 本体はまだ未完成。ジーナとベアトリーチェの二人は急ピッチでレンガの組み上げを仕上げていく。
「ダーくん、こっちの丸太もお願いできる?」
「おう、任せとけ!」
 チェーンソーを持った大鋸が、これは得意だと、にやりと笑った。
 レンガの繋ぎ剤が固まるまで、椅子とテーブルを用意しなくてはならない。同じ太さの丸太を縦に割り、釘で固定。表面をサンダーで削って仕上げ材を塗る。
 数年置いて乾燥させているがそれなりに重たい手製のログテーブルを大鋸と二人で持って、美羽は最初に目をつけていた場所にそれを設置する。
「で、ベンチ型の椅子はこっち。個別のはこっちだね」
「美羽、これはどうするんだ?」
「あー、それはね……!」
 日の傾きにベアトリーチェが気づいた頃、井戸の修復が完了し水が使えるようになった知らせが入る。
 時間的にそろそろ頃合いだろうか。
「キッチンは入れますでしょうか?」
「様子を見に行きましょう。大変な様でしたらそのままお手伝いできるかもしれません」
 ジーナとベアトリーチェはこれからが自分達の本領発揮だと現場を変えるため必要な道具を纏めた。
「あー、じゃぁ、火の用意するね!」
「お願いします」
 美羽の最終目標はお疲れ様バーベキューである。出来たー! 完成ー!では終わらない。
「美羽ー、炭はどこだ」
「あ、うん。こっち。こっちにあるの!」
 呼ばれた美羽は慌てて資材置場に大鋸を誘う。大鋸は重いだろうからと美羽から炭の入った紙袋を奪い取るような勢いで貰い受けた。
 重いものを持たずに済んだ美羽は着火剤等の小物の入った軽い箱を抱える。



…※…※…※…




「まぁまぁ、かねぇ」
 両手を腰に当てて、出来栄えを鑑賞する弁天屋 菊(べんてんや・きく)
 キッチンと食堂とを阻む壁の撤去から始めた大改装はなんとか終了した。
 最初にこれだけはと絞り込んでいたノルマはクリアしている。
 途中外壁が丸ごと取り除かれた時は驚いたが、そのまま注文を付けて、勝手口を今までのより扉ひとつ分幅を広げ、開けた時にキッチンに風が入り込まないよう二重扉の通路に作り変えてもらった。
 最後まで悩んでいた背の低い者も一緒に調理ができる調理台の工夫だったが、踏み台だとバランスも悪いし歩きにくいだろうと、最終的には作業テーブルの一辺の床を盛って同じテーブルで作業できるようにした。
 それと発電機が置かれると聞いていたので配線を引いてもらって、将来家電製品が使えるように設置場所も用意しておいた。電力等の問題があるはそれは孤児院で今後の事と考えてもらえばいい。今形だけでも準備しておけば、設置費分くらいは節約できるだろう。
「まぁまぁだねえ」
 壁を撤去し、オープンキッチンとして、カウンター越しに食堂と直接空間を繋いだ開放感は清々しい。様々なうさぎさんグッズが見えるということは食堂のどこに子供がいても見渡せるということだ。キッチンに立つ孤立感が払拭されている。
 急ピッチの一日作業だったが、やはり、出来は上々と思える。
 満足に一度頷くと勝手口が開いた。
「あの……うわぁ、凄いですね」
「素敵ですわぁ」
 汚れが目立たない色に塗り直され統一感が生まれているキッチンの様子にベアトリーチェとジーナが感動に声を漏らした。
「おー? なんだい? あたしに用事かい?」
「あ、いえ。井戸が利用できるようになったそうです」
「そうかい。水が使えるようになったのか」
「はい。それで時間も時間なので……」
「話は聞いてるよ。バーベキューをするんだって? あたしも手伝うよ」
「いいんですか?」
 ベアトリーチェに菊はにやっと笑った。
「せっかく改装したんだ。自分で試してみたいじゃないか」