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荒野の空に響く金槌の音

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荒野の空に響く金槌の音

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■ 荒野の空に響く金槌の音【4】 ■



 康之からカメラを託され、外周を回って建物の最後の姿を画像に残している破名は、院の前でずらりと並んだ、大量の建築材料や野菜の種や苗、樹木の苗木、ミニショベルカー、機晶兵、それを満載していたトラック数台に、きょとんとした。
「大規模過ぎる?」
 その全てを持ち込んだ当事者であるルカルカ・ルー(るかるか・るー)に問われ、破名は頷く。
「見たことのないものばかりだ」
「え?」
「なんでもない」
 ルカルカが持ち込んだもの以外にも、契約者達が運んできたり用意してきたものの半分ほどは破名はそれが何なのかすらもわからない。これがキリハならひとつひとつ自分が納得するまで説明を請うだろうが、そんなことはせず、ただ、純粋に「凄いな」と声を漏らす程度だ。
「所で何やってるの?」
「写真を撮っている。康之に改修前と後の写真を撮ってそれも報告書に添付したほうがわかりやすいと言われた。で、自分は中で作業がすることがあるから外をと任された」
「ふんふん。ん? じゃぁ、それ終わったら暇になるの?」
「ああ」
「じゃぁ、一緒にやらない? 土いじり楽しいよ?」
「…………」
「しないの?」
「やるなと言われている」
「それでそんな顔してるんだ。シケた顔せずに笑おうよ」
 近づいたルカルカは両手を伸ばし破名の両頬を「むに〜」と軽く摘んで横に伸ばした。
 残念ながら、笑顔、にはならない。
「律儀だなぁ〜。ルカの手伝いをするってことでいーじゃん」
 直に無理なら手伝いというワンクッションを置いて作業すれば良いと提案するルカルカにどう反応していいのかわからず破名は、ふと視線をずらした。
 破名に対し気不味さを覚えているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、どう会話の切り口を切ろうか考えあぐねいていた。
 彼は先日の破名が攫われた事件に助けに行けなかったのをすまなく思っている。
 あれは、もっと深刻で奪還にも心の解放にも手順や道具がるかと思っていた。
 だから、
「そんなに軽い程度のものだったのか……」
「俺も現金だなとは思う」
 何事も無く接してくる破名を見て拍子抜けたという心情は、返答が帰ったことで口に出ていたことにダリルは気付かされた。
「道具は所詮その程度が相応しい」
「破名その考えは……」
「だが、『言葉』が無ければ此処に戻ることも無かった」
 責任を取れと『言わ(命じら)れた』。破名が孤児院に留まっているのはその一言があるからこそだ。あの時あの場に引き止めてくれた契約者が居なければ、その言葉すら破名は受理もできず誰も追ってこれない場所に逃げていただろう。
「俺の為と気負わなくていい。ただ、心配してくれたことは素直に嬉しいと思う。ありがとう」
 キリハの「心配してくれる人がいるんですよ。忘れないで下さい」の言い聞かせがここにきてやっと効果を発揮しはじめているようだ。
「それより、もういいか?」
 頬を摘んだままのルカルカに破名は撮影の続きがあるからと断りを入れる。



…※…※…※…




「ダーくん。こっちこっち、こっちにお願いー」
「おう」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の手招きに王 大鋸(わん・だーじゅ)は紐で縛って纏められたコンクリートブロックを両手に下げると、指示された場所に運び、置いた。
「美羽、レンガはどうする?」
「レンガも運ぶよ。私も運ぶね」
 協力要請の連絡を受け取った美羽は修繕よりも新たに設置したいものがあると主張していた。
 『系譜』が小さな孤児院だと知っている美羽は、今回の様に来客が多い場合、食堂やキッチンだけでは手狭になり、下手をすると全員が入れない状況が生まれる。そんな時、外で食事等ができるならとても楽しいのではと考えたのだ。
 そして、外で食事と一番に思い浮かべるのはバーベキューだった。
 美羽はレンガ造りのバーベキューコンロの設置を言い出したというわけだ。
「どのくらいの大きさがいいかな」
「そうですねぇ」
 相談を受けてベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は思案に首を傾げた。



…※…※…※…




「あの、あそこにあるお皿って今使う?」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の第一声に、キッチンの引き出しという引き出しを開けていた弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、そちらに顔を向けた。
「使わないよ」
「じゃぁ、持って行っても大丈夫かな? お昼のご飯を配る時に使う食器のことで相談したら、食堂の食器は自由に使ってもいいって許可は貰っているの」
 一度に多くの食器を運べるように丈夫な木箱も借りてきたイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がそれを調理台の上に置く。
「キッチンが使えれば楽なんだろうけどさ」
 これから自分が弄るんだと言う菊にミルディアは大丈夫だと笑った。
「外でテントを張ってそこで調理……というより、盛り付けだけして終われるようにしてきたから大丈夫よ。気にしないで」
 ミルディアは、それにしても、と続ける。
「なんか本で見るおばあちゃんの家のキッチンみたい」
「そうだねぇ」
 古い家だから、当たり前といえば当たり前なのだが、特に竈が、そんな雰囲気を醸し出している。
「どこから直していこうかね」
 手直しする部分のポイントとして注意しておくべきことはないだろうか。
「まず人数が多いから一度に大量に纏めて食事を作れるようにしたいし、外も中もどの出入口も小さいねぇ。あとは……換気と、火の始末」
 料理人の目線から譲れない部分もある。
 でも、気になるところを弄り過ぎて、逆に使いづらくさせるのも本末転倒になってしまっていけない。
 利便性を追求しつつ、よく考えなくては。



…※…※…※…




「おい、怖がらせないように気をつけろよ」
 パラ実生徒会長の名声でもって暇そうなパラ実一般生徒を作業員として引き連れてきた姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、作業を手伝うため準備を手伝うシェリー・ディエーチィ(しぇりー・でぃえーちぃ)に気づき、ヤンキー達に注意を飛ばす。
 ただ突っ立っているだけでも威圧させるんだから。
 和希の一声に、整列することなく群れていた生徒達が「オウッ」と返事を返し、聞いたことのない短くて重い唱和にシェリーは一瞬だけビクッとした。
 アーティフィサーのガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)は、これとはまた違うが施設工事をしたことがある過去の経験を活かし、子供達が喜ぶような綺麗で楽しい外観になるように、先の学習室のミーティングで設計・リフォームの提案をしていた。
 出来上がった設計図に更に手を加えたり逆に削ったりする部分が無いかチェックを入れて、忘れない内にと皆を呼び寄せた。
 言葉短めに今回の注意事項を伝え、全員にヘルメットを手渡す。
「安全第一だ」
 シェリーやニカにも渡して、特に足元には気をつけるようにとガイウスは念を押すことを忘れない。