リアクション
…※…※…※… 「それでうさぎさんなの?」 「う、うん。 ……そう、なの」 うさぎさんグッズで飾られる食堂内で、はにかみ顔のネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)にシェリエはなるほどと頷く。 二階で内装作業をしていたフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)とシェリエはフェオルとヴェラに好みを聞きながら部屋のレイアウトを考えていたのだが、どうせなら同じく女の子で飾り付け作業をしているネーブルにも話を聞きに来ようと食堂に降りてきていた。 「えっとね……こっちは青い背景で雪兎の柄……でね♪ こっちは……ロップイヤー……でね♪」 「ろっぷ……? うさぎさんのおみみながい? ふぇおるのとんがってる……」 説明を受けて、狼系の茶色い耳を持つフェオルは自分のと違うそれに、うー、と小さく唸る。 ヴェラはネーブルに手に持った布を広げた。 「こっちのは、レースですの? 刺繍もうさぎさんですの?」 「うん……うさぎさんの刺繍。男の子でも……大丈夫なように……レースがないのも……用意してみたんだけ――」 「うさぎさんの刺繍があるほうがいいですわ! 男の意見なんて要らないんですの!」 兎模様にすっかりと虜になったらしくヴェラがネーブルをせっつく。選べるだけたくさんあるとわかれば、早く次のを見せてとせがみ、選べる特権を持っていると知れば、自分が可愛いと思ったものを遠慮無く推す。 子供の中では発言力が強い方なのか、自分が選んだものに文句は言わせないという自信に満ちていて、押し付けみたいになってはいないかと若干不安になってきたネーブルは、あのね、とヴェラの注意を自分に向けた。 「うさぎさん……嫌な子が居たら……言ってね?」 「大丈夫ですわ」 「本当?」 「ヴェラにお任せになって」 どうお任せなのか根拠がわからずネーブルは困った。別の箱を開ける。 「あのね……違うのも……用意してみたから……その…………黒うさぎさんのだけど」 代わりにと持ってきた黒いうさぎさんグッズを恐る恐る出すとヴェラの目の色が変わった。 「その……い、嫌だったら言ってね?」 「嫌なんて言うわけありませんわ! ネーブル様そんなに心配せずともお任せになって。このヴェラに逆らう輩などこの院には居ませんもの、やりたい放題ですわ!」 ザパーンと拳を振り上げたヴェラの背中に荒波の飛沫が見えた気がして、ネーブルはきょとんとした。 どうやらうさぎさんグッズはどれ一つ持ち帰ることなく済みそうである。 「子供の好みってはっきりしてわかりやすくていいわね」 ヴェラとフェオルそれぞれの反応を見てシェリエが笑った。 「だから悩んでしまうのよ」 「……そうね」 ヒントの一つも欲しくて、どんなのが良いかと聞けば「全て任せる」としか返してこない代表者に、シェリエを困らせるなと思うフェイは、んーと小さく唸る。 「どうせなら、それこそ私達が好む部屋ってどう」 「え?」 「だってほら、私達も女の子だし。だから、その、シェリエはどういう部屋……というか家が好きなのかな?」 「私の好きな家?」 「その、友達の好みはもっと知りたいってだけで、参考よ。他意はない……よ?」 聞かれたシェリエは、人差し指を顎に押し付けると、思考の為数秒間押し黙り、目をつぶった。 「そうね。木のぬくもりが感じられるのとか、好きね」 「木のぬくもり?」 「ええ。あと室内や屋外でもガーデニングが楽しめると嬉しいわ」 「そういうのが、好きなの……」 「ええ」 目を開けて頷くシェリエから好みを聞き出せたフェイは、その内容を心のメモに書き留める。 「結構重いなこのテーブル」 「でしょー。みんなでもちあげるんだよ。でもおにーちゃんたちはすごいね、ふたりだけで、もてるの!」 うさぎの置物を両手で抱えたフェオルは、難なく食卓テーブルを移動させる匿名 某(とくな・なにがし)を手放しで賞賛した。 足元から聞こえた声に某は何事かと驚くが、それがフェオルだとわかり、反対側で共にテーブルを動かしていた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に、一旦止まれと声をかける。 「側にいると怪我するぞ」 「ふぇおる、じゃま? これ、てーぶるのうえにおきたいの」 グラビティコントロールの重力操作で楽に持ち運びできるようにはしているが、テーブル自体は重たいままだし、フェオルは小さく、死角に入られると厄介で、この組み合わせはなんとなく不慮の事故という単語が連想できてしまい、この状況は歓迎できない。 「邪魔じゃないが、もう少し待ってろ。テーブルは邪魔だから動かしただけだから、元の場所に戻したら、その置物を飾ろう」 「はい。ふぇおる、あっちで待ってる」 危機は去ったと康之に目配せした某はふたりでテーブルを持ち直した。 |
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