リアクション
…※…※…※… 「こうして見ると随分年季が入っている建物だったんだなー。何時から建っていたのやら」 気候の差で傷み方は全然違うが、一見しただけでその古さは伝わる。 常に真っ直ぐ全力投球のフレンディスに請われるまま来てみたが、スポンサーが「建て直せ」と言いたくなる気持ちがなんとなくわかった気がするベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だ。 そんなスポンサー様は建物の改修という一大イベントにあっさりとお金を振り込んだという。既視感を覚えて知人の顔が脳裏を掠めるが、それは単にその知人がこの孤児院に寄付をしているというのを知っているからであって、他にも提供者がいるのかもしれないから、勝手に判断してはいけないと考えるのを止めた。誰から資金の提供を受けているのかと聞くのも品が無いし、援助を受けて然るべき施設に探りを入れるというのも変な話だ。これは考えた事自体忘れたほうがいいだろう。 「孤児院……小さいね」 ベルクの横で晴天の下目を眩しそうに細めたジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)が小さく零す。 「それに、そんなに孤児院って感じもしないね」 過去が過去だからか、比較対象を持ち感想を述べるジブリールにベルクはそうだなと同意する。 「古過ぎるしな」 どう見ても廃屋同然。この中で子供達やマザーが生活しているのかと思うと気の毒だ。 「マスター」 樹との会話を終わらせたフレンディスが二人に向き直る。 「私はジーナちゃんと共にかまど作りを手伝いたく思います!」 「かまどか」 「フレンディスさん、ベルクさん、オレも手伝うよ」 惜しまず二つ返事で頷く二人にフレンディスはいつものように丁寧に頭を下げる。 「マスターにジブリールさん、ご協力有り難うございます」 礼儀正しく律儀に、素直な性格そのままの感謝を示す姿は受け手に清々しい感情を与える。丹念に櫛付けられた長い乳白金の髪が荒野に吹く乾いた風に煽られまろむように膨らみ陽光を弾き、一層と空気の色を変えた。 タタタと駆け寄ってきたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は樹の前で立ち止まった。 「樹様〜、ワタシはあちらでかまどを作って、そのまま今回の作業をなさっている皆様に炊き出しを行いたいと思いやがりますです!」 どなたか手伝ってはいただけませんでしょうか、のジーナの呼びかけに、既に話しのついていたフレンディスが手を挙げることで応えた。 知らない仲ではなく、共に作業してくれると知ってジーナは思わず胸の前で両手を組んだ。 「手伝って頂けるのですか? ありがとうございますです! 早速取りかかりましょう!」 …※…※…※… 「結構集まったね」 トラックの荷台から降ろされ、種別ごとに積み上げられていく資材の間をゆっくりと歩きながら黒崎 天音(くろさき・あまね)の言葉にブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が同意と頷く。 「持ってきたお菓子はどうしようか。最初に見せたら食べられるかな」 ブルーズが荷物として持ってきているものの中には、カルシウムたっぷりのえびせん、ビスケットやマシュマロ、そして子供は沢山食べてはいけない蜂蜜というお菓子類がある。 今日孤児院に残っている子供が留守番組という事情を聞いて彼等の為にお菓子を用意してくれたのだが、相手は子供だ。見せたのが最後そのまま食べてしまうかもしれないし、行儀よく我慢しても頭にお菓子の事がいつまでも浮かび上の空になって、怪我をするかもしれない。 発見されること自体避けないと。 さてはて、隠し場所はどこにしよう。 …※…※…※… シェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)のために急いで来たフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)はふたりで部屋を見回っていた。 正確には匿名 某(とくな・なにがし)と大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の男二人も一緒に歩いているのだが、そんなことはフェイの頭から抹消されている。 今はシェリエとふたり、様々な広さの部屋を見て周り、どんなレイアウトにするか会話に花を咲かせている。 「そうね、なるべく広々としたレイアウトがいいわね。それにしても子供が居るから高いところに物を置かないようにしようなんて、フェイは気が利くのね」 「……そう?」 先に住んでいた住人の道具をそのまま使っているのがわかる年代物の家具の埃を払って、フェイはそうかなと首を傾げた。 フェイが触るタンスにシェリエはむぅと眉根を寄せる。 「重たそう。動かせるかしら」 「大丈夫」 任せてくれと、フェイは主張せずに主張した。労働力は二人も確保してきたから、好きなだけこき使って欲しい。 レイアウト変更なんて名無し野郎の力を使えばいいとフェイは思う。あいつのスキルはこういう時に無駄に役立つからだ。無駄に。 言葉少なめに方針を纏めている女子二人の後ろをついて歩きながら某は、んーっと伸びをする。内装に関しては、やっぱりこういうデザイン系は女の子の方がセンスがあると思い、女性陣に全て任せているのだが、ただついて歩くというのは暇であるし、ただ任せっぱなしというのも気が引ける。 「なぁ、シェリエ。シェリエが言うレイアウトにするなら、いっその事そのタンス……」 ディメンションサイトで空間把握、イノベーションからの経験から提案を持ちかけようとした某にフェイは振り返った。 「テーマが決まってから」 言葉短めに順番があるのと言われる。嫌だと断られたわけではないので、そうか、と返した。 「ついでに老朽化してないか調べてみるか」 綺麗になった部屋ですぐに不具合が出たなんて、かわいそうな気がする。問題のある箇所は今日の内に解決させるのがいいだろう。 あっちこっち視線だけで見回す某は、あっちこっちでシャッターを切る康之に気づく。彼の手にはデジタル一眼POSSIBLEが握られていた。 そう言えば修繕前と後の「びふぉーあふたー」の写真を撮ると言っていたか。今回のが一応依頼で受けていると聞いて、じゃぁ結果報告にするときに写真があるとわかりやすくていいんじゃないかと考えたらしい。 「張り切ってるな」 「なんか人事に思えなくて」 康之は某に「おう」と応える。孤児院出身の康之としては放っておけず二つ返事で着いてきた。細かいことは苦手だけど力仕事には自信がある。 いつでもなんでもござれと陽気に笑った康之。 そんな康之とフェイを交互に見て、ふたりとも気合が入っているなぁと、某は素直にそう思う。 「……それにしても、フェイはシェリエにべったりだな。思えば、シェリエが内装をするっていうからここに来たんだよな。あいつは、まったく、ホント、シェリエが好きなんだな」 独り言だったが、某はフェイが振り返ってみていることに気づいているのか、いないのか。 |
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