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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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 その間に、傍にいた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)も、要塞に突入した戦友の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)に、テレパシーで状況を伝えていた。
 優斗の傍らでは、イナンナの加護を受けた沖田 総司(おきた・そうじ)が、殺気看破で警戒に務めている。
 害意は、時々感じていた。
 ただそれは、アレナの話を聞いた役人たちから彼女へ向けられた害意、だった。
(紛らわしい者は近づけさせないに限る)
 総司は屋上の様子を見に来る役人たちからアレナを隠し、室内にいるようにと押し返していく。
「……え?」
 牙竜からの意外な返答に、優斗は思わず驚きの声をあげてしまった。
(では、お願いします)
 手短に相談を終えると、少し落ち着いたようであるアレナへと近づく。

(一つ、協力していただきたいことがあります)
 優斗はアレナを座らせながら、テレパシーで語っていく。
(『魔導砲を一発でも撃ったらアレナは自害すると言っている』という情報を、突入した方に、要塞で敵に流していただきます)
 アレナを失えば、敵にとっても2発目の魔導砲は直ぐには撃てなくなる。
 敵の破壊目標が天沼矛も含むなら、軽率に自らの兵器を使えなくなるリスクを負いたくはないはず。
 また、アレナへテレパシーを送ってきた人物の彼女への執着が強ければ強い程、自らアレナの身柄を確保するまでは、又は余程追い詰められない限りは、使用を控えようとするはず。
 そう、自分の考えを述べて、優斗はアレナに話を合わせてほしい、演技してもらいたいと、協力を求める。
(少しは敵の魔導砲の利用に対する時間稼ぎにできるはず)
「……はい」
 アレナの返事を聞いた後、優斗はその場にいる仲間にも声を出さずにテレパシーで作戦を伝える。
(そんなこと、アレナに言わせたくないけれど……)
 康之はアレナを案じて……そして、自分もアレナの口からそんな言葉を聞きたくはないと思いながらも、しぶしぶ頷いた。

 それから少しして、再びアレナの頭に男の声が響く。
 震えて、過呼吸に陥りそうになる彼女の左右の手の上に、康之とエレンディラが自分の手を乗せた。
 ヴァーナーは、後ろからアレナを抱きしめてあげる。
(こっち来る決心はついた? アレナちゃん)
 皆の温もりを感じながら、アレナは呼吸を整えて言う。
「私、は……行きません。あなたが魔導砲を1発でも撃ったのなら、私は皆と一緒に逝きます――自害、します。あなたに封印されたまま、生きてきて……本当に、辛かったです。早く楽になりたいです。死にたい、ですから、迷いはありません。今、一緒にいる人達も、知ってくれています。自害が出来なくても、仲間達が、私を殺してくれます」
 切々とした彼女の言葉からは、嘘は感じられない。
 周りの人も、信じてしまいそうになるくらい。
(そんな苦悩に満ちた君の顔を見るのが、とっても愉しいんだよね)
 男はそう答えただけで、それ以上は何も言わなかった。

○     ○     ○


「俺達も、避難させてもらうよ。女王陛下をサポートして、引き続き事件解決に尽力するつもりだ」
 役人達にそんな説明をして、ミケーレは百合子、そして大地達を引き連れて車に乗り込んだ。
 後部座席は外からは見えないようになっていたが、ミケーレは助手席に座ると言って聞かなかった。
(怪しい……というより、これは……)
 大地はミケーレの態度に違和感を感じるが、彼を知るために止めることはしなかった。
「お顔知られていないから、大丈夫だとは思いますが……」
 青い鳥も不思議そうにミケーレを見た後で、後部座席に、大地と一緒に百合子を挟んで腰かけた。
 高級車はゆっくりと走り出し、公道へと出ていく。

「!?」
 直後、気配を殺したままその場に残っていたシーラは、害意を感じ取った。
 高級車からではない……自分と同じように、高級車をつける者がいる。
 すぐにシーラは大地にマナーモードにしてある携帯電話をワン切りして合図を送る。
 青い鳥も殺気看破で警戒をしているはずだ。間違えてミケーレや百合子を拘束しようとしたりは、しないと思うが……。

 しかし、高級車が目的地に到着した時、尾行は既にされていなかった。
 ミケーレには囮となり、内通者を暴き出そうという考えがあったようだが、彼は何も語らずに用意された第二対策本部で百合子と共に仕事に勤しんだという。

○     ○     ○


「宮殿に残っている人達も、別の場所に移動することになったようです」
 宮殿の屋上で通信を担当しているエンデがアレナと、彼女をサポートしている皆に言う。
「残られる契約者の方から、室内に戻ってはどうだとお話が届いていますが、どういたしますか?」
 エンデの言葉に、アレナは青い顔のまま、首を左右に振った。
「私は、守るために、ここに……来ました、から」
 アレナはミサイルを迎撃するために、屋上に出たのだ。
「葵ちゃんが言ってました」
 エレンディラがそっとアレナに語りかける。
「アレナさんを呼び寄せようとしている方は、アレナさんがいるこの宮殿を中距離ミサイルで狙うことはしないはずだと」
 アルカンシェルからミサイルは既に何発も発射されている。
 空京駅、天沼矛は既に狙われたけれど、落さなければならないと言っている場所のうち、宮殿はまだ一度も狙われていない。
「それは、アレナさんがここにいるからです。アレナさんの存在が、ここに居る人達を守ってくれているんですよ」
「私、は……」
 声を詰まらせて、アレナは声にならない声で言った。
 もう少し、ここにいてもいいですか。
 本当に皆の傍で生きていても、いいのですか――。

「誰一人だって、傷付けさせないよ!」
 葵は、宮殿から少し離れて北方向へ飛んでいた。
 アレナの星剣が頼りにならない今、少しでも前に出る必要がある。
 ミサイルの破片1つであっても、人の命を奪ってしまう可能性があるから。
(イコンによるミサイル迎撃もあるはずだけれど……まだ配備されてないだろうし)
 それに、人質がいるとなると、軍は安易に近づくことも出来ない。
「かなり危険だけど……皆を守る為だもん、やらなきゃ!」
 生身で、アルカンシェルと鉄橋の間へと、葵は急いだ。

○     ○     ○


「ヒャッハー! 駅はダメだぜ、死にたくないヤツは、とっとと離れるんだなァ!」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)は、スパイクバイクに乗って、街中を走り回っていた。
「ヒラニプラ行きは出せませんが、地球行きの新幹線での避難は引き続き行われています」
 避難誘導に当たっていた警察官が鮪にそう説明した。
「行先の問題ねえんだ、細けえ説明をしている暇はねえだろ? さっさと協力しろつってんだ。と、信長のオッサンが言ってたぜ」
 鮪が指差す先には、織田 信長(おだ・のぶなが)の姿がある。
「この第六天魔王が直々の言に従えば大船どころか鋼張りの軍艦ぞ?」
 信長はチンピラにしか見えない鮪とは違い、威圧感がある。
「ミサイルがこちら方面に何度か放たれていることは知っているであろう? ここを潰すことが敵の目的ぞ」
 アレナが受けたテレパシーの内容は、信ぴょう性があるとは言えないため、末端までは伝えられていない。
 だが、街中で情報の中継点として、情報の送受信に務めていた彼らには、知り合いから連絡が入っていた。
「しかし……」
「ヒャッハー! ここはミサイルに狙われてるんだぜ! 何度も撃ち込まれてるのを知らないとは遅れてるぜ、お前ら、これでも読んで勉強しやがれ、ヒャッハー!」
 困り顔の警察官に代わって、鮪はバイクを構内へとつっこませる。そして、避難場所を記した地図と、空京大学のパンフレットやらをまき散らす。
「空大は狙われそうもないからな、オススメだ。要塞の狙いはおまえらじゃないことは確かなんだ。敵の手の中に突っ込んでいく必要はないだろー。ヒャッハー! ……と信長のオッサンが言ってる!」
「とはいえ、飛空艇発着場も大混雑と聞く」
 信長は威厳に満ちた声で、演説するかのように市民達に避難場所を指示していく。
 狙われているのは、空京駅、宮殿、天沼矛。
 付近から離れること。破片が飛んでくる恐れがあるので、北方面にも近づかないこと。
「有志による迎撃体勢も築かれつつあるが、ミサイルに自ら当たりに行っては防ぎようがないからの」
「ヒャッハー、こっちだぜ! 避難所のリーダーは可愛い女の子じゃないけどな!」
 鮪は、バイクを外へと走らせる。
「避難所にれば安全なのね?」
「契約者達が護ってくれるんだな!?」
「ヒャッハー! 礼はパンツでいいぜェ〜」
 市民たちの多くが、駅を飛び出して彼らについていくのだった。

「帝世羅さんの旦那としては放っておけんのじゃが、何故にこんな場所で作業をせねばならんのじゃ……わしには、帝世羅さんのお家で私物を確保するという使命があるのにのう」
 鮪のパートナーの土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)は、愚痴を言いながらも空京大学のコンピュータールームで、情報の取りまとめと、送受信に務めていた。
 鮪が扱っているテクノコンピューターより更に優れたスーパーコンピューターの使用許可を得て、テレパシーの能力を活かし、情報処理と情報発信に協力しているのだ。
 空京で避難活動、防衛活動に携わりながら、情報の送受信を行っている鮪にはさばききれない情報を、スーパーコンピューターを用いて分析し、必要なデータだけを抽出していく。
「この要塞のマップ……帝世羅さんの部屋が乗っておらん! けしからん! これはなんとしても、サジタリウスには生き残ってもらい、もっと正確な図面を書いてもらわんとのう」
 口から出る言葉はともかくとして、仕事は真面目に行っている。
「私物じゃあ! 帝世羅さんの香り立つ私物があったら何でも持って帰ってくるんじゃあ!」
 ……多分。