リアクション
「次のバリア発生装置を破壊します。内部にいる方々にご連絡を!」 ○ ○ ○ 攻撃が増し、砲身が空京以外にも向けられるようになり、本土の最終防衛ラインで指揮をしているクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は迷いを持った。 国軍から指示は出ていない。 ならば……。 『もっとも優先すべきは、空京市民の被害を最低限に留めることだ』 島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)と共にLSSAHに搭乗し、防衛ラインで備えることにする。 「LSSAHは、空京駅と宮殿を狙って飛来するものを抑える。ノルトラントは天沼矛と宮殿を狙うものを抑えてくれ」 『わかりました! 必ず……止めます』 通信機から、ノルトラントに乗る、エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)の強い意思の籠った声が響いてくる。 そう話をしている間も、要塞からの攻撃は続いている。 バリア発生装置を破壊し、防御力が低下した部分については、こちらからは迂闊な攻撃はできない。だが要塞からの攻撃は更に増した。バリアを展開していては撃てない射程の短い小型ミサイルの類による攻撃だ。 小型ミサイルはここまでは届かないが、ここまで飛来する短距離ミサイルの量も増えていた。 守るべきは背後の空京ではあるが、その前に要塞の別の攻撃により、防衛力を殺がれてしまっては意味がない。 クレーメックは中距離ミサイルを防げる可能性のある、プラヴァーのLSSAHとノルトラントは空京への攻撃に専念し、それ以外の攻撃については配下の一般団員達を信じて任せることにした。 「苦しい状況ね……。正直、配備が始まったばかりのこの機体には、慣れているとは言えない、から」 「操縦は任せてください。勿論、私も熟練はしていませんが、搭乗前に念入りに点検を済ませてきましたので……大丈夫です」 共にノルトランに乗るコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)がエミリアにそう言う。 エミリアは冷静沈着のようで、実はかなり感情に左右されやすい。 ミサイルに特攻した仲間の話を聞いた時の彼女の思い詰めた表情から、彼女の覚悟が尋常ではないことをコンラートは悟っている。 エミリアは一度こんな状態になったら半端な説得では翻意しない。 なので……念入りに点検したのは、緊急脱出装置だ。 無論、最終手段に踏み切らなければならない状態に陥るわけにはいかないと、コンラートも強く思ってはいる。 機体が大破したらそこで終わりだ。次のミサイルを防ぐ手段がなくなってしまうのだから。 『此方、ペトルーシュカ。状況を知らされたし』 突如、通信機に通信が入る。隊員以外の機体から発信された通信だ。 「シャンバラ教導団のクレーメック・ジーベック中尉だ」 クレーメックは発信者を確認し、返答をする。 「クルキアータのパイロットですか。頼りになりそうね」 ヴァルナがそう言い、発信者の機体データ等を調べるが、特に問題はないとクレーメックに報告する。 「協力は歓迎だ。データを送る。方策はあるか?」 『私が護りたいのは、海京とパラミタ大陸を繋ぐ絆。天沼矛の迎撃をさせていただく』 「了解した。こちらで防ぎきれなかった分を、頼む」 そう答えると、ジナイーダ・バラーノワ、伊東万所を名乗っているパイロットの富永 佐那(とみなが・さな)と立花 宗茂(たちばな・むねしげ)は、天沼矛へと戻っていく。 『ジナイーダ・バラーノワ、伊東万所、これよりカルディナー・スヴィーシュニクで天沼矛に飛来するミサイルの迎撃に参加する!』 佐那は海京に連絡を入れ、配置についた。 彼女は天御柱学院を休学し、現在は姉妹校アカデミーに通っている。 空京と海京の危機を知りエルザ校長許可の下、出撃してきたのだ。 『アルカンシェル、ミサイル発射』 直後に、国軍から連絡が入る。 既に、アルカンシェルはここ、最南端に迫っている。 「目標予想、空京島下、天沼矛!」 ヴァルナが飛行速度、針路、上昇角度を情報機器に入力、攻撃目標地点を解析し、迎撃部隊に知らせる。 「行くわよ!」 「了解、近づける」 ノルトラントが低空飛行で迎撃に向かう。 「自分の身を挺して、空京へのミサイル着弾を防いだ少尉の勇気を見習わねば。いざとなれば、私だって……!!」 「意気込み過ぎだ」 言っても無駄だと解っているが、コンラートはエミリアを落ち着かせようとしながら、操縦桿を操ってミサイルに接近させる。 「今!」 エミリアは、ビームアサルトライフルで地上に迫るミサイルを攻撃。 「く……っ」 通過を許してしまうかと思ったが、機体の後方の空中でミサイルは爆発をした。 『次のミサイル、攻撃予想、空京島――空京駅!』 続いて、ヴァルナが解析して導き出した目標点は天沼矛であった。 即座に、クレーメックはLSSAHを操縦し、ミサイルに近づけ、ビームアサルトライフルを撃つ。 「確実に落とさねばならない。だが、エネルギーを無駄には出来ない」 撃っている間に、次のミサイル発射の連絡が入る。 次の目標は、東方面だった。こちらは、他の者に任せるより他なかった。 クレーメックが撃ったミサイルが爆発をする。急ぎ離脱して、次の攻撃に備え――。 『アルカンシェル、ミサイル3方向に発射!』 「三か所同時か!? 解析、急げ」 「はっ!」 ヴァルナが導き出した目標点は、空京駅と天沼矛の上層と、中層だった。 LSSAHは、空京駅、ノルトラントは天沼矛の上部を狙うミサイルの迎撃に向う。 一瞬たりとも気を抜くことは出来ない状況だった。 「っ、破片一つ、当てさせたくない、落とすわけにはいかないのに!」 佐那は銃剣付きビームアサルトライフル、20ミリレーザーバルカンを撃ち、弾幕を展開していた。 守備隊が撃ち漏らした小型ミサイルと、中距離ミサイルの破片はこの攻撃で概ね防げた。 「中層に向かってくる、中距離ミサイルどうやって防ごうかしら」 「機体を上昇させ、ミサイルに接近します。これまでのデータ通りのミサイルであるなら、軌道をずらすという手もありますな」 宗茂はそう言いながら、カルディナー・スヴィーシュニクを上昇させていく。 剣で斬りつけて爆発させたら、いくらクルキアータでも持ち堪えることは出来ない。 だが、軌道を少しでもずらせれば、ミサイルは大海原に落ちるはずだ。 「でもそれも、絶対とは言えない。どこかの島や船の上に落ちる可能性もある」 だから、極力ここで粉微塵にしなければならない。 「射程内到達」 「行くよ!!」 宗茂がレーダでミサイルの位置を確認。 佐那はビームアサルトライフルで、正確にミサイルを狙った。 「撃破。破片落下。注意願う」 破壊と同時に、宗茂は海京へと連絡を入れた。 「弾が尽きるまで……尽きても、機体が動かなくなるまで、私は退かない。天沼矛は絶対にやらせない!!」 佐那は、カルディナー・スヴィーシュニクを巧みに操り、破片を撃ち砕いていく……。 突入班が要塞に侵入する前までのミサイル攻撃は、真に空京を狙っていたわけではない。 侵入後、ひとつの目的を果たしたアルカンシェルは、破壊目的地点を正確に狙った攻撃を開始した。 本土最終防衛ライン防衛隊は既にその事実に気づいていた。 |
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