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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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○     ○     ○


「アレナおねぇちゃん!」
 宮殿の屋上に飛び出してきたのは、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だった。
 その後ろには、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)の姿もある。
「優子おねえちゃんたちはぜったい大丈夫なんです。アレナおねえちゃんはボクたちが守るからいっしょにみんなを信じてみんなが帰ってくるここを守りましょうです♪」
 ヴァーナーはいつも通りの可愛らしい顔でアレナににこにこ微笑みかける。
「……はい」
 アレナはどこか茫然とした表情でそう答えた。
「……」
 セツカは何も言わずに、アレナとヴァーナーを見詰めていた。
 ヴァーナーは今は、笑顔だけれど……。
 少し前。宮殿に到着して、ミケーレや高官の意見を聞いたヴァーナーは、ティリア・イリアーノと同じように、強く反発した。
 アレナは以前、皆を助けてくれた。
 今度は自分達が守るのだと。
 もう絶対犠牲にしないと。
『ロイヤルガードとしてアレナおねえちゃんはみんなが帰ってくるまで守ります! それで、こことかが壊れちゃった時には、ロイヤルガードを辞めて責任とるです!』
 強い、強い意思を示した。
 1人がロイヤルガードを辞めただけで、済む問題じゃないことは、セツカにも、勿論ヴァーナーにも解っていたが、アレナを守るという意思だけはどんな説得をされても、絶対に変わりはしない。
(わるい人からもアレナおねえちゃんをころしてなんとかしようって人からもボクたちがまもるんです!)
 そんな強い気持ちを持ち、ヴァーナーはアレナに微笑みかけていた。
 彼女を守りたいのは自分だけじゃないことも良く知っている。
 ここにいる皆も、要塞で戦っている皆も、同じ気持ちだということを。
「アレナ……」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、アレナの手が震えていることに気づく。いつ倒れてもおかしくないほどの精神状態だということにも。
(……どこの誰か知らねぇが絶対に許さねぇ! 今すぐ要塞乗り込んで歯ぁ食いしばる暇すら与えずぶっ飛ばしたい)
 康之は怒りに震えた。
 だけれど、今は彼女の傍にいてあげることが、大切だ。
 何故なら、彼女は一人で決めたことがある。誰にも本当のことを言わずに、一人で決めて、一人で犠牲になろうとしたことがあるから。
「アレナ、心配するな。お前を怖がらせる奴はここにはいねえ。もしまた頭の中に出てきても俺が全力で追っ払ってやる!」
「……はい」
 俯く彼女の顔に手を添えて、康之は顔を上げさせる。そして真剣に見つめる。
「それにあいつがなんと言おうと、そんなこたぁ要塞に行ってる優子さん達や街で頑張ってる奴らがさせねえよ。だから、自分が犠牲になろうとか考えるなよ? やろうとしても俺が全力で止めるからな!」
 アレナは彼の言葉が真実だと知っている。
 自分が行動を起こそうとしても、振りきれないだろうということを。
「相手が誰であっても、お守りします」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も、アレナの傍でどんな相手からも守るつもりだった。パートナーで、アレナと親しくしている秋月 葵(あきづき・あおい)は、ミサイル迎撃の為に、上空にいる。彼女からアレナのことを頼まれたからでもあるけれど、エレンディラにとっても、アレナは大切な人だった。
 最悪、アレナが自ら命を絶つ可能性も想定しながら、エレンディラは側にいる。
 幸い、屋上にいる人達は皆知り合いであり、信頼できる人ばかりだ。
 宮殿の中の政府の人達は……信用できるとは言えないけれど。
「でも……」
 アレナは2人の言葉に、ちょっと笑って。
 涙をぽたりと落として、震え続けながら言う。
「急いで、狙われている場所から、皆が、逃げて……私があの人の所に、いったら……命は、全て……助か、る……っ。全ての命が助かる、んです……」
 自分の『命』も。
 優子達の命乞いも出来るだろう。
 今、戦っている人々の命だって。早ければ早い程沢山の命が助かる。
 声の主が言っていたことが真実ならば。
 彼が狙っている場所の破壊は止められなくても、人の命は、失われない。
「それが……一番の、選択、です。に……げてください。皆を連れて、宮殿から、離れて……ください。私に、みんなを、守らせて……ください」
「だめだッ! そんなこと、俺達は望んでない!」
「しっかりしなさい」
 康之と、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の厳しい声が飛んだ。
「惑わされず今貴女がすべき事をやる。そうすれば後は皆が助けてくれるわ。今までもそうだったじゃない」
 アレナは小夜子の言葉に頷きながら、こう言う。
「だ、から。いつかまた、皆が助けに来てくれるって……信じて、待ちます、から……!」
 アレナは必死に言う。何ともないフリをして、微笑んでいることが出来ずに、苦しげに。
 声の主に掴まって、彼女が封印されてから、優子に助けられるまで5000年以上の時が流れた。
 今、彼女を離したら、自分達が生きている時代に、彼女は戻ってこられるのだろうか……。
 何故、封印されたのか、声の主との間に何があったのか、聞きたいことは沢山あるが、皆の意思は決まっており、聞くべきことも決まっている。
 アレナを殺させない。渡さない。だから……。
「テレパシーを送ってきた人物は誰? どんな能力を持ってるの? 教えてください」
 有無を言わせない強い目で、小夜子はアレナに尋ねた。
「性別と名前、それから特徴も教えてほしい」
 匿名 某(とくな・なにがし)は、康之に目配せして、アレナを移動させながら問いかける。
 自分達以外の人物の目にさらされない場所に連れて行き、少しでも安心させようと。
「男性、です。ズィギル・ブラトリズ……鏖殺寺院の、研究者でした。自分の身体も改造していて、機械を沢山埋め込んでいて……普通の脳の他に、もう一つの……コンピューターの脳も持っていま、した。でも、戦乱の時に死んだはず、です。私、は、封印されていて……でも、精神は封印されていない状態で。彼の最後も、知って、います」
 パートナーを得て、最近復活したのだろうとアレナは言う。
 アレナの顔は真っ青で、酷く苦しげだった。
 それでも、質問をやめるわけにはいかない。彼女が大切に思う人、彼女を大切に思う人、そして彼女自身をも助けるために。
「他の十二星華も、そいつと関わりはあったのか?」
 某の問いにアレナは首を左右に振った。
「私、一人だけです。5000年前の戦いの時も同じようなことが、ありました。でも、こんな風に……誰かに話をすることは、できなくて」
 一人で彼の元に行き、アレナは封印されてしまったらしい。
「戦闘能力は? 封印の力を持っているのですよね?」
「……変わった魔法が得意、でした。精神攻撃、です。前線て戦うタイプ、じゃないです……」
 苦しげに、声を絞り出しながらアレナは小夜子にそう話した。
「わかりました。エンデさん、これまでの話を皆さんにお伝えしてください」
「はい」
 小夜子はテレパシーの使えるエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)に、知り合い達への連絡を頼む。
 エンデは説明を受けていた空京の状況と、魔導砲の話、ズィギルという人物についてをテレパシーで送っていく。
 それから要塞側の状況についても手短に説明を求めた。
 最後に、全部の情報をまとめて、ロザリンドにテレパシーを送った。
 青い顔で、小刻みに震えながら、目をいつもより大きく開いて、アレナは怯え続けている。
「きちんと皆で考えれば良い方向にすすみますわ」
 そう言って、セツカはアレナを清浄化で落ち着かせようとする。
 怯えている理由はなくなりはしないから、効果はほんの一瞬だけだけれど。
 緊張が続くより、良いはずだ。
「そうなんです」
 直後に、ヴァーナーがぎゅっとアレナをハグする。
「今はボクたちみんながいっしょなんです。アレナおねえちゃんは一人じゃないんです♪」
 そして、幸せの歌を歌う。
 声をかけて抱きしめて、傍にいる者達は彼女を励ましていく。
 側に居ない者も。
 話を聞いた友人からも、パートナー通話等を利用し、彼女に言葉が届いていく。