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リアクション
第2章 抗う者
「軽傷者や軽破機体はこちらで優先的に応急処置をするので早めに下がれ!」
補給を任された四条 輪廻(しじょう・りんね)が、大声を上げる。
アルカンシェルとつかず離れずの距離を保ちながら、輪廻は仲間達に物資を配って回っている。
「弾薬や装甲は補給は効くが物資の中に代わりの命はないからな」
「……わかった。操縦室だな? 何とかやってみるぜ……!」
物資を受け取ったばかりの、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が突如声を上げる。
突入したメンバーから、テレパシーで連絡を受けたのだ。
「操縦室に向かったメンバーが少ないらしい。天学生もいないようだ。援護してくれるか?」
「俺が送ろう」
すぐにそう答えたのは、月詠に乗る氷室 カイ(ひむろ・かい)だった。
『マ・メール・ロアなら、私達も操作したことがある。作られた時代も、設計主も違うようだから、その知識が役立つかどうかはわからないけど、私も行くわ!』
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)から、通信が入る。レイに乗ったルカルカは、加速装置やアビリティをフル活用し、凄まじい速度で向かってくる。
「私も連れて行ってください。パートナー達が捕らえられたようですので、代わりに私がエネルギー操作と制御を目指します」
夜霧 朔(よぎり・さく)は、携帯電話でパートナーの朝霧 垂(あさぎり・しづり)に連絡を入れてみるが、垂が電話に出ることはなかった。
垂達が浮遊要塞のエネルギーの制御を目標としていたことを知っている。
ただ、垂達が抑えようとしていたのは動力の方だったのだが、朔は攻撃用のエネルギーの方だと捉えていた。
「バリアが復元される前に、行きましょう」
嫌な予感を感じていた叶 白竜(よう・ぱいろん)は、そう言った後、国軍の指揮官へ報告を入れる。
「叶白竜、要塞内に突入し機関室に向かいます」
共に向かう教導団のメンバーの名も伝えた後、黄山を第二突入口――要塞格納庫に開いた穴へと駆る。
接近を知ってか、要塞からのミサイル、レーザー攻撃はこちらに向けられる。
「……命知らずな奴が多いな。無茶はするな……とは言えない状況か」
そう声をかけて、物資を投げると、輪廻はその場から離脱する。
「使わせてもらうぜ!」
キャッチしたのは、ルカルカ達を追い、空飛ぶ箒シュヴァルベで駆け付けた、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。夏侯 淵(かこう・えん)も空飛ぶ箒シュヴァルベでそのあとに続く。
「乗り込む奴らがいる。援護を頼む!」
輪廻は付近に待機していたイコンの小隊に頼む。
小隊は要塞の砲台に向けて攻撃を開始する。
砲弾やレーザーが辺りに降り注ぐ。
「……っ」
爆風で、エアカーから振り落とされそうになる輪廻だが何とか耐えて、岩の後ろに避難をした。
「こっちは出口で待ってると言ってしまったからな、帰ってくるまでこの場はもたせる。……まぁ、万が一死にそうになったら逃げるか」
ふうと息を着いた後、辺りに向かって激を飛ばす。
「1分1秒無駄にはするな、1分1秒でも長く戦線を維持しろ」
突入したメンバー達の情報は、情報送受信を担っているロザリンドやパートナーを空京に残しているメンバー達を通じて、協力者達にも届いていた。
アルマイン・マギウスに乗る、緋桜 ケイ(ひおう・けい)と、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)も知っていたが……。
ケイは突入する者の支援に引き続き動いている、ルヴィル・グリーズと、従竜騎士達が写るモニターを見て、軽く眉を寄せた。
自分達、共に作戦に当たっている者達が教えなければ、イコンに搭乗しておらず、シャンバラの通信機も持たない彼らに作戦以外の情報は入らない。
ケイは守るように動きながら、スピーカーを用いてルヴィルに問いかけてみる。
「中の状況はかなり悪いようだ。捕らえられた人もいるらしい……。多分、ルシンダも」
「……そうか」
「神だっていうし、大丈夫、なのかな? あまり心配してないみたいだけど」
「突入に志願したのは、彼女自身だ。志願した時点で、民間人とは考えていない」
ルヴィルは不機嫌そうにそう答える。
「だが、戦う力はもっておらぬのだろ? 志願の理由とやらも聞かせてもらえんかの」
カナタがそう尋ねるが、ルヴィルからは「答える必要はない」と返事が返ってくる。
それでも気になって仕方がないケイとカナタは、ルシンダの素性や、帝国での彼女の立場、彼女の性格、本当の志願理由などを知ろうと、質問を続けた。
しかし、ルヴィルは。
「貴様も騎士ならば、戦場で余計なことは考えるな。命を落とすぞ」
そう低く言い放っただけで、この場で答えることはなく、騎士団を率いての援護を続けていく。
ルヴィル率いる隊はドラゴンやワイバーンに騎乗しての戦闘を得意としている。
突入に向いたメンバーに内部は任せ、自分達は外部からの支援に尽力する。
それが、役割分担として最良だとルヴィルは考えたらしい。
ルヴィルが連れているのは全て従竜騎士だ。指揮官の自分がいることで、隊として力を発揮できている。
また、突入に参加するほどの理由はルヴィルにはない。
ルシンダについても、自らの命を賭して助けるほどの存在でもない。
シャンバラとは同盟を結び、こうして探索に協力し合ってはいるが、盟友でもなんでもない。
利害関係の一致のために、互いを利用しているだけにすぎない。
この時点での、そんな彼の考えがなんとなく読み取れた。
「自由に使って!」
要塞の格納庫に飛び込んだルカルカは、レイから降りると、入口にMVブレードを突き刺して、サブパイロットとして乗っていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に、わき目もふらずに、吹き抜けの方へと走る。
要塞を止める為には、動力を制御する必要があると考えた。
ブライドオブドラグーンを抜く必要があるのなら、それを行う突入班のメンバーを全力でサポートする。強い意思を持って、空飛ぶ魔法↑↑を使い、吹き抜けを飛び下りる。
その数秒後に、月詠、黄山が。
その後に、箒に乗ったカルキノスと淵、自力飛行の朔とファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)が飛び込んできた。
「行きがけの駄賃だぜ。受け取れっ!」
「ここの守りは、頼んだぞ」
カルキノスと淵は、クライ・ハヴォック、対電フィールド、護国の聖域、グレーターヒールを手早くかけて、味方を強化し、回復させる。
「エネルギー室に行くには、上ですね」
「俺らは下に行くぜ」
それから、朔と共にリフトの方へと走り、上下に別れる。
「操縦室に一番早く行けるのは……エレベーターか!?」
シリウスは、月詠の手からサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)と共に、飛び下りて辺りを見回した。
「サンキューな、指揮権と通信は任せたぜ!」
カイにそう言うと、サビクと共にエレベーターに急ぐ。
だが、ボタンを押しても反応はない。緊急停止中のようだ。
「ま、攻撃を食らってる最中だからな。サビク、ぶち破れるか?」
「出来なくはない、けど……」
サビクは眉間に皺を寄せていた。突入した途端、気分が悪くなった。
エネルギー室からはかなり離れているこの場でも、剣の花嫁の力はわずかに吸収されているようだ。
「開けるだけでいいのなら、任せろ」
カイが月詠を操作し、ダブルビームサーベルでエレベーターのドアを斬り裂く。
「サンキュ! 行ってくるぜ」
シリウスは空飛ぶ魔法↑↑を使い、サビクと共にエレベーターダクトを昇っていった。
「状況は?」
格納庫の中に降り立ったファビオが、ロザリンド達に近づく。
「先行している方々とは連絡が取れないのですが、恐らくはどの重要ポイントにも、誰かしらたどり着いていると思われますわ」
答えたのはビデオカメラで状況を録画し、情報整理に務めているシャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)だ。
「あ、制御室だけはまだかもしれません」
足止めされていたメンバーの出発報告は先ほど届いたばかりだった。
先行メンバーで制御室に向かった者はいない。
「イコンはこの辺りにお願いします」
イリスが、月詠と黄山を被害を受けなそうな場所に誘導する。
「俺もここでの情報送受信と、乗り物の護衛に務めさせてもらうよ」
カイはコックピットにサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)を残したまま、イコンから降りる。
「単におもちゃを見つけてはしゃいでいる輩ではないようですね……。HCをお持ちでしたら、情報交換をお願いします」
白竜は銃型HCを手に、ロザリンドに近づく。パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)も、格納庫を眺めながら「すげぇ……」などと声を発しつつ、白竜の後に続く。
「メリッサ、お願いします」
「うん!」
ロザリンドに呼ばれ、銃型HCを持つメリッサが駆けてきて白竜と情報交換を行う。
「ルシンダ・マクニースさんの容姿を教えてもらえますか?」
データの中には、エリュシオン人の写真までは載っていない。
ロザリンドから聞き出した容姿を、白竜は頭の中に入れていく。
「ルシンダさんにはちょっと疑問が出てきてまして……とにかく、お気を付けて」
「ルシンダおねーさんなら、へっちゃらだよ。ここに入る時も怖がってなかったから。戦えなくても神様だから何とかなるのかな」
ロザリンドとメリッサの言葉に、白竜は軽く眉を揺らす。
「……わかりました。では、私は制御室に向かいます」
「え!?」
白竜の言葉に、驚きの声を上げたのは羅儀だ。
白竜はアレナの記憶を頼りに作られた地図を確認し、階段室に向かっていく……。誰も使っていない、大回りなルートだった。
「おいおい白竜、勝手な行動とっていいのかよ」
白竜の行動に驚きながらも、羅儀はついていく。
「機晶ロボットの警備タイプはかなりの強さのようです。お2人では危険ですので、正面から戦ったりしないよう、ご注意ください」
ロザリンドはそう声をかけて2人を見送った。
それからロザリンドはパートナー達を集めて、別の場所にいる人々とのテレパシーやHCを用いた通信に戻っていく。
「ハロー、そっちで要塞の追加情報とかあるー?」
テレサは援軍や宮殿にいる仲間達に連絡をとり、こちらの状況を伝え、外の状況を聞いていく。
「バリア発生装置、もう1箇所破壊に成功したんだー。こっちも機関室方面は多分順調のようだよ……ん? よく聞こえないよ。大きな声でお願いー」
テレサは大声で話し続けるが、電波の状態が悪く電話は頻繁に切れてしまう。
「理子代王が列車で掴まっている……行動が筒抜けになっていますよね」
シャロンも籠手型HCで外部と連絡をとり、砲台への突入を果たした後の、変化についても確認し合っていた。
そして、アルカンシェルの最初の攻撃は誘い込むための陽動であった可能性に気付いている。
「剣の花嫁の捕縛。優子さんを経由して、アレナさんを危機に陥らせること……ルシンダさんが捕まったことは、こちらの足止めになります」
彼女を盾にされたら、手を出すことが出来ない。人質が誰であれ同じではあるが……。
エリュシオンの神である彼女にもしものことがあったら、帝国との関係にも影響がでるだろう。
「……順調、なのでしょうか」
ロザリンドは考えていく。
得たい情報も沢山ある。伝えたいことも沢山ある。
だけれど、作戦行動中の人達には最低限、必要と思われる正しい情報だけを伝えなければならない。
「円さん、そして宮殿にいるエンデさんから聞いた話、それからメリッサの感じたことから、感じる不可解な点……これは、伝えるべきでしょうか」
それは、ルシンダに関してのことだ。
隊長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の携帯電話が壊れる直前に触った人物。
要塞突入に恐怖を感じていないようであったこと。
護衛をしていた人物を罠が作動するより早く突き飛ばしたこと。
他の人物と一緒ではなく、一人残った状態で別途捕まった。
禁猟区に反応がなかった。
偶然か。神である故か。助けようとしての行為なのか。
善意で捉えれば彼女は、大切な協力者。罠に挟まれそうになった仲間を救ってくれた人。
だけれど、どうしても感じてしまう……怪しいという気持ちをロザリンドは捨てきれない。
また、ロザリンドも、百合園の茶会で彼女を見たことがあった。
同伴者がいたことも。
それらのことを、信頼できる仲間に知らせていったところ……どうやら、当時一緒に居た人物は、ヴァイシャリー家当主の、子息のようだということが判明していた。
(ヴァイシャリーに連なる者が、要塞において不審な行動をするルシンダさんと一緒にいた。……ルシンダさんはこちらの足枷になろうとしている? 代王、ひいては女王に危害が加わりそうな状況。帝国に利する形ですが、今の皇帝が動くとは考えにくいですし)
単に子息が個人的に動いているのか。ヴァイシャリー家が関与しているのか。
第3の勢力が王国と帝国に跨って動いている可能性をも考えられると、ロザリンドは思う。
「考えすぎかもしれませんけれど」
攻撃により、要塞が揺れる。
「……っ」
ロザリンドは手すりに掴まって耐え、吹き抜けに目を向ける。
無事に皆が戻ってくることを祈りながら。
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